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第100話 謎が増えていく
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「ね、眠ろうとしていたわけではありません。目を伏せて考えをまとめようとしまして」
眠りかけていた私だったけれど、ちゃんと言い訳してみた。
「で。まとまったか?」
殿下は即座に答えを求めてくる困ったお方だ。
私は笑って誤魔化しながら話してみる。
「ええっと。そういえば、過去にネロのような影祓いする存在はありましたか?」
「いや。調べた範囲では無かったな。だからこそ君の存在に驚いたわけだが」
「そうですか」
これまでの王族がそういった人物に出会っていなかっただけなのか。そもそも存在しなかったのか。
「でしたら、これまでの王族の方は大変でしたでしょうね。呪術師様による影祓いはつらいと殿下はおっしゃっておりましたし」
「そうだな。自分である程度避けるにしても、どうしても近距離で接触しなければならない時は取り憑かれてしまうからな」
ある程度避ける、避けるかぁ……。影が見られることも一概に悪いわけではな――あれ。
「殿下、影を見慣れたとおっしゃっていましたね」
「ああ。それが?」
「恐怖で精神がおかしくなったりはしないのですか?」
「……ご覧の通りだが?」
おかしく見えるかと殿下は手を広げて笑ってみせる。
「失礼いたしました。では、過去にそういう方はいらっしゃいましたか?」
「精神が崩壊した人間か? いや、そんな記録は無いな。肉体が病に侵されて精神を病んだ者はいるようだが、恐怖でということはない。皆、幼少期からで慣れてしまっているのだろう。私も幼い頃は怖かったが、今じゃ慣れた」
まあ、ネロは驚いたがと殿下は気まずそうに付け加えた。
私もいつもなら突っ込むところを本日は突っ込まない。今浮かんできた考えをまとめることに必死だからだ。
「そうですか。だとしたら呪う対象者が慣れてしまっては、復讐にはならないのでは?」
「何が言いたい?」
私の真剣な様子に殿下もまた眉をひそめた。
「呪われた者の共通点として、皆一様に影が見えるのですよね。おそらくこの能力も呪いと共に引き継いでいるのでしょう。ですが、ルイス王太子殿下の恋人であった魔術師様は、果たして呪いの中に影を見せる能力を付加させる必要があったのでしょうか」
原因不明の病として発症させる方が、余程恐ろしいのではないだろうか。
「確かにそうだが、彼女の呪いだと思い知らせるためにそうしたのでは?」
ああ、そっか。なるほど。少々考えが先走りしすぎていたかな。でも一応考えを伝えよう。
「そうですね。そういう考えもありましたね。しかし、その視覚能力で原因が影によるものだと判明した場合、その影を避けるよう行動することができてしまいます。それだと――あ! そ、そうだわ」
今、急激にふっとある考えが思いつき、私は自分の左手首内側を指してみせる。
「呪いだと分からせるためなら、殿下もお持ちの星紋だけでも十分では?」
星紋のことは殿下から聞いたではないか。確かこれも共通点だったはず。
「……そうだな。呪いを受けた者に共通している点ではある」
「でしょう! 前回でも書物の絵を指してわたくしにおっしゃったではありませんか」
もちろん影が見えることありきで調べていく内に、呪いを掛けられた者には星紋が出るというところに辿り着いた事実も否定はできないけれども。
「だとしたらなぜ彼女は呪いに影が見える能力を付加した?」
「それはですね」
私は生唾をごくんと飲み込んだ。
「それは?」
「それは……」
真剣な表情の殿下に、私もまた硬い表情を作ってみせる。
「それは――わ」
「分かりません、だな?」
「……ええ。その通りです。分かりません。申し訳ございません」
諦めてしおらしく謝ると殿下は笑った。
「いや。これまで何年も何百年も関わってきた私たち王族ですら分からなかったことだ。君に答えを求めるのは間違っている」
私は気が抜けたようにため息を吐く。
「わたくしが謎を解こうと関われば関わるほど、かえって増えていきますね」
それとも私が勝手に難しくしているだけで、この事実を事実として受け入れるべきなのだろうか。
「確かに謎は増える一方だ。しかし客観的な目が入ることで、物の見方が変わるのはいいことだと思う」
「ありがとうございます、殿下」
「いや。こちらこそありがとう。――とにかく疲れたし、今日はここまでにしよう」
というわけで、本日はこれにてお開きとなった。
眠りかけていた私だったけれど、ちゃんと言い訳してみた。
「で。まとまったか?」
殿下は即座に答えを求めてくる困ったお方だ。
私は笑って誤魔化しながら話してみる。
「ええっと。そういえば、過去にネロのような影祓いする存在はありましたか?」
「いや。調べた範囲では無かったな。だからこそ君の存在に驚いたわけだが」
「そうですか」
これまでの王族がそういった人物に出会っていなかっただけなのか。そもそも存在しなかったのか。
「でしたら、これまでの王族の方は大変でしたでしょうね。呪術師様による影祓いはつらいと殿下はおっしゃっておりましたし」
「そうだな。自分である程度避けるにしても、どうしても近距離で接触しなければならない時は取り憑かれてしまうからな」
ある程度避ける、避けるかぁ……。影が見られることも一概に悪いわけではな――あれ。
「殿下、影を見慣れたとおっしゃっていましたね」
「ああ。それが?」
「恐怖で精神がおかしくなったりはしないのですか?」
「……ご覧の通りだが?」
おかしく見えるかと殿下は手を広げて笑ってみせる。
「失礼いたしました。では、過去にそういう方はいらっしゃいましたか?」
「精神が崩壊した人間か? いや、そんな記録は無いな。肉体が病に侵されて精神を病んだ者はいるようだが、恐怖でということはない。皆、幼少期からで慣れてしまっているのだろう。私も幼い頃は怖かったが、今じゃ慣れた」
まあ、ネロは驚いたがと殿下は気まずそうに付け加えた。
私もいつもなら突っ込むところを本日は突っ込まない。今浮かんできた考えをまとめることに必死だからだ。
「そうですか。だとしたら呪う対象者が慣れてしまっては、復讐にはならないのでは?」
「何が言いたい?」
私の真剣な様子に殿下もまた眉をひそめた。
「呪われた者の共通点として、皆一様に影が見えるのですよね。おそらくこの能力も呪いと共に引き継いでいるのでしょう。ですが、ルイス王太子殿下の恋人であった魔術師様は、果たして呪いの中に影を見せる能力を付加させる必要があったのでしょうか」
原因不明の病として発症させる方が、余程恐ろしいのではないだろうか。
「確かにそうだが、彼女の呪いだと思い知らせるためにそうしたのでは?」
ああ、そっか。なるほど。少々考えが先走りしすぎていたかな。でも一応考えを伝えよう。
「そうですね。そういう考えもありましたね。しかし、その視覚能力で原因が影によるものだと判明した場合、その影を避けるよう行動することができてしまいます。それだと――あ! そ、そうだわ」
今、急激にふっとある考えが思いつき、私は自分の左手首内側を指してみせる。
「呪いだと分からせるためなら、殿下もお持ちの星紋だけでも十分では?」
星紋のことは殿下から聞いたではないか。確かこれも共通点だったはず。
「……そうだな。呪いを受けた者に共通している点ではある」
「でしょう! 前回でも書物の絵を指してわたくしにおっしゃったではありませんか」
もちろん影が見えることありきで調べていく内に、呪いを掛けられた者には星紋が出るというところに辿り着いた事実も否定はできないけれども。
「だとしたらなぜ彼女は呪いに影が見える能力を付加した?」
「それはですね」
私は生唾をごくんと飲み込んだ。
「それは?」
「それは……」
真剣な表情の殿下に、私もまた硬い表情を作ってみせる。
「それは――わ」
「分かりません、だな?」
「……ええ。その通りです。分かりません。申し訳ございません」
諦めてしおらしく謝ると殿下は笑った。
「いや。これまで何年も何百年も関わってきた私たち王族ですら分からなかったことだ。君に答えを求めるのは間違っている」
私は気が抜けたようにため息を吐く。
「わたくしが謎を解こうと関われば関わるほど、かえって増えていきますね」
それとも私が勝手に難しくしているだけで、この事実を事実として受け入れるべきなのだろうか。
「確かに謎は増える一方だ。しかし客観的な目が入ることで、物の見方が変わるのはいいことだと思う」
「ありがとうございます、殿下」
「いや。こちらこそありがとう。――とにかく疲れたし、今日はここまでにしよう」
というわけで、本日はこれにてお開きとなった。
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