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第221話 白湯をお持ちします
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ユリアに大丈夫ですかと声をかけられて、正気を取り戻した。一方、殿下も体調が戻ったようだ。身を起こされた。
「ロザンヌ様、殿下。お体の調子が悪いのでしょうか。お医者様をお呼びいたしましょうか」
それぞれ赤と青の顔色に変えて伏せていた私たちの姿を発見してしまったユリアは尋ねてきた。
「いいえ、大丈夫。もう体調が戻ったわ」
「ああ。問題ない」
殿下も同様に頷かれたのを見て、私はユリアにお願いをする。
「それよりユリア。白湯を持って来てくれるかしら?」
「白湯ならここに……かしこまりました」
少し席を外してくれるかしらという意味を読み取ってくれたらしい。
ユリアはそのまま立ち去った。
私は彼女の背中を見送った後、殿下に視線を向ける。
まだ直接視線を合わせるのは気恥ずかしいので、若干外してはいるけれど。
「あの殿下、先ほどのことですが」
「ああ」
「……どういうおつもりでしょうか」
私は多少、咎めるような口調で尋ねると、殿下は不甲斐なさそうにため息をついた。
「そうだな。格好がつかなくて悪かった」
「え? 格好?」
あ、倒れてしまったことについて?
「あ、いえ。格好の問題ではなく。そ、その。く、口づ――わたくしにな、なさったことについてです!」
「私の返答についてか?」
「へ、返答? 返答だったのですか? どうしてあれが返答になるのですか! わたくしの気持ちをお察しなさったのでしょう。わたくしとは好きの意味が違うかもしれないとおっしゃったではありませんか」
恥ずかしさでつい詰問口調になってしまう。
「それは、君とは好きの熱量が違うかもしれないと思ったからだ」
「好きの熱量?」
好きに熱量があるの? ああ。好きと大好きってことかな?
殿下は視線を逸らして少し気まずそうに頬を掻いていたが、私を真っ直ぐに見つめてきた。
真剣な瞳にどきりと胸が高まる。
「君は側にいるだけで満足かもしれないが、私は君に触れたい、抱きしめたい、口づ――」
「わーわーわーっ! 分かりました分かりました分かりました!」
心臓の鼓動の速さが尋常じゃない!
私は殿下の言葉を最後まで聞いていられなくて、手振り身振りと共に大声で遮った。
「落ち着け。また熱が出るぞ」
興奮させた元凶が私をたしなめる。
私は深呼吸を繰り返して何とか呼吸を整え、気持ちを落ち着かせたところで、再び文句を言うために口を開く。
「あ、あのですね。でも。何もその口――行動に移さなくても、言葉でお伝えいただいたら」
「君が目を伏せたから、言葉よりも行動してほしいのかと思って」
え? 私のせいだったの? た、確かに私は目を閉じましたが。――え? キ、キス待ち顔に見えたってこと!?
……いやいやいやいや。羞恥ではなくて、覚悟を決めた苦悶の表情だったはず。
「あ、あれはですね。殿下のお返事が怖くて目をつぶってしまっただけなのです!」
「え? そう、だったのか? そうか……。あ、いや」
殿下はこほんと咳払いした。
「だが、おかげで私の気持ちを誤解なく分かってもらえたかと思う」
「は、はい。ですが、何が何だか」
びっくりして思考が完全停止してしまったから。
「それにその。お言葉も頂いておりませんし」
「ああ、そうか」
殿下は前髪をうるさそうに掻き上げると、訝しげな眼差しを私に向ける。
「念のために確認するが、君こそ、慕うの意味は敬愛の意味ではないだろうな」
「も、もちろんです。わたくしは殿下に敬意を抱いたことはございません!」
「いや。敬意は抱こうか……」
拳を作って力説する私に殿下は顔を引きつらせて笑った。
「あ! す、少しくらいは持っております!」
「それで取り繕っているつもりかな」
慌てて言い訳する私をじろりと睨み付けてくる殿下と視線を合わせる。そしてどちらともなくぷっと吹き出した。
何とも私たちらしい会話だ。でもそのおかげで肩の力が抜けたように思う。
ひとしきり笑って雰囲気が和やかになった頃。
「ロザンヌ嬢」
「は、はい!」
殿下の表情に笑みはなく、真剣な眼差しに変わっている。
思わず身を正した。
「改めて君に思いを伝えたいと思う。――私はロザンヌ嬢、君のことが好きだ」
歯が浮くような台詞でもなく、飾り気も情緒も何もない端的な言葉だけれど、殿下の熱っぽく揺らぐ瞳と共に心臓に突き刺さり、言葉が詰まる。
「わ……わ、わたくしも」
頬に集まる熱がさらに頭まで上昇しそうで、一度手をぎゅっと握る。
「殿下をお、お慕いしております」
「……ありがとう」
殿下はふっと相好を崩し、ベッドに手を置いて身を乗り出すとこちらへ迫ってきた。
え。え? え!?
ち、近い! 顔近い!
「で、殿下。わたくしに近付きますと、また」
恥ずかしいやら、焦る気持ちやらで、先ほどの二の舞ですと殿下を牽制しようとするが。
「ロザンヌ」
かすれた低い声で囁かれて身が硬直する。
「で、殿下」
「ロザンヌ――好きだ」
再度囁かれた熱い吐息がかかり、唇が触れるかと思われたその時。
――コンコンッ。
軽いノックの後、扉を開けられ。
「ロザンヌ様、白湯をお持ち――殿下の白湯もお持ちします」
お盆に白湯を用意していたユリアは、何事もなかったかのように顔色一つ変えず無表情で扉を閉めた。
いえ、ユリア。
もう白湯はいいです……。
「ロザンヌ様、殿下。お体の調子が悪いのでしょうか。お医者様をお呼びいたしましょうか」
それぞれ赤と青の顔色に変えて伏せていた私たちの姿を発見してしまったユリアは尋ねてきた。
「いいえ、大丈夫。もう体調が戻ったわ」
「ああ。問題ない」
殿下も同様に頷かれたのを見て、私はユリアにお願いをする。
「それよりユリア。白湯を持って来てくれるかしら?」
「白湯ならここに……かしこまりました」
少し席を外してくれるかしらという意味を読み取ってくれたらしい。
ユリアはそのまま立ち去った。
私は彼女の背中を見送った後、殿下に視線を向ける。
まだ直接視線を合わせるのは気恥ずかしいので、若干外してはいるけれど。
「あの殿下、先ほどのことですが」
「ああ」
「……どういうおつもりでしょうか」
私は多少、咎めるような口調で尋ねると、殿下は不甲斐なさそうにため息をついた。
「そうだな。格好がつかなくて悪かった」
「え? 格好?」
あ、倒れてしまったことについて?
「あ、いえ。格好の問題ではなく。そ、その。く、口づ――わたくしにな、なさったことについてです!」
「私の返答についてか?」
「へ、返答? 返答だったのですか? どうしてあれが返答になるのですか! わたくしの気持ちをお察しなさったのでしょう。わたくしとは好きの意味が違うかもしれないとおっしゃったではありませんか」
恥ずかしさでつい詰問口調になってしまう。
「それは、君とは好きの熱量が違うかもしれないと思ったからだ」
「好きの熱量?」
好きに熱量があるの? ああ。好きと大好きってことかな?
殿下は視線を逸らして少し気まずそうに頬を掻いていたが、私を真っ直ぐに見つめてきた。
真剣な瞳にどきりと胸が高まる。
「君は側にいるだけで満足かもしれないが、私は君に触れたい、抱きしめたい、口づ――」
「わーわーわーっ! 分かりました分かりました分かりました!」
心臓の鼓動の速さが尋常じゃない!
私は殿下の言葉を最後まで聞いていられなくて、手振り身振りと共に大声で遮った。
「落ち着け。また熱が出るぞ」
興奮させた元凶が私をたしなめる。
私は深呼吸を繰り返して何とか呼吸を整え、気持ちを落ち着かせたところで、再び文句を言うために口を開く。
「あ、あのですね。でも。何もその口――行動に移さなくても、言葉でお伝えいただいたら」
「君が目を伏せたから、言葉よりも行動してほしいのかと思って」
え? 私のせいだったの? た、確かに私は目を閉じましたが。――え? キ、キス待ち顔に見えたってこと!?
……いやいやいやいや。羞恥ではなくて、覚悟を決めた苦悶の表情だったはず。
「あ、あれはですね。殿下のお返事が怖くて目をつぶってしまっただけなのです!」
「え? そう、だったのか? そうか……。あ、いや」
殿下はこほんと咳払いした。
「だが、おかげで私の気持ちを誤解なく分かってもらえたかと思う」
「は、はい。ですが、何が何だか」
びっくりして思考が完全停止してしまったから。
「それにその。お言葉も頂いておりませんし」
「ああ、そうか」
殿下は前髪をうるさそうに掻き上げると、訝しげな眼差しを私に向ける。
「念のために確認するが、君こそ、慕うの意味は敬愛の意味ではないだろうな」
「も、もちろんです。わたくしは殿下に敬意を抱いたことはございません!」
「いや。敬意は抱こうか……」
拳を作って力説する私に殿下は顔を引きつらせて笑った。
「あ! す、少しくらいは持っております!」
「それで取り繕っているつもりかな」
慌てて言い訳する私をじろりと睨み付けてくる殿下と視線を合わせる。そしてどちらともなくぷっと吹き出した。
何とも私たちらしい会話だ。でもそのおかげで肩の力が抜けたように思う。
ひとしきり笑って雰囲気が和やかになった頃。
「ロザンヌ嬢」
「は、はい!」
殿下の表情に笑みはなく、真剣な眼差しに変わっている。
思わず身を正した。
「改めて君に思いを伝えたいと思う。――私はロザンヌ嬢、君のことが好きだ」
歯が浮くような台詞でもなく、飾り気も情緒も何もない端的な言葉だけれど、殿下の熱っぽく揺らぐ瞳と共に心臓に突き刺さり、言葉が詰まる。
「わ……わ、わたくしも」
頬に集まる熱がさらに頭まで上昇しそうで、一度手をぎゅっと握る。
「殿下をお、お慕いしております」
「……ありがとう」
殿下はふっと相好を崩し、ベッドに手を置いて身を乗り出すとこちらへ迫ってきた。
え。え? え!?
ち、近い! 顔近い!
「で、殿下。わたくしに近付きますと、また」
恥ずかしいやら、焦る気持ちやらで、先ほどの二の舞ですと殿下を牽制しようとするが。
「ロザンヌ」
かすれた低い声で囁かれて身が硬直する。
「で、殿下」
「ロザンヌ――好きだ」
再度囁かれた熱い吐息がかかり、唇が触れるかと思われたその時。
――コンコンッ。
軽いノックの後、扉を開けられ。
「ロザンヌ様、白湯をお持ち――殿下の白湯もお持ちします」
お盆に白湯を用意していたユリアは、何事もなかったかのように顔色一つ変えず無表情で扉を閉めた。
いえ、ユリア。
もう白湯はいいです……。
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