177 / 315
第177話 意地悪なセリアン様
しおりを挟む
「ねえ、マリエル様。最近、マリアンジェラ様のお姿を見ませんね」
私たちはお昼、いつものように校庭で過ごすために外に出たが、マリアンジェラ様のお姿はない。もちろんこれまで毎日会えていたわけでもないけれど。
「そうですね……。お忙しいのかしら。それとも学校をお休みなのかしら」
お休みという言葉が私の心をざわりと嫌な感触で撫で上げる。
「マリエル様。わたくし、マリアンジェラ様の教室へ行って参ります。マリエル様はあのベンチで少しお待ちいただけますか」
「え!? ですが、上級生の階に行ってクラスメートの方々からお話を聞くのは難しいのでは」
上級生の階は一番上であり、学年関係なく訪れるような特別教室はない。リボンの色で下級生と分かる私が行くとそれなりに目立つだろう。
「何とかしてみます。では」
呆気に取られるマリエル様を残して私は校内へと向かう。
マリアンジェラ様は公爵令嬢で目立つ方の上、前回のことで私はまた目立ってしまっただろうし、上級生云々よりも避けられるかもしれない。
まあ、この顔、忘れられているかもしれないけれどね。はは……。
自嘲しながら三年生の階へと繋がる階段の一歩を踏みしめる。
何だかとても重い一歩である。
二年生の階は学年共有の特別教室があるため、一年生が上がってくることに対して文句をつける者はいない。だから、ここから上が問題というわけだ。
すると。
「あれ? ロザンヌ嬢?」
階上から知った声が降ってきたので顔を上げると、先の踊り場にいたのはラマディエル公爵のご令息、セリアン様だった。
「セリアン様」
彼はやあと笑いながら、踊り場から一歩一歩とこちらに下りて来る。
私は最初上がった一段から下りて礼を取った。
「ごきげんよう、セリアン様」
「うん。何してんの、ここで」
階段を後二つ残して立ち止まったセリアン様は尋ねてきた。
ここで返事を渋ったところで何のメリットもないと思った私はすぐに答える。
「マリアンジェラ様はご登校されているか、クラスを訪問させていただこうかと思いました」
「マリアンジェラ嬢? ああ」
様子を知っているのか、知らないのか、彼は腕を組んで面白そうに笑った。
「下級生が最上階に上がってくるなんて良い度胸しているね。上下関係にうるさい連中も少なくないんだよ?」
「ええ。承知しておりますが、ここ数日、お姿をお見かけしないので心配なのです」
「ふうん。それでマリアンジェラ嬢の教室は分かっているわけ?」
「……あ」
そう言えば知らなかったし、そこまで考えていなかった。
セリアン様は私の様子に呆れた表情を浮かべた。
「まさか一つ一つ教室を回るつもりだったわけ? 目立つことをするねー」
「思い立ってすぐ行動してしまいました……。セリアン様はマリアンジェラ様の教室をご存知ですか」
「うん。知っているよ」
ここまで聞いていたら教えてと言っているのと同じことだと思うけれど、私が聞くまでは答えを出さないつもりらしい。なかなか意地悪だ。
苦笑いしてしまう。
「セリアン様、マリアンジェラ様の教室はどこでしょうか。教えていただけますか」
「うーん」
下手に出て聞いてあげたのに、うーんって何よ、うーんって。
「マリアンジェラ嬢はさ、目立つことが苦手なんだよ。君が行くと迷惑だと思うんだけどな」
うっ。確かに。
そう言われてしまうと反論できない。
「では、マリアンジェラ様が今日はご登校されているか、セリアン様がクラスをご訪問いただくことは可能でしょうか」
「え? まさかとは思うけど一応確認しよう。ラマディエル公爵の息子であり上級生であるこの俺に向かって、階段を上がって見て来いと言っているのかな?」
嫌味な言い方だな。まったく。
そう思うものの、私は悪びれずに両手を重ねて頬に当てると小首を傾げてみせる。
「ええ。さすがはセリアン様。ご聡明でいらっしゃいますね。ラマディエル公爵閣下のご令息様であり上級生であるセリアン様に向かって、今すぐ階段を駆け上がって見て来いと申し上げております」
「はは……負けたよ、君には」
セリアン様は白旗を掲げ、顔を引きつらせた笑みを浮かべた。
「でも戻るまでもない。マリアンジェラ嬢は同じクラスだからね」
うん。セリアン様も負けじと良い根性をしている。でも今は置いておこう。
「それでマリアンジェラ様は」
「三日前から病欠だよ」
「――っ! お悪い、のでしょうか」
強ばった私の顔を探る様に真っ直ぐ見つめるセリアン様。
「さあ。風邪って季節でもないし、何だろうね」
「お見舞いはできるでしょうか」
「君は子爵だったっけ。君ぐらいの爵位の娘じゃ、まず無理だろうね。友達だと主張しても門前払いを食らうと思う。――まあ、王族と一緒なら話は別。相談してみたら」
セリアン様は階段を二つ下りて私に近付くと耳元に囁く。
「エルベルトにさ」
私が視線を上げると、彼はにっと唇を引いて笑った。
私たちはお昼、いつものように校庭で過ごすために外に出たが、マリアンジェラ様のお姿はない。もちろんこれまで毎日会えていたわけでもないけれど。
「そうですね……。お忙しいのかしら。それとも学校をお休みなのかしら」
お休みという言葉が私の心をざわりと嫌な感触で撫で上げる。
「マリエル様。わたくし、マリアンジェラ様の教室へ行って参ります。マリエル様はあのベンチで少しお待ちいただけますか」
「え!? ですが、上級生の階に行ってクラスメートの方々からお話を聞くのは難しいのでは」
上級生の階は一番上であり、学年関係なく訪れるような特別教室はない。リボンの色で下級生と分かる私が行くとそれなりに目立つだろう。
「何とかしてみます。では」
呆気に取られるマリエル様を残して私は校内へと向かう。
マリアンジェラ様は公爵令嬢で目立つ方の上、前回のことで私はまた目立ってしまっただろうし、上級生云々よりも避けられるかもしれない。
まあ、この顔、忘れられているかもしれないけれどね。はは……。
自嘲しながら三年生の階へと繋がる階段の一歩を踏みしめる。
何だかとても重い一歩である。
二年生の階は学年共有の特別教室があるため、一年生が上がってくることに対して文句をつける者はいない。だから、ここから上が問題というわけだ。
すると。
「あれ? ロザンヌ嬢?」
階上から知った声が降ってきたので顔を上げると、先の踊り場にいたのはラマディエル公爵のご令息、セリアン様だった。
「セリアン様」
彼はやあと笑いながら、踊り場から一歩一歩とこちらに下りて来る。
私は最初上がった一段から下りて礼を取った。
「ごきげんよう、セリアン様」
「うん。何してんの、ここで」
階段を後二つ残して立ち止まったセリアン様は尋ねてきた。
ここで返事を渋ったところで何のメリットもないと思った私はすぐに答える。
「マリアンジェラ様はご登校されているか、クラスを訪問させていただこうかと思いました」
「マリアンジェラ嬢? ああ」
様子を知っているのか、知らないのか、彼は腕を組んで面白そうに笑った。
「下級生が最上階に上がってくるなんて良い度胸しているね。上下関係にうるさい連中も少なくないんだよ?」
「ええ。承知しておりますが、ここ数日、お姿をお見かけしないので心配なのです」
「ふうん。それでマリアンジェラ嬢の教室は分かっているわけ?」
「……あ」
そう言えば知らなかったし、そこまで考えていなかった。
セリアン様は私の様子に呆れた表情を浮かべた。
「まさか一つ一つ教室を回るつもりだったわけ? 目立つことをするねー」
「思い立ってすぐ行動してしまいました……。セリアン様はマリアンジェラ様の教室をご存知ですか」
「うん。知っているよ」
ここまで聞いていたら教えてと言っているのと同じことだと思うけれど、私が聞くまでは答えを出さないつもりらしい。なかなか意地悪だ。
苦笑いしてしまう。
「セリアン様、マリアンジェラ様の教室はどこでしょうか。教えていただけますか」
「うーん」
下手に出て聞いてあげたのに、うーんって何よ、うーんって。
「マリアンジェラ嬢はさ、目立つことが苦手なんだよ。君が行くと迷惑だと思うんだけどな」
うっ。確かに。
そう言われてしまうと反論できない。
「では、マリアンジェラ様が今日はご登校されているか、セリアン様がクラスをご訪問いただくことは可能でしょうか」
「え? まさかとは思うけど一応確認しよう。ラマディエル公爵の息子であり上級生であるこの俺に向かって、階段を上がって見て来いと言っているのかな?」
嫌味な言い方だな。まったく。
そう思うものの、私は悪びれずに両手を重ねて頬に当てると小首を傾げてみせる。
「ええ。さすがはセリアン様。ご聡明でいらっしゃいますね。ラマディエル公爵閣下のご令息様であり上級生であるセリアン様に向かって、今すぐ階段を駆け上がって見て来いと申し上げております」
「はは……負けたよ、君には」
セリアン様は白旗を掲げ、顔を引きつらせた笑みを浮かべた。
「でも戻るまでもない。マリアンジェラ嬢は同じクラスだからね」
うん。セリアン様も負けじと良い根性をしている。でも今は置いておこう。
「それでマリアンジェラ様は」
「三日前から病欠だよ」
「――っ! お悪い、のでしょうか」
強ばった私の顔を探る様に真っ直ぐ見つめるセリアン様。
「さあ。風邪って季節でもないし、何だろうね」
「お見舞いはできるでしょうか」
