つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里

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第99話 睡眠は大切

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「いいご身分だな」
「――はっ」

 頭に嫌味っぽい殿下の声が降ってきたので、私は顔を上げた。

「あ。おはようございまぁす、殿下」

 おかしいな。今日は何も考えず書物に集中できると思っていたのに、いつの間にかうたた寝していたらしい。

「……まったく本当に君は。いいご身分だな」

 殿下は苦笑いすると椅子を引いて私の横に座る。
 手には何もお持ちではないので、めぼしいものはなかったのかもしれない。

「ちゃんと真面目に読んでいたのか?」
「ええ。もちろんです、殿下。ですが、数行読んだところで魔術がかかった本によって、うつらうつらと眠気に襲われた次第であります」
「数行って早すぎだろう……」
「そうですね。たいそう威力の強い魔術でした」

 面倒そうに殿下は分かった分かったと頷く。

「殿下は何かお分かりになられましたか?」

 念のために尋ねてみるも、椅子の背もたれに身を任せて手掛かり無しだとお疲れ気味で返答された。

「そうですか。わたくしの方も手掛かりはありませんでした」
「だろうな。数行で眠ったわけだし」

 天井を仰いだまま、君の方は全然期待していないと殿下は無気力に付け加える。

「失礼ですね。これでも睡眠を取って頭の中で整理していたのですよ」
「睡眠中にね……」

 何だか馬鹿にした風ですね!

「殿下、良いですか? 睡眠を馬鹿にしてはいけませんよ。一晩ぐっすり眠ることで、思いもしなかった考えがはっと浮かぶことがあるのですから! ですからわたくしは行き詰まったとき、睡眠をしっかり取ることにしているのです」
「なるほど」

 そう言うと殿下は身を起こし、私を真っ直ぐに見つめてきた。
 私も同時に身構えてしまう。

「では、さぞかし良い考えが思いついたのだろう。君の素晴らしい考えを聞かせてもらおうか」
「え、えっと。それは。まだ一晩分、眠っておりませんし、まだ情報量が不十分であり……も、もう少し読んでみましょうか」

 私はしどろもどろで言い訳しつつ、殿下の視線から逃げるように書物に目線を落としてページを捲ってみる。

「へえ。過去には呪いが原因で、王位継承権を自ら放棄された方もいらっしゃるのですね。ここには書かれておりませんが、王位継承権を放棄してこの方の呪いは解けたのでしょうか」

 呪いを掛けたとされる魔術師様の最期の言葉から考えると、ルイス王太子殿下の気魂を継ぐ者の破滅を望んでいたわけで、王位継承権を放棄したとなると、ある種の望みは叶ったことになるだろう。ルイス王太子殿下が、王位を捨ててもいいから一緒になりたいと彼女に言ったというのだから。

「私も気になってその時代の元の書物を調べてみたが、そちらでも記載されてはいなかった。王族ならば一応、順位はあるにしても誰でも王位継承権を持つが、おそらく王位継承者でも低い方だったのだろう。歴史書にも名が残されないほどには」
「それにしても、呪いはフォンテーヌ王家にとって最重要課題であり、調査されるべき問題だと思うのですが」
「確かにそうだな」

 殿下のおっしゃる通り、王位継承者としては順位が低いため軽視されたのか、あるいは意図的に削除されたのか……。うん、分からない。

「とにかく流し読みしてみますと、呪いを掛けられた方の共通点としては幼少期より病弱で、存命中の王族に一人だけ出るといったところでしょうか」
「そういうことだな」

 ルイス王太子殿下の気魂を追うと宣言を残している通り、王族の中で呪いがかかっている者が生存中は他に出ることはないということだ。あらためて狙いはルイス王太子殿下の精神(?)を継ぐ者に集中一点だということが分かる。

 ……うん、やっぱり執着心が凄い。でもだからと言って、子孫には何の罪も無いと思うんだけどな。まあ、王族そのものの滅亡を望むほどの憎しみの熱量ならば、理解もできるのだけれど。

「あと影が見えるというのも共通しているな」
「影が……。ああ、そう言えば殿下は初め、わたくしのことを恐れていらっしゃいましたね」

 拗ねた子供のようにそっぽを向いていた殿下を思い出して、頬が緩んでしまう。
 殿下は少なからず、ばつが悪いようだ。

「まあ……。影を見慣れている私だったが、ネロは普通の影と違ったからな」
「普通の影とは違うとはどういった辺りですか?」
「私は元々体質的に影を寄せやすいが、影から私に接触を試みることはない。ところが君と初めて会った時、ネロは私に触れようと行動してきた。すぐに普通の影とは違うと思ったよ」

 ネロも色々謎めいている。なぜ私に憑いているのか。なぜ私に悪影響を与えないのか。なぜ私に懐いているのか。そもそもなぜ影を消すことができるのか。

 うーん。考えれば考えるほどに分からなくなってくる。
 こういう時は最終奥義に限るわね。

「……ロザンヌ嬢、話の途中で寝るな」

 殿下は、最終奥義を出そうとしていた私をすげなく制止した。
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