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第250話 いつか皆でお茶会を
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「では。そろそろ行くか」
私の手当てを終えたところで殿下が言った。
「はい。あ、でも少しお待ちください」
私は先ほどの木片を再び拾おうとすると、ユリアが先に取り、適度な大きさに整えて渡してくれた。
「ありがとう。ユリア」
私は墓標の代わりに立てる。
その枝にリボンの切れ端をつけておこうかと思ったが、火刑を連想させる形になりそうで止めておいた。
「行きましょうか」
「はい。ありがとうね、ユリア」
ユリアに声をかけて立ち上がる。
――あ、そうだ。
「殿下」
「何だ?」
「エスメラルダ様とネロが再会したわけですが、こう、ネロがパーッと光ったり、一際大きくなっていたり、力が漲ったりしていませんか」
キラキラした目で殿下に詰め寄ってみるが、殿下は私の右肩を見ると首を振る。
「いや。特に何も変わっていないようだ」
うーん。
現実は厳しい。やはりそんなご都合主義の展開にはならないか。それにエスメラルダ様の影はないと言っていたものね。ネロはエスメラルダ様と出会えなかったのだろうか。
「いいか? 帰るぞ」
「はい。ではエスメラルダ様。またきっと参ります。それまでは……ごきげんよう」
私は丁寧に礼を取ると身を翻した。
――ありがとうございます。ネロをよろしくお願いいたします。
「え?」
澄んだ女性の声が聞こえた気がして振り返る。
ユリアかとも思えたが、彼女の姿はそこにない。私の前にいたからだ。
「……エスメラルダ様?」
ぽつりと呟いてみたら、私の頬に爽やかな風がそっと撫でて去る。
私がそう思いたいから聞こえた幻聴かもしれない。偶然に風が吹いただけかもしれない。それでもエスメラルダ様に返答していただいた気がして笑みがこぼれた。
「ロザンヌ嬢、何をしている? 行くぞ」
「あ。はーい。ただいま!」
少し先にいた殿下に声をかけられ、私は今度こそ殿下の元へと駆け出した。
王宮に戻り、馬車停留場所から王族居住区までやって来た。
私たちはもう部屋に戻って良いとこのことだったが、殿下は執務室へと戻るそうだ。……殿下はともかく、付き合わされるジェラルド様がお可哀そう。
「殿下はともかくとは何だ。ともかくって」
眉を上げて腕を組む殿下の横で、ジェラルドさんは苦笑いされている。
「うふふ。聞こえてしまいましたか」
「ああ。大きな独り言だからな」
殿下と楽しく会話していると、背後からこつこつと足音が聞こえてきた。すると殿下が眉を上げる。
「母上」
え! 母上ということは――王妃殿下!?
振り返ると、背筋を正した気品ある王妃殿下がこちらへとつかつかと向かってこられる姿が目に入る。
なぜか鬼気迫る様子で歩いて来られる王妃殿下に気圧され、身動きを取れなかったが、ユリアに諭されて慌てて礼を取った。
私の前を素通りして殿下の元に行かれるものだと思っていたのに、突如私の手をがっつりと掴まれ、びっくりして思わず顔を上げた。
「ごきげんよう、ロザンヌ様。最初一度だけお会いした以来ね」
「お、王妃殿下。ご挨拶もせず、失礼いたしました」
「あらあら。ロザンヌ様を責めているわけではないのよ。むしろエルベルトがあなたに声をかけるなと言うものですから」
私から手を離した王妃殿下は、恨めしそうにエルベルト殿下を細目でご覧になる。
「母上、事情はご理解していただいているはずです」
「分かっていますよ。だからこの場所で、あなたの監視下のもとでお話ししているのではないの」
それさえも不本意ですとおっしゃりたげな王妃殿下です。
「時々、エルベルトの後ろを歩くあなたのお姿を遠くから拝見していたのよ。一度ゆっくりお話ししたいと思っていたの。その内、わたくしのお茶会に参加していただきたいわ」
「ですから母上」
「はいはい。分かっています。ですから、その内と申したでしょう」
たしなめるエルベルト殿下に、王妃殿下はむっと唇を結んだ。
こう言っては不敬だが、可愛らしいお方である。
「ね。ロザンヌ様。約束しましょう」
「――え。あ、はい」
話をまた突然振られて私は反射的に返事をしてしまった。
「ありがとう。約束ね」
「あ、い、いえ。その今のは」
言い訳しようとした私に王妃殿下は唇を薄く横に引く。
「幼少期のエルベルトの生態を知りたくないかしら?」
「え?」
それはちょっと伺いたい。
「母上! 何をおっしゃるつもりですか」
「あーら。何を焦っているのかしら。堂々としていらっしゃい」
ふふんとお笑いになって、王妃殿下はジェラルドさんとユリアの顔をご覧になった。
「ジェラルドさん、ユリアさん。あなたたちも招待するわ。皆でお茶しましょう」
「ありがたきお言葉、光栄に存じます」
「同じく光栄に思います」
もし実現したとしたら、それはとても和やかで楽しいものになるだろう。……実現したのならば。
同じような思いを皆、抱いているのだろう。儀礼的な言葉を返す二人に王妃殿下は再びむっとした。
「ちょっとぉ。皆して何! その慇懃な返事は。わたくしはやると言ったらやりますからね、絶対。ね! ロザンヌ様、しましょうね」
「そうですね。したいです」
いつか皆でお茶会を。
私の手当てを終えたところで殿下が言った。
「はい。あ、でも少しお待ちください」
私は先ほどの木片を再び拾おうとすると、ユリアが先に取り、適度な大きさに整えて渡してくれた。
「ありがとう。ユリア」
私は墓標の代わりに立てる。
その枝にリボンの切れ端をつけておこうかと思ったが、火刑を連想させる形になりそうで止めておいた。
「行きましょうか」
「はい。ありがとうね、ユリア」
ユリアに声をかけて立ち上がる。
――あ、そうだ。
「殿下」
「何だ?」
「エスメラルダ様とネロが再会したわけですが、こう、ネロがパーッと光ったり、一際大きくなっていたり、力が漲ったりしていませんか」
キラキラした目で殿下に詰め寄ってみるが、殿下は私の右肩を見ると首を振る。
「いや。特に何も変わっていないようだ」
うーん。
現実は厳しい。やはりそんなご都合主義の展開にはならないか。それにエスメラルダ様の影はないと言っていたものね。ネロはエスメラルダ様と出会えなかったのだろうか。
「いいか? 帰るぞ」
「はい。ではエスメラルダ様。またきっと参ります。それまでは……ごきげんよう」
私は丁寧に礼を取ると身を翻した。
――ありがとうございます。ネロをよろしくお願いいたします。
「え?」
澄んだ女性の声が聞こえた気がして振り返る。
ユリアかとも思えたが、彼女の姿はそこにない。私の前にいたからだ。
「……エスメラルダ様?」
ぽつりと呟いてみたら、私の頬に爽やかな風がそっと撫でて去る。
私がそう思いたいから聞こえた幻聴かもしれない。偶然に風が吹いただけかもしれない。それでもエスメラルダ様に返答していただいた気がして笑みがこぼれた。
「ロザンヌ嬢、何をしている? 行くぞ」
「あ。はーい。ただいま!」
少し先にいた殿下に声をかけられ、私は今度こそ殿下の元へと駆け出した。
王宮に戻り、馬車停留場所から王族居住区までやって来た。
私たちはもう部屋に戻って良いとこのことだったが、殿下は執務室へと戻るそうだ。……殿下はともかく、付き合わされるジェラルド様がお可哀そう。
「殿下はともかくとは何だ。ともかくって」
眉を上げて腕を組む殿下の横で、ジェラルドさんは苦笑いされている。
「うふふ。聞こえてしまいましたか」
「ああ。大きな独り言だからな」
殿下と楽しく会話していると、背後からこつこつと足音が聞こえてきた。すると殿下が眉を上げる。
「母上」
え! 母上ということは――王妃殿下!?
振り返ると、背筋を正した気品ある王妃殿下がこちらへとつかつかと向かってこられる姿が目に入る。
なぜか鬼気迫る様子で歩いて来られる王妃殿下に気圧され、身動きを取れなかったが、ユリアに諭されて慌てて礼を取った。
私の前を素通りして殿下の元に行かれるものだと思っていたのに、突如私の手をがっつりと掴まれ、びっくりして思わず顔を上げた。
「ごきげんよう、ロザンヌ様。最初一度だけお会いした以来ね」
「お、王妃殿下。ご挨拶もせず、失礼いたしました」
「あらあら。ロザンヌ様を責めているわけではないのよ。むしろエルベルトがあなたに声をかけるなと言うものですから」
私から手を離した王妃殿下は、恨めしそうにエルベルト殿下を細目でご覧になる。
「母上、事情はご理解していただいているはずです」
「分かっていますよ。だからこの場所で、あなたの監視下のもとでお話ししているのではないの」
それさえも不本意ですとおっしゃりたげな王妃殿下です。
「時々、エルベルトの後ろを歩くあなたのお姿を遠くから拝見していたのよ。一度ゆっくりお話ししたいと思っていたの。その内、わたくしのお茶会に参加していただきたいわ」
「ですから母上」
「はいはい。分かっています。ですから、その内と申したでしょう」
たしなめるエルベルト殿下に、王妃殿下はむっと唇を結んだ。
こう言っては不敬だが、可愛らしいお方である。
「ね。ロザンヌ様。約束しましょう」
「――え。あ、はい」
話をまた突然振られて私は反射的に返事をしてしまった。
「ありがとう。約束ね」
「あ、い、いえ。その今のは」
言い訳しようとした私に王妃殿下は唇を薄く横に引く。
「幼少期のエルベルトの生態を知りたくないかしら?」
「え?」
それはちょっと伺いたい。
「母上! 何をおっしゃるつもりですか」
「あーら。何を焦っているのかしら。堂々としていらっしゃい」
ふふんとお笑いになって、王妃殿下はジェラルドさんとユリアの顔をご覧になった。
「ジェラルドさん、ユリアさん。あなたたちも招待するわ。皆でお茶しましょう」
「ありがたきお言葉、光栄に存じます」
「同じく光栄に思います」
もし実現したとしたら、それはとても和やかで楽しいものになるだろう。……実現したのならば。
同じような思いを皆、抱いているのだろう。儀礼的な言葉を返す二人に王妃殿下は再びむっとした。
「ちょっとぉ。皆して何! その慇懃な返事は。わたくしはやると言ったらやりますからね、絶対。ね! ロザンヌ様、しましょうね」
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