「君は子爵だったっけ。君ぐらいの爵位の娘じゃ、まず無理だろうね。友達だと主張しても門前払いを食らうと思う。――まあ、王族と一緒なら話は別。相談してみたら」
セリアン様は階段を二つ下りて私に近付くと耳元に囁く。
「エルベルトにさ」
私が視線を上げると、彼はにっと唇を引いて笑った。
34
あなたにおすすめの小説
王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。
身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~
椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」
私を脅して、別れを決断させた彼の両親。
彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。
私とは住む世界が違った……
別れを命じられ、私の恋が終わった。
叶わない身分差の恋だったはずが――
※R-15くらいなので※マークはありません。
※視点切り替えあり。
※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。
牢で死ぬはずだった公爵令嬢
鈴元 香奈
恋愛
婚約していた王子に裏切られ無実の罪で牢に入れられてしまった公爵令嬢リーゼは、牢番に助け出されて見知らぬ男に託された。
表紙女性イラストはしろ様(SKIMA)、背景はくらうど職人様(イラストAC)、馬上の人物はシルエットACさんよりお借りしています。
小説家になろうさんにも投稿しています。
アンジェリーヌは一人じゃない
れもんぴーる
恋愛
義母からひどい扱いされても我慢をしているアンジェリーヌ。
メイドにも冷遇され、昔は仲が良かった婚約者にも冷たい態度をとられ居場所も逃げ場所もなくしていた。
そんな時、アルコール入りのチョコレートを口にしたアンジェリーヌの性格が激変した。
まるで別人になったように、言いたいことを言い、これまで自分に冷たかった家族や婚約者をこぎみよく切り捨てていく。
実は、アンジェリーヌの中にずっといた魂と入れ替わったのだ。
それはアンジェリーヌと一緒に生まれたが、この世に誕生できなかったアンジェリーヌの双子の魂だった。
新生アンジェリーヌはアンジェリーヌのため自由を求め、家を出る。
アンジェリーヌは満ち足りた生活を送り、愛する人にも出会うが、この身体は自分の物ではない。出来る事なら消えてしまった可哀そうな自分の半身に幸せになってもらいたい。でもそれは自分が消え、愛する人との別れの時。
果たしてアンジェリーヌの魂は戻ってくるのか。そしてその時もう一人の魂は・・・。
*タグに「平成の歌もあります」を追加しました。思っていたより歌に注目していただいたので(*´▽`*)
(なろうさま、カクヨムさまにも投稿予定です)
いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。
アズやっこ
恋愛
❈ 追記 長編に変更します。
16歳の時、私は第一王子と婚姻した。
いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。
私の好きは家族愛として。
第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。
でも人の心は何とかならなかった。
この国はもう終わる…
兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。
だから歪み取り返しのつかない事になった。
そして私は暗殺され…
次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。
【完結】地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
【完結】一番腹黒いのはだあれ?
やまぐちこはる
恋愛
■□■
貧しいコイント子爵家のソンドールは、貴族学院には進学せず、騎士学校に通って若くして正騎士となった有望株である。
三歳でコイント家に養子に来たソンドールの生家はパートルム公爵家。
しかし、関わりを持たずに生きてきたため、自分が公爵家生まれだったことなどすっかり忘れていた。
ある日、実の父がソンドールに会いに来て、自分の出自を改めて知り、勝手なことを言う実父に憤りながらも、生家の騒動に巻き込まれていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる