113 / 315
第113話 私は信じています
しおりを挟む
「ユリア……」
クラウディア嬢とユリアの攻防に一切口を挟めなかった私だったが、クラウディア嬢が去ってようやく口を開いた。
「お待たせいたしました。ロザンヌ様、参りましょうか」
「いや、参りましょうかではなくてね。……ユリア、あそこまで言われて怖くないの?」
呪術師であることを知っているから余計に彼女の言葉が恐ろしくなった。
言葉は確信的だったし、何かユリアにされないかと。
「怖くありません。私にはロザンヌ様がついておりますので」
「え?」
「ロザンヌ様が私を守ってくれると言いましたよね。絶対守ると」
それは幼い頃の言葉で、大きくなればなるほど、世界を知れば知るほど人を守ることは難しいものだと思い知るものだ。
「さっき、わたくしはあなたを守れなかったわ」
「私が自分で対応できる事だったからです」
「でも、ユリア。絶対という言葉は破られるためにあるものだって、あなた言ったばかりじゃない」
「私はロザンヌ様の絶対という言葉だけは守られると信じています」
真っ直ぐに私を見てくるユリアに胸が詰まる。
「……っ。うん。守る。わたくしはあなたを絶対に守ってみせるわ」
「ええ。もちろんです。ロザンヌ様の側にいるのですから、私はいつだって怖くなどないのです」
微笑を見せるユリアに対し、私はあらためて絶対守ると心に誓った。
「――ヌ嬢、ロザンヌ嬢!」
すぐ近くで殿下の声が聞こえて、私ははっと顔を上げて立ち上がる。
「は、はい。失礼いたしました。殿下、何でしょうか」
「どうした? 何度も呼んだのだが、何か悩み事か?」
執務室でいつの間にか、さっきの事を考え込んでしまっていて、殿下の呼びかけに気付かなかったようだ。
「も、申し訳ありません」
「いや。謝らなくていい。何だか深刻な様子だったから気になった。どうしたんだ?」
殿下には無関係の個人的な悩み事など相談していいのだろうか。お忙しい身なのに私の――。
「そう考え込まれては、余計に気になるだろう。早く言え」
殿下は片眉を上げて腕を組んだ。実に偉そうだ。
「あ、はい。実は」
態度が偉そうなのでお忙しくしてやろうと思ったわけでもないが、さっきの出来事を殿下に包み隠さずお話しした。
「なるほどな。明日の朝、彼女を私の部屋に連れて来てくれ。君はこれから明日まで彼女に触れるな」
「……ベルモンテ家は呪術を解くだけではなく、やはりかけることもできるということですか」
「解く方法を知るなら、当然、かける方法も知っているだろう。政敵に呪いをかけて蹴落とすという方法はこの国でも古くから行われてきた」
この国の黒歴史の一部なのだろう。殿下は苦々しい表情を浮かべた。
「それはベルモンテ家の手によって行われてきたのですか」
「ああ。今でこそ王家での血なまぐさい争いはない時代だが、昔は後継者争いが絶えなかった。そこで王家の人間もベルモンテ一族の手を借り、邪魔な世継ぎ候補を潰していた時代があったらしい」
ベルモンテ家は長らく続く呪術師一族。王家とも密接な関係にある。だから侯爵という爵位を与えて優遇してきた。また、彼らを敵に回さないようにもしてきたのだろう。
「クラウディア様も呪術をかけることができるのですか」
「むしろ呪術師の能力の高さとしては彼女が宗主という立場だからな。可能性はある」
彼女のような人間が力を持つとは悪夢だ。
「どのようにして相手に呪術をかけるのでしょうか」
「これは呪術の書物に記載されていたが、相手の名前と血液や髪の毛、歯など体の一部となるものがあれば、呪術の儀式を行えるそうだ」
クラウディア嬢はユリアに対して必要以上の接触はなかった。ならば大丈夫だろうか。考え過ぎだったかな。
「しかし能力が高い人間は、相手が触れた物からでも術をかけることができると言う」
「触れたもの!?」
ユリアはクラウディア嬢のハンカチに触れた。そして彼女はユリアからそれを取り返していった。クラウディア嬢の能力が高いならば、それを使って呪術をかけることができるかもしれない?
