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第157話 ダンスをしながら会話
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ダンスホールの舞台に引っ張り出されると途端に弱気が顔を出す。
「先ほどダンスの練習をしたとは申しましたが、自信はありません」
「大丈夫、大丈夫。ノリだよ、こんなの」
ジェラルド様にもダンスの技術にこだわるよりももっと楽しみましょうと言われたけれど、この人の言い方はまたそれとは違う。何と言うか、そう。重みがない。しかし彼はどうやらダンスにも長けているようで、私をうまくリードして踊らせてくれる。
……いや。彼のペースに巻き込まれて踊らされている、とでもいう表現が正しいのか。
それでも端から見ると上手く踊れているように見えるのだろう。自意識過剰かもしれないけれど、私たちに視線が集まっているような気がする。
「なかなか上手じゃん」
「……ありがとう存じます。ですが、あなた様のリードが素晴らしいからです」
「うん。まあ、そうだね」
彼は謙虚な姿勢も見せず、相手を立てる気持ちもなく、自分の評価をそのままに受け取る人物のようだ。実際、それだけの自信もあるのだろうし、事実間違ってはいない。
しかし、まあ。一つだけ言わせていただくと楽しくはない。ジェラルド様と踊った時のように踊ることへの楽しさが全く湧き起こってこない。同じリードでもこうも違うものかと思わされる。一人は相手を立て、もう一人は自分を立てるためにリードしているからだろう。
うーん。この傲慢さ。ただ者じゃない。
「口が悪いね、君」
彼が私の体をぐっと引き寄せた時に囁くように言ってきた。
ダンスもゆっくりとした曲調で、互いに密接するものに変わったため、私は小声で返答する。
「あら? わたくし、どこから口にしていましたか?」
「この傲慢さ、ただ者じゃないっていう所からかな」
「まあ。良かった。では大した事を言っていなかったようですね」
「は? もっと悪い事を考えていたの!?」
私はそれには答えず笑みを浮かべる。
「ところでわたくしの質問にそろそろお答えいただけますか?」
「何の話だっけ」
……白々しいな。
「わたくしの名前をどこでお知りになったのかです」
「ああ。それね。有名じゃん。エルベルト殿下に拒否られた女ってことで」
拒否られた女。
確かに間違ってはいないけれど、あらためて口にされると衝撃が大きい。
思わずくらりとする。
「おっと。大丈夫?」
ちょっと浮遊感に襲われた私を引き寄せてくれた。
「ありがとうございます。でも皆、すぐに興味を失って話題にも上らなくなりましたが」
今日、私の顔を見てこそこそ話をされるようなことはなかった。きっと私の顔すら覚えてはいないのだろう。
「この世界、日々、話題には事欠かないくらい醜聞や怪聞で満ちているからね。君ぐらいの家の爵位な上、殿下のご不調での出来事っていうインパクトのない話じゃ、すぐに忘れられるよ」
「はあ」
これでも私の人生ではかなり衝撃的な出来事であり、学校ではそれなりに苦労したんですけれどね。でも確かに最初の内だけだもんね、注目を浴びたのって。後々も王宮での行儀見習いにこだわって関わってくるのはカトリーヌ嬢くらいだったかな。
所詮、みなは他人事で、面白可笑しく噂するだけなのだろう。当人にとっては、たまったものではないけれど。
「ではなぜあなた様は覚えていらっしゃったのですか」
「いやー。何か面白かったから。あの上っ面の良いエルベルト殿下が、顔色を変えて人を拒絶する姿って」
影が殿下に触れようとしてきたからと殿下は言っていた。今思い起こすと、必死の形相だったかもしれない。それにしても殿下のことを上っ面の良いなどと無礼で辛辣に言ってのけるこの人物は一体何者だろう。
「ところでまだお名前を伺っていませんでした。何とおっしゃるのですか」
「俺? ああ、そう言えば自己紹介がまだだったね。俺はセリアン・ラマディエルだよ」
「セリアン・ラマ……ラマディエル!? ラマディエル公爵家のあのラマディエル様ですか!?」
「そうそう。知っているんだ」
公爵家の名を知らないわけがない。確かに高慢ちきそうだなとか、軽薄そうだなとか思っていたけれど、まさか公爵家だったとは。
ぶつぶつと呟いていると。
「……あのさ。高慢ちきはともかく軽薄そうが、上級貴族を修飾するのはどうかと思うよ」
「そうですね。大変失礼いたしました。あなた様を修飾する言葉であって、善良な大多数の上級貴族を指すものではございませんでした」
本当に君は失礼だねと彼は苦笑いした。
「先ほどダンスの練習をしたとは申しましたが、自信はありません」
「大丈夫、大丈夫。ノリだよ、こんなの」
ジェラルド様にもダンスの技術にこだわるよりももっと楽しみましょうと言われたけれど、この人の言い方はまたそれとは違う。何と言うか、そう。重みがない。しかし彼はどうやらダンスにも長けているようで、私をうまくリードして踊らせてくれる。
……いや。彼のペースに巻き込まれて踊らされている、とでもいう表現が正しいのか。
それでも端から見ると上手く踊れているように見えるのだろう。自意識過剰かもしれないけれど、私たちに視線が集まっているような気がする。
「なかなか上手じゃん」
「……ありがとう存じます。ですが、あなた様のリードが素晴らしいからです」
「うん。まあ、そうだね」
彼は謙虚な姿勢も見せず、相手を立てる気持ちもなく、自分の評価をそのままに受け取る人物のようだ。実際、それだけの自信もあるのだろうし、事実間違ってはいない。
しかし、まあ。一つだけ言わせていただくと楽しくはない。ジェラルド様と踊った時のように踊ることへの楽しさが全く湧き起こってこない。同じリードでもこうも違うものかと思わされる。一人は相手を立て、もう一人は自分を立てるためにリードしているからだろう。
うーん。この傲慢さ。ただ者じゃない。
「口が悪いね、君」
彼が私の体をぐっと引き寄せた時に囁くように言ってきた。
ダンスもゆっくりとした曲調で、互いに密接するものに変わったため、私は小声で返答する。
「あら? わたくし、どこから口にしていましたか?」
「この傲慢さ、ただ者じゃないっていう所からかな」
「まあ。良かった。では大した事を言っていなかったようですね」
「は? もっと悪い事を考えていたの!?」
私はそれには答えず笑みを浮かべる。
「ところでわたくしの質問にそろそろお答えいただけますか?」
「何の話だっけ」
……白々しいな。
「わたくしの名前をどこでお知りになったのかです」
「ああ。それね。有名じゃん。エルベルト殿下に拒否られた女ってことで」
拒否られた女。
確かに間違ってはいないけれど、あらためて口にされると衝撃が大きい。
思わずくらりとする。
「おっと。大丈夫?」
ちょっと浮遊感に襲われた私を引き寄せてくれた。
「ありがとうございます。でも皆、すぐに興味を失って話題にも上らなくなりましたが」
今日、私の顔を見てこそこそ話をされるようなことはなかった。きっと私の顔すら覚えてはいないのだろう。
「この世界、日々、話題には事欠かないくらい醜聞や怪聞で満ちているからね。君ぐらいの家の爵位な上、殿下のご不調での出来事っていうインパクトのない話じゃ、すぐに忘れられるよ」
「はあ」
これでも私の人生ではかなり衝撃的な出来事であり、学校ではそれなりに苦労したんですけれどね。でも確かに最初の内だけだもんね、注目を浴びたのって。後々も王宮での行儀見習いにこだわって関わってくるのはカトリーヌ嬢くらいだったかな。
所詮、みなは他人事で、面白可笑しく噂するだけなのだろう。当人にとっては、たまったものではないけれど。
「ではなぜあなた様は覚えていらっしゃったのですか」
「いやー。何か面白かったから。あの上っ面の良いエルベルト殿下が、顔色を変えて人を拒絶する姿って」
影が殿下に触れようとしてきたからと殿下は言っていた。今思い起こすと、必死の形相だったかもしれない。それにしても殿下のことを上っ面の良いなどと無礼で辛辣に言ってのけるこの人物は一体何者だろう。
「ところでまだお名前を伺っていませんでした。何とおっしゃるのですか」
「俺? ああ、そう言えば自己紹介がまだだったね。俺はセリアン・ラマディエルだよ」
「セリアン・ラマ……ラマディエル!? ラマディエル公爵家のあのラマディエル様ですか!?」
「そうそう。知っているんだ」
公爵家の名を知らないわけがない。確かに高慢ちきそうだなとか、軽薄そうだなとか思っていたけれど、まさか公爵家だったとは。
ぶつぶつと呟いていると。
「……あのさ。高慢ちきはともかく軽薄そうが、上級貴族を修飾するのはどうかと思うよ」
「そうですね。大変失礼いたしました。あなた様を修飾する言葉であって、善良な大多数の上級貴族を指すものではございませんでした」
本当に君は失礼だねと彼は苦笑いした。
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