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第178話 殿下の判断は妥当だけれど
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学校から戻り、私はすぐに護衛官室へと向かった。
「今日はお早いですね。お休みされなくて大丈夫ですか」
やはりいつもより早くお部屋に入った私をジェラルドさんは疑問に思われたようだ。
「ええ。ありがとうございます。今日は殿下に一刻も早くお伝え……お願いしたいことがございまして、早めに参りました」
まだ分からない。まだマリアンジェラ様が影に取り憑かれたとは限らない。ただ単に、私がマリアンジェラ様のお見舞いをしたかっただけ、となるかもしれない。
「承知いたしました」
ジェラルドさんは短く答えると、殿下への入室許可を取ってくれて扉を開いた。
「失礼いたします、殿下」
「ああ。お疲れ様。今日は早いな。――どうした?」
表情が硬かったのかもしれない。私の顔を見るなりすぐに尋ねてきた。
「実はマリアンジェラ様のことです」
「彼女が何か」
「三日前からお休みだそうです。病欠とのことです」
「そうか。それは心配だな。見舞いの言葉を送ろう」
殿下はまるで定例の反応しかしない。
おかしい。マリアンジェラ様とクラウディア嬢とのやり取りは知っていたはずなのに。……あれ? そういえば、殿下にはマリアンジェラ様のハンカチがクラウディア嬢の手に渡ったことを話していなかったのだろうか。
「あ……」
私は青くなる。
そうだ。あの時、殿下が親しげにマリアンジェラ様のことをお話しになったから、話が飛んでしまったんだ。
「ロザンヌ嬢?」
「で、殿下! 誠に申し訳ございません!」
「何だ? 何があった」
いきなり謝って頭を深く深く下げる私に殿下は不審そうに問う。
「とにかく落ち着いて説明しろ」
「……はい。マリアンジェラ様にクラウディア様からお助けいただいたことはお話ししましたよね」
「ああ」
「実はその時、マリアンジェラ様が濡れたドレスを拭うのにと、クラウディア様にハンカチをお渡しになったのです。その事を殿下にお伝えしておりませんでした」
殿下はなるほどと深く息を吐いた。
「つまり、マリアンジェラはクラウディア嬢によって影を憑けられたかもしれないと?」
「……分かりません。でもその可能性は否定できません。ですが、もし影ならばわたくしが祓うことができます。ですから殿下がお見舞いに訪れる際に、わたくしも連れて行ってくださいませんか」
「君が言いたい事は分かった」
ほっとしたのも束の間。
「だが、私はマリアンジェラの見舞いには行けない」
「な、なぜですか!?」
婚約者候補筆頭のマリアンジェラ様のお見舞いならば、理由としては妥当なはず。
「――あ。殿下が影に取り憑かれてしまうからですか?」
「いや。仮に怪我での療養中だったとしても、王位継承者の立場としては見舞いの言葉を送ることはできても、婚約者候補の一人でしかない令嬢の元に訪れることはできない」
それは……分かるけれど。殿下のお立場は分かるけれど。ではマリアンジェラ様はどうなるの。もし影ならば私が祓うことができるのに。
「まして君を連れての見舞いならなおさらだ。彼女がベッドに伏している原因が影だったとして、君を連れて祓ってしまえば必ずその存在に感付かれる。君は長きに渡る王家の呪いを解く鍵を握っているかもしれない人間だ。今、誰かに悟られるわけにはいかない」
殿下のお言葉があまりにも辛辣で身勝手にも、王家を第一と考えなければならない殿下としては当然の言葉のようにも聞こえて、どうすればいいのか分からない。
殿下は席から腰を上げると、茫然と突っ立っている私のすぐ近くにやって来て私の頬に触れようとしたけれど、そのまま手を下ろした。
「非情な人間だと思われるかもしれないが、私としては動けないんだ。理解してくれ」
気持ちが分かるから余計に苦しい。殿下だって一個人としては、昔からのお知り合いであるマリアンジェラ様のお見舞いに行きたいだろうから。
「だが、君だけならマリアンジェラの元へ送ることはできるだろう。彼女の友人としてだったら、不審には思われないはずだ」
「ですが、セリアン様とお話ししてわたくしの爵位では門前払いされるのがオチだろうと」
「セリアンと話をしたのか?」
殿下は眉をひそめて少し嫌そうな顔をしたけれど、すぐにため息をついた。
「そうだな。彼の言う通りだ。借りを作ることになるが、そのセリアンに頼むか」
「え?」
「彼なら爵位としては問題ないし、幼い頃、遊び相手でもあったから通されるはずだ。彼に同行すればいい。原因が影だとして、祓えたかどうかは確認できないだろうから、できるだけ長く彼女に触れるんだ」
「はい」
「さて。それはいいとして、問題はセリアンだな」
殿下はさっきとは違う重いため息をついた。
「今日はお早いですね。お休みされなくて大丈夫ですか」
やはりいつもより早くお部屋に入った私をジェラルドさんは疑問に思われたようだ。
「ええ。ありがとうございます。今日は殿下に一刻も早くお伝え……お願いしたいことがございまして、早めに参りました」
まだ分からない。まだマリアンジェラ様が影に取り憑かれたとは限らない。ただ単に、私がマリアンジェラ様のお見舞いをしたかっただけ、となるかもしれない。
「承知いたしました」
ジェラルドさんは短く答えると、殿下への入室許可を取ってくれて扉を開いた。
「失礼いたします、殿下」
「ああ。お疲れ様。今日は早いな。――どうした?」
表情が硬かったのかもしれない。私の顔を見るなりすぐに尋ねてきた。
「実はマリアンジェラ様のことです」
「彼女が何か」
「三日前からお休みだそうです。病欠とのことです」
「そうか。それは心配だな。見舞いの言葉を送ろう」
殿下はまるで定例の反応しかしない。
おかしい。マリアンジェラ様とクラウディア嬢とのやり取りは知っていたはずなのに。……あれ? そういえば、殿下にはマリアンジェラ様のハンカチがクラウディア嬢の手に渡ったことを話していなかったのだろうか。
「あ……」
私は青くなる。
そうだ。あの時、殿下が親しげにマリアンジェラ様のことをお話しになったから、話が飛んでしまったんだ。
「ロザンヌ嬢?」
「で、殿下! 誠に申し訳ございません!」
「何だ? 何があった」
いきなり謝って頭を深く深く下げる私に殿下は不審そうに問う。
「とにかく落ち着いて説明しろ」
「……はい。マリアンジェラ様にクラウディア様からお助けいただいたことはお話ししましたよね」
「ああ」
「実はその時、マリアンジェラ様が濡れたドレスを拭うのにと、クラウディア様にハンカチをお渡しになったのです。その事を殿下にお伝えしておりませんでした」
殿下はなるほどと深く息を吐いた。
「つまり、マリアンジェラはクラウディア嬢によって影を憑けられたかもしれないと?」
「……分かりません。でもその可能性は否定できません。ですが、もし影ならばわたくしが祓うことができます。ですから殿下がお見舞いに訪れる際に、わたくしも連れて行ってくださいませんか」
「君が言いたい事は分かった」
ほっとしたのも束の間。
「だが、私はマリアンジェラの見舞いには行けない」
「な、なぜですか!?」
婚約者候補筆頭のマリアンジェラ様のお見舞いならば、理由としては妥当なはず。
「――あ。殿下が影に取り憑かれてしまうからですか?」
「いや。仮に怪我での療養中だったとしても、王位継承者の立場としては見舞いの言葉を送ることはできても、婚約者候補の一人でしかない令嬢の元に訪れることはできない」
それは……分かるけれど。殿下のお立場は分かるけれど。ではマリアンジェラ様はどうなるの。もし影ならば私が祓うことができるのに。
「まして君を連れての見舞いならなおさらだ。彼女がベッドに伏している原因が影だったとして、君を連れて祓ってしまえば必ずその存在に感付かれる。君は長きに渡る王家の呪いを解く鍵を握っているかもしれない人間だ。今、誰かに悟られるわけにはいかない」
殿下のお言葉があまりにも辛辣で身勝手にも、王家を第一と考えなければならない殿下としては当然の言葉のようにも聞こえて、どうすればいいのか分からない。
殿下は席から腰を上げると、茫然と突っ立っている私のすぐ近くにやって来て私の頬に触れようとしたけれど、そのまま手を下ろした。
「非情な人間だと思われるかもしれないが、私としては動けないんだ。理解してくれ」
気持ちが分かるから余計に苦しい。殿下だって一個人としては、昔からのお知り合いであるマリアンジェラ様のお見舞いに行きたいだろうから。
「だが、君だけならマリアンジェラの元へ送ることはできるだろう。彼女の友人としてだったら、不審には思われないはずだ」
「ですが、セリアン様とお話ししてわたくしの爵位では門前払いされるのがオチだろうと」
「セリアンと話をしたのか?」
殿下は眉をひそめて少し嫌そうな顔をしたけれど、すぐにため息をついた。
「そうだな。彼の言う通りだ。借りを作ることになるが、そのセリアンに頼むか」
「え?」
「彼なら爵位としては問題ないし、幼い頃、遊び相手でもあったから通されるはずだ。彼に同行すればいい。原因が影だとして、祓えたかどうかは確認できないだろうから、できるだけ長く彼女に触れるんだ」
「はい」
「さて。それはいいとして、問題はセリアンだな」
殿下はさっきとは違う重いため息をついた。
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