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第98話 気持ちを引き締めていざ閲覧
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殿下が令嬢方と別れを告げ、私へと振り返る。待たせてすまないとでも言いたげに頷くと、前を向いて歩き出した。
今は周りに人がいて良かったかもしれない。殿下のすぐ横に立たなくて済むから。話をしなくても済むから。書庫室に着く頃には、きっと心も穏やかになっているだろう。
私はそう思いながら、前へと足を進めた。
「今日も世話になる」
「デレク様、ごきげんよう」
殿下と私は書庫室に到着すると、書庫番のデレクさんに挨拶をした。
「こんにちは。よくいらっしゃいました、殿下。ロザンヌ様」
「今は大丈夫か? ベルモンテ家の者が来訪の予定は?」
もし本日ベルモンテ家からの予約が入っているのなら、殿下はこのまま引き返すおつもりかもしれない。
「いえ。本日はございません」
「そうか。ベルモンテ家の者が来ても、この部屋に私がいることを伝えないでくれ」
確かベルモンテ一族は即日入ることができず、入室の約束を取り付けないといけなかったはず。だから殿下が来ていることを伝えない限り、待ち伏せされることもないだろう。
デレクさんは私を一瞥すると、殿下ににっこりと笑みを向けた。
「もちろんです、殿下」
「……だから絶対に勘違いしているだろう」
本当にね。よくよく考えてくださればいいのに。殿下と下級貴族、さらに言うと今は侍女服ですよ。身分差がありすぎるでしょう。勘違いにも程がある。
何だか段々とデレクさんに対しても憎らしい気持ちになってくるから不思議だ。
――いかんいかん。冷静に冷静に。私はいつだって大人びていて冷静沈着な人間(?)なのだから。
殿下とデレクさんの無駄で無意味なやり取りを終えて、書物が置かれた部屋へと足を踏み入れると、相変わらず独特な香りが漂っている。
この香りはそう、歴史の香り(語彙力)とでも言ってみようか。気持ちがきゅっと引き締まり、頭の切り替えができる。
さて、やるぞ。まずはどこから調べてみるべきか。
私は気合いを入れ直すと殿下へと振り返る。
「殿下、これまでの歴史書に呪いについて書かれているのですよね?」
「ああ。だが、呪いかけられた人物についてまとめた物がある。君にはそちらからの方が取っ付きやすいかもしれない」
確かにこの国の歴史を延々と文字列で見せられたって、眠くなること請け合いだ。まとめられているのなら、まずはそれを一通り目を通してみよう。私は何も分からないのだから。
殿下は例の隠し部屋を開放し、一冊の書物を手に戻って来た。
「これだ」
「ありがとうございます」
ずしりとなかなかの重みのある書物を受け取った。
呪いについてこれ程たくさん書かれているということは、本当に何代にもわたってこのフォンテーヌ王国が、そして呪いが続いているのだなとあらためて思わされる。
「ところでこの書物はどなたがまとめられたものですか?」
題名は簡単に呪いについてと書かれているのみで、名の記載はない。ぱらぱらとその場でめくってみると、書物としてきっちりと書かれたようなものではなく、時折、走り書きのような文字も残されていたりする。筆跡も様々で、最後の方になると何も書かれていないページが続く。
「書物というより覚書みたいなものだな。複数人によって作成されている。名前の記載が無いページもあるが、隠し部屋に保管されているということは呪いを受けた王族たちが記したもので間違いないだろう。私も気付いたことを書き足したりしている」
「そうですか」
なるほど。歴史書ではなく、専門家がきちんと書いたものではなかったのか。しかし本人が王族側なのだとしたら、王室に対して忖度なく書かれているかもしれない。ただし、抜粋してきた内容そのものが忖度されていては元も子もないのだけれど。
この方々もきっと真剣に、そして懸命に過去の事例を探し回ったのだろう。あるいは子孫のことを考えて残そうと考えたのかもしれない。
私は殿下が書いたであろう最後のページを開いてみたところ、整然とした几帳面そうな文字が並べられていた。
『影は影で消せるか』
と、書かれた文字が目に留まる。影のことだろうか。
「君はあそこの席に座って読んでいるといい」
殿下は近くのテーブルを指さしたので視線を移すと、大きなテーブルと四脚の椅子が備えられてあるのが見えた。
重い書物を持って読んでいては疲れるので助かる。それに今日は何も考えずにひたすら集中したいので、はかどりそうだ……な気がする。
