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第179話 セリアン様と交渉を試みる

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 セリアン様は確かに厄介なお人だ。会ってお話ししたのは二、三回程度なのに、手を焼きそうな人であることが分かってしまう。ここは殿下が出てこない方がいいだろう。

「セリアン様は王家の呪いについてはご存知ないのですよね」
「ああ。ラマディエル公爵家の者と結婚した王女も過去にはいるが、前にも言った通り、王女は呪いについて知らされていないので話しようがないだろう」
「そうですか。では影のことは悟られてはいけませんね。承知いたしました」

 私は深く頷くと、殿下は眉をひそめた。

「承知いたしましたとは?」
「殿下はこの件に関して手を出していただかなくて結構です。わたくしが直接セリアン様にお願いいたします」
「え?」
「セリアン様はわたくしに、殿下にお願いしてみたらと意味深な事をおっしゃいました。わたくしが殿下にお願いできる間柄にいると考えられているようです」

 何かの時に利用したいのか、ただ第三者的に楽しみたいだけなのか、それとも両方なのか分からないけれど、彼の興味がこちらに向いている以上、殿下と私の線は繋げない方がいい。

「しかし君がセリアンを説得できるのか?」
「分かりませんがやってみます」

 もしマリアンジェラ様が影で苦しんでいるのならば、一刻でも早く祓ってさしあげたい。

「……すまない」
「いいえ」

 殿下も心苦しいだろうけれども、私は良い言葉を返すことができず、ただ短く答えた。


 次の日のお昼。
 最上階に繋がる階段の所までやって来ると、腕を組み、踊り場の壁に身を任せていたセリアン様が身を起こす姿が目に入った。

「やあ。ロザンヌ嬢。やっぱり来たね」

 こちらへと下りてきながらセリアン様は笑った。

「セリアン様、ごきげんよう。セリアン様こそ、わたくしをお待ちでいらっしゃったのでしょうか」
「まあね。話をするなら、ここでは何だし、ちょっと付き合わない?」
「……はい」

 できるだけ人目に触れたくない私は一も二も無く賛成する。
 私が頷くのを確認してセリアン様が先行して歩いていると、すぐに足を止めた。

「ここは資料室ですか」

 授業で使う教材や道具類などが保管している場所だ。何度か先生に頼まれて資料を取りに入ったことがある。

「うん。この時間は誰も利用しないから。さあ、どうぞ」

 鍵を持っていたらしいセリアン様は、扉を開けて手で指し示したので私はお先に失礼いたしますと入る。
 室内は棚が所狭しと並べられ、棚には教科ごとに分けられて資料が収められている。誰が管理をしているのか、埃などは全く被っておらず整然としている。ただ、今は窓から入る光だけが光源で全体的に薄暗い。

 続いて彼が入った後に鍵がかちゃりと回される音に私は振り返った。

「あ。これはあくまでも人が入って来ないようにするためだから。別に君にどうこうしようとするつもりはないよ」

 無実を証明するように、セリアン様は鍵を指に引っかけたまま両手を小さく挙げる。

「もちろんです。セリアン様は女性にはお困りではないでしょうから」
「ああ、そう。分かってくれているならいいんだ。それで、俺の所に来たってことはエルベルトに断られたってことだよね?」

 セリアン様は鍵を指でくるくる回しながら尋ねてくる。
 殿下に断られると最初から分かっていたのだろう。私もまた考えが浅はかだった。殿下のお立場まで考慮に入れていなかったのだから。
 私は頬に手を置き、やるせなさそうにため息をついた。

「ええ。ご想像の通りです。侍女長にご相談してみたのですが、わたくしの身分のような者では殿下に謁見することは難しいと言われてしまいました」
「ふぅん。そう来たか」

 セリアン様が納得していないのは明らかだ。どうしても私と殿下を繋げたいらしい。

「でも君はエルベルトの肝いりで王宮に入ったと聞いているよ。なのに取り次ぎができないって? それは妙だな」
「殿下は確かにわたくしに無礼を働いたと謝罪していただき、ご厚情にて王宮での侍女見習いの席を用意してくださいました。ですがわたくしなど、王宮に大勢いる内のたかだか侍女見習いの一人です。それ以上の配慮をされるでしょうか」
「うん。エルベルトなら配慮すると思うよ?」

 セリアン様はうんの一言で、あっさりと私の答えを打ち破る。

「まあ! セリアン様はよく殿下のことをご存知なのですね」

 私は笑みを浮かべながら、やはり一筋縄ではいきそうにないなと思った。
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