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第198話 魔女として裁かれた理由
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ユリアは文章に目を通し、目星がついた所で視線を止めた。
「読み上げます。――ルイス王太子には恋人がいた。エスメラルダ・ベルロンドという女性で、かつては宮廷専属占術師であった家系でもある。後継者争いが絶えない時代を経て、占術師よりも分家である呪術師家系が優遇され、宮廷専属占術師としては免官となって以降、細々と生活していたものと思われる」
占術師と呪術師の関係も殿下がお話しされていたことと相違なさそうだ。
それにしても、ユリアが文字を頭に入れたのは七歳前後の頃のはず。子供には難しい言葉もあっただろう。なのに十三年を経てもなお、頭に残っていることは驚異的だ。もともと頭が良かったのもあるのだろうけれど、お父様からの遺言とも取れる強い意志を引き継いで生きて来たからなのだろうか。
「ルイス王太子は若気の至りで王位継承権を捨てることまで語り、二人は結婚を誓い合ったという」
続くユリアの語りに意識を戻す。
若気の至りだなんてやはり無粋な書き方だと思う。その後、ルイス王太子が彼女と別れることになったとしても、第三者が言うのは失礼すぎる。ルイス王太子には当然、情熱があったのだろうし。
思わずむっとする。
「ところが父である国王が病に伏せ、政務に支障を来すこととなった。それまで強く広い背中の父王しか見たことがなかったルイス王太子は、父王の弱った姿に王位継承することを決意する。その条件として突きつけられたのは公爵令嬢との婚姻である」
私はユリアが一度言葉を切ったところで、殿下に尋ねてみる。
「エスメラルダ様の家系は宮廷専属占術師だったわけですよね。ならばそれなりの地位を与えてもらっていたのではないのでしょうか」
「宮廷専属占術師の座を退いて久しかったはずだ。この時代は、もうほとんど影響力は持たなかったのだろう。特にルイス王太子の時代は長らく続く王族同士の争いで疲弊していた頃だ。資産力と発言力のある公爵家との婚姻で力を取り戻したかったのもあるはず」
なるほど。
私は納得するとユリアを見て頷いた。
「続けます。ルイス王太子が王位継承の条件のためにエスメラルダに別れを告げた。身勝手な理由で捨てられて怒り狂った彼女はルイス王太子に呪いを掛け、そんな国ならば無くなってしまえばいいと国に大飢饉をもたらした」
「え? 大飢饉をもたらしたと?」
今度尋ねたのは殿下だ。
自分に尋ねられたと気付いたユリアは顔を上げる。
「はい。そう書いてあります」
「そうか。その記述は今まで見たことがなかったな。それでどうやって大飢饉をもたらしたのか、書いているか?」
ユリアは再び視線を本に落として字を追う。
「エスメラルダは占術師家系でもあり、魔術師でもあり、薬師でもあった。彼女は国中の農作物に成長阻害剤をまき散らし」
「国中ですって? そんなこと、本当に可能かしら」
一人では到底無理だ。協力者がいないと。しかも大勢の協力者が必要だろう。でも国を破壊するわけだから、そんな協力者は現れないような気がする。それこそ大勢の人を動かせるだけの力を持つ者ではないと。
「続きがあります。――成長阻害剤をまき散らし、大飢饉を引き起こしたとされているが、それは真実ではないだろう。その年、異常気象により大凶作となっており、飢饉は既に引き起こっていた。しかし何ら有効な対策を取れない国に対し、国民の鬱憤は溜まっていた。そこでルイス王太子に呪いを掛けたエスメラルダを全ての元凶の魔術師として担ぎ出し、魔女裁判にかけることになった」
「だからあの絵!」
私はがたりと立ち上がって身を乗り出すと、捲って火あぶりされている絵のページを開く。
「民が彼女に向かって石を投げつけるこの描写! 鬱憤のはけ口として、民衆の格好の標的になったわけなのですね」
ルイス王太子へ呪いを掛けたという理由だけではちょっと弱い気がしていたが、それならば納得だ。
「他の国でも昔から疫病や飢饉が流行ったりした時に、無実の人に罪をなすりつけて魔女として処刑した例が幾つもあるそうです。その際、娯楽的に民衆にわざと見せつけたとも言われています」
それまで黙っていたジェラルドさんが苦い表情で続けた。
つまり王家もそれを見越して魔女裁判を利用したのだろう。
「呪いはともかく、ご自分らの無為無策までエスメラルダ様の責任にするだなんて酷い! 王家は子々孫々まで呪われて当然です!」
