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第204話 男心は分からない
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「さて。そろそろ私たちも出るか」
「はい」
話を終わらせて私たちは席から立ち上がる。
「君は部屋に戻ると言っていたな」
「はい。とても気疲れしましたので、眠くなりました」
「……おかしいな。本を解読しながら読み上げてくれていたのは、君の侍女だったはずだが?」
「人から見えぬ所で、頭をたくさん使ったのでございます」
ジェラルドさんが持つ騎士規程書の箱から失われた言語で書かれた原文が出てきたり、それを解読できるユリアの能力とか、彼女のさらに遡った過去が出て来たりと、一度に色々起こりすぎた。
頭がいっぱいいっぱいで、いくつかの情報は押し出されて頭から出ていったに違いない。
「それが本当だったとしたら、お疲れ様だったな」
しれっとした顔で答える私に殿下は苦笑いした。
「ありがとう存じます。ところで殿下はこの後どうなさいますか」
「私は父上に、陛下に会ってお話を伺ってくる。早ければ今日の夜には報告できると思う」
「そうですか。……お願いいたします」
自分で条件をつけたくせに、何となく気まずい思いをしながら私は軽く目礼した。
「では、わたくしはこれで」
「ああ」
陛下は執務室にいらっしゃるということで、殿下をそこまで送り届けた。
何だかばつが悪そうな殿下の表情に、私は首を傾げる。
「どうかなさったのですか」
「いや。女性に、しかも年下の君に部屋へ送り届けてもらう不甲斐なさをちょっとな」
「え? そんな些細な事ですか?」
「そんな些細な事って。君にとってはそうかもしれないが、男として……」
言葉を濁しつつ、何やらぶつぶつ呟く殿下。
私は両手を広げて自分を大きく見せる。
「殿下。よくご覧くださいませ」
何なら一回転して、スカートを広げて礼を取ってみせた。
「え?」
「わたくし、殿下の侍女でございましてよ。殿下が足を運ばれる所に同行するのは当然のことでございます」
「ああ、なるほど。私の侍女か……」
なぜか沈んだ殿下を元気にしたいと思ったのに、私の言動は空回りしたようだった。
殿下はさらに苦い表情になったかと思うと、様子を窺う私に対してわずかな笑みを見せるばかりだ。
「殿下?」
「いや。ありがとう。もう君は戻ってくれていい」
「はい。では失礼いたします」
殿下の様子が気になったものの、下がれと言われてしまったので、挨拶を済ませると私は身を翻した。
「男性って何を考えているか分からないわ。だってわたくしがしたことは当然の事で、男性の誇りを傷つけるようなものではありませんでしたよ。ねえ、あなたはどう思いますか?」
「……何でここに来て愚痴っているんですか、ロザンヌ様」
視線を合わせるためにしゃがみこんで尋ねてみると、庭師のユアンさんはうんざりしたような顔を見せた。
せっかくの美形が台無し――になっていないところが羨ましい。
「だってわたくし、男性のお友達がおりませんもの」
私は頬に手を置いて切なそうにため息をついた。
「いや。だからって何で俺の所に来るんです」
「ユリアのお友達はわたくしのお友達ですから」
「そうですか。でも俺は、ユリアのお友達は俺のお友達ではありませんから」
「まあまあ。そう、ケチくさいこと言わないで」
「ケ、ケチくさい!?」
しゃがみこんで足が痺れてきた私は立ち上がり、スカートについた砂埃を払うと辺りを見回す。
「ここはいつ来ても素晴らしいですね。一本一本、愛情いっぱい注いでもらって育っているのが分かります」
「……どうも」
ユアンさんは私にならって立ち上がった。
「それで? 何でしたっけ?」
「あら。わたくしの相談に乗ってくださるの?」
「話を聞かなきゃ、いつまでもここに居座る気だろうし」
「そんなこと……ありますけど」
やっぱりあるんだーとユアンさんは顔を引きつらせる。
「まあ、いいや。それで男の気持ちが分からないって話でしたっけ。俺から言わせると、分からせてたまるか、というところですけど」
「どういう意味?」
「男は見栄を張りたい生き物なんですよ。女性の前で自分の弱みなんて見せたくないってことです」
殿下の弱みって、影の引き寄せ体質のことよね? 私は元々その弱みを解消するために召し上げられたはずだけれど。
「でも、わたくしはその方の弱みを初めから知っているのですが」
「だとしたら、その人のあなたに対する気持ちに変化があったんじゃないんですか」
「どんな風に?」
「自分の弱みを見せたくないという気持ちにですよ」
「弱みを……」
つまり私に頼りたくないと思われたということ? でも殿下は先ほど、君を失うことだけはしたくないとおっしゃってくださって。それは必要とされている、ということ……でいいのよね? え? 違う? 違うの?
