つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里

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第142話 正論に反論無し

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 教室に入ると、晩餐会の話題で持ちきりだった。

 なるほど。もう招待状は届いているらしい。私が殿下から聞かされたのは昨日だったけれど、招待状は既に何日か前に出されていたのだろう。

 私は皆の話し声を聞きながら席に着くと、カトリーヌ・クレマン伯爵令嬢が取り巻きを連れてやって来た。

「おはようございます、ロザンヌ様」
「あら。カトリーヌ様、おはようございます」

 私は立ち上がると笑顔を作った。
 ええ。この世界にいますと、作り笑いもお手の物です。

「ロザンヌ様も次の晩餐会に出席なさるのかしら?」
「はい。招待はお受けしておりますので」

 帰っていないから分からないけれど、うちも多分受けているよね。殿下もそのような事をおっしゃっていたし。ただ、兄様方は未婚だけれどそれぞれ婚約者様がいるので、両親のみの出席となるでしょう。

「そう。晩餐会に着て行くドレスはあるのかしら。みすぼらしい格好では恥ずかしいでしょうし、ご辞退されては?」

 取り巻きはくすくすと笑っている。
 ……嫌い嫌いも好きの内ってね。事ある度に関わり合って来て、何気に私のことが好きよね、カトリーヌ様。
 それならば仕方がない。相手をして差し上げましょう。

「まあ。ご心配いただいてありがとうございます。カトリーヌ様のように華やかな顔立ちではありませんので、身の丈に合った控えめなドレスで行こうと考えております」

 もちろん、そんなにお金をかけたドレスを用意できないのも確かではあるけれど。

「ふ、ふうん。まあ、それもいいかもしれないわね。でも向こうで会ったとしても話しかけて来ないでね。友人とでも思われたら恥ずかしいもの」

 こっちこそ願ったり叶ったりだい!
 カトリーヌ嬢は私を見ると、けちの一つでも付けないと気が済まないのだから。

「もちろんですわ。学校でもわたくしからカトリーヌ様にお声をかけに行くことなど、ほぼございませんでしょう? 今日もこちらにいらっしゃったのはカトリーヌ様かと」

 突っかかって来ているのはあなたの方よねとお知らせしてさしあげると、彼女はうっと言葉を詰まらせて身を翻した。

「ともかくわたくしは警告しましたからね。ではね」

 うん? 今、何を警告してもらったんだろう?
 私は首を傾げていると、マリエル嬢が入れ違いにこちらへやって来た。

「ロザンヌ様、おはようございます。あの。カトリーヌ様がまた何か?」
「おはようございます、マリエル様。カトリーヌ様には朝のご挨拶を頂いただけです」

 不安そうに表情を変えるマリエル嬢に私は笑顔を向ける。

「それよりも教室内はもう話題になっておりますが、マリエル様は王宮からの招待状はもうお受け取りになられましたか」
「はい。王宮でのパーティーはとても楽しみですね」
「ええ」

 先日、婚約が決まりそうだと少し心穏やかではない様子だったけれど、今日は笑顔だ。

「マリエル様はダンスはお得意ですか?」
「いえ。得意というわけではございませんが、一通りは踊れるかと思います」

 マリエル嬢はさらりと言っているけれど、なかなか優秀らしい。いや、やはり貴族としての当然の素養だったか……。

「そうですか。わたくしは得意ではなく、昨日、パーティーのお話を伺って特訓したところなのです。そのせいで今日は痛みで体が悲鳴を上げております」
「特訓? お一人で?」

 私ははっとした。
 殿下のご厚意で教わったなどと話すわけにもいかない。かと言って、一人で体が悲鳴を上げるほど練習もできない。

「えっと。王宮でお知り合いになった方に教えていただいたのです」
「そうなのですね。ダンスは社交界に必須なものなのでしょうけれど、日常化しているものでもありませんし、当日失敗しないかと不安です」

 私は目を伏せ、顎に拳を当てて、ふふふと薄笑いする。

「マリエル様、よろしいですか? ダンスの本質とは楽しむことにあるのです。技術や作法は二の次なのですよ」

 ジェラルドさんからの受け売りを得意げになって口にしてみると、マリエル嬢は口元で小さく手を合わせた。

「そうなのですね。勉強になります。わたくしは間違わないことばかりに気を取られて、ダンスを心から楽しんでおりませんでした」
「そうでしょう、そうでしょう」
「あの。ですが」

 うんうんと頷きつつ胸を張る私に、マリエル嬢は遠慮がちに続ける。

「ある程度はダンスの基礎を身につけておきませんと、人と合わせて躍ることはできないのでは……ないでしょうか」
「…………デスヨネー」

 マリエル嬢のお言葉は全くの正論で、一切反論できない私だった。
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