182 / 315
第182話 思いよ届け
しおりを挟む
ぐずぐずしていたらお昼休みが終わってしまう。できればここで説得して、一日でも早くマリアンジェラ様のお見舞いに行きたい。
私は苛立ちを隠しながら、笑みを浮かべて小首を傾げた。
「なぜ嫌なのでしょうか」
「君はまだ俺に何かを隠している。そんな君を俺が信用できるとでも? それとも」
セリアン様は私の肩を近くの棚に押しつけて逃げ場を奪うと、私の顎をつかんで仰がせた。
「それとも無理矢理、君の口を開かせてみようか?」
辺りは薄暗く、鍵を閉められた密室。うっすら笑みを浮かべるセリアン様に背筋が寒くなった。けれど、脅されたとしてもこれだけは絶対口にできないことだ。
セリアン様攻略の私の方向性は間違っていないはず。ここで負けてたまるものかとぐっと拳を握る。
「セリアン様。よろしいのでしょうか。それ以上、わたくしに近付けばあなた様はこの先、出会えるかどうか分からない大事な友人を永遠に失うことになりますが」
「……大した自信だね」
「ええ」
はったり程、大きく出ないと意味がないものはありません。
私はセリアン様の瞳を真っ直ぐに見据える。すると、彼はふっとため息をついて私の顎から手を離して身を引いた。
「君には負けたよ」
「ええ。もちろんです。勝つまでやれば決して負けることがありません」
今、私、良いこと言った!
得意げになっている私にセリアン様は目を細める。
「うわぁ。面倒臭そうな子だよね、君」
「恐れながら、そのお言葉、そっくりそのままお返しいたしましょう」
「恐れてないでしょ」
「はい」
「だよねー」
セリアン様はもう私の言葉を素直に(?)受け入れて笑った。
「じゃあ、放課後。マリアンジェラ嬢の屋敷に向かおう。校門の馬車停留場所で待っているから」
「え? ほ、本日ですか!? お約束などしなくても大丈夫なのでしょうか」
「うん。何せ、俺なら約束しなくても顔パスだよ」
おぉ!
さすがラマディエル公爵家のご令息の言葉はひと味違う。
私は感動で思わず拍手した。
「セリアン様、わざわざのご訪問に感謝申し上げます。ですが、大変申し訳ございませんが、本日もお嬢様は今おもてなしできる状態ではないので、感謝とお断りの旨を伝えてほしいとのことです」
おーい! 顔パスはどうした顔パスは!
私たちは放課後、ユリアらに説明した後、セリアン様と合流してマリアンジェラ様のお屋敷に来たわけだけれどもこのザマである。
「だってさ」
肩をすくめるセリアン様が私に振り返る。
だからと言ってここで引き下がるわけにもいかない。私は侍従長と思われる男性に視線を向けた。
「マリアンジェラ様のお体はいかがなのでしょうか」
「ありがとうございます。もう二、三日養生していれば快復されるだろうとのことです」
侍従長様は冷静沈着だ。彼の表情から何かを読み取ることは難しい。
「一目だけでもお目にかかりたいのです。マリアンジェラ様にお願いできないでしょうか」
「それは……」
「せめてマリアンジェラ様に、ロザンヌ・ダングルベールが来たとお伝え願えませんか」
「はい。ロザンヌ様がいらっしゃったことをお伝えいたしましょう」
けれど、お目通りのお願いを伝えるとは言っていない。型通りというか、融通が利かない相手だ。
「ロザンヌ嬢、仕方がない。今日は帰ろう」
セリアン様はこれ以上粘っても無駄だと踏んだらしく、私の肩に手を置いて促した。
「では。マリアンジェラ様にお見舞いのお言葉を」
「はい。承りましょ――」
私は侍従長様の横を素通りし、門扉にぎりぎり近付くと深呼吸した。そして口元に両手を当てると、門扉から遠く離れた屋敷の方向に向かって、お腹の底から思いっきり大声で叫ぶ。
「マリアンジェラ様あぁぁぁ! お大事にぃぃぃ! なさってくださあぁぁぁい!」
「ちょっ!? な、何してんの、ロザンヌ嬢!」
セリアン様は私を慌てて羽交い締めにして押さえ込んだので、私は両手を挙げてしゃがみ込むと華麗にするりと抜け出した。
「失礼いたしました。わたくしたちは帰ります。さあ、参りましょう。セリアン様」
茫然としている侍従長様に笑みを浮かべて礼を取る。
ではと身を翻してセリアン様の馬車へと向かうと、彼は私を追ってきた。
「あのねぇ。本当に何てことをしてくれるんだよ……。俺の品位と信用にもかかわるでしょ」
前髪を掻き上げながら、セリアン様は少々げんなりした様子で言った。
「わたくしの気持ちが伝わればいいなと思いまして」
「素直に言葉を伝えてもらえばいいじゃん」
「それでは芸が無いでしょう」
「こんな所で誰も芸を求めちゃいないっての」
ぶつくさ文句を言われながら馬車までやって来た。
影は私に懐いて(いるらしい)から動物を威嚇しなくなったのか、初対面の動物も怯えることがなくなったのは助かったなと考えていると。
「お待ちください、セリアン様、ロザンヌ様」
先ほどの方が追いかけて来て私たちを呼び止めた。
後ろに息の上がった女中らしき人物もいる。もしかしたら私の声を届けてくれたのかもしれない。
「お嬢様がお会いするそうです」
ね? わたくしの思いは伝わったでしょうとセリアン様に笑いかけると、彼はヨカッタネと顔を引きつらせた。
私は苛立ちを隠しながら、笑みを浮かべて小首を傾げた。
「なぜ嫌なのでしょうか」
「君はまだ俺に何かを隠している。そんな君を俺が信用できるとでも? それとも」
セリアン様は私の肩を近くの棚に押しつけて逃げ場を奪うと、私の顎をつかんで仰がせた。
「それとも無理矢理、君の口を開かせてみようか?」
辺りは薄暗く、鍵を閉められた密室。うっすら笑みを浮かべるセリアン様に背筋が寒くなった。けれど、脅されたとしてもこれだけは絶対口にできないことだ。
セリアン様攻略の私の方向性は間違っていないはず。ここで負けてたまるものかとぐっと拳を握る。
「セリアン様。よろしいのでしょうか。それ以上、わたくしに近付けばあなた様はこの先、出会えるかどうか分からない大事な友人を永遠に失うことになりますが」
「……大した自信だね」
「ええ」
はったり程、大きく出ないと意味がないものはありません。
私はセリアン様の瞳を真っ直ぐに見据える。すると、彼はふっとため息をついて私の顎から手を離して身を引いた。
「君には負けたよ」
「ええ。もちろんです。勝つまでやれば決して負けることがありません」
今、私、良いこと言った!
得意げになっている私にセリアン様は目を細める。
「うわぁ。面倒臭そうな子だよね、君」
「恐れながら、そのお言葉、そっくりそのままお返しいたしましょう」
「恐れてないでしょ」
「はい」
「だよねー」
セリアン様はもう私の言葉を素直に(?)受け入れて笑った。
「じゃあ、放課後。マリアンジェラ嬢の屋敷に向かおう。校門の馬車停留場所で待っているから」
「え? ほ、本日ですか!? お約束などしなくても大丈夫なのでしょうか」
「うん。何せ、俺なら約束しなくても顔パスだよ」
おぉ!
さすがラマディエル公爵家のご令息の言葉はひと味違う。
私は感動で思わず拍手した。
「セリアン様、わざわざのご訪問に感謝申し上げます。ですが、大変申し訳ございませんが、本日もお嬢様は今おもてなしできる状態ではないので、感謝とお断りの旨を伝えてほしいとのことです」
おーい! 顔パスはどうした顔パスは!
私たちは放課後、ユリアらに説明した後、セリアン様と合流してマリアンジェラ様のお屋敷に来たわけだけれどもこのザマである。
「だってさ」
肩をすくめるセリアン様が私に振り返る。
だからと言ってここで引き下がるわけにもいかない。私は侍従長と思われる男性に視線を向けた。
「マリアンジェラ様のお体はいかがなのでしょうか」
「ありがとうございます。もう二、三日養生していれば快復されるだろうとのことです」
侍従長様は冷静沈着だ。彼の表情から何かを読み取ることは難しい。
「一目だけでもお目にかかりたいのです。マリアンジェラ様にお願いできないでしょうか」
「それは……」
「せめてマリアンジェラ様に、ロザンヌ・ダングルベールが来たとお伝え願えませんか」
「はい。ロザンヌ様がいらっしゃったことをお伝えいたしましょう」
けれど、お目通りのお願いを伝えるとは言っていない。型通りというか、融通が利かない相手だ。
「ロザンヌ嬢、仕方がない。今日は帰ろう」
セリアン様はこれ以上粘っても無駄だと踏んだらしく、私の肩に手を置いて促した。
「では。マリアンジェラ様にお見舞いのお言葉を」
「はい。承りましょ――」
私は侍従長様の横を素通りし、門扉にぎりぎり近付くと深呼吸した。そして口元に両手を当てると、門扉から遠く離れた屋敷の方向に向かって、お腹の底から思いっきり大声で叫ぶ。
「マリアンジェラ様あぁぁぁ! お大事にぃぃぃ! なさってくださあぁぁぁい!」
「ちょっ!? な、何してんの、ロザンヌ嬢!」
セリアン様は私を慌てて羽交い締めにして押さえ込んだので、私は両手を挙げてしゃがみ込むと華麗にするりと抜け出した。
「失礼いたしました。わたくしたちは帰ります。さあ、参りましょう。セリアン様」
茫然としている侍従長様に笑みを浮かべて礼を取る。
ではと身を翻してセリアン様の馬車へと向かうと、彼は私を追ってきた。
「あのねぇ。本当に何てことをしてくれるんだよ……。俺の品位と信用にもかかわるでしょ」
前髪を掻き上げながら、セリアン様は少々げんなりした様子で言った。
「わたくしの気持ちが伝わればいいなと思いまして」
「素直に言葉を伝えてもらえばいいじゃん」
「それでは芸が無いでしょう」
「こんな所で誰も芸を求めちゃいないっての」
ぶつくさ文句を言われながら馬車までやって来た。
影は私に懐いて(いるらしい)から動物を威嚇しなくなったのか、初対面の動物も怯えることがなくなったのは助かったなと考えていると。
「お待ちください、セリアン様、ロザンヌ様」
先ほどの方が追いかけて来て私たちを呼び止めた。
後ろに息の上がった女中らしき人物もいる。もしかしたら私の声を届けてくれたのかもしれない。
「お嬢様がお会いするそうです」
ね? わたくしの思いは伝わったでしょうとセリアン様に笑いかけると、彼はヨカッタネと顔を引きつらせた。
43
あなたにおすすめの小説
王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。
いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~
椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」
私を脅して、別れを決断させた彼の両親。
彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。
私とは住む世界が違った……
別れを命じられ、私の恋が終わった。
叶わない身分差の恋だったはずが――
※R-15くらいなので※マークはありません。
※視点切り替えあり。
※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。
アンジェリーヌは一人じゃない
れもんぴーる
恋愛
義母からひどい扱いされても我慢をしているアンジェリーヌ。
メイドにも冷遇され、昔は仲が良かった婚約者にも冷たい態度をとられ居場所も逃げ場所もなくしていた。
そんな時、アルコール入りのチョコレートを口にしたアンジェリーヌの性格が激変した。
まるで別人になったように、言いたいことを言い、これまで自分に冷たかった家族や婚約者をこぎみよく切り捨てていく。
実は、アンジェリーヌの中にずっといた魂と入れ替わったのだ。
それはアンジェリーヌと一緒に生まれたが、この世に誕生できなかったアンジェリーヌの双子の魂だった。
新生アンジェリーヌはアンジェリーヌのため自由を求め、家を出る。
アンジェリーヌは満ち足りた生活を送り、愛する人にも出会うが、この身体は自分の物ではない。出来る事なら消えてしまった可哀そうな自分の半身に幸せになってもらいたい。でもそれは自分が消え、愛する人との別れの時。
果たしてアンジェリーヌの魂は戻ってくるのか。そしてその時もう一人の魂は・・・。
*タグに「平成の歌もあります」を追加しました。思っていたより歌に注目していただいたので(*´▽`*)
(なろうさま、カクヨムさまにも投稿予定です)
自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~
浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。
本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。
※2024.8.5 番外編を2話追加しました!
私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?
きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。
しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
【完結】地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる