つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里

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第139話 絡み合う視線は

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 ジェラルドさんをお相手としても、私の動きはやっぱりぎこちなかった。
 ええ、理解いたしました。私にはとにかくダンスの才能がない! これに尽きますね。

 足の動きはこうだったかなと、ジェラルドさんの足を踏んだらどうしようと、おろおろよろよろダンスをしていると、彼は優しく手を取ってくださった。

「ロザンヌ様、うつむいて足元ばかりに気を取られないようにしましょう。もちろん技術や作法を身につけることも大切なことではありますが、それはダンスの本質ではありません」
「え?」
「ダンスとは純粋に楽しむものです。ダンスを楽しみましょう」

 顔を上げると、ジェラルドさんの笑顔が降ってきた。

 ま、眩しい……。眩しすぎて神々しさすら感じます。
 男前の笑顔の破壊力に見とれてしまう。

「私の足を踏んでも構いませんから、ロザンヌ様は私の動きに合わせてみてください」
「は、はい」

 私はジェラルドさんのお声がけの通りに足元に視線を落とすのではなく顔を上げて歩調を合わせると、うまく誘導してくれる。

「――わっ!」

 踊れる! 私でも踊れる!
 驚いてジェラルドさんの顔を見ると、また笑顔で返してくれた。

 すごい。まるで私が上手くなったみたい。踊れるって楽しい!

 ユリアがジェラルド様のリードのおかげですと言っていた意味が分かった。つたない私を見事に引っ張っていってくれる。誰かさんとは全く大違……。
 と思ったところで、はっと気付いた。

 殿下も人並み以上の場数をこなしてきているはず。女性をリードすることにきっと長けているだろう。ただ、私とは手を繋げなかったから、上手くリードできなかっただけなのかもしれない。

 少し余裕が生まれた私はお隣の二人に視線をやると、ユリアは持ち前の運動神経を生かして、初心者とは思えないほどの所作で見事に躍っている。顔は無表情のままではあるが。
 殿下もまた私の時とは格段に違って王族らしい気品ある威風をもって、ユリアと手を取り合い優雅に、そしてそつなく躍っている。

 ああ、そうかと思う。
 ユリアは殿下と手を取り合うことができるのだ。いや、ユリアだけではない。私以外の人なら殿下は誰とでも手を取り合うことができるのだ。
 目の前に事実として実際に示されると、胸が苦しくなった。

 ……もし。もし私が殿下の手を取ることができるのならば。

 そんな考えがふと頭によぎった時、くるりと回った殿下と正面にかちあい、ばちりと互いの目線が合う。

「――っ」

 不意に絡まった視線に胸の鼓動が大きく打ち、魅せられたように逸らせずにいると、殿下もまたなぜか私から目を離さずにいる。

 もしかして殿下も私と同じ気持ちで……?
 そんな勝手な思い込みが湧き起こりそうになった時。

「はーい。そこまで! 本日はここまでにいたしましょう」

 クロエさんはダンスを終了させる声を上げ、私はびくりと身を震わせた。
 途端に現実に引き戻される。……何て自分都合の事を考えていたのだと。
 私は自嘲の息を吐き出すと呼吸を整えた。

「ロザンヌ様もユリアさんもなかなか良かったわ。今の形と気持ちを忘れないでくださいね」
「はい。クロエ様、ご指導ありがとうございました」
「……私も覚えておかないといけないのでしょうか」

 ぼやくユリアを横に、私はお礼を述べるためにジェラルドさんと向き直る。

「ジェラルド様も本当にありがとうございました。ジェラルド様のおかげでわたくしでも踊れるのだと自信を持てましたし、何よりもダンスに対する考えも変わりました。とても楽しかったです」
「こちらこそ私もロザンヌ様とご一緒できて、とても楽しい時間を過ごせました。ありがとうございました」

 ジェラルドさんに挨拶を済ませた私は殿下に近付いた。
 やはり私のために練習場とお時間を提供していただいた以上、お礼を述べるべきだろうから。それとさっき長い間、視線を外さずにいた気恥ずかしさと共に、自分勝手な想像をしたことに後ろめたさのようなものがあるからだ。

「殿下、本日はわたくしのためにお時間を取っていただき、ありがとうございました。いかがでしたか。わたくしのダンスは」
「そうだな。最初よりは成長したか」
「そうでしょう、そうでしょう。素晴らしい急成長ぶりでしたでしょう」

 いつもの私のように・・・・・・・・・、自信たっぷりにふふんと鼻を鳴らして胸を張った。

「いや。そこまでは言ってないな」
「わたくし、我ながら自分の才能が恐ろしいですわ」
「そうか。私は君の根拠の無い自信が恐ろしいかな」

 殿下の口調と態度は何も変わらない。まさに殿下のおっしゃるとおり。私一人、勘違いしていただけだ。……本当に恥ずかしい。

 私はその気持ちを握りつぶすように一度ぎゅっと拳を作った後、腕を組んで唇に笑みをのせた。

「まあ! 相変わらずの減らず口ですね」
「まさかそのセリフを君に言われるとは驚きだ」

 殿下は肩をすくめて苦笑する。
 これまでと何ら変わらない応対にほっとした反面、キリキリと胸を刺す痛みも感じた。
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