114 / 315
第114話 ユリアに弄ばれる
しおりを挟む
執務室での仕事を終えると部屋に戻り、殿下の提案をユリアに話した。
「というわけで、明日、殿下にお会いするまでわたくしに触れないでね。でも、体調が悪くなったらすぐに中止するわ。だから今日はわたくしと一緒のベッドで休んで」
「それはできません」
「ユリア!」
こんな時まで頑固に!
「ロザンヌ様はとても寝相が悪いので、夜間に私を蹴飛ばす恐れがあります。ですから今夜はソファーで休ませていただきます」
「あ、あら……」
私はごほんと咳払いする。
「わ、分かったわ。夜中でも気分が悪くなったら、ちゃんと言ってね」
「かしこまりました。朝のお起こしはどうしますか」
「明日はもちろん自力で起きるわ! 自力で起きるから、ユリア、起こさないでちょうだいね」
本当に一人で大丈夫かという疑わしそうな目をそっと向けてきたユリアに、私はほんのちょっとだけ自信がなくなった。
「あ、いえ、えーっと。もしよ? もし万が一、起きていなかったら、起こしてはもらいたいけれど、わたくしに触らずに起こしてね。でもわたくしユリアに起こされる前に頑張って起きるから! 絶対……いえ、ほぼ起きていると思うし、大丈夫だとは思うけれど!」
と、ユリアに強く主張した翌日。
「ロザンヌ様、朝です。起きてください」
と、いつもの感情のない顔で淡々と言ったのか、言っていないのか。
気付けば、私は床に転がっていた。どうもシーツごとベッドの上を転がされたはいいけれど、勢い余って落ちたらしい。
「いたぁい……。もっと優しく起こしてよぅ」
寝ぼけ眼を手でこすりながら、ユリアをぼんやりと見上げる。
「昨日、ロザンヌ様は自力で起きるとおっしゃっていたかと」
「はっ!」
私はかっと目を見開いた。
「ユリア、体調どう!? 体調は!? 気分はおかしくない!? つらくない!? だるくない!? 熱は!?」
「体調は問題ありませんが、クラウディア様のお誘いのことばかり考えています」
「――え!?」
「嘘です」
思わず身構える私にユリアはあっさり否定した。
「特にいつもと何ら変わりございません」
ロザンヌ様もいつものごとく朝から元気ですねとユリアは付け加える。
普段は冗談なんて言わないのに、こんな時ばかり言わないでほしい。
「ちょ、ちょっとぉ! で、でも良かった」
ほっと息をつこうとしたが。
「あ! 触っていない!? ユリア、わたくしに触っていない!?」
「はい。触れておりません」
「そ、そう。良かった。じゃあ、とりあえず着替えるね」
「かしこまりました。お手伝いいたします」
床からよっこいしょと立ち上がろうとすると、ユリアは自然な流れで手を伸ばした。
「ありが――い、いや! だからわたくしに触れては駄目なんだってば! あ、危うく手を取るところだったじゃない!」
私はユリアの手に触れかけた自分の手を慌てて引っ込める。
「承知しております」
薄く笑みを浮かべるユリア。
……からかったのか。いい性格していますこと。
「着替えが終わったら、殿下の部屋に直行よ! いつ触れるかと思うとゆっくり食事も取れないから」
「かしこまりました」
殿下はおそらく朝が早いので、着替え後すぐでも大丈夫かなと思うけれど、ご迷惑じゃないかな。まあ、扉をノックしてまだ準備が整っていらっしゃらないようだったら、後にすればいいか。
私はそう考えながら着替えを終えた。
「では行くわよ」
「はい」
すぐ近くに声が聞こえて何気に振り返ると、今にも触れんばかりの近さにユリアがいる。ぎょっとした。
「いや距離間! 近すぎだから! 今にも触れそうな距離間、止めて! あと少しだから!」
「はい。かしこまりました」
ユリアは素直に数歩下がった。
絶対楽しんでいるな、ユリア。もう、昨日心配して損しちゃったじゃない。……でも本当に良かった。元気そうで。
ほっとしつつ、殿下の部屋に繋がる扉をノックすると、返事はすぐに返ってきた。
「朝早く失礼いたします、殿下」
「ああ、大丈夫だ。おはよう」
「おはようございます」
殿下は既にびしりと決めている。
一体いつから起きて準備しているのだろう。少なくとも私みたいに誰かに揺り起こされて、あるいはシーツにくるみ落とされて、ようやく起きる生活ではないことは確かだろう。
「もう朝食は取ったのか?」
「いいえ。まだですが、その間にユリアに触れたらと思うと気が気ではなく、先に来てしまいました」
おまけにユリアは私で遊んでくるし。
「そうか。とにかく二人とも入ってくれ」
「ありがとうございます」
そういえば、ここは一昨日の夕方、殿下と気まずくなった場所だった。でもこのちょっとした騒動のおかげで、いつもと同じように接することができていることに気付いた。……良かった。
そんな事を考えている自分に、私はユリアの危機に何を考えているのだと頭をぶんぶんと振る。
殿下は妙な呪いがかかったのは君の方なのではと、不気味そうに見つめ、とにかく早く入れと私たちを促した。
「というわけで、明日、殿下にお会いするまでわたくしに触れないでね。でも、体調が悪くなったらすぐに中止するわ。だから今日はわたくしと一緒のベッドで休んで」
「それはできません」
「ユリア!」
こんな時まで頑固に!
「ロザンヌ様はとても寝相が悪いので、夜間に私を蹴飛ばす恐れがあります。ですから今夜はソファーで休ませていただきます」
「あ、あら……」
私はごほんと咳払いする。
「わ、分かったわ。夜中でも気分が悪くなったら、ちゃんと言ってね」
「かしこまりました。朝のお起こしはどうしますか」
「明日はもちろん自力で起きるわ! 自力で起きるから、ユリア、起こさないでちょうだいね」
本当に一人で大丈夫かという疑わしそうな目をそっと向けてきたユリアに、私はほんのちょっとだけ自信がなくなった。
「あ、いえ、えーっと。もしよ? もし万が一、起きていなかったら、起こしてはもらいたいけれど、わたくしに触らずに起こしてね。でもわたくしユリアに起こされる前に頑張って起きるから! 絶対……いえ、ほぼ起きていると思うし、大丈夫だとは思うけれど!」
と、ユリアに強く主張した翌日。
「ロザンヌ様、朝です。起きてください」
と、いつもの感情のない顔で淡々と言ったのか、言っていないのか。
気付けば、私は床に転がっていた。どうもシーツごとベッドの上を転がされたはいいけれど、勢い余って落ちたらしい。
「いたぁい……。もっと優しく起こしてよぅ」
寝ぼけ眼を手でこすりながら、ユリアをぼんやりと見上げる。
「昨日、ロザンヌ様は自力で起きるとおっしゃっていたかと」
「はっ!」
私はかっと目を見開いた。
「ユリア、体調どう!? 体調は!? 気分はおかしくない!? つらくない!? だるくない!? 熱は!?」
「体調は問題ありませんが、クラウディア様のお誘いのことばかり考えています」
「――え!?」
「嘘です」
思わず身構える私にユリアはあっさり否定した。
「特にいつもと何ら変わりございません」
ロザンヌ様もいつものごとく朝から元気ですねとユリアは付け加える。
普段は冗談なんて言わないのに、こんな時ばかり言わないでほしい。
「ちょ、ちょっとぉ! で、でも良かった」
ほっと息をつこうとしたが。
「あ! 触っていない!? ユリア、わたくしに触っていない!?」
「はい。触れておりません」
「そ、そう。良かった。じゃあ、とりあえず着替えるね」
「かしこまりました。お手伝いいたします」
床からよっこいしょと立ち上がろうとすると、ユリアは自然な流れで手を伸ばした。
「ありが――い、いや! だからわたくしに触れては駄目なんだってば! あ、危うく手を取るところだったじゃない!」
私はユリアの手に触れかけた自分の手を慌てて引っ込める。
「承知しております」
薄く笑みを浮かべるユリア。
……からかったのか。いい性格していますこと。
「着替えが終わったら、殿下の部屋に直行よ! いつ触れるかと思うとゆっくり食事も取れないから」
「かしこまりました」
殿下はおそらく朝が早いので、着替え後すぐでも大丈夫かなと思うけれど、ご迷惑じゃないかな。まあ、扉をノックしてまだ準備が整っていらっしゃらないようだったら、後にすればいいか。
私はそう考えながら着替えを終えた。
「では行くわよ」
「はい」
すぐ近くに声が聞こえて何気に振り返ると、今にも触れんばかりの近さにユリアがいる。ぎょっとした。
「いや距離間! 近すぎだから! 今にも触れそうな距離間、止めて! あと少しだから!」
「はい。かしこまりました」
ユリアは素直に数歩下がった。
絶対楽しんでいるな、ユリア。もう、昨日心配して損しちゃったじゃない。……でも本当に良かった。元気そうで。
ほっとしつつ、殿下の部屋に繋がる扉をノックすると、返事はすぐに返ってきた。
「朝早く失礼いたします、殿下」
「ああ、大丈夫だ。おはよう」
「おはようございます」
殿下は既にびしりと決めている。
一体いつから起きて準備しているのだろう。少なくとも私みたいに誰かに揺り起こされて、あるいはシーツにくるみ落とされて、ようやく起きる生活ではないことは確かだろう。
「もう朝食は取ったのか?」
「いいえ。まだですが、その間にユリアに触れたらと思うと気が気ではなく、先に来てしまいました」
おまけにユリアは私で遊んでくるし。
「そうか。とにかく二人とも入ってくれ」
「ありがとうございます」
そういえば、ここは一昨日の夕方、殿下と気まずくなった場所だった。でもこのちょっとした騒動のおかげで、いつもと同じように接することができていることに気付いた。……良かった。
そんな事を考えている自分に、私はユリアの危機に何を考えているのだと頭をぶんぶんと振る。
殿下は妙な呪いがかかったのは君の方なのではと、不気味そうに見つめ、とにかく早く入れと私たちを促した。
34
あなたにおすすめの小説
王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
私が、良いと言ってくれるので結婚します
あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。
しかし、その事を良く思わないクリスが・・。
婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!
志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。
親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。
本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。
【完結】地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる