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第114話 ユリアに弄ばれる
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執務室での仕事を終えると部屋に戻り、殿下の提案をユリアに話した。
「というわけで、明日、殿下にお会いするまでわたくしに触れないでね。でも、体調が悪くなったらすぐに中止するわ。だから今日はわたくしと一緒のベッドで休んで」
「それはできません」
「ユリア!」
こんな時まで頑固に!
「ロザンヌ様はとても寝相が悪いので、夜間に私を蹴飛ばす恐れがあります。ですから今夜はソファーで休ませていただきます」
「あ、あら……」
私はごほんと咳払いする。
「わ、分かったわ。夜中でも気分が悪くなったら、ちゃんと言ってね」
「かしこまりました。朝のお起こしはどうしますか」
「明日はもちろん自力で起きるわ! 自力で起きるから、ユリア、起こさないでちょうだいね」
本当に一人で大丈夫かという疑わしそうな目をそっと向けてきたユリアに、私はほんのちょっとだけ自信がなくなった。
「あ、いえ、えーっと。もしよ? もし万が一、起きていなかったら、起こしてはもらいたいけれど、わたくしに触らずに起こしてね。でもわたくしユリアに起こされる前に頑張って起きるから! 絶対……いえ、ほぼ起きていると思うし、大丈夫だとは思うけれど!」
と、ユリアに強く主張した翌日。
「ロザンヌ様、朝です。起きてください」
と、いつもの感情のない顔で淡々と言ったのか、言っていないのか。
気付けば、私は床に転がっていた。どうもシーツごとベッドの上を転がされたはいいけれど、勢い余って落ちたらしい。
「いたぁい……。もっと優しく起こしてよぅ」
寝ぼけ眼を手でこすりながら、ユリアをぼんやりと見上げる。
「昨日、ロザンヌ様は自力で起きるとおっしゃっていたかと」
「はっ!」
私はかっと目を見開いた。
「ユリア、体調どう!? 体調は!? 気分はおかしくない!? つらくない!? だるくない!? 熱は!?」
「体調は問題ありませんが、クラウディア様のお誘いのことばかり考えています」
「――え!?」
「嘘です」
思わず身構える私にユリアはあっさり否定した。
「特にいつもと何ら変わりございません」
ロザンヌ様もいつものごとく朝から元気ですねとユリアは付け加える。
普段は冗談なんて言わないのに、こんな時ばかり言わないでほしい。
「ちょ、ちょっとぉ! で、でも良かった」
ほっと息をつこうとしたが。
「あ! 触っていない!? ユリア、わたくしに触っていない!?」
「はい。触れておりません」
「そ、そう。良かった。じゃあ、とりあえず着替えるね」
「かしこまりました。お手伝いいたします」
床からよっこいしょと立ち上がろうとすると、ユリアは自然な流れで手を伸ばした。
「ありが――い、いや! だからわたくしに触れては駄目なんだってば! あ、危うく手を取るところだったじゃない!」
私はユリアの手に触れかけた自分の手を慌てて引っ込める。
「承知しております」
薄く笑みを浮かべるユリア。
……からかったのか。いい性格していますこと。
「着替えが終わったら、殿下の部屋に直行よ! いつ触れるかと思うとゆっくり食事も取れないから」
「かしこまりました」
殿下はおそらく朝が早いので、着替え後すぐでも大丈夫かなと思うけれど、ご迷惑じゃないかな。まあ、扉をノックしてまだ準備が整っていらっしゃらないようだったら、後にすればいいか。
私はそう考えながら着替えを終えた。
「では行くわよ」
「はい」
すぐ近くに声が聞こえて何気に振り返ると、今にも触れんばかりの近さにユリアがいる。ぎょっとした。
「いや距離間! 近すぎだから! 今にも触れそうな距離間、止めて! あと少しだから!」
「はい。かしこまりました」
ユリアは素直に数歩下がった。
絶対楽しんでいるな、ユリア。もう、昨日心配して損しちゃったじゃない。……でも本当に良かった。元気そうで。
ほっとしつつ、殿下の部屋に繋がる扉をノックすると、返事はすぐに返ってきた。
「朝早く失礼いたします、殿下」
「ああ、大丈夫だ。おはよう」
「おはようございます」
殿下は既にびしりと決めている。
一体いつから起きて準備しているのだろう。少なくとも私みたいに誰かに揺り起こされて、あるいはシーツにくるみ落とされて、ようやく起きる生活ではないことは確かだろう。
「もう朝食は取ったのか?」
「いいえ。まだですが、その間にユリアに触れたらと思うと気が気ではなく、先に来てしまいました」
おまけにユリアは私で遊んでくるし。
「そうか。とにかく二人とも入ってくれ」
「ありがとうございます」
そういえば、ここは一昨日の夕方、殿下と気まずくなった場所だった。でもこのちょっとした騒動のおかげで、いつもと同じように接することができていることに気付いた。……良かった。
そんな事を考えている自分に、私はユリアの危機に何を考えているのだと頭をぶんぶんと振る。
殿下は妙な呪いがかかったのは君の方なのではと、不気味そうに見つめ、とにかく早く入れと私たちを促した。
「というわけで、明日、殿下にお会いするまでわたくしに触れないでね。でも、体調が悪くなったらすぐに中止するわ。だから今日はわたくしと一緒のベッドで休んで」
「それはできません」
「ユリア!」
こんな時まで頑固に!
