つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里

文字の大きさ
179 / 315

第179話 セリアン様と交渉を試みる

しおりを挟む
 セリアン様は確かに厄介なお人だ。会ってお話ししたのは二、三回程度なのに、手を焼きそうな人であることが分かってしまう。ここは殿下が出てこない方がいいだろう。

「セリアン様は王家の呪いについてはご存知ないのですよね」
「ああ。ラマディエル公爵家の者と結婚した王女も過去にはいるが、前にも言った通り、王女は呪いについて知らされていないので話しようがないだろう」
「そうですか。では影のことは悟られてはいけませんね。承知いたしました」

 私は深く頷くと、殿下は眉をひそめた。

「承知いたしましたとは?」
「殿下はこの件に関して手を出していただかなくて結構です。わたくしが直接セリアン様にお願いいたします」
「え?」
「セリアン様はわたくしに、殿下にお願いしてみたらと意味深な事をおっしゃいました。わたくしが殿下にお願いできる間柄にいると考えられているようです」

 何かの時に利用したいのか、ただ第三者的に楽しみたいだけなのか、それとも両方なのか分からないけれど、彼の興味がこちらに向いている以上、殿下と私の線は繋げない方がいい。

「しかし君がセリアンを説得できるのか?」
「分かりませんがやってみます」

 もしマリアンジェラ様が影で苦しんでいるのならば、一刻でも早く祓ってさしあげたい。

「……すまない」
「いいえ」

 殿下も心苦しいだろうけれども、私は良い言葉を返すことができず、ただ短く答えた。


 次の日のお昼。
 最上階に繋がる階段の所までやって来ると、腕を組み、踊り場の壁に身を任せていたセリアン様が身を起こす姿が目に入った。

「やあ。ロザンヌ嬢。やっぱり来たね」

 こちらへと下りてきながらセリアン様は笑った。

「セリアン様、ごきげんよう。セリアン様こそ、わたくしをお待ちでいらっしゃったのでしょうか」
「まあね。話をするなら、ここでは何だし、ちょっと付き合わない?」
「……はい」

 できるだけ人目に触れたくない私は一も二も無く賛成する。
 私が頷くのを確認してセリアン様が先行して歩いていると、すぐに足を止めた。

「ここは資料室ですか」

 授業で使う教材や道具類などが保管している場所だ。何度か先生に頼まれて資料を取りに入ったことがある。

「うん。この時間は誰も利用しないから。さあ、どうぞ」

 鍵を持っていたらしいセリアン様は、扉を開けて手で指し示したので私はお先に失礼いたしますと入る。
 室内は棚が所狭しと並べられ、棚には教科ごとに分けられて資料が収められている。誰が管理をしているのか、埃などは全く被っておらず整然としている。ただ、今は窓から入る光だけが光源で全体的に薄暗い。

 続いて彼が入った後に鍵がかちゃりと回される音に私は振り返った。

「あ。これはあくまでも人が入って来ないようにするためだから。別に君にどうこうしようとするつもりはないよ」

 無実を証明するように、セリアン様は鍵を指に引っかけたまま両手を小さく挙げる。

「もちろんです。セリアン様は女性にはお困りではないでしょうから」
「ああ、そう。分かってくれているならいいんだ。それで、俺の所に来たってことはエルベルトに断られたってことだよね?」

 セリアン様は鍵を指でくるくる回しながら尋ねてくる。
 殿下に断られると最初から分かっていたのだろう。私もまた考えが浅はかだった。殿下のお立場まで考慮に入れていなかったのだから。
 私は頬に手を置き、やるせなさそうにため息をついた。

「ええ。ご想像の通りです。侍女長にご相談してみたのですが、わたくしの身分のような者では殿下に謁見することは難しいと言われてしまいました」
「ふぅん。そう来たか」

 セリアン様が納得していないのは明らかだ。どうしても私と殿下を繋げたいらしい。

「でも君はエルベルトの肝いりで王宮に入ったと聞いているよ。なのに取り次ぎができないって? それは妙だな」
「殿下は確かにわたくしに無礼を働いたと謝罪していただき、ご厚情にて王宮での侍女見習いの席を用意してくださいました。ですがわたくしなど、王宮に大勢いる内のたかだか侍女見習いの一人です。それ以上の配慮をされるでしょうか」
「うん。エルベルトなら配慮すると思うよ?」

 セリアン様はうんの一言で、あっさりと私の答えを打ち破る。

「まあ! セリアン様はよく殿下のことをご存知なのですね」

 私は笑みを浮かべながら、やはり一筋縄ではいきそうにないなと思った。
しおりを挟む
感想 262

あなたにおすすめの小説

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」 ※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

牢で死ぬはずだった公爵令嬢

鈴元 香奈
恋愛
婚約していた王子に裏切られ無実の罪で牢に入れられてしまった公爵令嬢リーゼは、牢番に助け出されて見知らぬ男に託された。 表紙女性イラストはしろ様(SKIMA)、背景はくらうど職人様(イラストAC)、馬上の人物はシルエットACさんよりお借りしています。 小説家になろうさんにも投稿しています。

アンジェリーヌは一人じゃない

れもんぴーる
恋愛
義母からひどい扱いされても我慢をしているアンジェリーヌ。 メイドにも冷遇され、昔は仲が良かった婚約者にも冷たい態度をとられ居場所も逃げ場所もなくしていた。 そんな時、アルコール入りのチョコレートを口にしたアンジェリーヌの性格が激変した。 まるで別人になったように、言いたいことを言い、これまで自分に冷たかった家族や婚約者をこぎみよく切り捨てていく。 実は、アンジェリーヌの中にずっといた魂と入れ替わったのだ。 それはアンジェリーヌと一緒に生まれたが、この世に誕生できなかったアンジェリーヌの双子の魂だった。 新生アンジェリーヌはアンジェリーヌのため自由を求め、家を出る。 アンジェリーヌは満ち足りた生活を送り、愛する人にも出会うが、この身体は自分の物ではない。出来る事なら消えてしまった可哀そうな自分の半身に幸せになってもらいたい。でもそれは自分が消え、愛する人との別れの時。 果たしてアンジェリーヌの魂は戻ってくるのか。そしてその時もう一人の魂は・・・。 *タグに「平成の歌もあります」を追加しました。思っていたより歌に注目していただいたので(*´▽`*) (なろうさま、カクヨムさまにも投稿予定です)

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。

アズやっこ
恋愛
 ❈ 追記 長編に変更します。 16歳の時、私は第一王子と婚姻した。 いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。 私の好きは家族愛として。 第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。 でも人の心は何とかならなかった。 この国はもう終わる… 兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。 だから歪み取り返しのつかない事になった。 そして私は暗殺され… 次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。

幼馴染の生徒会長にポンコツ扱いされてフラれたので生徒会活動を手伝うのをやめたら全てがうまくいかなくなり幼馴染も病んだ

猫カレーฅ^•ω•^ฅ
恋愛
ずっと付き合っていると思っていた、幼馴染にある日別れを告げられた。 そこで気づいた主人公の幼馴染への依存ぶり。 たった一つボタンを掛け違えてしまったために、 最終的に学校を巻き込む大事件に発展していく。 主人公は幼馴染を取り戻すことが出来るのか!?

【完結】一番腹黒いのはだあれ?

やまぐちこはる
恋愛
■□■ 貧しいコイント子爵家のソンドールは、貴族学院には進学せず、騎士学校に通って若くして正騎士となった有望株である。 三歳でコイント家に養子に来たソンドールの生家はパートルム公爵家。 しかし、関わりを持たずに生きてきたため、自分が公爵家生まれだったことなどすっかり忘れていた。 ある日、実の父がソンドールに会いに来て、自分の出自を改めて知り、勝手なことを言う実父に憤りながらも、生家の騒動に巻き込まれていく。

処理中です...