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第159話 一曲ご一緒願えますか
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体に重みが加わって慌てて顔を上げると、殿下は私に身を任せている。
「えっ? え? え!? で、殿下!?」
影祓いが終わったのに長く私に触れすぎたのだろう。まずい。離れなければ。
「……っ。大丈夫だ」
やや熱っぽく掠れた声にこちらまで胸が苦しくなる。
「だ、大丈夫ではありません。ま、まずは離れましょう?」
自ら身を引くと、殿下を側の壁に手をつかせて体を支えてもらった。
申し訳ないけれど、私は殿下を支えられないから。
するとすぐに体調が整ってきたようで、殿下は一つ息を吐いた。顔にも血色が戻っている。
私もほっと一息をついたけれど、それでも尋ねずにはいられない。
「大丈夫ですか」
「ああ。もう戻った。影も全て消えた」
「良かった」
全てとおっしゃるところを見ると、何体も憑いていたらしい。ダンスの時は殿下の視線ばかり気になって顔色まで窺えなかった。殿下直属の掃除婦として失態を覚える。
しかし一方で、殿下も殿下だと思う。もっと早く言ってくだされば良いものを。……と、一瞬考えたものの、次々にご令嬢からダンスの相手を請われて殿下も抜け出すことができなかったのかもしれない。
「でも長くわたくしに触れすぎたせいで、影とは別に倒れかかったのはいただけないですよ。影祓いが終わったら、びりっと痺れる痛みで分かるのではなかったのですか?」
「……そうだな」
そうだなって痺れが来ていたのに、抱きしめていたの? やっぱり身を任せたくなるほど疲れていたのかな。――いや、それ以外何があるというのか。
「まあ。影が憑いていなくても疲れますよね」
「え?」
「今日はたくさんの方々とお話しされて、ダンスもされているのですから。楽しんではいらっしゃったようですが」
一体、何人のご令嬢のお相手をなさったのでしょうね。
……あれ? 私は、どうしてこんなに皮肉っぽい言い方になっているのだろう。労いのお言葉のつもりだったのに。
私の言葉に殿下は片眉を上げた。
「ああ、そういえば。君もセリアンとのダンスは楽しそうだったな」
どこをどう見たら楽しんでいたと言えるのか。
「全く楽しんでなんていませんよ」
「そうか? 私には楽しんでいるように見えたが」
「確かにリードが上手い方だというのは認めますが、自分で踊ったというよりは、セリアン様に無理矢理踊らされたと感じたのですから。殿下こそ」
私は腕を組んで殿下を見上げる。
「殿下こそ、お美しいたくさんのご令嬢とお楽しみだったではありませんか」
「私は義務でしていただけだ。事務的に行っていただけで、そこに感情は無い」
「まあ、酷い言い方!」
そんな言い方、女性に失礼だ。皆、殿下に憧れて、殿下と踊ることに胸を高鳴らせていただろうに。
「は? 君こそ酷いだろう。仮にもダンスを共にしたパートナーに対して、楽しくなかったなどと」
「だって事実ですもの」
「ならば、私だって事実だ」
睨み合いが続いたけれど、どちらともなくふっと視線を緩ませた。
何で互いに意地を張っているのか分からなくなかったからだ。
「ダンスに」
最初に沈黙を破ったのは殿下だ。
「え?」
「ダンスに誘ってくれる相手がいると言っていたのは、セリアンのことだったのか」
ああ、そんな風に虚勢を張っちゃったっけ。でもこれ以上、嘘に嘘を重ねても仕方がない。
私はしゅんと肩を落として自白する。
「いえ。セリアン様は一人でいたわたくしに、たまたまお声がけしてくださっただけで、本当はダンスを誘ってくれると約束していた方はいませんでした」
「そう、なのか。ではここで私と……踊るか?」
「え?」
殿下はダンス会場の方へと視線を流す。
「こちらまで音楽が流れてきているし、この曲に合わせて。この曲のダンスはクロエに習っただろう」
「で、ですが、殿下とは手を取り合えません」
「手を取り合わなくても、二人の息を合わせれば踊れる。先日は合わなかったが、君の動きを学習した今なら合うと思う」
私の動きを学習とはまた色気のない話だ。
苦笑しながら再び腕を組むと片目を伏せる。
「いいですけど。いくら引く手数多で女性に事欠かないエルベルト殿下だとしても、女性の誘い方がなっておりませんよ」
「なるほど。そうだな」
殿下はくすりと小さく笑うとかしこまった姿勢を取ったので、私もまた組んでいた腕を解き、それに倣う。すると殿下は私へと右手を差し伸べた。
「ロザンヌ嬢。一曲、私とご一緒願えますか」
唇に艶のある笑みをのせる殿下にどきりと鼓動が高鳴り、私は目を伏せて一つ息を吐く。
