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第199話 私から申し上げられることは
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殿下は落ち着けと私に着座するように指示するので、私は仕方なく座った。
すると殿下はユリアに尋ねる。
「とは言え、ルイス王太子に呪いを掛けたのは間違いなく彼女なんだな?」
「少なくともこの史書では、呪いを掛けたエスメラルダを全ての元凶の魔術師として、と書かれています」
飢饉が起こり、国民の鬱憤が溜まっていたところ、王太子に呪いを掛けたエスメラルダ様の登場でこれ幸いと全ての責任を押しつけた、ということね。
「そういえば殿下は、エスメラルダ様が刑を執行される時に憎しみが増して子々孫々に渡るまでの呪いを掛けたとおっしゃっていた気がするのですが、この歴史書によると飢饉の責任を押しつけたからとも思えますね」
よく考えてみれば、王位第一後継者であるルイス殿下に呪いを掛けた時点で、見つかれば実刑は免れないと分かっていたはず。だから刑が執行されたことへの怒りや憎しみではなくて、飢饉の元凶として罪をなすりつけられたからだと考えた方が自然だ。ということは。
「やっぱり王家の自業自得ってことでいいわね」
「口に出ているぞ。――翻訳本はあくまでも簡略化されたものではあるが、飢饉の責務を押しつけていたと書かれていなかったのは……意図的なものだろうな」
「そうですか」
文字を現在のものから新しい文字へと移行していく際、翻訳本にはわざと記載しなかったのか。王家にとっては完全なる黒歴史だから。
「ユリアさん。先ほど、家宅捜索で大量の証拠品が発見されたとおっしゃっていましたが、それについては何か書かれていますか?」
ジェラルドさんが尋ねると、ユリアはさらに読み進めて答えを出す。
「薬師として営んでいた店からは大量の薬物が発見された。これが飢饉をもたらした薬物の証拠品として押収された、とあります」
「薬師様でいらっしゃったのなら、店に薬があるのは当然じゃないの。成長阻害剤も雑草駆除のために販売していたのではないの? まるで魔女として選ばれるべくして選ばれたみたいね」
王家としては自ら証拠を立証してくれて、願ったり叶ったりといったところだろう。
「あ、でも呪いを掛けたのはその方で間違いないの? 呪いを掛けた証拠はあるの?」
「魔術に関する資料や大量の動植物の調合素材が押収されたとあります」
「そう。それも王家によるでっち上げだったりするかもしれないわね。あ、すみません口から出ました」
指摘される前に謝っておく。
「素直すぎる……」
ぼやく殿下を無視して私はユリアに尋ねる。
「そういえば。魔術に関する資料が押収されたのなら、ルイス王太子殿下に掛けられた呪いも何か分かっているのではないの?」
ユリアは本に視線を落とし、字を追いながら読み上げる。
「魔術は複雑な術式で成り立っており、一般の者には読み解くことができず、その資料は呪術師家系であるベルモンテに渡り、呪いの解明に乗り出した」
「なるほど。術式の資料はベルモンテ一族の手の中というわけなのね。けれど影を消すことはできても、四百年も経った今なお、王家に伝わる呪い自体は解明できていない。エスメラルダ様の魔術は相当凄いということね」
そういう凄い人を相手にしなければいけないんだ。……でも、影さえ消すことができれば殿下は普通の日常を送ることができるのだから、呪いとしては不完全のような気がする。実際、私と出会う前はベルモンテ一族に影を祓ってもらいながらの生活をしてきたわけだし。まあ、体に負担はかかっているとおっしゃっているけれど。
「殿下、過去に影に取り憑かれて気狂いを起こした方がいるとおっしゃいましたね」
「ああ」
「影のせいでご逝去された方はいらっしゃったのですか」
「いや。私が調べた限りはいなかった」
「そうですか」
子々孫々まで続く呪いを掛けている割には死に至るほどではない。呪いの効力自体はさほど強いものではないのかな?
「影は命を奪う程のものではないということですよね。なぜそんな中途半端な呪いを掛けるのでしょう。もっと強い呪いでもいいのに」
納得がいかないと私は渋い表情を作る。
「強い呪いでもいいって……勘弁してくれ。それに影に取り憑かれると相当つらいぞ。日々、取り憑かれている当人の私が言うのだから間違いない」
不満そうに呟く殿下の横で、ユリアは口を開いた。
「復讐ならば一息に仕留めるよりも、じわじわ時間をかけて苦しめ続ける方が効果的だと思われます」
「なるほど。間違いないわ。それなら納得。すっきりした!」
「私はその答えに至る君たちが恐ろしいのだが……。どう思う。ジェラルド」
あっさり答えを出したユリアと、ぱっと表情を明るくした私を見て、げんなりした様子の殿下がジェラルドさんに話を振る。
「え!? そ、そうですね。ええっと。私から申し上げられることは」
皆の視線が集中したジェラルドさんは困惑の笑顔を浮かべた。
「……特にございません」
すると殿下はユリアに尋ねる。
「とは言え、ルイス王太子に呪いを掛けたのは間違いなく彼女なんだな?」
「少なくともこの史書では、呪いを掛けたエスメラルダを全ての元凶の魔術師として、と書かれています」
飢饉が起こり、国民の鬱憤が溜まっていたところ、王太子に呪いを掛けたエスメラルダ様の登場でこれ幸いと全ての責任を押しつけた、ということね。
「そういえば殿下は、エスメラルダ様が刑を執行される時に憎しみが増して子々孫々に渡るまでの呪いを掛けたとおっしゃっていた気がするのですが、この歴史書によると飢饉の責任を押しつけたからとも思えますね」
よく考えてみれば、王位第一後継者であるルイス殿下に呪いを掛けた時点で、見つかれば実刑は免れないと分かっていたはず。だから刑が執行されたことへの怒りや憎しみではなくて、飢饉の元凶として罪をなすりつけられたからだと考えた方が自然だ。ということは。
「やっぱり王家の自業自得ってことでいいわね」
「口に出ているぞ。――翻訳本はあくまでも簡略化されたものではあるが、飢饉の責務を押しつけていたと書かれていなかったのは……意図的なものだろうな」
「そうですか」
文字を現在のものから新しい文字へと移行していく際、翻訳本にはわざと記載しなかったのか。王家にとっては完全なる黒歴史だから。
「ユリアさん。先ほど、家宅捜索で大量の証拠品が発見されたとおっしゃっていましたが、それについては何か書かれていますか?」
ジェラルドさんが尋ねると、ユリアはさらに読み進めて答えを出す。
「薬師として営んでいた店からは大量の薬物が発見された。これが飢饉をもたらした薬物の証拠品として押収された、とあります」
「薬師様でいらっしゃったのなら、店に薬があるのは当然じゃないの。成長阻害剤も雑草駆除のために販売していたのではないの? まるで魔女として選ばれるべくして選ばれたみたいね」
王家としては自ら証拠を立証してくれて、願ったり叶ったりといったところだろう。
「あ、でも呪いを掛けたのはその方で間違いないの? 呪いを掛けた証拠はあるの?」
「魔術に関する資料や大量の動植物の調合素材が押収されたとあります」
「そう。それも王家によるでっち上げだったりするかもしれないわね。あ、すみません口から出ました」
指摘される前に謝っておく。
「素直すぎる……」
ぼやく殿下を無視して私はユリアに尋ねる。
「そういえば。魔術に関する資料が押収されたのなら、ルイス王太子殿下に掛けられた呪いも何か分かっているのではないの?」
ユリアは本に視線を落とし、字を追いながら読み上げる。
「魔術は複雑な術式で成り立っており、一般の者には読み解くことができず、その資料は呪術師家系であるベルモンテに渡り、呪いの解明に乗り出した」
「なるほど。術式の資料はベルモンテ一族の手の中というわけなのね。けれど影を消すことはできても、四百年も経った今なお、王家に伝わる呪い自体は解明できていない。エスメラルダ様の魔術は相当凄いということね」
そういう凄い人を相手にしなければいけないんだ。……でも、影さえ消すことができれば殿下は普通の日常を送ることができるのだから、呪いとしては不完全のような気がする。実際、私と出会う前はベルモンテ一族に影を祓ってもらいながらの生活をしてきたわけだし。まあ、体に負担はかかっているとおっしゃっているけれど。
「殿下、過去に影に取り憑かれて気狂いを起こした方がいるとおっしゃいましたね」
「ああ」
「影のせいでご逝去された方はいらっしゃったのですか」
「いや。私が調べた限りはいなかった」
「そうですか」
子々孫々まで続く呪いを掛けている割には死に至るほどではない。呪いの効力自体はさほど強いものではないのかな?
「影は命を奪う程のものではないということですよね。なぜそんな中途半端な呪いを掛けるのでしょう。もっと強い呪いでもいいのに」
納得がいかないと私は渋い表情を作る。
「強い呪いでもいいって……勘弁してくれ。それに影に取り憑かれると相当つらいぞ。日々、取り憑かれている当人の私が言うのだから間違いない」
不満そうに呟く殿下の横で、ユリアは口を開いた。
「復讐ならば一息に仕留めるよりも、じわじわ時間をかけて苦しめ続ける方が効果的だと思われます」
「なるほど。間違いないわ。それなら納得。すっきりした!」
「私はその答えに至る君たちが恐ろしいのだが……。どう思う。ジェラルド」
あっさり答えを出したユリアと、ぱっと表情を明るくした私を見て、げんなりした様子の殿下がジェラルドさんに話を振る。
「え!? そ、そうですね。ええっと。私から申し上げられることは」
皆の視線が集中したジェラルドさんは困惑の笑顔を浮かべた。
「……特にございません」
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