「何かあるか?」
顔色を変えた私に殿下は尋ねてきた。
「ユリアはクラウディア様が落としたハンカチを一度手にしました。最初は捨てておいてとクラウディア様はおっしゃいましたが、ユリアとのやり取りの後、それを奪い返して去って行きました」
自信ありげなクラウディア嬢の声を思い出して、私はまた背筋が寒くなる。
「そうか。しかし、まだ彼女が術をかけられると決まったわけではない。誘いの文句を持って、また現れるだけのつもりかもしれない。仮にかけられたとしても、すぐに心身に影響が出るというわけでもない。君も心配だろうが、どうか明日まで耐えてくれ」
「……はい」
殿下はうつむく私の肩に大きな手をぽんと置くと、手の平から温もりが伝わってきた。
「心配するな。ユリア・ラドロは最強侍女なのだろう? 彼女なら大丈夫だ」
「殿下」
優しい声で落ち着かせてくださる殿下を仰ぎ見ようとした。――けれど。
「なに軽率な真似をされているのですか」
その場で膝から崩れ落ちた殿下を白けた様子で見下ろすことになる。
「……まったくだ」
格好がつかないなと殿下はぼやいた。
クラウディア嬢とユリアの攻防に一切口を挟めなかった私だったが、クラウディア嬢が去ってようやく口を開いた。
「お待たせいたしました。ロザンヌ様、参りましょうか」
「いや、参りましょうかではなくてね。……ユリア、あそこまで言われて怖くないの?」
呪術師であることを知っているから余計に彼女の言葉が恐ろしくなった。
言葉は確信的だったし、何かユリアにされないかと。
「怖くありません。私にはロザンヌ様がついておりますので」
「え?」
「ロザンヌ様が私を守ってくれると言いましたよね。絶対守ると」
それは幼い頃の言葉で、大きくなればなるほど、世界を知れば知るほど人を守ることは難しいものだと思い知るものだ。
「さっき、わたくしはあなたを守れなかったわ」
「私が自分で対応できる事だったからです」
「でも、ユリア。絶対という言葉は破られるためにあるものだって、あなた言ったばかりじゃない」
「私はロザンヌ様の絶対という言葉だけは守られると信じています」
真っ直ぐに私を見てくるユリアに胸が詰まる。
「……っ。うん。守る。わたくしはあなたを絶対に守ってみせるわ」
「ええ。もちろんです。ロザンヌ様の側にいるのですから、私はいつだって怖くなどないのです」
微笑を見せるユリアに対し、私はあらためて絶対守ると心に誓った。
「――ヌ嬢、ロザンヌ嬢!」
すぐ近くで殿下の声が聞こえて、私ははっと顔を上げて立ち上がる。
「は、はい。失礼いたしました。殿下、何でしょうか」
「どうした? 何度も呼んだのだが、何か悩み事か?」
執務室でいつの間にか、さっきの事を考え込んでしまっていて、殿下の呼びかけに気付かなかったようだ。
「も、申し訳ありません」
「いや。謝らなくていい。何だか深刻な様子だったから気になった。どうしたんだ?」
殿下には無関係の個人的な悩み事など相談していいのだろうか。お忙しい身なのに私の――。
「そう考え込まれては、余計に気になるだろう。早く言え」
殿下は片眉を上げて腕を組んだ。実に偉そうだ。
「あ、はい。実は」
態度が偉そうなのでお忙しくしてやろうと思ったわけでもないが、さっきの出来事を殿下に包み隠さずお話しした。
「なるほどな。明日の朝、彼女を私の部屋に連れて来てくれ。君はこれから明日まで彼女に触れるな」
「……ベルモンテ家は呪術を解くだけではなく、やはりかけることもできるということですか」
「解く方法を知るなら、当然、かける方法も知っているだろう。政敵に呪いをかけて蹴落とすという方法はこの国でも古くから行われてきた」
この国の黒歴史の一部なのだろう。殿下は苦々しい表情を浮かべた。
「それはベルモンテ家の手によって行われてきたのですか」
「ああ。今でこそ王家での血なまぐさい争いはない時代だが、昔は後継者争いが絶えなかった。そこで王家の人間もベルモンテ一族の手を借り、邪魔な世継ぎ候補を潰していた時代があったらしい」
ベルモンテ家は長らく続く呪術師一族。王家とも密接な関係にある。だから侯爵という爵位を与えて優遇してきた。また、彼らを敵に回さないようにもしてきたのだろう。
「クラウディア様も呪術をかけることができるのですか」
「むしろ呪術師の能力の高さとしては彼女が宗主という立場だからな。可能性はある」
彼女のような人間が力を持つとは悪夢だ。
「どのようにして相手に呪術をかけるのでしょうか」
「これは呪術の書物に記載されていたが、相手の名前と血液や髪の毛、歯など体の一部となるものがあれば、呪術の儀式を行えるそうだ」
クラウディア嬢はユリアに対して必要以上の接触はなかった。ならば大丈夫だろうか。考え過ぎだったかな。
「しかし能力が高い人間は、相手が触れた物からでも術をかけることができると言う」
「触れたもの!?」
ユリアはクラウディア嬢のハンカチに触れた。そして彼女はユリアからそれを取り返していった。クラウディア嬢の能力が高いならば、それを使って呪術をかけることができるかもしれない?
「何かあるか?」
顔色を変えた私に殿下は尋ねてきた。
「ユリアはクラウディア様が落としたハンカチを一度手にしました。最初は捨てておいてとクラウディア様はおっしゃいましたが、ユリアとのやり取りの後、それを奪い返して去って行きました」
自信ありげなクラウディア嬢の声を思い出して、私はまた背筋が寒くなる。
「そうか。しかし、まだ彼女が術をかけられると決まったわけではない。誘いの文句を持って、また現れるだけのつもりかもしれない。仮にかけられたとしても、すぐに心身に影響が出るというわけでもない。君も心配だろうが、どうか明日まで耐えてくれ」
「……はい」
殿下はうつむく私の肩に大きな手をぽんと置くと、手の平から温もりが伝わってきた。
「心配するな。ユリア・ラドロは最強侍女なのだろう? 彼女なら大丈夫だ」
「殿下」
優しい声で落ち着かせてくださる殿下を仰ぎ見ようとした。――けれど。
「なに軽率な真似をされているのですか」
その場で膝から崩れ落ちた殿下を白けた様子で見下ろすことになる。
「……まったくだ」
格好がつかないなと殿下はぼやいた。
34
あなたにおすすめの小説
身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~
椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」
私を脅して、別れを決断させた彼の両親。
彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。
私とは住む世界が違った……
別れを命じられ、私の恋が終わった。
叶わない身分差の恋だったはずが――
※R-15くらいなので※マークはありません。
※視点切り替えあり。
※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。
牢で死ぬはずだった公爵令嬢
鈴元 香奈
恋愛
婚約していた王子に裏切られ無実の罪で牢に入れられてしまった公爵令嬢リーゼは、牢番に助け出されて見知らぬ男に託された。
表紙女性イラストはしろ様(SKIMA)、背景はくらうど職人様(イラストAC)、馬上の人物はシルエットACさんよりお借りしています。
小説家になろうさんにも投稿しています。
アンジェリーヌは一人じゃない
れもんぴーる
恋愛
義母からひどい扱いされても我慢をしているアンジェリーヌ。
メイドにも冷遇され、昔は仲が良かった婚約者にも冷たい態度をとられ居場所も逃げ場所もなくしていた。
そんな時、アルコール入りのチョコレートを口にしたアンジェリーヌの性格が激変した。
まるで別人になったように、言いたいことを言い、これまで自分に冷たかった家族や婚約者をこぎみよく切り捨てていく。
実は、アンジェリーヌの中にずっといた魂と入れ替わったのだ。
それはアンジェリーヌと一緒に生まれたが、この世に誕生できなかったアンジェリーヌの双子の魂だった。
新生アンジェリーヌはアンジェリーヌのため自由を求め、家を出る。
アンジェリーヌは満ち足りた生活を送り、愛する人にも出会うが、この身体は自分の物ではない。出来る事なら消えてしまった可哀そうな自分の半身に幸せになってもらいたい。でもそれは自分が消え、愛する人との別れの時。
果たしてアンジェリーヌの魂は戻ってくるのか。そしてその時もう一人の魂は・・・。
*タグに「平成の歌もあります」を追加しました。思っていたより歌に注目していただいたので(*´▽`*)
(なろうさま、カクヨムさまにも投稿予定です)
【完結】地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。
アズやっこ
恋愛
❈ 追記 長編に変更します。
16歳の時、私は第一王子と婚姻した。
いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。
私の好きは家族愛として。
第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。
でも人の心は何とかならなかった。
この国はもう終わる…
兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。
だから歪み取り返しのつかない事になった。
そして私は暗殺され…
次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。
いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
ぐうたら令嬢は公爵令息に溺愛されています
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のレイリスは、今年で16歳。毎日ぐうたらした生活をしている。貴族としてはあり得ないような服を好んで着、昼間からゴロゴロと過ごす。
ただ、レイリスは非常に優秀で、12歳で王都の悪党どもを束ね揚げ、13歳で領地を立て直した腕前。
そんなレイリスに、両親や兄姉もあまり強く言う事が出来ず、専属メイドのマリアンだけが口うるさく言っていた。
このままやりたい事だけをやり、ゴロゴロしながら一生暮らそう。そう思っていたレイリスだったが、お菓子につられて参加したサフィーロン公爵家の夜会で、彼女の運命を大きく変える出来事が起こってしまって…
※ご都合主義のラブコメディです。
よろしくお願いいたします。
カクヨムでも同時投稿しています。
【完結】一番腹黒いのはだあれ?
やまぐちこはる
恋愛
■□■
貧しいコイント子爵家のソンドールは、貴族学院には進学せず、騎士学校に通って若くして正騎士となった有望株である。
三歳でコイント家に養子に来たソンドールの生家はパートルム公爵家。
しかし、関わりを持たずに生きてきたため、自分が公爵家生まれだったことなどすっかり忘れていた。
ある日、実の父がソンドールに会いに来て、自分の出自を改めて知り、勝手なことを言う実父に憤りながらも、生家の騒動に巻き込まれていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる