251 / 315
第251話 見つかることはない
しおりを挟む
ノエル・ブラックウェル様の手記が見つかって以降、新たな情報が出てくることもなく、平凡な日々が続いている。
はじめの頃は、国王陛下や王妃殿下が何か手記を残していないかと思っていたけれど、呪いの発端はオーギュスト国王陛下ということが明らかになった。
王妃殿下はきっと何も知らされていなかっただろうし、国王陛下が自らの悪事を書き残しておくこともないだろうから、おそらくだけれど、これ以上の手がかりとなる手記はもう。
「――についてはどう思うかね。ダングルベール」
「もう見つかることはないのではないかと思っている」
「ん?」
「……はっ!?」
気付けば先生に当てられていて、反射的に返事をしてしまったらしい。
私はがたりと音を鳴らして慌てて席から立ち上がる。
「わ、わたくしには答えを見つけることは到底できないかと考えております!」
「……わ、分かった。もうよろしい。座りなさい」
堂々と分かりませんと言い張った私に気圧された先生は席に着くよう促した。
授業が終わって迎えの馬車停留場所へと向かうと、ジェラルドさんとユリアがいつものように待機しているのが目に入った。
もうすっかり日常化した光景だ。けれど、一つ変わったことがあるとすれば、ジェラルドさんに対して、いや、人に対してユリアの態度が軟化したことだろうか。彼女自身も変わろうとしているからだと思う。
いずれ訪れることになるご両親の前で、立派な姿を見せたいからかもしれない。
なんて、勝手なことを考えていたらしんみりしてきてしまった。
私は頭を振ると、彼らの元へと元気よく走って行ってユリアに抱きつく。
「ユリア、お待たせー!」
「お疲れ様です、ロザンヌ様」
ユリアは私が勢いよく飛びつこうが、全く身じろぎ一つせずに淡々と受け答えをする。いや、ほんの少し笑顔はあるかな。
「うん。いつもありがとうね」
私は彼女から離れると、ジェラルドさんにも丁寧に挨拶を交わして馬車へと乗り込んだ。
馬車が動き出したところで話を切り出す。
「ユリア、翻訳は進んでいるの?」
「はい。順調に」
ユリアが順調だと言うのだからまさに順調なのだろう。今は、以前殿下が持って来た一冊の歴史書のオーギュスト王時代を翻訳しているらしい。
「そう言えば、書庫室に入るために殿下は何か配慮してくださっているの?」
「はい。書庫室に出入りしても不自然が無いように掃除婦として就くことになりました」
「そうなの? 同志よ。掃除婦の世界へようこそ!」
両手を広げて迎えようとしたけれど、ユリアは私の胸に飛び込んでくることはなく、むしろ少し嫌そうな顔をされた気がした。
この手は行き場は一体……。
私は泣く泣く手を下ろし、取り繕うためにこほんと咳払いする。
「でも書庫室に入るために別の役職に就くとなると、また特別扱いみたいになるわね。……その。他の同僚の方とのお付き合いとかは大丈夫?」
「はい」
ユリアは私に黙っていることはあっても、嘘はつかない。だから彼女がはいと言うのならば、それが正しいのだろう。
「分かったわ。ただし、何か困った事があったら言うことは約束してね」
「はい」
素直に頷いてくれるので、ここは彼女の判断に任せよう。
「ああ、そう言えば。これまで誰がお部屋を掃除していたのかしら」
「デレク様とクロエさんです」
「なるほど」
クロエさんは殿下の乳母で、殿下の体質もご存知とのことだった。つまり、クロエさんもこれまでずっと王家とご一緒に秘密を抱え込まれて来られたということだ。
「王家をお守り、お支えすることはさぞかし重責だったことでしょうね。……おふたりとも」
特にデレク管理官は。
私はユリアを横目で見る。
デレク管理官は、ユリアご一家に対する罪の意識を背負いつつ生きてこられたのは間違いないだろう。
まるで他人事のように聞き流して返事をしないユリアから目の前のジェラルドさんを見ると、彼は静かに頷いた。
「そうですね。信頼を得る喜びと責任の重さを感じる苦しさは同時に感じられていたでしょう。……ロザンヌ様は大丈夫でしょうか。細い肩に重荷がかかっていらっしゃるのでは」
私の身まで案じてくださるだなんて、相変わらずお優しい方だ。
「お気遣いありがとうございます。わたくしは大丈夫です。肩はほら、この通りとても軽いです」
肉体的な問題ではないと分かってはいるが、私は肩を軽く回してみせるとジェラルドさんは穏やかに微笑まれた。
はじめの頃は、国王陛下や王妃殿下が何か手記を残していないかと思っていたけれど、呪いの発端はオーギュスト国王陛下ということが明らかになった。
王妃殿下はきっと何も知らされていなかっただろうし、国王陛下が自らの悪事を書き残しておくこともないだろうから、おそらくだけれど、これ以上の手がかりとなる手記はもう。
「――についてはどう思うかね。ダングルベール」
「もう見つかることはないのではないかと思っている」
「ん?」
「……はっ!?」
気付けば先生に当てられていて、反射的に返事をしてしまったらしい。
私はがたりと音を鳴らして慌てて席から立ち上がる。
「わ、わたくしには答えを見つけることは到底できないかと考えております!」
「……わ、分かった。もうよろしい。座りなさい」
堂々と分かりませんと言い張った私に気圧された先生は席に着くよう促した。
授業が終わって迎えの馬車停留場所へと向かうと、ジェラルドさんとユリアがいつものように待機しているのが目に入った。
もうすっかり日常化した光景だ。けれど、一つ変わったことがあるとすれば、ジェラルドさんに対して、いや、人に対してユリアの態度が軟化したことだろうか。彼女自身も変わろうとしているからだと思う。
いずれ訪れることになるご両親の前で、立派な姿を見せたいからかもしれない。
なんて、勝手なことを考えていたらしんみりしてきてしまった。
私は頭を振ると、彼らの元へと元気よく走って行ってユリアに抱きつく。
「ユリア、お待たせー!」
「お疲れ様です、ロザンヌ様」
ユリアは私が勢いよく飛びつこうが、全く身じろぎ一つせずに淡々と受け答えをする。いや、ほんの少し笑顔はあるかな。
「うん。いつもありがとうね」
私は彼女から離れると、ジェラルドさんにも丁寧に挨拶を交わして馬車へと乗り込んだ。
馬車が動き出したところで話を切り出す。
「ユリア、翻訳は進んでいるの?」
「はい。順調に」
ユリアが順調だと言うのだからまさに順調なのだろう。今は、以前殿下が持って来た一冊の歴史書のオーギュスト王時代を翻訳しているらしい。
「そう言えば、書庫室に入るために殿下は何か配慮してくださっているの?」
「はい。書庫室に出入りしても不自然が無いように掃除婦として就くことになりました」
「そうなの? 同志よ。掃除婦の世界へようこそ!」
両手を広げて迎えようとしたけれど、ユリアは私の胸に飛び込んでくることはなく、むしろ少し嫌そうな顔をされた気がした。
この手は行き場は一体……。
私は泣く泣く手を下ろし、取り繕うためにこほんと咳払いする。
「でも書庫室に入るために別の役職に就くとなると、また特別扱いみたいになるわね。……その。他の同僚の方とのお付き合いとかは大丈夫?」
「はい」
ユリアは私に黙っていることはあっても、嘘はつかない。だから彼女がはいと言うのならば、それが正しいのだろう。
「分かったわ。ただし、何か困った事があったら言うことは約束してね」
「はい」
素直に頷いてくれるので、ここは彼女の判断に任せよう。
「ああ、そう言えば。これまで誰がお部屋を掃除していたのかしら」
「デレク様とクロエさんです」
「なるほど」
クロエさんは殿下の乳母で、殿下の体質もご存知とのことだった。つまり、クロエさんもこれまでずっと王家とご一緒に秘密を抱え込まれて来られたということだ。
「王家をお守り、お支えすることはさぞかし重責だったことでしょうね。……おふたりとも」
特にデレク管理官は。
私はユリアを横目で見る。
デレク管理官は、ユリアご一家に対する罪の意識を背負いつつ生きてこられたのは間違いないだろう。
まるで他人事のように聞き流して返事をしないユリアから目の前のジェラルドさんを見ると、彼は静かに頷いた。
「そうですね。信頼を得る喜びと責任の重さを感じる苦しさは同時に感じられていたでしょう。……ロザンヌ様は大丈夫でしょうか。細い肩に重荷がかかっていらっしゃるのでは」
私の身まで案じてくださるだなんて、相変わらずお優しい方だ。
「お気遣いありがとうございます。わたくしは大丈夫です。肩はほら、この通りとても軽いです」
肉体的な問題ではないと分かってはいるが、私は肩を軽く回してみせるとジェラルドさんは穏やかに微笑まれた。
32
あなたにおすすめの小説
転生貧乏令嬢メイドは見なかった!
seo
恋愛
血筋だけ特殊なファニー・イエッセル・クリスタラーは、名前や身元を偽りメイド業に勤しんでいた。何もないただ広いだけの領地はそれだけでお金がかかり、古い屋敷も修繕費がいくらあっても足りない。
いつものようにお茶会の給仕に携わった彼女は、令息たちの会話に耳を疑う。ある女性を誰が口説き落とせるかの賭けをしていた。その対象は彼女だった。絶対こいつらに関わらない。そんな決意は虚しく、親しくなれるように手筈を整えろと脅され断りきれなかった。抵抗はしたものの身分の壁は高く、メイドとしても令嬢としても賭けの舞台に上がることに。
これは前世の記憶を持つ貧乏な令嬢が、見なかったことにしたかったのに巻き込まれ、自分の存在を見なかったことにしない人たちと出会った物語。
#逆ハー風なところあり
#他サイトさまでも掲載しています(作者名2文字違いもあり)
王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。
次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。
そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。
お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。
挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに…
意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いしますm(__)m
幼馴染の生徒会長にポンコツ扱いされてフラれたので生徒会活動を手伝うのをやめたら全てがうまくいかなくなり幼馴染も病んだ
猫カレーฅ^•ω•^ฅ
恋愛
ずっと付き合っていると思っていた、幼馴染にある日別れを告げられた。
そこで気づいた主人公の幼馴染への依存ぶり。
たった一つボタンを掛け違えてしまったために、
最終的に学校を巻き込む大事件に発展していく。
主人公は幼馴染を取り戻すことが出来るのか!?
嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜
みおな
恋愛
伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。
そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。
その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。
そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。
ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。
堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・
身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~
椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」
私を脅して、別れを決断させた彼の両親。
彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。
私とは住む世界が違った……
別れを命じられ、私の恋が終わった。
叶わない身分差の恋だったはずが――
※R-15くらいなので※マークはありません。
※視点切り替えあり。
※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。
悪役令息(冤罪)が婿に来た
花車莉咲
恋愛
前世の記憶を持つイヴァ・クレマー
結婚等そっちのけで仕事に明け暮れていると久しぶりに参加した王家主催のパーティーで王女が婚約破棄!?
王女が婚約破棄した相手は公爵令息?
王女と親しくしていた神の祝福を受けた平民に嫌がらせをした?
あれ?もしかして恋愛ゲームの悪役令嬢じゃなくて悪役令息って事!?しかも公爵家の元嫡男って…。
その時改めて婚約破棄されたヒューゴ・ガンダー令息を見た。
彼の顔を見た瞬間強い既視感を感じて前世の記憶を掘り起こし彼の事を思い出す。
そうオタク友達が話していた恋愛小説のキャラクターだった事を。
彼が嫌がらせしたなんて事実はないという事を。
その数日後王家から正式な手紙がくる。
ヒューゴ・ガンダー令息と婚約するようにと「こうなったらヒューゴ様は私が幸せする!!」
イヴァは彼を幸せにする為に奮闘する。
「君は…どうしてそこまでしてくれるんだ?」「貴方に幸せになってほしいからですわ!」
心に傷を負い悪役令息にされた男とそんな彼を幸せにしたい元オタク令嬢によるラブコメディ!
※ざまぁ要素はあると思います。
※何もかもファンタジーな世界観なのでふわっとしております。
アンジェリーヌは一人じゃない
れもんぴーる
恋愛
義母からひどい扱いされても我慢をしているアンジェリーヌ。
メイドにも冷遇され、昔は仲が良かった婚約者にも冷たい態度をとられ居場所も逃げ場所もなくしていた。
そんな時、アルコール入りのチョコレートを口にしたアンジェリーヌの性格が激変した。
まるで別人になったように、言いたいことを言い、これまで自分に冷たかった家族や婚約者をこぎみよく切り捨てていく。
実は、アンジェリーヌの中にずっといた魂と入れ替わったのだ。
それはアンジェリーヌと一緒に生まれたが、この世に誕生できなかったアンジェリーヌの双子の魂だった。
新生アンジェリーヌはアンジェリーヌのため自由を求め、家を出る。
アンジェリーヌは満ち足りた生活を送り、愛する人にも出会うが、この身体は自分の物ではない。出来る事なら消えてしまった可哀そうな自分の半身に幸せになってもらいたい。でもそれは自分が消え、愛する人との別れの時。
果たしてアンジェリーヌの魂は戻ってくるのか。そしてその時もう一人の魂は・・・。
*タグに「平成の歌もあります」を追加しました。思っていたより歌に注目していただいたので(*´▽`*)
(なろうさま、カクヨムさまにも投稿予定です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる