つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里

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第144話 ユリアは器用か無器用か

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 本日も無事授業が終わり、マリエル嬢と別れて校舎を出るといつものように馬車の停留場所へと向かう。

「あ……あら」

 私は二人が待つ馬車へと、筋肉痛が伴う小走りで向かう。

「ジェラルド様!? 今日は一日アレオン護衛官様の送迎ではなかったのですか?」
「お疲れ様です、ロザンヌ様。早めに終わったのでロザンヌ様のお迎えをと、殿下が申されたのです」
「そ、そうなのですか。お疲れのところ、ありがとうございます」
「いいえ。では参りましょうか」

 ジェラルドさんが笑顔で手を差し出してくれたので、お借りしつつ私は馬車の中へ乗り込んだ。
 今朝の様子を見ていると、ユリアはまたジェラルドさんの手を拒否するのだろう。二歩進んで三歩下がった形になるのかと、諦めていたところ。

「ユリアさん、どうぞ」
「ありがとうございます」

 ジェラルドさんの手をお借りしてユリアは馬車に乗り込んできた。
 思わずユリアの顔をまじまじと見つめてしまう。

「何でしょうか」
「何って、ジェラルド様の手をお借りするの?」

 私が囁くような声で尋ねると、ユリアは難なく答える。

「どうぞと手を差し出してくださったので」
「今朝、アレオン様もそうされていたわよ」
「そうでしたか。ですが、ジェラルド様はこれまでと変わりなくとおっしゃったので」

 つまりジェラルドさんには最初、自分から手をお借りしたいと言った以上、貫こうとしているということなのかな。あるいはジェラルドさんは特別で、それを言い訳にしているだけなのか。

 うーん。
 ユリアは器用なのか不器用なのか分からないな。

「出発いたしますね。では、お願いいたします」

 中に乗り込んできたジェラルドさんのお言葉で馬車が緩やかに動き出す。

「ロザンヌ様、本日の学校はいかがでしたか?」

 いつものようにジェラルドさんは話題を振ってくださる。

「特に代わり映えなく――ああ、いえ。晩餐会のことで持ちきりでした」
「なるほど。招待状がそろそろ届いている頃ですからね」
「ジェラルド様はご出席なさるのですか?」
「殿下の護衛という形でお側に付かせていただきます」

 護衛官としてか。
 伯爵家の三男とはいえ、不謹慎ではあるけれどご兄弟にもし何かあった時、もしくは世継ぎの男児に恵まれなかった時、爵位が譲り受けられる場合がある。
 つまりジェラルドさんはただの庶民ですとはおっしゃったけれど、領地を統治する貴族の身分にいつ戻ってもおかしくないお立場の方だ。それなのに常日頃から謙虚でいらっしゃる。

 同じ伯爵家の人間でも大違い。誰とは言わないけれど、カトリーヌ嬢! 君だよ君!

「ロザンヌ様? どうかされましたか?」

 拳を作っている私にジェラルド様は首を傾げた。

「いえいえ」

 私は拳を解き、おほほほと唇に手を当ててて笑う。

「そう言えばユリア」
「はい」
「聞いたことがなかったのだけれど、あなたはわたくしが学校に行っている間は何をしているの?」
「お部屋の掃除や洗濯です。他にもクロエさんに指示されたお仕事もしています」

 あ、そっか。ユリアは私の侍女だけれども、行儀見習いとして王宮入りした私に侍女が付くのはおかしいから女性使用人としての仕事をこなしているのか。実家では大人数の人を抱えているわけではないから、侍女も女中の分類もなく、同じようなお仕事をしてもらっていたから気付かなかった。

「そう。いつもありがとう。空き時間は何をしているの?」
「休憩したり、お昼を食べます」
「そ、そうね。他には?」

 普通すぎた答えに私は他に無いのかと探りを入れる。

「他……鍛錬場に顔を出したりすることもあります」
「え? 鍛錬しているの? 休みの日だけではなくて?」
「いえ。同僚に連れられて見学しているだけです」
「そう」

 同僚の方とも仲良くなっているみたいで良かった。鍛錬場に参加したことが功を奏したのかな。試合の時も結構応援してもらっていたし。

「あとはお花を頂いたりしています」
「お花? ああ、お部屋に飾ってくれている一輪挿しのお花? 毎日、違うお花に変えてくれているわよね」

 どこから手に入れてくれているのか、気になってはいたのよね。

「ええ。庭師のユアンさんに毎日一輪頂いています」
「へ――」
「え? ユアン・ロードさんですか?」

 へぇ、と言おうとしたところで、それまで黙っていたジェラルドさんが口を開いた。
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