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第183話 ベルモンテ侯爵家の噂
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門扉から屋敷までは遠いため、馬車のまま中へどうぞと通されたので、私たちは一度馬車の中に戻る。
「あのさ、ロザンヌ嬢」
「はい」
「マリアンジェラ嬢の見舞いを強行したかったのは、先日のクラウディア・ベルモンテ嬢との一件があったから?」
「え?」
セリアン様は座席に手を置いて足を組むと肩をすくめた。
「ベルモンテ侯爵家の黒い噂は公然の秘密みたいなもんだよ。皆、知っているけど、もし万が一目を付けられたらと怖くて誰も口に出さないだけ。君もそうだろ?」
ここは素直に頷いておく。他にマリアンジェラ様のお見舞いに来たかった理由を見付けることができないから。
「はい。とは言え、クラウディア様がマリアンジェラ様にのろ、ど、毒を盛ったとか何かしたという確信も証拠ももちろん無いのですが。……ところでセリアン様はベルモンテ侯爵家のどんな噂をご存知ですか」
「例えばその昔、政敵にスパイを忍び込ませたり、嵌めたり、暗殺などを請け負っていたとかかな」
呪いではなくても、手出しはいくらでもできるということ?
思わず青ざめてしまった私にセリアン様は小さく笑う。
「噂だよ、噂。ベルモンテ侯爵家と言えど、今の地位を確立している以上、そうそう黒いことに手を染められないよ。……と思うよ」
思うよ、が怖い!
当然ながら、私の噂話とは桁違いのお話である。
「何より証拠が無いし。――あ、これは内緒ね。過去には王家も血族同士の争いで、彼らを利用したとされているから王族も手を出せない案件らしい。別名、王家お抱え始末屋、または掃除屋かな」
同じく掃除婦として共感を――するわけない。
「わたくしにそんなお話をして構わないのですか」
「これも噂だよ。それに君は友達だからね」
にっと笑うセリアン様は私に罪悪感をここぞとばかりに与えてくる。しかし、もしかしたらそれが彼の手かもしれないので、ここは罪悪感を軽く無視しておくことにする。
それにしてもベルモンテ家が呪術師ということは知られていないのかな。
「あと、呪いを掛けたりとか」
「――っ! の、呪いですか?」
考えを読まれたようで、私は思わず顔を引きつらせて笑った。しかしそれは私が怖がっているという信憑性を増したようだ。
「ベルモンテ侯爵家は元々、呪術師家系だったんだよ。そこから貴族にまで成り上がったんだ」
殿下もそのような事を言っていた。さらに突き詰めると、王家お抱え占術師の分家だったと。
「そうなのですか」
「うん。それなりに歴史のある貴族はベルモンテの出自を知っていて、未だ忌み嫌っているよ。成り上がりの掃除屋ごときがってね。由緒ある伯爵家の貴族ですら陰では彼らを蔑んでいる」
「侯爵家まで上り詰めてなおですか?」
セリアン様は自嘲するように笑う。
「君も知っての通り、貴族っていうのはさ、見栄と体裁で成り立っているからね。出自については何年経っても何百年経ってもうるさいんだよ」
クラウディア嬢が侯爵令嬢ながら、下級貴族に対してあれだけの尊大な態度を取るのはそれが原因なのかもしれない。力を誇示しないと威厳が保たれないのだろう。
「セリアン様は呪術や呪いを信じますか?」
「まあ、あるんじゃない」
意外だ。セリアン様なら笑い飛ばすかと思っていた。
「人の悪意っていうのは目に見えなくても時に強い力を持って、周りに伝播させたりするからね。呪術や呪いが存在していてもおかしくない。君はどう? 信じる?」
「正直、自分の目に見えないもの、証明できないものを絶対存在するとは、わたくしの口からは言い切れません。ですが、信頼できる人や信頼したい人の言葉ならわたくしは信じたいと思っていますし、信じます」
「なるほど。それはいいね」
今度は皮肉っぽくではなく、セリアン様は穏やかな笑みを浮かべた。
「ところで……お話が変わりまして一つ疑問があるのですが、よろしいでしょうか」
さっきの会話で引っかかった所を尋ねてみる。
「うん。何?」
「先ほど侍従長様は、本日もお嬢様は今おもてなしできる状態ではないとおっしゃいました。本日はではなく、本日もとはどういうことでしょうか」
「え?」
「セリアン様、前にもお見舞いに来られていたのですか?」
誤魔化される前に私は直接言葉をぶつけてみた。するとセリアン様は参ったなと髪をがしがしと掻いた。
「まあね。一応、マリアンジェラとは幼なじみだからね。容易く動けないエルベルトと違って見舞いぐらいするよ」
「ほほう。マリアンジェラとな」
しかもやはり殿下が簡単に動けないと分かっていたんだ。本当に食えない人。
「その余裕ぶった顔、止めてくれない? むかつくんだけど」
「ありがとう存じます」
「何でそこで礼を言う」
セリアン様の嫌そうな突っ込みが入ったその時、馬車は緩やかに止まった。
「あのさ、ロザンヌ嬢」
「はい」
「マリアンジェラ嬢の見舞いを強行したかったのは、先日のクラウディア・ベルモンテ嬢との一件があったから?」
「え?」
セリアン様は座席に手を置いて足を組むと肩をすくめた。
「ベルモンテ侯爵家の黒い噂は公然の秘密みたいなもんだよ。皆、知っているけど、もし万が一目を付けられたらと怖くて誰も口に出さないだけ。君もそうだろ?」
ここは素直に頷いておく。他にマリアンジェラ様のお見舞いに来たかった理由を見付けることができないから。
「はい。とは言え、クラウディア様がマリアンジェラ様にのろ、ど、毒を盛ったとか何かしたという確信も証拠ももちろん無いのですが。……ところでセリアン様はベルモンテ侯爵家のどんな噂をご存知ですか」
「例えばその昔、政敵にスパイを忍び込ませたり、嵌めたり、暗殺などを請け負っていたとかかな」
呪いではなくても、手出しはいくらでもできるということ?