私はふんと鼻を鳴らして腰に手を当てると、殿下は苦笑いした。
「読み上げます。――ルイス王太子には恋人がいた。エスメラルダ・ベルロンドという女性で、かつては宮廷専属占術師であった家系でもある。後継者争いが絶えない時代を経て、占術師よりも分家である呪術師家系が優遇され、宮廷専属占術師としては免官となって以降、細々と生活していたものと思われる」
占術師と呪術師の関係も殿下がお話しされていたことと相違なさそうだ。
それにしても、ユリアが文字を頭に入れたのは七歳前後の頃のはず。子供には難しい言葉もあっただろう。なのに十三年を経てもなお、頭に残っていることは驚異的だ。もともと頭が良かったのもあるのだろうけれど、お父様からの遺言とも取れる強い意志を引き継いで生きて来たからなのだろうか。
「ルイス王太子は若気の至りで王位継承権を捨てることまで語り、二人は結婚を誓い合ったという」
続くユリアの語りに意識を戻す。
若気の至りだなんてやはり無粋な書き方だと思う。その後、ルイス王太子が彼女と別れることになったとしても、第三者が言うのは失礼すぎる。ルイス王太子には当然、情熱があったのだろうし。
思わずむっとする。
「ところが父である国王が病に伏せ、政務に支障を来すこととなった。それまで強く広い背中の父王しか見たことがなかったルイス王太子は、父王の弱った姿に王位継承することを決意する。その条件として突きつけられたのは公爵令嬢との婚姻である」
私はユリアが一度言葉を切ったところで、殿下に尋ねてみる。
「エスメラルダ様の家系は宮廷専属占術師だったわけですよね。ならばそれなりの地位を与えてもらっていたのではないのでしょうか」
「宮廷専属占術師の座を退いて久しかったはずだ。この時代は、もうほとんど影響力は持たなかったのだろう。特にルイス王太子の時代は長らく続く王族同士の争いで疲弊していた頃だ。資産力と発言力のある公爵家との婚姻で力を取り戻したかったのもあるはず」
なるほど。
私は納得するとユリアを見て頷いた。
「続けます。ルイス王太子が王位継承の条件のためにエスメラルダに別れを告げた。身勝手な理由で捨てられて怒り狂った彼女はルイス王太子に呪いを掛け、そんな国ならば無くなってしまえばいいと国に大飢饉をもたらした」
「え? 大飢饉をもたらしたと?」
今度尋ねたのは殿下だ。
自分に尋ねられたと気付いたユリアは顔を上げる。
「はい。そう書いてあります」
「そうか。その記述は今まで見たことがなかったな。それでどうやって大飢饉をもたらしたのか、書いているか?」
ユリアは再び視線を本に落として字を追う。
「エスメラルダは占術師家系でもあり、魔術師でもあり、薬師でもあった。彼女は国中の農作物に成長阻害剤をまき散らし」
「国中ですって? そんなこと、本当に可能かしら」
一人では到底無理だ。協力者がいないと。しかも大勢の協力者が必要だろう。でも国を破壊するわけだから、そんな協力者は現れないような気がする。それこそ大勢の人を動かせるだけの力を持つ者ではないと。
「続きがあります。――成長阻害剤をまき散らし、大飢饉を引き起こしたとされているが、それは真実ではないだろう。その年、異常気象により大凶作となっており、飢饉は既に引き起こっていた。しかし何ら有効な対策を取れない国に対し、国民の鬱憤は溜まっていた。そこでルイス王太子に呪いを掛けたエスメラルダを全ての元凶の魔術師として担ぎ出し、魔女裁判にかけることになった」
「だからあの絵!」
私はがたりと立ち上がって身を乗り出すと、捲って火あぶりされている絵のページを開く。
「民が彼女に向かって石を投げつけるこの描写! 鬱憤のはけ口として、民衆の格好の標的になったわけなのですね」
ルイス王太子へ呪いを掛けたという理由だけではちょっと弱い気がしていたが、それならば納得だ。
「他の国でも昔から疫病や飢饉が流行ったりした時に、無実の人に罪をなすりつけて魔女として処刑した例が幾つもあるそうです。その際、娯楽的に民衆にわざと見せつけたとも言われています」
それまで黙っていたジェラルドさんが苦い表情で続けた。
つまり王家もそれを見越して魔女裁判を利用したのだろう。
「呪いはともかく、ご自分らの無為無策までエスメラルダ様の責任にするだなんて酷い! 王家は子々孫々まで呪われて当然です!」
私はふんと鼻を鳴らして腰に手を当てると、殿下は苦笑いした。
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