つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里

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第154話 晩餐会が始まる

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 盛大な拍手に迎えられて王族の方々が、国王陛下を中心にずらりと一列に並ぶ。

 私の席は玉座からはるか遠く、田舎暮らしで目の良い私ですらエルベルト殿下のお姿もそこにいるのだろうなというぐらいにしか分からない。
 これが私と殿下の現実的な距離だ。

 陛下が貴族らの拍手を静かに制すると、一気に場は静まった。

「我が愛すべき民であり、我が臣下よ。本日はお集まりいただき感謝する。諸公らの常よりのたゆまぬ愛国心と粉骨砕身の努力により、この国はますますの発展を遂げ、泰平の世が続いている。いや。国を愛し、尽くしてくれる全ての民を賞賛し、ここに謝辞を送ろう。そしてまたこの安寧な世を永久とわに続かせるためにこれからも尽力願いたい。――我らがフォンテーヌ王国、万物殷富のために!」

 陛下が力強く、熱を込めたお言葉を述べると、会場はわっと盛り上がって割れんばかりの拍手が起こる。

「今宵は諸公らの労をねぎらいたい。存分に楽しんでくれ」

 陛下は最後にそう締めると着座し、皆もそれに続いて着座を始める。
 音楽で会場の喧噪を和らげる効果も狙っているのだろうか、時を同じくして演奏が始まった。

「素晴らしかったわね」
「はい。お母様」

 この国の頂点に立つ国王陛下は、無数に集まる瞳にも負けるどころか跳ね返す威厳を持って、臣下を感動させ圧倒させる。そしてそれは王位第一継承者であるエルベルト殿下にも引き継がれていくのだろう。

 私とは住む世界が違う。

 ただただ、そう痛感させられた。


「お兄様方はお元気でしょうか」

 食事をしながら本日は出席していない兄様らの近況を尋ねてみる。

「ええ。もちろんよ。あなたがいなくて寂しがっているわよ」
「本当ですか? シモン兄様はわたくしがいなくて伸び伸びされているのでは?」
「いやいや。あの子が一番ロザンヌのことを口にしているよ。ロザンヌはどうしているかってね。今日もロザンヌが家を恋しがって泣いていたら連れ帰ってくれと頼まれたよ」

 父はくすくすと笑った。
 シモン兄様ったら、いつも憎まれ口ばかり叩くのに。……でも。嬉しいな。

「アシル兄様は?」
「ロザンヌなら大丈夫だって。あの子は本当に帰りたかったら自分の足で戻って来る。自分の意思で戻って来ない限り、様子を見ようと。そのかわり戻って来たら、ロザンヌを何としてでも守ろうと言っていたよ」
「……うん」

 じんと来てしまう。
 アシルお兄様ったら、そんな風に言われたら余計に里心がついてしまうではないか。

「兄様にお伝えしてください。ロザンヌは元気だって」
「ああ。伝えておくよ。元気いっぱいだってな」

 父は優しげな笑顔で頷く。

「それにしてもロザンヌ。所作が綺麗になったように思うわ」
「そうでしょうか。嬉しいです」

 だとしたらクロエさんのおかげだ。大変だったけれど、それなりに成果は出ていたらしい。

「あなたを指導してくださった方にお会いしたいわ。もっとビシバシ鍛えてくださいって」
「ざ、残念ですが。お忙しい方ですのでご紹介はできません!」

 私はきっぱりとお断りした。


 食事が終わるとこの晩餐会場は片付けのために閉鎖され、代わりに他の部屋が開放されて後はおのおの自由の時間となる。

 部屋に帰って休んでもいいけれど、いくつものサロンが用意されており、気の合う貴族同士が移動しておしゃべりしたり、初対面同士で交流を深めたりしたりするそうだ。
 ここで人脈を広げたり、情報交換が仕事に役立ったりすることがあるらしく、積極的に参加する人は多いらしい。もちろん上級貴族によるお誘いで仕方なくお付き合いというのもある。

 若い世代は男女の交流を主とし、隣の部屋に用意されたダンスフロアーでダンスをしたり、お茶をしたりする。
 私としては両親と部屋に戻りたいところだけれど、父も母もそれぞれお誘いを受けてサロンに移動するとのことだ。

「あなたのダンス姿が見られなくて残念なのだけれど。ごめんなさいね」

 爵位が上の貴族からの誘いを断るわけにはいかない。
 私としても両親のために用意された部屋に一人戻っても意味がないので、しばらく歓談するために残ることになりそうだ。マリエル様もいらっしゃることだし、ダンス会場でお茶しながらお喋りでもしよう。

「いいえ。またの機会にご披露いたします」

 何より親不孝にも、壁を華やかに彩る姿しかお目にかけられなければ悲しすぎるのでその方が助かります……。

「そう。ではまた後でね」
「はい。お父様、お母様。ここで失礼いたします」
「うん。また後で」

 私たちはそれぞれの場所へと向かうことになった。
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