差し出された手に自分の手を重ねることはできない。けれど、私は目を開けると殿下に笑みを向けてそっと手を近づけた。
「……はい。喜んでお受けいたします」
「えっ? え? え!? で、殿下!?」
影祓いが終わったのに長く私に触れすぎたのだろう。まずい。離れなければ。
「……っ。大丈夫だ」
やや熱っぽく掠れた声にこちらまで胸が苦しくなる。
「だ、大丈夫ではありません。ま、まずは離れましょう?」
自ら身を引くと、殿下を側の壁に手をつかせて体を支えてもらった。
申し訳ないけれど、私は殿下を支えられないから。
するとすぐに体調が整ってきたようで、殿下は一つ息を吐いた。顔にも血色が戻っている。
私もほっと一息をついたけれど、それでも尋ねずにはいられない。
「大丈夫ですか」
「ああ。もう戻った。影も全て消えた」
「良かった」
全てとおっしゃるところを見ると、何体も憑いていたらしい。ダンスの時は殿下の視線ばかり気になって顔色まで窺えなかった。殿下直属の掃除婦として失態を覚える。
しかし一方で、殿下も殿下だと思う。もっと早く言ってくだされば良いものを。……と、一瞬考えたものの、次々にご令嬢からダンスの相手を請われて殿下も抜け出すことができなかったのかもしれない。
「でも長くわたくしに触れすぎたせいで、影とは別に倒れかかったのはいただけないですよ。影祓いが終わったら、びりっと痺れる痛みで分かるのではなかったのですか?」
「……そうだな」
そうだなって痺れが来ていたのに、抱きしめていたの? やっぱり身を任せたくなるほど疲れていたのかな。――いや、それ以外何があるというのか。
「まあ。影が憑いていなくても疲れますよね」
「え?」
「今日はたくさんの方々とお話しされて、ダンスもされているのですから。楽しんではいらっしゃったようですが」
一体、何人のご令嬢のお相手をなさったのでしょうね。
……あれ? 私は、どうしてこんなに皮肉っぽい言い方になっているのだろう。労いのお言葉のつもりだったのに。
私の言葉に殿下は片眉を上げた。
「ああ、そういえば。君もセリアンとのダンスは楽しそうだったな」
どこをどう見たら楽しんでいたと言えるのか。
「全く楽しんでなんていませんよ」
「そうか? 私には楽しんでいるように見えたが」
「確かにリードが上手い方だというのは認めますが、自分で踊ったというよりは、セリアン様に無理矢理踊らされたと感じたのですから。殿下こそ」
私は腕を組んで殿下を見上げる。
「殿下こそ、お美しいたくさんのご令嬢とお楽しみだったではありませんか」
「私は義務でしていただけだ。事務的に行っていただけで、そこに感情は無い」
「まあ、酷い言い方!」
そんな言い方、女性に失礼だ。皆、殿下に憧れて、殿下と踊ることに胸を高鳴らせていただろうに。
「は? 君こそ酷いだろう。仮にもダンスを共にしたパートナーに対して、楽しくなかったなどと」
「だって事実ですもの」
「ならば、私だって事実だ」
睨み合いが続いたけれど、どちらともなくふっと視線を緩ませた。
何で互いに意地を張っているのか分からなくなかったからだ。
「ダンスに」
最初に沈黙を破ったのは殿下だ。
「え?」
「ダンスに誘ってくれる相手がいると言っていたのは、セリアンのことだったのか」
ああ、そんな風に虚勢を張っちゃったっけ。でもこれ以上、嘘に嘘を重ねても仕方がない。
私はしゅんと肩を落として自白する。
「いえ。セリアン様は一人でいたわたくしに、たまたまお声がけしてくださっただけで、本当はダンスを誘ってくれると約束していた方はいませんでした」
「そう、なのか。ではここで私と……踊るか?」
「え?」
殿下はダンス会場の方へと視線を流す。
「こちらまで音楽が流れてきているし、この曲に合わせて。この曲のダンスはクロエに習っただろう」
「で、ですが、殿下とは手を取り合えません」
「手を取り合わなくても、二人の息を合わせれば踊れる。先日は合わなかったが、君の動きを学習した今なら合うと思う」
私の動きを学習とはまた色気のない話だ。
苦笑しながら再び腕を組むと片目を伏せる。
「いいですけど。いくら引く手数多で女性に事欠かないエルベルト殿下だとしても、女性の誘い方がなっておりませんよ」
「なるほど。そうだな」
殿下はくすりと小さく笑うとかしこまった姿勢を取ったので、私もまた組んでいた腕を解き、それに倣う。すると殿下は私へと右手を差し伸べた。
「ロザンヌ嬢。一曲、私とご一緒願えますか」
唇に艶のある笑みをのせる殿下にどきりと鼓動が高鳴り、私は目を伏せて一つ息を吐く。
差し出された手に自分の手を重ねることはできない。けれど、私は目を開けると殿下に笑みを向けてそっと手を近づけた。
「……はい。喜んでお受けいたします」
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