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第149話 ユリアの日常(四)
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「――リア、ユリア!」
ロザンヌ様の呼びかけに気付いて我に返る。
ソファに座っていたロザンヌ様は私を心配そうに仰ぎ見ていた。
「どうしたの。珍しくぼんやりしていたみたいだけれど」
「申し訳ありません」
「何か悩み事?」
「いえ。ただお花が……」
思わず呟いてしまうとロザンヌ様は、ああ、あれのことねと頷いた。
「お部屋にお花が溜まってきていると言っていたわね。それのことでしょう」
「え? いえ、はい」
「お花も多くなってきちゃうと管理が難しいものね」
特にユリア、お花の水なんて替えていないでしょうしと何だか貶められた。
失礼な。水替えならコレットさんがやっているのを側で見守っている。
「まだ咲いているの?」
「はい」
「じゃあ、持って来て。わたくしに良い考えがあるの」
「え?」
次の日。
いつものように温室へと訪れたが、ユアンさんの姿は見当たらない。今日は休みなのか。
「ああ。ユリアさん、こんにちは」
奥から出てきた庭師のジル様が挨拶をしてくれた。
「こんにちは。今日もお花を頂きに参りました」
「ユアンは今、出ているよ。すぐ戻って来るから、少し待ってくれるかい」
「分かりました」
「……あのね。ユリアさん」
ジルさんは少し困った様に頬を掻く。
「あの子を悪く思わないでやってくれな。口は悪いが根は良い子なんだ。人に傷つけられることが多かったから、人を信じることが怖くなってしまっているだけなんだ」
「……分かります。ただ、これからも人と関わろうとするのならば、怖くても人を信じる必要があります」
私も全ての人を信じようとは思わないが、それでも信じたいと思える人間が増えてきた。
「そうか。そうだね。君の言う通りだ」
ジル様がそう言って頷いた時。
「ユリア?」
背中にユアンさんの声がかかって振り返る。
「こんにちは」
「うん。……こんにちは」
昨日の今日でユアンさんは気まずそうに返事をした。
「その。昨日は悪かった」
「はい」
「……それだけ?」
「私から何の言葉が欲しいのでしょうか」
ジル様は吹き出し、ユアンさんは返事に困ったのか、頭を掻く。
「いや。何でもない。お花、こっちで渡すよ。来て」
「はい」
私の横を過ぎて前を歩くユアンさんの背を追った。
「ユリアさん! ね、ね! 今から鍛錬場を見学に行きましょうよ!」
庭にいると同僚のナディアさんから声をかけられた。
「いえ。私は別に」
と言ったところで。
「今日、鍛錬場にジェラルド様もいらっしゃるんですって!」
「うそー! 行く行く!」
「不定期にいらっしゃるのが残念よね。もっと頻繁にお姿を拝見したい!」
私たちの横を通り過ぎていく女中らが華やいだ声で話すのを耳にした。
「……私、行きます」
「ええ! 行きましょう!」
ナディアさんと共に鍛錬場に着くと既に稽古が始まっていたようで、盛り上がっている。
見学場所に歩いて行きながら騎士らを眺めると、私に気付いた騎士が、おうと声をかけてくるので軽く頭を下げてみた。
ナディアさんはふふっと笑う。
「さすが騎士と対峙できる女中は違うわね。あなた、本当に格好良かったもの。すっかりファンになっちゃった」
「ありがとうございます」
見学場では女性がほとんどだが、中には男性も混じっている。男性から見てもやはり騎士らの姿に憧れを抱くのだろう。
「見て見て! ジェラルド様よ!」
誰かの女性の声が上がる。
釣られて女性が指さす方向を見ると、ジェラルド様を中心にして十名ほどの騎士が取り囲んでいる。連続相手をしていくらしい。
始めの合図と共に騎士がジェラルド様に向かって行くが、ジェラルド様は難なく受け止めて相手を倒す。力加減をしているようで、鍛錬場に響く様な強い音はしない。
練習だからというのもあるだろうが、相手の力を見極めているからこそできるのだろう。連続して複数人を相手にしていっても息一つ乱すことなく、立ち姿も美しい姿勢のままだ。
「ジェラルド様、やっぱり凄いわね。もう別格」
「はい。……綺麗です」
ジェラルド様の出番も終わり、私たちは持ち場に戻ることにした。すると、ジェラルド様が私の姿を認めて近付いて来たので足を止める。
「ユリアさん、こんにちは。ご覧になっていたのですか」
「はい」
短く返事すると、横にいるナディアさんは興奮した様子でジェラルド様に声をかける。
「とても格好良かったです、ジェラルド様」
「ありがとうございます」
「ユリアさんもね、本日はジェラルド様が稽古に参加されると聞いたから、ここに来たんですよ。ね、ユリアさん」
いきなり話を振ってくるナディアさんに少々動揺を禁じ得ない。
表情が固まる。
ロザンヌ様曰く、いつもとほとんど変わりない、のだろうが。
「え?」
ジェラルド様が私に視線を移したので半分本心、半分言い訳で頷く。
「敵情視察です」
「ははっ……ですよね」
ジェラルド様は苦笑いをした。
ロザンヌ様の呼びかけに気付いて我に返る。
ソファに座っていたロザンヌ様は私を心配そうに仰ぎ見ていた。
「どうしたの。珍しくぼんやりしていたみたいだけれど」
「申し訳ありません」
「何か悩み事?」
「いえ。ただお花が……」
思わず呟いてしまうとロザンヌ様は、ああ、あれのことねと頷いた。
「お部屋にお花が溜まってきていると言っていたわね。それのことでしょう」
「え? いえ、はい」
「お花も多くなってきちゃうと管理が難しいものね」
特にユリア、お花の水なんて替えていないでしょうしと何だか貶められた。
失礼な。水替えならコレットさんがやっているのを側で見守っている。
「まだ咲いているの?」
「はい」
「じゃあ、持って来て。わたくしに良い考えがあるの」
「え?」
次の日。
いつものように温室へと訪れたが、ユアンさんの姿は見当たらない。今日は休みなのか。
「ああ。ユリアさん、こんにちは」
奥から出てきた庭師のジル様が挨拶をしてくれた。
「こんにちは。今日もお花を頂きに参りました」
「ユアンは今、出ているよ。すぐ戻って来るから、少し待ってくれるかい」
「分かりました」
「……あのね。ユリアさん」
ジルさんは少し困った様に頬を掻く。
「あの子を悪く思わないでやってくれな。口は悪いが根は良い子なんだ。人に傷つけられることが多かったから、人を信じることが怖くなってしまっているだけなんだ」
「……分かります。ただ、これからも人と関わろうとするのならば、怖くても人を信じる必要があります」
私も全ての人を信じようとは思わないが、それでも信じたいと思える人間が増えてきた。
「そうか。そうだね。君の言う通りだ」
ジル様がそう言って頷いた時。
「ユリア?」
背中にユアンさんの声がかかって振り返る。
「こんにちは」
「うん。……こんにちは」
昨日の今日でユアンさんは気まずそうに返事をした。
「その。昨日は悪かった」
「はい」
「……それだけ?」
「私から何の言葉が欲しいのでしょうか」
ジル様は吹き出し、ユアンさんは返事に困ったのか、頭を掻く。
「いや。何でもない。お花、こっちで渡すよ。来て」
「はい」
私の横を過ぎて前を歩くユアンさんの背を追った。
「ユリアさん! ね、ね! 今から鍛錬場を見学に行きましょうよ!」
庭にいると同僚のナディアさんから声をかけられた。
「いえ。私は別に」
と言ったところで。
「今日、鍛錬場にジェラルド様もいらっしゃるんですって!」
「うそー! 行く行く!」
「不定期にいらっしゃるのが残念よね。もっと頻繁にお姿を拝見したい!」
私たちの横を通り過ぎていく女中らが華やいだ声で話すのを耳にした。
「……私、行きます」
「ええ! 行きましょう!」
ナディアさんと共に鍛錬場に着くと既に稽古が始まっていたようで、盛り上がっている。
見学場所に歩いて行きながら騎士らを眺めると、私に気付いた騎士が、おうと声をかけてくるので軽く頭を下げてみた。
ナディアさんはふふっと笑う。
「さすが騎士と対峙できる女中は違うわね。あなた、本当に格好良かったもの。すっかりファンになっちゃった」
「ありがとうございます」
見学場では女性がほとんどだが、中には男性も混じっている。男性から見てもやはり騎士らの姿に憧れを抱くのだろう。
「見て見て! ジェラルド様よ!」
誰かの女性の声が上がる。
釣られて女性が指さす方向を見ると、ジェラルド様を中心にして十名ほどの騎士が取り囲んでいる。連続相手をしていくらしい。
始めの合図と共に騎士がジェラルド様に向かって行くが、ジェラルド様は難なく受け止めて相手を倒す。力加減をしているようで、鍛錬場に響く様な強い音はしない。
練習だからというのもあるだろうが、相手の力を見極めているからこそできるのだろう。連続して複数人を相手にしていっても息一つ乱すことなく、立ち姿も美しい姿勢のままだ。
「ジェラルド様、やっぱり凄いわね。もう別格」
「はい。……綺麗です」
ジェラルド様の出番も終わり、私たちは持ち場に戻ることにした。すると、ジェラルド様が私の姿を認めて近付いて来たので足を止める。
「ユリアさん、こんにちは。ご覧になっていたのですか」
「はい」
短く返事すると、横にいるナディアさんは興奮した様子でジェラルド様に声をかける。
「とても格好良かったです、ジェラルド様」
「ありがとうございます」
「ユリアさんもね、本日はジェラルド様が稽古に参加されると聞いたから、ここに来たんですよ。ね、ユリアさん」
いきなり話を振ってくるナディアさんに少々動揺を禁じ得ない。
表情が固まる。
ロザンヌ様曰く、いつもとほとんど変わりない、のだろうが。
「え?」
ジェラルド様が私に視線を移したので半分本心、半分言い訳で頷く。
「敵情視察です」
「ははっ……ですよね」
ジェラルド様は苦笑いをした。
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