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第180話 人を助けるのに理由が必要か
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まだマリアンジェラ様のお話にも辿りつけない。セリアン様も殿下との関係に納得がいくまでは引かないつもりか。少し付き合ってみよう。
「セリアン様は殿下とお年が近いのでしたよね。殿下が御年十九歳でいらっしゃいますから、一つか二つ違いでしょうか」
「よくエルベルトのことを知っているね」
「もちろんですとも。殿下は世の女性の憧れですから」
「その割に俺のことは知らなかった」
意地悪そうに笑うセリアン様に私もまた意地悪そうに笑みを返してみる。
「ええ。エルベルト殿下はこの国の第一王位後継者ですもの。情報の重さが違いましてよ?」
「はっきり言うねー」
真実は時に人を傷つけるものだ。セリアン様は肩をすくめた。
「申し訳ありません。セリアン様も公爵家のご令息様でいらっしゃいます。地位としても、外見としても申し分ございません。ですが女性はどうしても一番に目が行くものでございます」
「申し訳ありませんとか言いつつ、とどめを刺しに来るの、止めてくれる?」
苦笑いするセリアン様に、私は失礼いたしましたと澄まし顔をしてみせる。
「で。話を戻すけど」
「どこまで戻しますか? セリアン様も申し分云々の辺りでしょうか」
「あのねぇ。エルベルトなら一度目をかけた人間に対しては配慮するっていう話だよ」
「ああ、はい」
私は両手を胸の辺りでぱちりと合わせた。
「承知いたしました。そのお話ですね。そうですか。殿下はやはりそのような素晴らしい人格のお方なのですね。わたくし、存じませんでした。いえ。仮に存じていましても、そもそも殿下への連絡の手立てがございませんでしたが」
セリアン様は前髪を鬱陶しそうに掻き上げて大きくため息をつく。
正直、私もため息をつきたいです。
「ああ言えばこう言う。口が減らないね」
「ありがとう存じます」
「うん。全く褒めてないな」
やっぱりこのやり取りは不毛だわ。そろそろ本題に入ろう。
「ところでセリアン様は殿下をお名前で呼んでおられますし、仲が良ろしいようですね」
「仲良くはないけど?」
殿下も複雑そうなお顔をなさっていたっけ。
「そうですか。親しみを込めていらっしゃるようでしたので」
「気のせい気のせい」
手を振ってすげなく私の感想は却下される。でも無視して話を進める。
「ですが、王家に近しい公爵家のセリアン様のご身分なら、マリアンジェラ様のお宅でもお取り次ぎは可能でしょうから、お願いできないでしょうか」
「は? 何で俺が?」
「セリアン様のおっしゃった通り、わたくしの身分では門前払いされてしまうからです」
私は眉を落として悲しげにしてみせるも、セリアン様が構うことはない。逆に目を細めて嫌そうにした。情に訴えるのは無駄のようだ。
「いや。何で俺が君の為に動かなきゃいけないのかってこと」
「あら。人を助けるのに理由が必要でしょうか」
「あのさ。そのセリフは助ける側が言う言葉であって、助けられる側が言う言葉じゃないからね」
「どちらでも同じことでは?」
ちょっと何言っているか分かりませんと首を傾げてみた。
こうなれば持久戦だ。どちらが先に根を上げるかの戦いである。
「いいや、違うな。悪いけど、俺は人を助けるためには理由を必要としているよ」
「まあ。物事を複雑にする困ったお方なのですね」
ため息をつく私にセリアン様は苦笑いする。
「別に複雑にしていないし、そもそもだ。どうして俺が何のメリットもなくそんな事をしなければならないんだよ」
「セリアン様はわたくしに貸しを作ることができます」
「あのさー。自分の立場が分かっている? 君に貸しを作ったところで、君に返してもらえるようなものはたかが知れている。話にならないよ」
セリアン様はふてぶてしく腕を組んだ。
まあ、公爵家のご令息様ですからね。傲慢な態度もよく似合うこと。
「正義の味方は見返りなど求めないものですよ」
「残念だね。俺は普通の人間で、正義の味方じゃないから対価を求めるんだ。対価無しに動くつもりはない」
「どうしても対価を求めるというのですね」
私は一度目を伏せて思いきり息を吐き出す。そして意を決すると目を見開き、セリアン様を真っ直ぐに見つめる。
「分かりました。わたくしも覚悟を決めました」
「君に何か渡せるものがあるとでも?」
「ええ。そこまでおっしゃるなら、あなた様が望む対価をお渡しいたしましょう」
「俺が望む対価?」
セリアン様に向かってゆっくりと歩いて近付いて行くと、彼は私の気迫に押されているのか、身を引いていく。
「え。ちょっと何」
