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第158話 殿下の視線の意味
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ラマディエル公爵家は王女が臣下に嫁ぎ、ラマディエル家へと臣籍降下した方や、逆に王子に嫁いで王宮入りしている方々を輩出している正真正銘の由緒正しい家柄である。そのため、最も王家の血筋に近い貴族とされている。
尊大な態度は致し方ない事か。
「尊大な態度って君ね。君も大概負けてないよ」
「恐れ入ります」
「いやいや。全然恐れ入ってないでしょ」
「はい」
「うん。いい根性だ……」
セリアン様は苦笑いした。
「まあ、軽薄は冗談としまして」
「冗談だったの?」
「ええ。第一印象からその方の人格を決めてしまうのは早計です」
父によく言われました。けれど。
「ただ、これは持論ですが、意外と第一印象というものは当たるものです」
「……全然フォローになっていないし。まあ、いいけど。君は学校でも有名みたいだよね。噂だけは耳に入っている」
「あら。セリアン様も同じ学校に通っておられたのですか」
「うん。君よりも二学年、上だよ」
公爵家のご子息が通っているという話は聞いたことがあったかな。自分の人生には全く関わることはないと思っていたからお顔も存じなかったけれど。
「そうだったのですか。ところで噂とはどんなお話ですか」
「蛇を手で掴んで振り回したとか」
振り回していません。掴んだことは否定いたしませんが。
「上級貴族をけしかけて、君を苛めた人間を制裁したとか」
致しておりません。彼女らが自滅しただけです。
「次々君に襲いかかる男達を素手でなぎ倒したとか」
――できるわけあるかぁぁっ!
「かなりお話が膨れ上がっているようです」
「だろうね。俺も話半分にしか聞いていないよ。でも今、話しているだけでも興味深い人間だとは思ったね。公爵家の人間と知っても、全然俺に媚びへつらわないし。実に面白い」
珍獣を見つけたような言い方は止めていただこうか。
「だからかな。エルベルト殿下が君に興味を抱いているのは」
「え?」
「ほら」
セリアン様が私をくるりと回すと、すぐ横で踊っていたらしい殿下とばちりと目が合った。
「――っ!?」
不意打ち過ぎてびっくりした。殿下は相手の女性を見ておらず、私を真っ直ぐ見ていたからだ。
強い殿下の眼差しに耐えられなくなって、私の方が先に視線を逸らしてしまう。
セリアン様はまるで私の気持ちを察したかのように、また私を回して殿下からの視線を回避させた。
「ね? 見た?」
「な、何をですか?」
「殿下の目」
「それ……が何か?」
ふぅん、分からないかとセリアン様は意味ありげに笑う。
殿下の強い視線に怯んでしまってすぐに逸らしてしまったからその意味も、セリアン様が言いたいことも分からない。
「何でしょうか」
「んー。分からないなら、いいや」
気になるじゃないですかと言おうとしたところで音楽が終わる。
皆、終了の礼を取ると、次の曲が始まる前に離脱していく人がばらばらと出始めた。
「じゃあ、俺も引き上げるよ。楽しかった。また会おう」
「え。ちょっと待っ――」
「君も早く抜けないとまた次の曲が始まっちゃうよ。ダンスの相手がいなければ格好が付かないでしょ」
「え。あ」
ダンスホールの舞台から抜けたセリアン様を追いかける形で私も抜け出した。さらに追おうとしたところ、彼は数人の男性に呼び止められた。すぐに会話を始めてしまう。
さすがにその中に入って行く勇気はないので、私は諦めて元のテーブルへと戻ることにする。また会おうと言った限り、彼とはまた会うことになるのだろうから。
戻った席にはマリエル嬢の姿は無く、視線を流すとまだ同じ人と踊っている。どうやら断り切れなかったようだ。彼女が戻ってくるまで、またテーブルの警備かな。
苦笑いしながら席に座ろうとした時、ジェラルドさんが歩いて来るのが目に入った。
ジェラルドさんが安易に私に近付くはずがない。平静を装いつつ身構えていると、私の横を通り過ぎる瞬間、廊下でお待ちですとジェラルドさんは小声で囁いた。
私ははっとしたが、振り返らず、そのまま何気ないフリをしてダンス会場を抜け出した。
「殿下!」
人気のない廊下の壁に身を任せる殿下が見えた瞬間、私はスカートをたくし上げて走り寄った。
振り返った殿下の顔色は、今や青を通り越して白くなっている。ダンス会場でよく倒れなかったものである。
「ロザンヌ嬢」
「今、影を――」
わずかに笑んだ殿下に手を伸ばした瞬間、一気に引き寄せられて強く抱きしめられた。
「っ!」
殿下の熱と香りに閉じ込められて、胸がどくんと大きく高鳴る。と同時に殿下の速い鼓動も伝わってきた。
「で、殿下」
「もう少し……このままで」
たじろぐ私に殿下はさらに腕の力を強める。
ああ、そういえば前にもこういうことがあった。あの時もかなり切羽詰まった様子で、ユリアがいるのにも気付かずいきなり抱きしめてきた。
本日は数えきれない程の人と接しているだろうし、何人ものご令嬢ともダンスで手を取ったに違いない。疲労はもちろんのこと、影も色々憑いたのだろう。
影の数や強さによって影祓いの時間が変わる。今日はいつもより長いし、胸が苦しくなるほど強い腕で拘束するのは、たくさん影が取り憑いているからなのか。……それとも。
殿下の背に恐る恐る腕を回そうとした瞬間。
ずしり。
私の肩が重くなった。
尊大な態度は致し方ない事か。
「尊大な態度って君ね。君も大概負けてないよ」
「恐れ入ります」
「いやいや。全然恐れ入ってないでしょ」
「はい」
「うん。いい根性だ……」
セリアン様は苦笑いした。
「まあ、軽薄は冗談としまして」
「冗談だったの?」
「ええ。第一印象からその方の人格を決めてしまうのは早計です」
父によく言われました。けれど。
「ただ、これは持論ですが、意外と第一印象というものは当たるものです」
「……全然フォローになっていないし。まあ、いいけど。君は学校でも有名みたいだよね。噂だけは耳に入っている」
「あら。セリアン様も同じ学校に通っておられたのですか」
「うん。君よりも二学年、上だよ」
公爵家のご子息が通っているという話は聞いたことがあったかな。自分の人生には全く関わることはないと思っていたからお顔も存じなかったけれど。
「そうだったのですか。ところで噂とはどんなお話ですか」
「蛇を手で掴んで振り回したとか」
振り回していません。掴んだことは否定いたしませんが。
「上級貴族をけしかけて、君を苛めた人間を制裁したとか」
致しておりません。彼女らが自滅しただけです。
「次々君に襲いかかる男達を素手でなぎ倒したとか」
――できるわけあるかぁぁっ!
「かなりお話が膨れ上がっているようです」
「だろうね。俺も話半分にしか聞いていないよ。でも今、話しているだけでも興味深い人間だとは思ったね。公爵家の人間と知っても、全然俺に媚びへつらわないし。実に面白い」
珍獣を見つけたような言い方は止めていただこうか。
「だからかな。エルベルト殿下が君に興味を抱いているのは」
「え?」
「ほら」
セリアン様が私をくるりと回すと、すぐ横で踊っていたらしい殿下とばちりと目が合った。
「――っ!?」
不意打ち過ぎてびっくりした。殿下は相手の女性を見ておらず、私を真っ直ぐ見ていたからだ。
強い殿下の眼差しに耐えられなくなって、私の方が先に視線を逸らしてしまう。
セリアン様はまるで私の気持ちを察したかのように、また私を回して殿下からの視線を回避させた。
「ね? 見た?」
「な、何をですか?」
「殿下の目」
「それ……が何か?」
ふぅん、分からないかとセリアン様は意味ありげに笑う。
殿下の強い視線に怯んでしまってすぐに逸らしてしまったからその意味も、セリアン様が言いたいことも分からない。
「何でしょうか」
「んー。分からないなら、いいや」
気になるじゃないですかと言おうとしたところで音楽が終わる。
皆、終了の礼を取ると、次の曲が始まる前に離脱していく人がばらばらと出始めた。
「じゃあ、俺も引き上げるよ。楽しかった。また会おう」
「え。ちょっと待っ――」
「君も早く抜けないとまた次の曲が始まっちゃうよ。ダンスの相手がいなければ格好が付かないでしょ」
「え。あ」
ダンスホールの舞台から抜けたセリアン様を追いかける形で私も抜け出した。さらに追おうとしたところ、彼は数人の男性に呼び止められた。すぐに会話を始めてしまう。
さすがにその中に入って行く勇気はないので、私は諦めて元のテーブルへと戻ることにする。また会おうと言った限り、彼とはまた会うことになるのだろうから。
戻った席にはマリエル嬢の姿は無く、視線を流すとまだ同じ人と踊っている。どうやら断り切れなかったようだ。彼女が戻ってくるまで、またテーブルの警備かな。
苦笑いしながら席に座ろうとした時、ジェラルドさんが歩いて来るのが目に入った。
ジェラルドさんが安易に私に近付くはずがない。平静を装いつつ身構えていると、私の横を通り過ぎる瞬間、廊下でお待ちですとジェラルドさんは小声で囁いた。
私ははっとしたが、振り返らず、そのまま何気ないフリをしてダンス会場を抜け出した。
「殿下!」
人気のない廊下の壁に身を任せる殿下が見えた瞬間、私はスカートをたくし上げて走り寄った。
振り返った殿下の顔色は、今や青を通り越して白くなっている。ダンス会場でよく倒れなかったものである。
「ロザンヌ嬢」
「今、影を――」
わずかに笑んだ殿下に手を伸ばした瞬間、一気に引き寄せられて強く抱きしめられた。
「っ!」
殿下の熱と香りに閉じ込められて、胸がどくんと大きく高鳴る。と同時に殿下の速い鼓動も伝わってきた。
「で、殿下」
「もう少し……このままで」
たじろぐ私に殿下はさらに腕の力を強める。
ああ、そういえば前にもこういうことがあった。あの時もかなり切羽詰まった様子で、ユリアがいるのにも気付かずいきなり抱きしめてきた。
本日は数えきれない程の人と接しているだろうし、何人ものご令嬢ともダンスで手を取ったに違いない。疲労はもちろんのこと、影も色々憑いたのだろう。
影の数や強さによって影祓いの時間が変わる。今日はいつもより長いし、胸が苦しくなるほど強い腕で拘束するのは、たくさん影が取り憑いているからなのか。……それとも。
殿下の背に恐る恐る腕を回そうとした瞬間。
ずしり。
私の肩が重くなった。
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