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第156話 ダンスのお誘い
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「お嬢さん、すみません。ダンスをお誘いしてよろしいでしょうか」
一人の男性が近付いてきて声をかけた相手は――当然、マリエル嬢だ。
彼女をダンスに誘った男性はまあ、いわゆる優形の男である。……と、私ごときが上から目線してごめんなさい。
マリエル嬢は戸惑ったように男性を見た後、その表情のままで私に視線を向けた。
「マリエル様。せっかくお誘いいただいたのだから、お受けなさったら」
二人でお茶しているのに、内一人に声をかけてくるとは良い根性をしてやがりますね。
という黒い思惑を隠し、私は余裕を見せるためにマリエル嬢を促す。
「で、ですが。ロザンヌ様は」
「わたくしはここで拝見しておりますわ。お菓子もまだ食べ切っておりませんし」
色気のないお話で申し訳ございません。ですが、言い訳がそれしか思いつきません。
「でも」
おろおろしているマリエル嬢に笑みを見せる。
気を遣ってくださっているのは分かるのだけれど、何だかかえって惨めな気分になってくるので、できれば早くお受けしてダンスホールに向かっていただけると助かります……。
「この王宮でダンスできるのですもの。こんな機会、滅多にありませんわよ」
「そ、そうですが」
「さあ。行って」
「わ、分かりました。では行って参ります」
マリエル嬢もぐずぐずしていると私も相手の男性も気を悪くさせると感じたらしい。彼女は頷くと立ち上がった。
「ええ。行ってらっしゃいませ」
手を振って笑顔で彼女を送り出した私だったが、すぐにため息をついてお菓子をつまんだ。
ダンスに誘われても困るけれど、誘われないのもやはり悲しいものだ。せっかくの見目よろしく美味しいはずのお菓子なのに、妙に味気がない気がする。
顔を上げてダンスホールに目をやると、マリエル嬢が笑顔で男性の手を取っている姿が見えた。
……うん。結構楽しんでいるらしい。まだ先とは言え、彼女は卒業すればすぐに嫁ぐことが決まっているし、学生の間に精一杯人生を謳歌するのも悪くないかもしれない。
さらに視線を移すとカトリーヌ嬢も男性とダンスをしている姿が見える。
彼女はさすがに伯爵家としてのプライドがあるらしく、若干、男性をリードしているようにも見えるけれどダンスも完璧だ。何だかんだ言って、彼女も貴族の娘として努力しているのだろうか。
すると不意にカトリーヌ嬢と目が合ったと思ったら、彼女は勝ち誇った様にこちらに笑みを寄越した。
はい。素直にむかつきましたよ。でも我慢してとびっきりの笑みを返してやると、たじろいだみたいで慌てて私から視線を外した。
私はと言うと案の定、壁ではないけれどテーブルの花になっている。いや、テーブルの花だって職人のジル様らが育てた王室御用達の超一流の花だ。その花に勝とうとしていると知られたら人に笑われてしまうだろう。
唯一救いなのは両親がこの場にいないことだろうか。両親を誘ってくださった方々、本当にありがとうございました。
暇なので色々自虐してみる。
「はぁ。せっかくダンスを練習したけれど、誘ってくれる人がいないなら意味なかったわね……」
再びため息をつきながら独り言を零していると。
「そうなの? じゃあ、俺と一緒に踊ろう」
「え?」
頭に降ってきた言葉に視線を上げる。
するとそこには垂れ目がちで柔和そうな、なかなかの好男子さんがにこにこと笑って立っていた。
どこか品格は感じるけれど、口調のせいなのか、抜け目がなさそうにも軽薄そうにも見える。……ところで、今の言葉は私にかけたものだろうか。
思わずきょろきょろと辺りを窺ってしまう。
「君に言っているんだよ、ロザンヌ・ダングルベール子爵令嬢サマ」
「――っ! どうしてわたくしの名前」
「それを知りたかったら、ダンスの誘いをどうぞお受けください。ロザンヌ様」
うーん。いけ好かない言い方だ。とはいえ、相手が上級貴族だったらと思うと、あまり邪険にもできない。顔は知らなくても名前を聞けばどこの爵位かぐらいは分かるので、まずは名前を尋ねてみよう。
「あなた様のお名前をお聞きしても?」
「それもダンスホールの場でね」
埒があかない。
眉をひそめてしまうけれど、何となく興味を引かれるのもあってダンスの誘いを受けることにする。何よりも一人寂しくテーブルの子守をしているのも飽きたし。
「では、お願いいたします」
「よし。じゃあ、行こう」
彼はリードするというよりもやや強引に手を引くと、私は瞬く間にダンスホールへと引っ張り出された。
一人の男性が近付いてきて声をかけた相手は――当然、マリエル嬢だ。
彼女をダンスに誘った男性はまあ、いわゆる優形の男である。……と、私ごときが上から目線してごめんなさい。
マリエル嬢は戸惑ったように男性を見た後、その表情のままで私に視線を向けた。
「マリエル様。せっかくお誘いいただいたのだから、お受けなさったら」
二人でお茶しているのに、内一人に声をかけてくるとは良い根性をしてやがりますね。
という黒い思惑を隠し、私は余裕を見せるためにマリエル嬢を促す。
「で、ですが。ロザンヌ様は」
「わたくしはここで拝見しておりますわ。お菓子もまだ食べ切っておりませんし」
色気のないお話で申し訳ございません。ですが、言い訳がそれしか思いつきません。
「でも」
おろおろしているマリエル嬢に笑みを見せる。
気を遣ってくださっているのは分かるのだけれど、何だかかえって惨めな気分になってくるので、できれば早くお受けしてダンスホールに向かっていただけると助かります……。
「この王宮でダンスできるのですもの。こんな機会、滅多にありませんわよ」
「そ、そうですが」
「さあ。行って」
「わ、分かりました。では行って参ります」
マリエル嬢もぐずぐずしていると私も相手の男性も気を悪くさせると感じたらしい。彼女は頷くと立ち上がった。
「ええ。行ってらっしゃいませ」
手を振って笑顔で彼女を送り出した私だったが、すぐにため息をついてお菓子をつまんだ。
ダンスに誘われても困るけれど、誘われないのもやはり悲しいものだ。せっかくの見目よろしく美味しいはずのお菓子なのに、妙に味気がない気がする。
顔を上げてダンスホールに目をやると、マリエル嬢が笑顔で男性の手を取っている姿が見えた。
……うん。結構楽しんでいるらしい。まだ先とは言え、彼女は卒業すればすぐに嫁ぐことが決まっているし、学生の間に精一杯人生を謳歌するのも悪くないかもしれない。
さらに視線を移すとカトリーヌ嬢も男性とダンスをしている姿が見える。
彼女はさすがに伯爵家としてのプライドがあるらしく、若干、男性をリードしているようにも見えるけれどダンスも完璧だ。何だかんだ言って、彼女も貴族の娘として努力しているのだろうか。
すると不意にカトリーヌ嬢と目が合ったと思ったら、彼女は勝ち誇った様にこちらに笑みを寄越した。
はい。素直にむかつきましたよ。でも我慢してとびっきりの笑みを返してやると、たじろいだみたいで慌てて私から視線を外した。
私はと言うと案の定、壁ではないけれどテーブルの花になっている。いや、テーブルの花だって職人のジル様らが育てた王室御用達の超一流の花だ。その花に勝とうとしていると知られたら人に笑われてしまうだろう。
唯一救いなのは両親がこの場にいないことだろうか。両親を誘ってくださった方々、本当にありがとうございました。
暇なので色々自虐してみる。
「はぁ。せっかくダンスを練習したけれど、誘ってくれる人がいないなら意味なかったわね……」
再びため息をつきながら独り言を零していると。
「そうなの? じゃあ、俺と一緒に踊ろう」
「え?」
頭に降ってきた言葉に視線を上げる。
するとそこには垂れ目がちで柔和そうな、なかなかの好男子さんがにこにこと笑って立っていた。
どこか品格は感じるけれど、口調のせいなのか、抜け目がなさそうにも軽薄そうにも見える。……ところで、今の言葉は私にかけたものだろうか。
思わずきょろきょろと辺りを窺ってしまう。
「君に言っているんだよ、ロザンヌ・ダングルベール子爵令嬢サマ」
「――っ! どうしてわたくしの名前」
「それを知りたかったら、ダンスの誘いをどうぞお受けください。ロザンヌ様」
うーん。いけ好かない言い方だ。とはいえ、相手が上級貴族だったらと思うと、あまり邪険にもできない。顔は知らなくても名前を聞けばどこの爵位かぐらいは分かるので、まずは名前を尋ねてみよう。
「あなた様のお名前をお聞きしても?」
「それもダンスホールの場でね」
埒があかない。
眉をひそめてしまうけれど、何となく興味を引かれるのもあってダンスの誘いを受けることにする。何よりも一人寂しくテーブルの子守をしているのも飽きたし。
「では、お願いいたします」
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