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第184話 マリアンジェラ様のお部屋に
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先に到着して確認を取ったらしい侍従長様に通されて屋敷内に入ると、外観から想像していた通り内装も高級感あふれた素晴らしい装飾品で溢れていた。
それでいて品があるのは、ごてごてと成金風にありとあらゆるものを配置して人に自慢げに見せるためのものではなく、自分たちが日々快適に過ごし、心穏やかに鑑賞するためのものとして置かれているからだろう。
「きょろきょろしない」
「あ、はい。失礼いたしました」
セリアン様は入ったことがあるのか、周りに何の興味も示していない。あるいはご自分の家もさぞかし豪華だろうから、慣れきってしまっているのかもしれない。
応接間だろうか。侍従長様は足を止めると一つの扉を開けて手で指し示した。
「セリアン様はこちらのお部屋でお待ちくださいませ」
「え?」
当然、セリアン様は納得がいかない。眉を上げる。
「何で俺だけ?」
「お見舞いはとても感謝しておりますが、ベッドに伏す姿を殿方に見られたくありませんのでどうぞご理解くださいませとマリアンジェラ様が申しております」
やーいやーい。拒否られてやんの!
とは茶化さないで差し上げよう。お可哀想だから。
「茶化しているっつーの! 茶化す口はこの口か」
セリアン様はためらい一つなく、私の両頬をぎゅーむと引っ張った。
「痛い痛い痛いっ! 離しへぇー」
私たちのやり取りを静かに見守っていた侍従長様を前に、セリアン様はふんと鼻を鳴らして手を離した。
何てことをするのだ、まったく!
私は自分の頬を取り戻すと、手でさする。
「拒否られた女の気持ちが少しぐらいお分かりになりましたか?」
「ああ、なるほどね。分かったよ」
セリアン様は肩をすくめると素直に身を翻した。
「じゃあ、後よろしくね」
「はい。かしこまりました」
彼の背中に声をかけるとひらひらと手を振り、応接間へと向かった。
侍従長様が見送り、それではこちらへどうぞと私を誘導してくれる。
正直、マリアンジェラ様がセリアン様を面会お断りにしてくれて助かった。ご病気の原因が何にしろ、私は影を祓うつもりで手を取らなければならない。祓い終えたのかが自分では判断できないから、長く手を取ることになるだろう。となると、セリアン様に不審に思われるかもしれないからだ。
そんな事を考えながら侍従長様に付いていくと、こちらでございますと彼は足を止めた。
私はこくりと息を呑む。
侍従長様が扉をノックし、お連れいたしましたと声をかけると、内側から開放された。最初に顔を出したのは侍女と思われる女性だ。
「こちらへどうぞ」
部屋の中はその侍女の方が誘導してくださって私は奥へと進み、寝室の扉が開けられた。
「――っ」
思わず息を呑む。
天蓋付きのベッドのカーテンは開かれ、私と話しやすいようにと配慮されたのか、大きなベッドの端の方に身を寄せてくださっているマリアンジェラの姿があった。
セリアン様は、マリアンジェラ様が三日前から病欠だと言っていた。三日だと言うのに、遠目から見てもマリアンジェラ様の顔色は土気色、目の下はくまができており、頬はこけているのが見て取れる。けれど、マリアンジェラ様は私の姿を認めると儚げに微笑みかけてくださった。
「ロザンヌ様、来てくださって嬉しいわ」
「マリアンジェラ様!」
その言葉に私はベッドへと駆け寄る。
「ごめんなさいね。こんな姿で」
呼吸すら苦しいのか、掠れ声で必死に話しかけてくださる姿に胸が詰まり、シーツから出された手をただ反射的に取る。
か細い腕すら血の気を失っている。私は自分の熱を与えるように両手で握りしめると、力なくも握り返してくださった。
「いいえ。お疲れのところを無理に訪問してしまい、大変申し訳ございません」
「いえ。嬉しいの。来てくださってとても嬉しいの」
マリアンジェラ様は呼吸を整えながら必死にそう言ってくださった。
「外で叫んでいる女子学生がいると侍女たちが教えてくれて、きっとあなただと思ったわ。それで慌てて引き留めてもらったの」
ふふと小さく笑うマリアンジェラ様。
言葉は聞こえなかったようだけれど、思いは――叫ぶ姿は伝わっていたようで良かった。しかし、叫んでいる女子学生が私だと特定されてしまうとは、私は一体どういう人間だと思われているのだろうか……。
こんな時なのに少し心配してしまった。
それでいて品があるのは、ごてごてと成金風にありとあらゆるものを配置して人に自慢げに見せるためのものではなく、自分たちが日々快適に過ごし、心穏やかに鑑賞するためのものとして置かれているからだろう。
「きょろきょろしない」
「あ、はい。失礼いたしました」
セリアン様は入ったことがあるのか、周りに何の興味も示していない。あるいはご自分の家もさぞかし豪華だろうから、慣れきってしまっているのかもしれない。
応接間だろうか。侍従長様は足を止めると一つの扉を開けて手で指し示した。
「セリアン様はこちらのお部屋でお待ちくださいませ」
「え?」
当然、セリアン様は納得がいかない。眉を上げる。
「何で俺だけ?」
「お見舞いはとても感謝しておりますが、ベッドに伏す姿を殿方に見られたくありませんのでどうぞご理解くださいませとマリアンジェラ様が申しております」
やーいやーい。拒否られてやんの!
とは茶化さないで差し上げよう。お可哀想だから。
「茶化しているっつーの! 茶化す口はこの口か」
セリアン様はためらい一つなく、私の両頬をぎゅーむと引っ張った。
「痛い痛い痛いっ! 離しへぇー」
私たちのやり取りを静かに見守っていた侍従長様を前に、セリアン様はふんと鼻を鳴らして手を離した。
何てことをするのだ、まったく!
私は自分の頬を取り戻すと、手でさする。
「拒否られた女の気持ちが少しぐらいお分かりになりましたか?」
「ああ、なるほどね。分かったよ」
セリアン様は肩をすくめると素直に身を翻した。
「じゃあ、後よろしくね」
「はい。かしこまりました」
彼の背中に声をかけるとひらひらと手を振り、応接間へと向かった。
侍従長様が見送り、それではこちらへどうぞと私を誘導してくれる。
正直、マリアンジェラ様がセリアン様を面会お断りにしてくれて助かった。ご病気の原因が何にしろ、私は影を祓うつもりで手を取らなければならない。祓い終えたのかが自分では判断できないから、長く手を取ることになるだろう。となると、セリアン様に不審に思われるかもしれないからだ。
そんな事を考えながら侍従長様に付いていくと、こちらでございますと彼は足を止めた。
私はこくりと息を呑む。
侍従長様が扉をノックし、お連れいたしましたと声をかけると、内側から開放された。最初に顔を出したのは侍女と思われる女性だ。
「こちらへどうぞ」
部屋の中はその侍女の方が誘導してくださって私は奥へと進み、寝室の扉が開けられた。
「――っ」
思わず息を呑む。
天蓋付きのベッドのカーテンは開かれ、私と話しやすいようにと配慮されたのか、大きなベッドの端の方に身を寄せてくださっているマリアンジェラの姿があった。
セリアン様は、マリアンジェラ様が三日前から病欠だと言っていた。三日だと言うのに、遠目から見てもマリアンジェラ様の顔色は土気色、目の下はくまができており、頬はこけているのが見て取れる。けれど、マリアンジェラ様は私の姿を認めると儚げに微笑みかけてくださった。
「ロザンヌ様、来てくださって嬉しいわ」
「マリアンジェラ様!」
その言葉に私はベッドへと駆け寄る。
「ごめんなさいね。こんな姿で」
呼吸すら苦しいのか、掠れ声で必死に話しかけてくださる姿に胸が詰まり、シーツから出された手をただ反射的に取る。
か細い腕すら血の気を失っている。私は自分の熱を与えるように両手で握りしめると、力なくも握り返してくださった。
「いいえ。お疲れのところを無理に訪問してしまい、大変申し訳ございません」
「いえ。嬉しいの。来てくださってとても嬉しいの」
マリアンジェラ様は呼吸を整えながら必死にそう言ってくださった。
「外で叫んでいる女子学生がいると侍女たちが教えてくれて、きっとあなただと思ったわ。それで慌てて引き留めてもらったの」
ふふと小さく笑うマリアンジェラ様。
言葉は聞こえなかったようだけれど、思いは――叫ぶ姿は伝わっていたようで良かった。しかし、叫んでいる女子学生が私だと特定されてしまうとは、私は一体どういう人間だと思われているのだろうか……。
こんな時なのに少し心配してしまった。
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