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第143話 上級貴族などならなくていいと、うそぶいてみる
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「ロザンヌ様、次は移動教室です。参りましょう」
「ええ」
マリエル嬢に声をかけられて私は席を立った。
クラスメートも各々、次の授業の準備を手に持つと教室を出て行く。
教室を空にしても最近は前のような事件が起こることもないので、私たちは続いて教室を出た。
マリエル嬢と話をしながら歩いていると、前を歩くカトリーヌ嬢ご一行様が見えた。
彼女を中心に廊下を占領しながら歩いているのを見ると、何と礼義のなっていないことだとため息が出る。あれが上流の貴族礼義だというのならば、私は上級貴族などならないでいい、などとうそぶいてみる。
「ロザンヌ様は王宮の晩餐会にはどのようなドレスをお召しになるのですか」
「そうですね。色目を抑えた控えめなドレスになろうかと思います」
そういった時のために何着か一応持って来てはいる。
もちろん王宮行事に出席する際、ぎりぎり品質が合格するか否かといったところのものではあるけれど。
「うちは片田舎の貧乏貴族ですからね。あまり贅沢品は用意できません。マリエル様は?」
「わたくしも同じくだったのですが、ご婚約者様が援助してくださることになりまして」
なるほど。マリエル嬢のご婚約者様は豪商だと言っていた気がする。
「あら? そう言えば、今回はご婚約者がいる方の出席はご遠慮いただくのではなかったのですか」
「ええ。そうなのですが、わたくしの卒業がまだ先のこともあり、相手様のご厚意でまだ婚約を公にしていないのです」
「なるほど」
公にご発表されていないのなら、王宮からの招待状は当然届くわよね。
王宮での行事に参加するということは、女性にとっても男性にとっても憧れでもあり、誇りでもある。そういったことも考えられたのだろう。
「そうですか。マリエル様はお可愛ら」
と、そこまで言った時。
「きゃあっ!?」
前方から女性の軽い悲鳴と物が落ちるような音が響いた。
カトリーヌ嬢ご一行様の誰かが特別教室から出てきた女子生徒とぶつかり、その女性が持っていた物を落とした音だったらしい。
「危ないわね。気をつけてくださらない」
カトリーヌ嬢は居丈高に言い放つと、女子生徒が落とした教科書類を避けながら前に進もうとしたところ、一人が何かに気付いたらしい。彼女がカトリーヌ嬢に耳打ちすると顔色を変え、早く行くわよと慌てて逃げるように走り去った。
一方、残された女子生徒は落とした私物を拾っている。
カトリーヌ嬢たちったら、何なの? 一緒に拾って差し上げなさいよ。
私は彼女の元に駆け寄り、身を屈めて散乱した筆記具などを拾うと、彼女は顔を上げて私を見た。
「あ、ありがとうございます」
「いえ。大丈夫でしょうか。お怪我は? ――はうっ!」
言った直後、今朝の筋肉痛が腰に響いて地面に膝をついてしまった。
「い、いいえ。わたくしは大丈夫ですけど、あなたは」
「わだ、ぐじは。ただの筋肉痛に……ございます」
「そ、そう」
マリエル嬢も拾うのを手伝ってくれ、全て拾うことができたようだ。
「これで全てでしょうか」
「ええ。本当にありがとう」
拾ったものを全てお渡しして私は腰を叩きながら立ち上がると、あらためてお互いの顔を見た。
彼女は少し赤みがかった金の髪に淡い褐色の瞳をしている。美しいけれども、切れ長の目は相手に少し威圧感を与えるかもしれない。
髪の毛も肌も手先も手入れが行き届いており、気品も備えられていて、一目で良い出自のご令嬢だということが分かる。そして制服のリボンの色を見たところ、上級生だということが分かった。
なるほど。カトリーヌ嬢らは相手の方が上級生だと分かったから慌てて逃げたのね。まったく。
いい子ちゃんになる気はないけれど、謝罪もせずに逃げ去るだなんて、クラスメートとして恥ずべきことだし、彼女に一日気分を害するような気持ちを持たせたくはない。
「あの。先ほどはクラスメートが失礼いたしました」
「いいえ。あなたが謝っていただくことではないわ。わたくしも不注意でしたし」
「いえ、そんな。彼女らの方がぶつかったように見えましたし。本当に申し訳ございません」
私が彼女と応対していると、横でマリエル嬢が腕をそっと掴んで、小声で囁いた。
「そろそろ教室に参りませんと」
「あ! た、大変。本当だわ。遅れちゃう! す、すみません。わたくしども、次は移動教室ですので、これで失礼させていただきます」
「そうですか。ではどうぞお行きになって。あ、でも――」
「ありがとうございます。では失礼いたします」
私たちは彼女に礼を取ると、急げ急げと上品にしつつも小走りしながら教室へと向かった。
「ええ」
マリエル嬢に声をかけられて私は席を立った。
クラスメートも各々、次の授業の準備を手に持つと教室を出て行く。
教室を空にしても最近は前のような事件が起こることもないので、私たちは続いて教室を出た。
マリエル嬢と話をしながら歩いていると、前を歩くカトリーヌ嬢ご一行様が見えた。
彼女を中心に廊下を占領しながら歩いているのを見ると、何と礼義のなっていないことだとため息が出る。あれが上流の貴族礼義だというのならば、私は上級貴族などならないでいい、などとうそぶいてみる。
「ロザンヌ様は王宮の晩餐会にはどのようなドレスをお召しになるのですか」
「そうですね。色目を抑えた控えめなドレスになろうかと思います」
そういった時のために何着か一応持って来てはいる。
もちろん王宮行事に出席する際、ぎりぎり品質が合格するか否かといったところのものではあるけれど。
「うちは片田舎の貧乏貴族ですからね。あまり贅沢品は用意できません。マリエル様は?」
「わたくしも同じくだったのですが、ご婚約者様が援助してくださることになりまして」
なるほど。マリエル嬢のご婚約者様は豪商だと言っていた気がする。
「あら? そう言えば、今回はご婚約者がいる方の出席はご遠慮いただくのではなかったのですか」
「ええ。そうなのですが、わたくしの卒業がまだ先のこともあり、相手様のご厚意でまだ婚約を公にしていないのです」
「なるほど」
公にご発表されていないのなら、王宮からの招待状は当然届くわよね。
王宮での行事に参加するということは、女性にとっても男性にとっても憧れでもあり、誇りでもある。そういったことも考えられたのだろう。
「そうですか。マリエル様はお可愛ら」
と、そこまで言った時。
「きゃあっ!?」
前方から女性の軽い悲鳴と物が落ちるような音が響いた。
カトリーヌ嬢ご一行様の誰かが特別教室から出てきた女子生徒とぶつかり、その女性が持っていた物を落とした音だったらしい。
「危ないわね。気をつけてくださらない」
カトリーヌ嬢は居丈高に言い放つと、女子生徒が落とした教科書類を避けながら前に進もうとしたところ、一人が何かに気付いたらしい。彼女がカトリーヌ嬢に耳打ちすると顔色を変え、早く行くわよと慌てて逃げるように走り去った。
一方、残された女子生徒は落とした私物を拾っている。
カトリーヌ嬢たちったら、何なの? 一緒に拾って差し上げなさいよ。
私は彼女の元に駆け寄り、身を屈めて散乱した筆記具などを拾うと、彼女は顔を上げて私を見た。
「あ、ありがとうございます」
「いえ。大丈夫でしょうか。お怪我は? ――はうっ!」
言った直後、今朝の筋肉痛が腰に響いて地面に膝をついてしまった。
「い、いいえ。わたくしは大丈夫ですけど、あなたは」
「わだ、ぐじは。ただの筋肉痛に……ございます」
「そ、そう」
マリエル嬢も拾うのを手伝ってくれ、全て拾うことができたようだ。
「これで全てでしょうか」
「ええ。本当にありがとう」
拾ったものを全てお渡しして私は腰を叩きながら立ち上がると、あらためてお互いの顔を見た。
彼女は少し赤みがかった金の髪に淡い褐色の瞳をしている。美しいけれども、切れ長の目は相手に少し威圧感を与えるかもしれない。
髪の毛も肌も手先も手入れが行き届いており、気品も備えられていて、一目で良い出自のご令嬢だということが分かる。そして制服のリボンの色を見たところ、上級生だということが分かった。
なるほど。カトリーヌ嬢らは相手の方が上級生だと分かったから慌てて逃げたのね。まったく。
いい子ちゃんになる気はないけれど、謝罪もせずに逃げ去るだなんて、クラスメートとして恥ずべきことだし、彼女に一日気分を害するような気持ちを持たせたくはない。
「あの。先ほどはクラスメートが失礼いたしました」
「いいえ。あなたが謝っていただくことではないわ。わたくしも不注意でしたし」
「いえ、そんな。彼女らの方がぶつかったように見えましたし。本当に申し訳ございません」
私が彼女と応対していると、横でマリエル嬢が腕をそっと掴んで、小声で囁いた。
「そろそろ教室に参りませんと」
「あ! た、大変。本当だわ。遅れちゃう! す、すみません。わたくしども、次は移動教室ですので、これで失礼させていただきます」
「そうですか。ではどうぞお行きになって。あ、でも――」
「ありがとうございます。では失礼いたします」
私たちは彼女に礼を取ると、急げ急げと上品にしつつも小走りしながら教室へと向かった。
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