つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里

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第258話 墓苑へ

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 父に連れられて、ユリアを含む私たちは墓苑へと足を伸ばすことにした。
 徒歩で行ける距離ではあったけれど、殿下がお忍びでやって来ているので、万が一のことを考えて馬車で向かうことになる。

 息をつくまでもなく到着した私たちは馬車から降りた。
 低い山でも切り拓いたのだろうか。平面に広がる墓地ではなく、さほど高くはないが階段のように高低差がつけられた墓地だ。
 幼い頃は何も思わなかったけれど今考えれば、高い所は貴族の場所とされているのかもしれない。

 周りは木々に囲まれながらも整然としていて、様々な所でお花も咲き誇っており、墓地なのに陰鬱とした雰囲気は全くない。むしろそこには明るさすらある。
 献花もされているが、管理者によってお花が萎れ枯れる前に取り除かれていると言う。枯れた花はどこか物悲しく暗い印象となってしまうので、その管理が功を奏しているのかもしれない。

 中央には広場があり、一見すると子どもたちの声が聞こえる公園かと見間違うかのようだ。むしろ人を呼んで賑やかにしたいのかと思われるほど、暗い墓地の印象を払拭するような明るい作りとなっている。

 足を運んだことのある墓苑だったけれど、これほどまでに意識したことはなかった。エスメラルダ様が埋葬されていた地は、木々が自然のまま鬱蒼としていたから、余計にそう感じるのだろうか。

「素晴らしいですね。王室の墓苑にも匹敵する美しさです。いえ、影一つない」

 殿下が感嘆の声を上げられた。
 ここで言う影は、取り憑く影のことをおっしゃっているのかもしれない。

 私は王家の墓苑には訪れたことがないので比較することはできないが、お世辞でおっしゃっているのではないということだけは分かる。また、ジェラルドさんも同じく感動されているようだ。
 一方、献花するための花を持ってくれているユリアは……うん。まあ、いつも通りです。

「もったいないお言葉でございます。皆、今という時間まで繋げてきてくださった先人に感謝と畏敬の気持ちを抱いているのです。墓苑を常に美しく管理することで、少しでも敬意を示すことができればと思っております」
「先人に感謝と畏敬の気持ちを……」

 オーギュスト王のことを考えられているのだろうか。父と並んで歩く殿下は言葉を小さく繰り返された。
 私はオーギュスト王がしたことに対して、感謝と畏敬の気持ちを抱くことはできるだろうか。いや、考えるまでもない。答えは否だ。でも……。

 ジェラルドさんとの会話を思い出す。
 いま私が、オーギュスト王がしたことは正しくなかったと一刀両断にしてしまうことは簡単である。しかしその時の決断が今のこの国を作っているのも事実。

 正しかったのか、間違っていたのか、やっぱり私には答えを出すことはできない。誰にも答えを出すことはできない。……ただ、できることは過去の過ちを、悲劇を二度と犯さないように胸に留めて生きることだけなのだろう。

「墓石も想像以上に綺麗で驚きです。皆、最近の方のお墓というわけではありませんよね」

 私は再び思考から戻って父と殿下の会話に耳を傾ける。

「はい。墓石にも寿命がありますからね。寿命を感じたら新しくするのです。古い石にも歴史はあるのですが、やはり故人の名を残し、後世まで偲びたいという思いがあるからです」
「そうですか」

 となると石の寿命はどれ程か分からないけれど、さすがに四百年も前以上となると入れ替えはされているはずで、当時のルーベンス家の墓石は既に無くなっているけれど、新たな墓石が設置されているということかな。父の言う通りならば、そこに名もきちんと刻まれているはずだ。

 殿下は何を思ったのか、ふと振り返り、私と視線を合わせたかと思うと、流れるように足元へと視線を下ろした。

 あ、もしかしてネロを気にしているのかな。この地にブラックウェル様が眠っているのだとしたら、ブラックウェル様に憑いていたネロは長い月日をここで過ごしたことになる。何かしらの反応があるはずだ。

 ネロの反応を聞きたかったけれど、父がいる前で話すわけにはいかなかったのか、殿下は何事もなかったかのようにすぐに前を向く。
 やがて墓地の頂までやってきた。

「この辺り一帯がルーベンス家の墓地となります」

 ルーベンス家の墓石は、これまで歩いて見てきた墓石と比べてほんの少し大きいぐらいだけであまり変わらず、ルーベンス家も地域に近しい関係だったことが窺い知れる。
 歩き続けていた父が足を止めると、皆の足も止まって一つの墓石に集合した。

「そして最後の代の方のお墓はこちらです」

 こくんと息を呑むと墓石を見つめる。
 私は皆の顔を見渡すと頷き、代表して刻まれた文字を読み上げた。

「サンルーモ開拓の貢献者、ノエル・ルーベンス、リアーナ・ルーベンス。……ここに眠る」
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