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第182話 思いよ届け
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ぐずぐずしていたらお昼休みが終わってしまう。できればここで説得して、一日でも早くマリアンジェラ様のお見舞いに行きたい。
私は苛立ちを隠しながら、笑みを浮かべて小首を傾げた。
「なぜ嫌なのでしょうか」
「君はまだ俺に何かを隠している。そんな君を俺が信用できるとでも? それとも」
セリアン様は私の肩を近くの棚に押しつけて逃げ場を奪うと、私の顎をつかんで仰がせた。
「それとも無理矢理、君の口を開かせてみようか?」
辺りは薄暗く、鍵を閉められた密室。うっすら笑みを浮かべるセリアン様に背筋が寒くなった。けれど、脅されたとしてもこれだけは絶対口にできないことだ。
セリアン様攻略の私の方向性は間違っていないはず。ここで負けてたまるものかとぐっと拳を握る。
「セリアン様。よろしいのでしょうか。それ以上、わたくしに近付けばあなた様はこの先、出会えるかどうか分からない大事な友人を永遠に失うことになりますが」
「……大した自信だね」
「ええ」
はったり程、大きく出ないと意味がないものはありません。
私はセリアン様の瞳を真っ直ぐに見据える。すると、彼はふっとため息をついて私の顎から手を離して身を引いた。
「君には負けたよ」
「ええ。もちろんです。勝つまでやれば決して負けることがありません」
今、私、良いこと言った!
得意げになっている私にセリアン様は目を細める。
「うわぁ。面倒臭そうな子だよね、君」
「恐れながら、そのお言葉、そっくりそのままお返しいたしましょう」
「恐れてないでしょ」
「はい」
「だよねー」
セリアン様はもう私の言葉を素直に(?)受け入れて笑った。
「じゃあ、放課後。マリアンジェラ嬢の屋敷に向かおう。校門の馬車停留場所で待っているから」
「え? ほ、本日ですか!? お約束などしなくても大丈夫なのでしょうか」
「うん。何せ、俺なら約束しなくても顔パスだよ」
おぉ!
さすがラマディエル公爵家のご令息の言葉はひと味違う。
私は感動で思わず拍手した。
「セリアン様、わざわざのご訪問に感謝申し上げます。ですが、大変申し訳ございませんが、本日もお嬢様は今おもてなしできる状態ではないので、感謝とお断りの旨を伝えてほしいとのことです」
おーい! 顔パスはどうした顔パスは!
私たちは放課後、ユリアらに説明した後、セリアン様と合流してマリアンジェラ様のお屋敷に来たわけだけれどもこのザマである。
「だってさ」
肩をすくめるセリアン様が私に振り返る。
だからと言ってここで引き下がるわけにもいかない。私は侍従長と思われる男性に視線を向けた。
「マリアンジェラ様のお体はいかがなのでしょうか」
「ありがとうございます。もう二、三日養生していれば快復されるだろうとのことです」
侍従長様は冷静沈着だ。彼の表情から何かを読み取ることは難しい。
「一目だけでもお目にかかりたいのです。マリアンジェラ様にお願いできないでしょうか」
「それは……」
「せめてマリアンジェラ様に、ロザンヌ・ダングルベールが来たとお伝え願えませんか」
「はい。ロザンヌ様がいらっしゃったことをお伝えいたしましょう」
けれど、お目通りのお願いを伝えるとは言っていない。型通りというか、融通が利かない相手だ。
「ロザンヌ嬢、仕方がない。今日は帰ろう」
セリアン様はこれ以上粘っても無駄だと踏んだらしく、私の肩に手を置いて促した。
「では。マリアンジェラ様にお見舞いのお言葉を」
「はい。承りましょ――」
私は侍従長様の横を素通りし、門扉にぎりぎり近付くと深呼吸した。そして口元に両手を当てると、門扉から遠く離れた屋敷の方向に向かって、お腹の底から思いっきり大声で叫ぶ。
「マリアンジェラ様あぁぁぁ! お大事にぃぃぃ! なさってくださあぁぁぁい!」
「ちょっ!? な、何してんの、ロザンヌ嬢!」
セリアン様は私を慌てて羽交い締めにして押さえ込んだので、私は両手を挙げてしゃがみ込むと華麗にするりと抜け出した。
「失礼いたしました。わたくしたちは帰ります。さあ、参りましょう。セリアン様」
茫然としている侍従長様に笑みを浮かべて礼を取る。
ではと身を翻してセリアン様の馬車へと向かうと、彼は私を追ってきた。
「あのねぇ。本当に何てことをしてくれるんだよ……。俺の品位と信用にもかかわるでしょ」
前髪を掻き上げながら、セリアン様は少々げんなりした様子で言った。
「わたくしの気持ちが伝わればいいなと思いまして」
「素直に言葉を伝えてもらえばいいじゃん」
「それでは芸が無いでしょう」
「こんな所で誰も芸を求めちゃいないっての」
ぶつくさ文句を言われながら馬車までやって来た。
影は私に懐いて(いるらしい)から動物を威嚇しなくなったのか、初対面の動物も怯えることがなくなったのは助かったなと考えていると。
「お待ちください、セリアン様、ロザンヌ様」
先ほどの方が追いかけて来て私たちを呼び止めた。
後ろに息の上がった女中らしき人物もいる。もしかしたら私の声を届けてくれたのかもしれない。
「お嬢様がお会いするそうです」
ね? わたくしの思いは伝わったでしょうとセリアン様に笑いかけると、彼はヨカッタネと顔を引きつらせた。
私は苛立ちを隠しながら、笑みを浮かべて小首を傾げた。
「なぜ嫌なのでしょうか」
「君はまだ俺に何かを隠している。そんな君を俺が信用できるとでも? それとも」
セリアン様は私の肩を近くの棚に押しつけて逃げ場を奪うと、私の顎をつかんで仰がせた。
「それとも無理矢理、君の口を開かせてみようか?」
辺りは薄暗く、鍵を閉められた密室。うっすら笑みを浮かべるセリアン様に背筋が寒くなった。けれど、脅されたとしてもこれだけは絶対口にできないことだ。
セリアン様攻略の私の方向性は間違っていないはず。ここで負けてたまるものかとぐっと拳を握る。
「セリアン様。よろしいのでしょうか。それ以上、わたくしに近付けばあなた様はこの先、出会えるかどうか分からない大事な友人を永遠に失うことになりますが」
「……大した自信だね」
「ええ」
はったり程、大きく出ないと意味がないものはありません。
私はセリアン様の瞳を真っ直ぐに見据える。すると、彼はふっとため息をついて私の顎から手を離して身を引いた。
「君には負けたよ」
「ええ。もちろんです。勝つまでやれば決して負けることがありません」
今、私、良いこと言った!
得意げになっている私にセリアン様は目を細める。
「うわぁ。面倒臭そうな子だよね、君」
「恐れながら、そのお言葉、そっくりそのままお返しいたしましょう」
「恐れてないでしょ」
「はい」
「だよねー」
セリアン様はもう私の言葉を素直に(?)受け入れて笑った。
「じゃあ、放課後。マリアンジェラ嬢の屋敷に向かおう。校門の馬車停留場所で待っているから」
「え? ほ、本日ですか!? お約束などしなくても大丈夫なのでしょうか」
「うん。何せ、俺なら約束しなくても顔パスだよ」
おぉ!
さすがラマディエル公爵家のご令息の言葉はひと味違う。
私は感動で思わず拍手した。
「セリアン様、わざわざのご訪問に感謝申し上げます。ですが、大変申し訳ございませんが、本日もお嬢様は今おもてなしできる状態ではないので、感謝とお断りの旨を伝えてほしいとのことです」
おーい! 顔パスはどうした顔パスは!
私たちは放課後、ユリアらに説明した後、セリアン様と合流してマリアンジェラ様のお屋敷に来たわけだけれどもこのザマである。
「だってさ」
肩をすくめるセリアン様が私に振り返る。
だからと言ってここで引き下がるわけにもいかない。私は侍従長と思われる男性に視線を向けた。
「マリアンジェラ様のお体はいかがなのでしょうか」
「ありがとうございます。もう二、三日養生していれば快復されるだろうとのことです」
侍従長様は冷静沈着だ。彼の表情から何かを読み取ることは難しい。
「一目だけでもお目にかかりたいのです。マリアンジェラ様にお願いできないでしょうか」
「それは……」
「せめてマリアンジェラ様に、ロザンヌ・ダングルベールが来たとお伝え願えませんか」
「はい。ロザンヌ様がいらっしゃったことをお伝えいたしましょう」
けれど、お目通りのお願いを伝えるとは言っていない。型通りというか、融通が利かない相手だ。
「ロザンヌ嬢、仕方がない。今日は帰ろう」
セリアン様はこれ以上粘っても無駄だと踏んだらしく、私の肩に手を置いて促した。
「では。マリアンジェラ様にお見舞いのお言葉を」
「はい。承りましょ――」
私は侍従長様の横を素通りし、門扉にぎりぎり近付くと深呼吸した。そして口元に両手を当てると、門扉から遠く離れた屋敷の方向に向かって、お腹の底から思いっきり大声で叫ぶ。
「マリアンジェラ様あぁぁぁ! お大事にぃぃぃ! なさってくださあぁぁぁい!」
「ちょっ!? な、何してんの、ロザンヌ嬢!」
セリアン様は私を慌てて羽交い締めにして押さえ込んだので、私は両手を挙げてしゃがみ込むと華麗にするりと抜け出した。
「失礼いたしました。わたくしたちは帰ります。さあ、参りましょう。セリアン様」
茫然としている侍従長様に笑みを浮かべて礼を取る。
ではと身を翻してセリアン様の馬車へと向かうと、彼は私を追ってきた。
「あのねぇ。本当に何てことをしてくれるんだよ……。俺の品位と信用にもかかわるでしょ」
前髪を掻き上げながら、セリアン様は少々げんなりした様子で言った。
「わたくしの気持ちが伝わればいいなと思いまして」
「素直に言葉を伝えてもらえばいいじゃん」
「それでは芸が無いでしょう」
「こんな所で誰も芸を求めちゃいないっての」
ぶつくさ文句を言われながら馬車までやって来た。
影は私に懐いて(いるらしい)から動物を威嚇しなくなったのか、初対面の動物も怯えることがなくなったのは助かったなと考えていると。
「お待ちください、セリアン様、ロザンヌ様」
先ほどの方が追いかけて来て私たちを呼び止めた。
後ろに息の上がった女中らしき人物もいる。もしかしたら私の声を届けてくれたのかもしれない。
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