「ロザンヌ様はとても寝相が悪いので、夜間に私を蹴飛ばす恐れがあります。ですから今夜はソファーで休ませていただきます」
「あ、あら……」
私はごほんと咳払いする。
「わ、分かったわ。夜中でも気分が悪くなったら、ちゃんと言ってね」
「かしこまりました。朝のお起こしはどうしますか」
「明日はもちろん自力で起きるわ! 自力で起きるから、ユリア、起こさないでちょうだいね」
本当に一人で大丈夫かという疑わしそうな目をそっと向けてきたユリアに、私はほんのちょっとだけ自信がなくなった。
「あ、いえ、えーっと。もしよ? もし万が一、起きていなかったら、起こしてはもらいたいけれど、わたくしに触らずに起こしてね。でもわたくしユリアに起こされる前に頑張って起きるから! 絶対……いえ、ほぼ起きていると思うし、大丈夫だとは思うけれど!」
と、ユリアに強く主張した翌日。
「ロザンヌ様、朝です。起きてください」
と、いつもの感情のない顔で淡々と言ったのか、言っていないのか。
気付けば、私は床に転がっていた。どうもシーツごとベッドの上を転がされたはいいけれど、勢い余って落ちたらしい。
「いたぁい……。もっと優しく起こしてよぅ」
寝ぼけ眼を手でこすりながら、ユリアをぼんやりと見上げる。
「昨日、ロザンヌ様は自力で起きるとおっしゃっていたかと」
「はっ!」
私はかっと目を見開いた。
「ユリア、体調どう!? 体調は!? 気分はおかしくない!? つらくない!? だるくない!? 熱は!?」
「体調は問題ありませんが、クラウディア様のお誘いのことばかり考えています」
「――え!?」
「嘘です」
思わず身構える私にユリアはあっさり否定した。
「特にいつもと何ら変わりございません」
ロザンヌ様もいつものごとく朝から元気ですねとユリアは付け加える。
普段は冗談なんて言わないのに、こんな時ばかり言わないでほしい。
「ちょ、ちょっとぉ! で、でも良かった」
ほっと息をつこうとしたが。
「あ! 触っていない!? ユリア、わたくしに触っていない!?」
「はい。触れておりません」
「そ、そう。良かった。じゃあ、とりあえず着替えるね」
「かしこまりました。お手伝いいたします」
床からよっこいしょと立ち上がろうとすると、ユリアは自然な流れで手を伸ばした。
「ありが――い、いや! だからわたくしに触れては駄目なんだってば! あ、危うく手を取るところだったじゃない!」
私はユリアの手に触れかけた自分の手を慌てて引っ込める。
「承知しております」
薄く笑みを浮かべるユリア。
……からかったのか。いい性格していますこと。
「着替えが終わったら、殿下の部屋に直行よ! いつ触れるかと思うとゆっくり食事も取れないから」
「かしこまりました」
殿下はおそらく朝が早いので、着替え後すぐでも大丈夫かなと思うけれど、ご迷惑じゃないかな。まあ、扉をノックしてまだ準備が整っていらっしゃらないようだったら、後にすればいいか。
私はそう考えながら着替えを終えた。
「では行くわよ」
「はい」
すぐ近くに声が聞こえて何気に振り返ると、今にも触れんばかりの近さにユリアがいる。ぎょっとした。
「いや距離間! 近すぎだから! 今にも触れそうな距離間、止めて! あと少しだから!」
「はい。かしこまりました」
ユリアは素直に数歩下がった。
絶対楽しんでいるな、ユリア。もう、昨日心配して損しちゃったじゃない。……でも本当に良かった。元気そうで。
ほっとしつつ、殿下の部屋に繋がる扉をノックすると、返事はすぐに返ってきた。
「朝早く失礼いたします、殿下」
「ああ、大丈夫だ。おはよう」
「おはようございます」
殿下は既にびしりと決めている。
一体いつから起きて準備しているのだろう。少なくとも私みたいに誰かに揺り起こされて、あるいはシーツにくるみ落とされて、ようやく起きる生活ではないことは確かだろう。
「もう朝食は取ったのか?」
「いいえ。まだですが、その間にユリアに触れたらと思うと気が気ではなく、先に来てしまいました」
おまけにユリアは私で遊んでくるし。
「そうか。とにかく二人とも入ってくれ」
「ありがとうございます」
そういえば、ここは一昨日の夕方、殿下と気まずくなった場所だった。でもこのちょっとした騒動のおかげで、いつもと同じように接することができていることに気付いた。……良かった。
そんな事を考えている自分に、私はユリアの危機に何を考えているのだと頭をぶんぶんと振る。
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