思わず青ざめてしまった私にセリアン様は小さく笑う。
「噂だよ、噂。ベルモンテ侯爵家と言えど、今の地位を確立している以上、そうそう黒いことに手を染められないよ。……と思うよ」
思うよ、が怖い!
当然ながら、私の噂話とは桁違いのお話である。
「何より証拠が無いし。――あ、これは内緒ね。過去には王家も血族同士の争いで、彼らを利用したとされているから王族も手を出せない案件らしい。別名、王家お抱え始末屋、または掃除屋かな」
同じく掃除婦として共感を――するわけない。
「わたくしにそんなお話をして構わないのですか」
「これも噂だよ。それに君は友達だからね」
にっと笑うセリアン様は私に罪悪感をここぞとばかりに与えてくる。しかし、もしかしたらそれが彼の手かもしれないので、ここは罪悪感を軽く無視しておくことにする。
それにしてもベルモンテ家が呪術師ということは知られていないのかな。
「あと、呪いを掛けたりとか」
「――っ! の、呪いですか?」
考えを読まれたようで、私は思わず顔を引きつらせて笑った。しかしそれは私が怖がっているという信憑性を増したようだ。
「ベルモンテ侯爵家は元々、呪術師家系だったんだよ。そこから貴族にまで成り上がったんだ」
殿下もそのような事を言っていた。さらに突き詰めると、王家お抱え占術師の分家だったと。
「そうなのですか」
「うん。それなりに歴史のある貴族はベルモンテの出自を知っていて、未だ忌み嫌っているよ。成り上がりの掃除屋ごときがってね。由緒ある伯爵家の貴族ですら陰では彼らを蔑んでいる」
「侯爵家まで上り詰めてなおですか?」
セリアン様は自嘲するように笑う。
「君も知っての通り、貴族っていうのはさ、見栄と体裁で成り立っているからね。出自については何年経っても何百年経ってもうるさいんだよ」
クラウディア嬢が侯爵令嬢ながら、下級貴族に対してあれだけの尊大な態度を取るのはそれが原因なのかもしれない。力を誇示しないと威厳が保たれないのだろう。
「セリアン様は呪術や呪いを信じますか?」
「まあ、あるんじゃない」
意外だ。セリアン様なら笑い飛ばすかと思っていた。
「人の悪意っていうのは目に見えなくても時に強い力を持って、周りに伝播させたりするからね。呪術や呪いが存在していてもおかしくない。君はどう? 信じる?」
「正直、自分の目に見えないもの、証明できないものを絶対存在するとは、わたくしの口からは言い切れません。ですが、信頼できる人や信頼したい人の言葉ならわたくしは信じたいと思っていますし、信じます」
「なるほど。それはいいね」
今度は皮肉っぽくではなく、セリアン様は穏やかな笑みを浮かべた。
「ところで……お話が変わりまして一つ疑問があるのですが、よろしいでしょうか」
さっきの会話で引っかかった所を尋ねてみる。
「うん。何?」
「先ほど侍従長様は、本日もお嬢様は今おもてなしできる状態ではないとおっしゃいました。本日はではなく、本日もとはどういうことでしょうか」
「え?」
「セリアン様、前にもお見舞いに来られていたのですか?」
誤魔化される前に私は直接言葉をぶつけてみた。するとセリアン様は参ったなと髪をがしがしと掻いた。
「まあね。一応、マリアンジェラとは幼なじみだからね。容易く動けないエルベルトと違って見舞いぐらいするよ」
「ほほう。マリアンジェラとな」
しかもやはり殿下が簡単に動けないと分かっていたんだ。本当に食えない人。
「その余裕ぶった顔、止めてくれない? むかつくんだけど」
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