つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里

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第138話 今後ともよろしくお願いいたします

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「いいでしょう。そこまで。少し休憩いたしましょう」

 クロエさんはパンと手を打った。
 動きを止め、ユリアから離れたジェラルドさんに私は声をかける。

「ジェラルド様、とても素晴らしかったです!」 
「ありがとうございます、ロザンヌ様」
「ジェラルド様の別のお姿を拝見して驚きました」
「あ、いえ。お恥ずかしい限りです」

 ジェラルドさんは照れたように笑んだ。

「ユリアさんもとてもお上手でしたよ」
「そうですね」

 ちょっと殺伐な雰囲気がしていたけど。

「ユリアも初めてとは思えない出来だったわ」
「ありがとうございます。ジェラルド様のリードのおかげです」

 ユリアがお礼の他に、ジェラルドさんを評価するのもびっくりだったけれど、さらに殿下が驚きの発言を落とす。

「ジェラルドは伯爵家の息子だからな。昔、相当叩き込まれたはずだ」
「――え!? ジェ、ジェラルド様は伯爵家のご令息様なのですか? た、確かに品格がおありの方だとは思っておりましたが」

 しかも爵位がうちより上の方。これまで失礼はなかったかしらと不安になる。殿下はともかく、ジェラルドさんには失礼があってはならないと思う不思議。

「あ、いえ。実家は確かにそうなのですが、私は三男ですので爵位は兄たちが継ぐことになります。ですから私はただの庶民です」

 いわゆる準貴族という身分になるのだろう。

「ただの庶民だなんて。それにジェラルド様は騎士爵もお持ちではありませんか。ご自分の実力お一つで、護衛騎士官長職を賜るまで身を立てられたのですね。わたくし、とても感銘を受けました。ね、ユリア」

 いつものように話を振ると、はい、の一言が返ってくるだろうと予測された。ところが、ユリアからの返事はない。

「ユリア?」
「あ。――はい」

 ユリアの顔を見てもう一度話を振ると今度は返ってきた。
 彼女も少なからず驚いていたらしい。

「ジェラルド様は素晴らしい方です」
「え?」
「これまでの数々のご無礼、大変失礼いたしました」

 そう言って、ユリアは慇懃に礼を取る。
 その所作がどうにも彼から一線を画くそうとする行動に見え、ジェラルドさんもまたそうお感じになったらしい。慌てて口を開かれた。

「い、いえ! そんな無礼など! む、むしろこれまで通りに接していただければ嬉しいのですが」

 まさか自虐趣味がおありなのでしょうか、ジェラルドさん。

 冗談はさておき、ユリアは無言でジェラルドさんを見つめ、そして私に視線を流した。
 そうさせていただいたらと私は頷くと、ユリアはまた彼に視線を戻す。

「はい。お言葉に甘えさせていただきます。今後ともどうぞよろしくお願いいたします」
「え、ええ! こちらこそよろしくお願いいたします」

 ジェラルドさんはほっとした表情で笑みを零した。

 うん、良かった良かった。
 ほんわかしていると。

「さて」

 こほんとクロエさんが咳払いした。
 ええ。ほんわか気分が清々しいくらい一掃されましたとも。

「では休憩はここまでにして練習を始めます。殿下とロザンヌ様、彼らをお手本にもう一度やってみましょう」

 さっきよりクロエさんの監視の目が厳しくなるだろう。
 殿下と私は顔を見合わせると目だけで頷き合った。

「クロエ、その前にいいか」
「何でしょうか」
「できれば、パートナーを交換したいのだが」

 殿下も恐るるクロエさんらしい。遠慮がちに提案している。

「なぜでしょうか?」
「なぜ?」

 理由までは考えていなかったらしい。殿下は一瞬戸惑った。

「そうだな。なぜかというと、その……何と言うか、ロザンヌ嬢とは相性が合わ」
「はい? 妙齢のお嬢様相手に相性が何とおっしゃるおつもりでしょうか?」

 クロエさんはにっこり笑いつつも目をつり上げた。
 怖い……。

「い、いや。気分を変えて、そ、そう。気分を変えてみるのもいいかなと。どうだろうか、ロザンヌ嬢」

 私に振ってきた!
 でも確かに殿下とは触れあえないのだし、パートナーチェンジは止む得ない。

「ええ。殿下のおっしゃる通りでございます。わたくし、殿下の崇高さを前にいたしますと、緊張で萎縮して動きがぎこちなくなってしまいますので」

 私もいかにも嘘っぽい言い訳で懸命に訴え、殿下を援護してみる。
 クロエさんは真意を探るように私と殿下を交互に見て、ため息をついた。

「……そうですか。まあ、いいでしょう。それでは一度、お相手を交換といたしましょうか」
「はい。それでよろしくお願いいたします」

 と言うわけで、私はジェラルドさんと、殿下はユリアをお相手として練習を再開することとなった。
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