152 / 315
第152話 隠密行動
しおりを挟む
「ロザンヌ様」
扉の奥に消えた殿下を追うように手を置いていると、ユリアから背中に声をかけられてびくりと肩を振るわせた。
「参りましょう」
「……ええ」
部屋から出ると、部屋の前に就く護衛官とジェラルド様が立っていた。
本日は護衛官として殿下のお側につくとおっしゃっていたジェラルドさんも、いつもより威圧感を与えない白を基調とした騎士服を身に付けていた。
「ジェラルド様?」
「こんばんは。ロザンヌ様、ユリアさん」
「ごきげんよう、ジェラルド様」
「こんばんは」
ジェラルドさんはにこりと笑うと、護衛官に指示を与えて私たちから少し離れさせる。
「ロザンヌ様、よくお似合いですね。とてもお綺麗です」
「あ、ありがとうございます。……ジェラルド様のお召し物もとてもよくお似合いで素敵です」
先ほどの殿下の言葉を思い出してしまう。身にまとった風格に押されて殿下には結局何も言えなかったな……。
「ありがとうございます」
ジェラルドさんの言葉にはっと我に返る。
「あ。ジェラルド様はこれから殿下の護衛ですか?」
「ええ。その前に極秘任務です」
「極秘任務ですか?」
そんな言葉がジェラルドさんの口から出るとは意外すぎる。
私は目を瞬かせた。
「ええ。実はロザンヌ様を会場までお連れすることです」
「え。……なぜ。一人で行けますよ?」
「ここは王族の住居区域です。ドレス姿で出入りされるところを見られるのは、避けた方が良いだろうとの殿下のお考えです」
「あ……」
普段の学校への行き来は、この王族の部屋から馬車停留場所までは人目に触れず、一本道で行くことができるので問題なかった。また、ここから執務室へと向かう際は侍女服姿だからそれも問題ない。けれど今日みたいに王族でもない人間が、王族居住区域からドレス姿で出て来たら確かに目立ってしまうだろう。
殿下はそこまで考えてジェラルドさんを付けてくださったようだ。
私が納得したのを察したジェラルドさんは笑んで小さく頷く。
「ですから人目を避けてお連れいたします」
「はい。お願いいたします。――あ。ユリア、ユリアは」
「私は侍女服ですので、問題ありません。私は後で行きます。隠密行動ならば、少人数で動いた方が良いでしょう」
ユリアが言うと説得力しかない。
「晩餐会の終了後は、ゲストルームにお泊まりになる旦那様方のお部屋でお着替えしてはいかがでしょうか」
「そうね」
「では。着替えの侍女服をお持ちいたします」
「ありがとう。よろしくね」
ユリアとの会話が一区切りしたところでジェラルドさんは私に声をかける。
「では、ロザンヌ様。参りましょうか」
「はい。よろしくお願いいたします」
「ジェラルド様、いつもご迷惑をおかけして申し訳ございません」
辺りをうかがうジェラルドさんの横顔はきりりと引き締まっていて隙がない。
私はそんなジェラルドさんに先導してもらいつつ、小声でお話しをすると、顔だけ振り向いて笑みを見せてくれた。
「いいえ。とんでもないことです」
「でも、わたくしがこちらに寄せていただいてから、任務外のお仕事が増えたのではないでしょうか」
「そうですね。それは否定いたしません。ですが、私はとても光栄に思っております」
殿下がジェラルドさんを信頼している証明のように思うからだろうか。
「殿下とジェラルド様は言葉は無くとも、強い信頼という絆で繋がっていらっしゃるのですね」
「え……」
ジェラルドさんの任務中の表情が消えて、一瞬目を見張った。
「殿下が無茶な事をおっしゃるのはジェラルド様だけですもの。ジェラルド様との間に信頼関係が無ければできないことでしょう」
「そう、でしょうか」
「ええ。お二人の関係がとても羨ましいです」
私はいつかジェラルドさんに言われた言葉を返すと、ジェラルドさんはありがとうございますと控えめに、けれど嬉しそうに笑った。
「ジェラルド様、ありがとうございました」
会場付近まで連れてきていただき、回りにドレスやタキシードを着込んだ貴族の姿も増えてきた。
もう私の姿が目立つことはないだろう。ジェラルドさんも殿下の護衛のために戻らなければならない。ここでお別れすることにする。
「いいえ」
「殿下にもお礼を。あ。い、いえ。またわたくしからお礼申し上げます」
お礼ぐらい自分の口で伝えないと……。
「ええ。そうですね。では私はこちらで失礼いたします」
「はい。ありがとうございます」
「ロザンヌ様、緊張ならさないで晩餐会をお楽しみください。――それでは」
ジェラルドさんは礼を取ると、心を落ち着かせてくれるような笑顔と言葉を残して去って行った。
扉の奥に消えた殿下を追うように手を置いていると、ユリアから背中に声をかけられてびくりと肩を振るわせた。
「参りましょう」
「……ええ」
部屋から出ると、部屋の前に就く護衛官とジェラルド様が立っていた。
本日は護衛官として殿下のお側につくとおっしゃっていたジェラルドさんも、いつもより威圧感を与えない白を基調とした騎士服を身に付けていた。
「ジェラルド様?」
「こんばんは。ロザンヌ様、ユリアさん」
「ごきげんよう、ジェラルド様」
「こんばんは」
ジェラルドさんはにこりと笑うと、護衛官に指示を与えて私たちから少し離れさせる。
「ロザンヌ様、よくお似合いですね。とてもお綺麗です」
「あ、ありがとうございます。……ジェラルド様のお召し物もとてもよくお似合いで素敵です」
先ほどの殿下の言葉を思い出してしまう。身にまとった風格に押されて殿下には結局何も言えなかったな……。
「ありがとうございます」
ジェラルドさんの言葉にはっと我に返る。
「あ。ジェラルド様はこれから殿下の護衛ですか?」
「ええ。その前に極秘任務です」
「極秘任務ですか?」
そんな言葉がジェラルドさんの口から出るとは意外すぎる。
私は目を瞬かせた。
「ええ。実はロザンヌ様を会場までお連れすることです」
「え。……なぜ。一人で行けますよ?」
「ここは王族の住居区域です。ドレス姿で出入りされるところを見られるのは、避けた方が良いだろうとの殿下のお考えです」
「あ……」
普段の学校への行き来は、この王族の部屋から馬車停留場所までは人目に触れず、一本道で行くことができるので問題なかった。また、ここから執務室へと向かう際は侍女服姿だからそれも問題ない。けれど今日みたいに王族でもない人間が、王族居住区域からドレス姿で出て来たら確かに目立ってしまうだろう。
殿下はそこまで考えてジェラルドさんを付けてくださったようだ。
私が納得したのを察したジェラルドさんは笑んで小さく頷く。
「ですから人目を避けてお連れいたします」
「はい。お願いいたします。――あ。ユリア、ユリアは」
「私は侍女服ですので、問題ありません。私は後で行きます。隠密行動ならば、少人数で動いた方が良いでしょう」
ユリアが言うと説得力しかない。
「晩餐会の終了後は、ゲストルームにお泊まりになる旦那様方のお部屋でお着替えしてはいかがでしょうか」
「そうね」
「では。着替えの侍女服をお持ちいたします」
「ありがとう。よろしくね」
ユリアとの会話が一区切りしたところでジェラルドさんは私に声をかける。
「では、ロザンヌ様。参りましょうか」
「はい。よろしくお願いいたします」
「ジェラルド様、いつもご迷惑をおかけして申し訳ございません」
辺りをうかがうジェラルドさんの横顔はきりりと引き締まっていて隙がない。
私はそんなジェラルドさんに先導してもらいつつ、小声でお話しをすると、顔だけ振り向いて笑みを見せてくれた。
「いいえ。とんでもないことです」
「でも、わたくしがこちらに寄せていただいてから、任務外のお仕事が増えたのではないでしょうか」
「そうですね。それは否定いたしません。ですが、私はとても光栄に思っております」
殿下がジェラルドさんを信頼している証明のように思うからだろうか。
「殿下とジェラルド様は言葉は無くとも、強い信頼という絆で繋がっていらっしゃるのですね」
「え……」
ジェラルドさんの任務中の表情が消えて、一瞬目を見張った。
「殿下が無茶な事をおっしゃるのはジェラルド様だけですもの。ジェラルド様との間に信頼関係が無ければできないことでしょう」
「そう、でしょうか」
「ええ。お二人の関係がとても羨ましいです」
私はいつかジェラルドさんに言われた言葉を返すと、ジェラルドさんはありがとうございますと控えめに、けれど嬉しそうに笑った。
「ジェラルド様、ありがとうございました」
会場付近まで連れてきていただき、回りにドレスやタキシードを着込んだ貴族の姿も増えてきた。
もう私の姿が目立つことはないだろう。ジェラルドさんも殿下の護衛のために戻らなければならない。ここでお別れすることにする。
「いいえ」
「殿下にもお礼を。あ。い、いえ。またわたくしからお礼申し上げます」
お礼ぐらい自分の口で伝えないと……。
「ええ。そうですね。では私はこちらで失礼いたします」
「はい。ありがとうございます」
「ロザンヌ様、緊張ならさないで晩餐会をお楽しみください。――それでは」
ジェラルドさんは礼を取ると、心を落ち着かせてくれるような笑顔と言葉を残して去って行った。
35
あなたにおすすめの小説
王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
私が、良いと言ってくれるので結婚します
あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。
しかし、その事を良く思わないクリスが・・。
婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!
志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。
親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。
本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。
【完結】地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる