つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里

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第109話 とどめの一撃

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 学校の友人関係も落ち着いてきて、最初のように興味だけで寄ってくるクラスメートは随分と減った。人間、熱しやすく冷めやすいものだ。
 カバンを置いて席に座っていると、マリエル嬢が私の席へと歩いてきた。

「おはようございます、ロザンヌ様」
「マリエル様、おはようございます」

 マリエル嬢だけは切れない真の友人である。

「本日はお天気が崩れそうですね」
「ええ。そうですね。酷くならないと良いのですが」

 実家から通いの時は雨の日が本当に大変だった。うちは遠距離だし、途中から整備されていない道になるので元々足場が悪いところに、長く雨が続くと地面がぬかるんで馬が思うように動けなくなったりして、家に帰るのが大幅に遅れたこともあった。
 今は学校から王宮まで近いし、整備された道なので雨の日でも全く問題ないのはありがたい。
 そんな事を考えていると。

「おはようございます、ロザンヌ様」
「はい。おは――」

 頭に誰かの挨拶が降ってきたので見上げると、そこにいたのはカトリーヌ・クレマン伯爵令嬢様だ。もちろん取り巻きを連れての久々の登場である。
 私は即座に笑みを作って立ち上がる。

「おはようございます。カトリーヌ様」
「ねえ。少しいいかしら?」

 何やら不穏な様子だ。以前のような勝ち気な態度が気になる。
 私はマリエル嬢に離れてもらうように素早く目で合図を送ると、カトリーヌ嬢へ視線を戻した。

「カトリーヌ様、何でしょうか」
「あなた、本当に王宮で行儀見習いをしているの?」
「え?」
「馬車も前みたいに豪華じゃないし、わたくしの親戚が王宮で侍女として働いているけれど、あなたらしき人を見たことがないと言うのよ。おかしな話よね」

 彼女は意地悪そうに笑うと、教室がざわついた。
 なるほど。王家の後ろ盾が無くなったのではと期待してやって来たようだ。でも確信は持てないからまずは様子見というところか。

 王宮にいるのは本当。でも私の居場所を知られてはいけない。うまく誤魔化さなければ。

「いいえ。今も王宮で行儀見習いをさせていただいております」

 一般の行儀見習いではなく、殿下直属の侍女だけど。

「馬車はわたくしにはあまりにも似つかわしくない豪華なものでしたので、わたくしに似合った目立たぬ馬車にしていただけないかとお願いしたのです」

 これは本当。目立ち過ぎるから、最近変更してもらったのだ。ただし、王宮のものとあって、作りや内装に使っている材質は良い物である。

「確かにあなたには王宮の豪華な馬車は似合わないわね。ふうん。身の程はわきまえているようじゃない」

 悪かったですね!
 私はそう吐き出したい気持ちを抑えて笑みを続ける。

「それとカトリーヌ様のご親戚の方も王宮にお勤めということですが」
「そうよ、それよ」
「おそらく配属場所が違うと思われます。ただ、わたくしはカトリーヌ様のご親戚の方と思われる方とはすれ違ったことがあります」

 嘘だけど。

「え? そうなの?」
「ええ。確か、カトリーヌ様に似てお美しい方ですよね」

 見たことはないから適当だけれど。
 仮に違うわよと言われても、よく似ている方がいたと言えばいいだけだ。

「ま、まあね。まあ、もっと言うならわたくしの方が美人ですけどね」

 カトリーヌ嬢は、私にでも美人と言われて悪い気はしなかったらしい。
 ここで私はとどめの一撃を出す。

「王宮でお勤めされる方はとても多く、わたくしはと申しますとこの通り、一度すれ違ったくらいでは覚えていただけないほど地味なものですから、きっとお気づきにならなかったのでしょう」
「ああ。なるほど。そうね。きっとそうだったんだわ」

 彼女はアッサリと納得して頷いた。

 はっ――ぐはぁぁぁっ!
 す、少しくらいは疑ってくれても……。世界の評価は何と残酷なものなのでしょうか。

 諸刃の剣で致命傷を負ったのは私の方だった。

「わたくしの勘違いだったみたい。ごめんなさいね。ではね」

 瀕死状態の私を前に、カトリーヌ嬢はほほほと高笑いをしながら、取り巻きを引き連れて戻って行った。
 それと同時に私はマリエル嬢を力なく呼び寄せる。

「ごめんなさいね、お待たせして」
「いいえ。こちらこそ。そんなことよりもロザンヌ様。わたくし、ロザンヌ様を地味だなんて思いません。とても素敵な方だと思っております」
「……ありがとうございます」

 いいのですよ。私だってもう子供ではありません。色々真実を知ってしまったのですから。お気持ちは嬉しいですが。

「ほ、本気ですよ? わたくし、本気で言っているのですからね!」

 可愛い拳を二つ作って必死になっているマリエル嬢に、私は辛うじて乾いた笑みを浮かべた。
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