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第220話 好きの違い
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ユリアは私が目覚めるよりも前に既に動いており、色々と準備をしていたようだ。殿下の呼びかけですぐに戻って来て、てきぱきと洗顔など朝の準備を手伝ってくれた。
「ロザンヌ様、お加減はいかがでしょうか」
「ありがとう。もう大丈夫みたい」
ベッドの中で体を動かしてみるけれど、特に頭痛があるとか、体が重いとか、ふらつきがあるとか、そういった症状はなさそうだ。
「そうですか。ですが、大事を取って一日学校をお休みになるよう、お医者様からも殿下からも申しつけられています」
その殿下はと言うと、自分の部屋に戻ってご自身も準備するとのことだった。
「そう」
学校を休む際、うちのような辺鄙な場所にある家に住む生徒も多く、長期の休みが必要な場合以外、基本的には連絡しなくて良いことになっている。
二限目までに到着しなければ自動的に休みと見なされるだろう。だから今回も連絡をすることはない。
ただ、マリエル様はお一人で大丈夫かなと思う。
彼女は私と違って、周りに敵を作ったりしているような方ではない(少しくらいは自覚がある)から大丈夫かな。それに今はグリント伯爵のご子息と親しくされているから、お昼にひとりぼっちということはないかもしれない。
「……じゃあ、そうしようかな」
「はい。それでは殿下をお呼びします」
「え? 何で?」
「ロザンヌ様の準備ができたら声をかけるよう、おっしゃいましたので」
「あ、そう」
何だろう。
あらためて労りのお言葉でもかけてくださるのかな。いや、私の方がお礼を言わなきゃね。
「じゃあ、服を普段着に着替えるわ」
「いえ。無理をさせたくないので、そのままでとのことで」
「……この服で大丈夫?」
「病人なら大丈夫です。では呼んで参ります」
「ええっ!?」
何か無責任に言っていない?
ユリアを止める間もなく、彼女が呼びに行った殿下はすぐにやって来た。一方で、彼女はまだ準備が残っていますのでと立ち去って行く。
「殿下。先ほどは失礼いたしました」
「あ、いや。そのままでいい。それよりどうだ? 体は大丈夫か?」
せめてベッドから出ようとした私を止め、殿下は側の椅子に腰掛けた。
「はい、おかげさまで大丈夫です。学校も行けないことはなさそうなのですが」
「いや。今日は一日ゆっくりした方がいい。君も疲れが出たのだろう」
「はい。そうさせていただきます。あらためまして、殿下。昨晩はわたくしに付き添っていただいたとのこと、感謝申し上げます」
まだちょっと恥ずかしい気分はありますが。
「いいや。普段は私の方が世話になっている身だからな。まあ、私は何もできなかったが」
「お気遣いだけでありがたく存じます」
苦笑いする殿下に私は笑顔で返した。
「そうか。ところでロザンヌ嬢。その……」
殿下はさっきとは打って変わって、歯切れの悪そうな口調に変わる。
「はい。何でしょうか」
「その、もしかして、君の熱は。昨日のことが……原因だろうか」
「はい? ――はい!?」
何で熱の責任が殿下にと一瞬だけ思ったが、瞬く間に昨日の出来事の記憶が蘇ってきた。
昨日は何とか平静を保ったものの、熱を出した翌日の病み上がり、かつ唐突に話をぶり返されると為す術なく、ただ意味も分からない言葉を並べ立てて動揺するばかりだ。
「そうか」
殿下は私の心情を汲み取ったのか、視線を一度逸らし、深く重く息を落とす。
「ありがとう。君の気持ちは嬉しい」
「は、はい」
「だが、私の気持ちは君の気持ちとは違うかもしれない。それでも……答えていいか?」
私の想いに対する返答を告げようとする殿下は、私を思いやってか、ひどく重苦しい表情だ。
ああ、そっか。
きっとこれが好きの違いってやつなんだ。人を傷つけたくないのに、傷つけなければならない表情。
そんな殿下を見ていられなくて私は目を伏せ、後悔と心の痛みでベッドのシーツを強く握りしめる。
殿下にこんな表情をさせたのは私のせい。あんなことを口走らなければ、互いに悪態をつきながらも、ずっとずっと良好な関係のままでいられたはず。なのに、どうして私は……言ってしまったのだろう。
後悔の念ばかり起こる。けれど、私が黙ったままでは殿下はさらにお困りになるだろう。だから私は。
「はい。どうぞお願いいたします」
覚悟を決めて目を見開いたその時。
「え、でっ」
気付けば殿下の端整な顔がすぐ間近に迫っていたかと思うと、自分の唇に……熱いものが触れた。
ん? え? は!? ――は、はええぇぇっ!?
「ロザンヌ様、白湯をお持ちしま……」
ユリアに後で聞いた話では、一方は真っ赤になり、もう一方は青くなっている二体の屍がベッドに転がっているように見えたそうだ。
「ロザンヌ様、お加減はいかがでしょうか」
「ありがとう。もう大丈夫みたい」
ベッドの中で体を動かしてみるけれど、特に頭痛があるとか、体が重いとか、ふらつきがあるとか、そういった症状はなさそうだ。
「そうですか。ですが、大事を取って一日学校をお休みになるよう、お医者様からも殿下からも申しつけられています」
その殿下はと言うと、自分の部屋に戻ってご自身も準備するとのことだった。
「そう」
学校を休む際、うちのような辺鄙な場所にある家に住む生徒も多く、長期の休みが必要な場合以外、基本的には連絡しなくて良いことになっている。
二限目までに到着しなければ自動的に休みと見なされるだろう。だから今回も連絡をすることはない。
ただ、マリエル様はお一人で大丈夫かなと思う。
彼女は私と違って、周りに敵を作ったりしているような方ではない(少しくらいは自覚がある)から大丈夫かな。それに今はグリント伯爵のご子息と親しくされているから、お昼にひとりぼっちということはないかもしれない。
「……じゃあ、そうしようかな」
「はい。それでは殿下をお呼びします」
「え? 何で?」
「ロザンヌ様の準備ができたら声をかけるよう、おっしゃいましたので」
「あ、そう」
何だろう。
あらためて労りのお言葉でもかけてくださるのかな。いや、私の方がお礼を言わなきゃね。
「じゃあ、服を普段着に着替えるわ」
「いえ。無理をさせたくないので、そのままでとのことで」
「……この服で大丈夫?」
「病人なら大丈夫です。では呼んで参ります」
「ええっ!?」
何か無責任に言っていない?
ユリアを止める間もなく、彼女が呼びに行った殿下はすぐにやって来た。一方で、彼女はまだ準備が残っていますのでと立ち去って行く。
「殿下。先ほどは失礼いたしました」
「あ、いや。そのままでいい。それよりどうだ? 体は大丈夫か?」
せめてベッドから出ようとした私を止め、殿下は側の椅子に腰掛けた。
「はい、おかげさまで大丈夫です。学校も行けないことはなさそうなのですが」
「いや。今日は一日ゆっくりした方がいい。君も疲れが出たのだろう」
「はい。そうさせていただきます。あらためまして、殿下。昨晩はわたくしに付き添っていただいたとのこと、感謝申し上げます」
まだちょっと恥ずかしい気分はありますが。
「いいや。普段は私の方が世話になっている身だからな。まあ、私は何もできなかったが」
「お気遣いだけでありがたく存じます」
苦笑いする殿下に私は笑顔で返した。
「そうか。ところでロザンヌ嬢。その……」
殿下はさっきとは打って変わって、歯切れの悪そうな口調に変わる。
「はい。何でしょうか」
「その、もしかして、君の熱は。昨日のことが……原因だろうか」
「はい? ――はい!?」
何で熱の責任が殿下にと一瞬だけ思ったが、瞬く間に昨日の出来事の記憶が蘇ってきた。
昨日は何とか平静を保ったものの、熱を出した翌日の病み上がり、かつ唐突に話をぶり返されると為す術なく、ただ意味も分からない言葉を並べ立てて動揺するばかりだ。
「そうか」
殿下は私の心情を汲み取ったのか、視線を一度逸らし、深く重く息を落とす。
「ありがとう。君の気持ちは嬉しい」
「は、はい」
「だが、私の気持ちは君の気持ちとは違うかもしれない。それでも……答えていいか?」
私の想いに対する返答を告げようとする殿下は、私を思いやってか、ひどく重苦しい表情だ。
ああ、そっか。
きっとこれが好きの違いってやつなんだ。人を傷つけたくないのに、傷つけなければならない表情。
そんな殿下を見ていられなくて私は目を伏せ、後悔と心の痛みでベッドのシーツを強く握りしめる。
殿下にこんな表情をさせたのは私のせい。あんなことを口走らなければ、互いに悪態をつきながらも、ずっとずっと良好な関係のままでいられたはず。なのに、どうして私は……言ってしまったのだろう。
後悔の念ばかり起こる。けれど、私が黙ったままでは殿下はさらにお困りになるだろう。だから私は。
「はい。どうぞお願いいたします」
覚悟を決めて目を見開いたその時。
「え、でっ」
気付けば殿下の端整な顔がすぐ間近に迫っていたかと思うと、自分の唇に……熱いものが触れた。
ん? え? は!? ――は、はええぇぇっ!?
「ロザンヌ様、白湯をお持ちしま……」
ユリアに後で聞いた話では、一方は真っ赤になり、もう一方は青くなっている二体の屍がベッドに転がっているように見えたそうだ。
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