セリアン様の問いかけを無視し、彼を壁際まで追い詰めた私はその壁に手をドンと置いた。
「ええ。お支払いしましょう。――この身をもって」
「セリアン様は殿下とお年が近いのでしたよね。殿下が御年十九歳でいらっしゃいますから、一つか二つ違いでしょうか」
「よくエルベルトのことを知っているね」
「もちろんですとも。殿下は世の女性の憧れですから」
「その割に俺のことは知らなかった」
意地悪そうに笑うセリアン様に私もまた意地悪そうに笑みを返してみる。
「ええ。エルベルト殿下はこの国の第一王位後継者ですもの。情報の重さが違いましてよ?」
「はっきり言うねー」
真実は時に人を傷つけるものだ。セリアン様は肩をすくめた。
「申し訳ありません。セリアン様も公爵家のご令息様でいらっしゃいます。地位としても、外見としても申し分ございません。ですが女性はどうしても一番に目が行くものでございます」
「申し訳ありませんとか言いつつ、とどめを刺しに来るの、止めてくれる?」
苦笑いするセリアン様に、私は失礼いたしましたと澄まし顔をしてみせる。
「で。話を戻すけど」
「どこまで戻しますか? セリアン様も申し分云々の辺りでしょうか」
「あのねぇ。エルベルトなら一度目をかけた人間に対しては配慮するっていう話だよ」
「ああ、はい」
私は両手を胸の辺りでぱちりと合わせた。
「承知いたしました。そのお話ですね。そうですか。殿下はやはりそのような素晴らしい人格のお方なのですね。わたくし、存じませんでした。いえ。仮に存じていましても、そもそも殿下への連絡の手立てがございませんでしたが」
セリアン様は前髪を鬱陶しそうに掻き上げて大きくため息をつく。
正直、私もため息をつきたいです。
「ああ言えばこう言う。口が減らないね」
「ありがとう存じます」
「うん。全く褒めてないな」
やっぱりこのやり取りは不毛だわ。そろそろ本題に入ろう。
「ところでセリアン様は殿下をお名前で呼んでおられますし、仲が良ろしいようですね」
「仲良くはないけど?」
殿下も複雑そうなお顔をなさっていたっけ。
「そうですか。親しみを込めていらっしゃるようでしたので」
「気のせい気のせい」
手を振ってすげなく私の感想は却下される。でも無視して話を進める。
「ですが、王家に近しい公爵家のセリアン様のご身分なら、マリアンジェラ様のお宅でもお取り次ぎは可能でしょうから、お願いできないでしょうか」
「は? 何で俺が?」
「セリアン様のおっしゃった通り、わたくしの身分では門前払いされてしまうからです」
私は眉を落として悲しげにしてみせるも、セリアン様が構うことはない。逆に目を細めて嫌そうにした。情に訴えるのは無駄のようだ。
「いや。何で俺が君の為に動かなきゃいけないのかってこと」
「あら。人を助けるのに理由が必要でしょうか」
「あのさ。そのセリフは助ける側が言う言葉であって、助けられる側が言う言葉じゃないからね」
「どちらでも同じことでは?」
ちょっと何言っているか分かりませんと首を傾げてみた。
こうなれば持久戦だ。どちらが先に根を上げるかの戦いである。
「いいや、違うな。悪いけど、俺は人を助けるためには理由を必要としているよ」
「まあ。物事を複雑にする困ったお方なのですね」
ため息をつく私にセリアン様は苦笑いする。
「別に複雑にしていないし、そもそもだ。どうして俺が何のメリットもなくそんな事をしなければならないんだよ」
「セリアン様はわたくしに貸しを作ることができます」
「あのさー。自分の立場が分かっている? 君に貸しを作ったところで、君に返してもらえるようなものはたかが知れている。話にならないよ」
セリアン様はふてぶてしく腕を組んだ。
まあ、公爵家のご令息様ですからね。傲慢な態度もよく似合うこと。
「正義の味方は見返りなど求めないものですよ」
「残念だね。俺は普通の人間で、正義の味方じゃないから対価を求めるんだ。対価無しに動くつもりはない」
「どうしても対価を求めるというのですね」
私は一度目を伏せて思いきり息を吐き出す。そして意を決すると目を見開き、セリアン様を真っ直ぐに見つめる。
「分かりました。わたくしも覚悟を決めました」
「君に何か渡せるものがあるとでも?」
「ええ。そこまでおっしゃるなら、あなた様が望む対価をお渡しいたしましょう」
「俺が望む対価?」
セリアン様に向かってゆっくりと歩いて近付いて行くと、彼は私の気迫に押されているのか、身を引いていく。
「え。ちょっと何」
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「ええ。お支払いしましょう。――この身をもって」
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