「私は向こうの棚に置いてある呪術系の書物を調べてみる」
「はい。承知いたしました」
私たちは二手に分かれて、それぞれの仕事をすることにした。
今は周りに人がいて良かったかもしれない。殿下のすぐ横に立たなくて済むから。話をしなくても済むから。書庫室に着く頃には、きっと心も穏やかになっているだろう。
私はそう思いながら、前へと足を進めた。
「今日も世話になる」
「デレク様、ごきげんよう」
殿下と私は書庫室に到着すると、書庫番のデレクさんに挨拶をした。
「こんにちは。よくいらっしゃいました、殿下。ロザンヌ様」
「今は大丈夫か? ベルモンテ家の者が来訪の予定は?」
もし本日ベルモンテ家からの予約が入っているのなら、殿下はこのまま引き返すおつもりかもしれない。
「いえ。本日はございません」
「そうか。ベルモンテ家の者が来ても、この部屋に私がいることを伝えないでくれ」
確かベルモンテ一族は即日入ることができず、入室の約束を取り付けないといけなかったはず。だから殿下が来ていることを伝えない限り、待ち伏せされることもないだろう。
デレクさんは私を一瞥すると、殿下ににっこりと笑みを向けた。
「もちろんです、殿下」
「……だから絶対に勘違いしているだろう」
本当にね。よくよく考えてくださればいいのに。殿下と下級貴族、さらに言うと今は侍女服ですよ。身分差がありすぎるでしょう。勘違いにも程がある。
何だか段々とデレクさんに対しても憎らしい気持ちになってくるから不思議だ。
――いかんいかん。冷静に冷静に。私はいつだって大人びていて冷静沈着な人間(?)なのだから。
殿下とデレクさんの無駄で無意味なやり取りを終えて、書物が置かれた部屋へと足を踏み入れると、相変わらず独特な香りが漂っている。
この香りはそう、歴史の香り(語彙力)とでも言ってみようか。気持ちがきゅっと引き締まり、頭の切り替えができる。
さて、やるぞ。まずはどこから調べてみるべきか。
私は気合いを入れ直すと殿下へと振り返る。
「殿下、これまでの歴史書に呪いについて書かれているのですよね?」
「ああ。だが、呪いかけられた人物についてまとめた物がある。君にはそちらからの方が取っ付きやすいかもしれない」
確かにこの国の歴史を延々と文字列で見せられたって、眠くなること請け合いだ。まとめられているのなら、まずはそれを一通り目を通してみよう。私は何も分からないのだから。
殿下は例の隠し部屋を開放し、一冊の書物を手に戻って来た。
「これだ」
「ありがとうございます」
ずしりとなかなかの重みのある書物を受け取った。
呪いについてこれ程たくさん書かれているということは、本当に何代にもわたってこのフォンテーヌ王国が、そして呪いが続いているのだなとあらためて思わされる。
「ところでこの書物はどなたがまとめられたものですか?」
題名は簡単に呪いについてと書かれているのみで、名の記載はない。ぱらぱらとその場でめくってみると、書物としてきっちりと書かれたようなものではなく、時折、走り書きのような文字も残されていたりする。筆跡も様々で、最後の方になると何も書かれていないページが続く。
「書物というより覚書みたいなものだな。複数人によって作成されている。名前の記載が無いページもあるが、隠し部屋に保管されているということは呪いを受けた王族たちが記したもので間違いないだろう。私も気付いたことを書き足したりしている」
「そうですか」
なるほど。歴史書ではなく、専門家がきちんと書いたものではなかったのか。しかし本人が王族側なのだとしたら、王室に対して忖度なく書かれているかもしれない。ただし、抜粋してきた内容そのものが忖度されていては元も子もないのだけれど。
この方々もきっと真剣に、そして懸命に過去の事例を探し回ったのだろう。あるいは子孫のことを考えて残そうと考えたのかもしれない。
私は殿下が書いたであろう最後のページを開いてみたところ、整然とした几帳面そうな文字が並べられていた。
『影は影で消せるか』
と、書かれた文字が目に留まる。影のことだろうか。
「君はあそこの席に座って読んでいるといい」
殿下は近くのテーブルを指さしたので視線を移すと、大きなテーブルと四脚の椅子が備えられてあるのが見えた。
重い書物を持って読んでいては疲れるので助かる。それに今日は何も考えずにひたすら集中したいので、はかどりそうだ……な気がする。
「私は向こうの棚に置いてある呪術系の書物を調べてみる」
「はい。承知いたしました」
私たちは二手に分かれて、それぞれの仕事をすることにした。
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