自問すればするほど分からなくなり。
「ああぁぁ。分かりません! やっぱり男心など理解できません」
白けた視線を流すユアンさんを前に私は頭を抱えた。
「はい」
話を終わらせて私たちは席から立ち上がる。
「君は部屋に戻ると言っていたな」
「はい。とても気疲れしましたので、眠くなりました」
「……おかしいな。本を解読しながら読み上げてくれていたのは、君の侍女だったはずだが?」
「人から見えぬ所で、頭をたくさん使ったのでございます」
ジェラルドさんが持つ騎士規程書の箱から失われた言語で書かれた原文が出てきたり、それを解読できるユリアの能力とか、彼女のさらに遡った過去が出て来たりと、一度に色々起こりすぎた。
頭がいっぱいいっぱいで、いくつかの情報は押し出されて頭から出ていったに違いない。
「それが本当だったとしたら、お疲れ様だったな」
しれっとした顔で答える私に殿下は苦笑いした。
「ありがとう存じます。ところで殿下はこの後どうなさいますか」
「私は父上に、陛下に会ってお話を伺ってくる。早ければ今日の夜には報告できると思う」
「そうですか。……お願いいたします」
自分で条件をつけたくせに、何となく気まずい思いをしながら私は軽く目礼した。
「では、わたくしはこれで」
「ああ」
陛下は執務室にいらっしゃるということで、殿下をそこまで送り届けた。
何だかばつが悪そうな殿下の表情に、私は首を傾げる。
「どうかなさったのですか」
「いや。女性に、しかも年下の君に部屋へ送り届けてもらう不甲斐なさをちょっとな」
「え? そんな些細な事ですか?」
「そんな些細な事って。君にとってはそうかもしれないが、男として……」
言葉を濁しつつ、何やらぶつぶつ呟く殿下。
私は両手を広げて自分を大きく見せる。
「殿下。よくご覧くださいませ」
何なら一回転して、スカートを広げて礼を取ってみせた。
「え?」
「わたくし、殿下の侍女でございましてよ。殿下が足を運ばれる所に同行するのは当然のことでございます」
「ああ、なるほど。私の侍女か……」
なぜか沈んだ殿下を元気にしたいと思ったのに、私の言動は空回りしたようだった。
殿下はさらに苦い表情になったかと思うと、様子を窺う私に対してわずかな笑みを見せるばかりだ。
「殿下?」
「いや。ありがとう。もう君は戻ってくれていい」
「はい。では失礼いたします」
殿下の様子が気になったものの、下がれと言われてしまったので、挨拶を済ませると私は身を翻した。
「男性って何を考えているか分からないわ。だってわたくしがしたことは当然の事で、男性の誇りを傷つけるようなものではありませんでしたよ。ねえ、あなたはどう思いますか?」
「……何でここに来て愚痴っているんですか、ロザンヌ様」
視線を合わせるためにしゃがみこんで尋ねてみると、庭師のユアンさんはうんざりしたような顔を見せた。
せっかくの美形が台無し――になっていないところが羨ましい。
「だってわたくし、男性のお友達がおりませんもの」
私は頬に手を置いて切なそうにため息をついた。
「いや。だからって何で俺の所に来るんです」
「ユリアのお友達はわたくしのお友達ですから」
「そうですか。でも俺は、ユリアのお友達は俺のお友達ではありませんから」
「まあまあ。そう、ケチくさいこと言わないで」
「ケ、ケチくさい!?」
しゃがみこんで足が痺れてきた私は立ち上がり、スカートについた砂埃を払うと辺りを見回す。
「ここはいつ来ても素晴らしいですね。一本一本、愛情いっぱい注いでもらって育っているのが分かります」
「……どうも」
ユアンさんは私にならって立ち上がった。
「それで? 何でしたっけ?」
「あら。わたくしの相談に乗ってくださるの?」
「話を聞かなきゃ、いつまでもここに居座る気だろうし」
「そんなこと……ありますけど」
やっぱりあるんだーとユアンさんは顔を引きつらせる。
「まあ、いいや。それで男の気持ちが分からないって話でしたっけ。俺から言わせると、分からせてたまるか、というところですけど」
「どういう意味?」
「男は見栄を張りたい生き物なんですよ。女性の前で自分の弱みなんて見せたくないってことです」
殿下の弱みって、影の引き寄せ体質のことよね? 私は元々その弱みを解消するために召し上げられたはずだけれど。
「でも、わたくしはその方の弱みを初めから知っているのですが」
「だとしたら、その人のあなたに対する気持ちに変化があったんじゃないんですか」
「どんな風に?」
「自分の弱みを見せたくないという気持ちにですよ」
「弱みを……」
つまり私に頼りたくないと思われたということ? でも殿下は先ほど、君を失うことだけはしたくないとおっしゃってくださって。それは必要とされている、ということ……でいいのよね? え? 違う? 違うの?
自問すればするほど分からなくなり。
「ああぁぁ。分かりません! やっぱり男心など理解できません」
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