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第259話 ノエル・ブラックウェル、改めノエル・ルーベンス
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手記によって知った、実に四百年も前の方、ブラックウェル様とリアーナ様が実在した証を実際に目の前に示されて、私は震えるような気持ちに乱されて言葉を失った。
この感情を何と呼ぶのかは分からない。
「ああ。ロザンヌは、ノエル・ルーベンス様とご先祖様の情報が入り混じっていたんだね。私もぴんと来なかったよ。悪かったね」
少し照れくさそうに、でも明るい声を上げたのは、私たちが感じている状況とは違う感情を持った父だった。
「あ、は、はい」
父の言葉に我に返る。
「でもロザンヌはルーベンス様のことについては覚えていなかったみたいなのに、良くお名前だけは知っていたね」
「え。あ、はい。えっと。どこかで聞いた覚えがあった……ような、なかったような」
ありがたくも父は、私が言ったのをおぼろげに覚えていたのかな、と解釈してくれた。
「それよりお父様。お花をお供えしましょう!」
「そうだね」
私がユリアに視線をやると、彼女は私の側にやって来て手渡してくれる。
「ありがとう」
「いいえ」
花束を受け取ってお花をお供えし、祈りを捧げた。
ブラックウェル様がこの地に生涯、心血を注いで開拓をされたのは、エスメラルダ様を巻き込み、死に追いやってしまったことへの贖罪の意味もあったのだろうか。
ただ、エスメラルダ様が命を賭けて施した呪術は、ブラックウェル様にはきっと何も分からないままこの地で生涯を閉じられたはず。もし知ってしまったならば、さらに苦しまれたことだろうと思う。
私は決意新たに拳を作る。
ブラックウェル様。今、ネロはわたくしがお預かりしていますので。
「後はわたくしにお任せください」
「ん? 何か言ったかい?」
「……あ、いえ」
また大きな独り言を言ってしまったらしい。
「ところでお父様。ダングルベール家は代々、ルーベンス様のお墓も管理しているとおっしゃっていましたね。ダングルベール家の者で、その……何か変わった人とかいらっしゃいませんでしたか?」
「変わった人?」
「え、ええっと。例えば、お疲れの人を元気にしちゃうような方とか」
例えが悪すぎた!
ちょっと自分でも何を言っているのか分からない。
「あ、えーと。特別な能力を持った方とか」
「うん? いや、聞いたことがないね」
「そ、そうですよね」
と言いつつ、私は父をじっと見つめる。
物語ならばここで、あ、そういえばと新たな情報が出てくるからだ。しかし待てど暮らせど、父の口が開くことは一向にない。
「な、何かな。何か顔に付いているかい?」
焦った表情で頬に手をやる父に私はいいえぇと苦笑いをした。
私たちは屋敷へと戻ることにした。
先頭は相変わらず父と殿下で、そのすぐ後ろにジェラルドさんだ。昼食の話をしている。
「自宅では現在、郷土料理をご用意しておりますので、ぜひお召しあがりいただければと」
「それは楽しみです。ありがとうございます」
殿下は安請け合いされているけれど、毒見役とかいなくても大丈夫なのかな。それともジェラルドさんが毒見役を引き受けられたりするのかしら。あるいはお止めになるかもしれない。
などと、一人心配していると。
「ロザンヌ様」
「ん。あ、なあに?」
「先ほどのノエル・ルーベンス様のお墓なのですが」
ユリアはそう切り出し、小さい声をさらに絞る。
「ロザンヌ様が昔、お友達を庇ってお怪我をされた場所です」
「――えっ!?」
想像以上に大きな声を出してしまったようだ。皆、振り返る。
「あ。は、はしたなく大声を出してしまって申し訳ありません。何でもありません」
私は笑顔を作って謝罪すると、殿下とジェラルドさんだけは少し反応したけれど、すぐに前を向いて父と会話を再開した。
「そ、それで?」
「子供の頃、こちらに遊びに来られていたかと思います」
「そうね。何度か遊びで足を運んだ記憶はあるわ。後になってお墓だったと認識したけれど。それでどんな風だった?」
自分ではあまり覚えていない。
「ロザンヌ様のお怪我は片膝だけでしたが、少なくない出血もあり、帰りは私が肩をお貸しして、足を引きずるように歩いておりました」
「……そう。もしかしたらそれかもしれないわね」
代々ダングルベール家の者がお墓を管理していても、誰も私のような者は出なかった。もし違いがあるとすれば、そこなのだろう。つまり。
「血、かしら」
血の契り。
エスメラルダ様の眠る地では冗談で言っていたけれど、あながち間違いではないのかもしれない。私の血がお墓に滴り落ちたことで、ネロとの血の契りがブラックウェル様から私へ切り替わったのではないだろうか。
もしかしたら血だけで切り替わるような簡単な術式ではないかもしれない。けれど肉体が亡び、魂となった時、ネロと再会したブラックウェル様の強い願いがそれを果たしたのかもしれない。
「思い返せば、その一件以来ですね。動物がロザンヌ様に怯えるような仕草を見せるようになったのは」
「――っ!」
間違いない。それだ。
私とユリアは頷き合った。
この感情を何と呼ぶのかは分からない。
「ああ。ロザンヌは、ノエル・ルーベンス様とご先祖様の情報が入り混じっていたんだね。私もぴんと来なかったよ。悪かったね」
少し照れくさそうに、でも明るい声を上げたのは、私たちが感じている状況とは違う感情を持った父だった。
「あ、は、はい」
父の言葉に我に返る。
「でもロザンヌはルーベンス様のことについては覚えていなかったみたいなのに、良くお名前だけは知っていたね」
「え。あ、はい。えっと。どこかで聞いた覚えがあった……ような、なかったような」
ありがたくも父は、私が言ったのをおぼろげに覚えていたのかな、と解釈してくれた。
「それよりお父様。お花をお供えしましょう!」
「そうだね」
私がユリアに視線をやると、彼女は私の側にやって来て手渡してくれる。
「ありがとう」
「いいえ」
花束を受け取ってお花をお供えし、祈りを捧げた。
ブラックウェル様がこの地に生涯、心血を注いで開拓をされたのは、エスメラルダ様を巻き込み、死に追いやってしまったことへの贖罪の意味もあったのだろうか。
ただ、エスメラルダ様が命を賭けて施した呪術は、ブラックウェル様にはきっと何も分からないままこの地で生涯を閉じられたはず。もし知ってしまったならば、さらに苦しまれたことだろうと思う。
私は決意新たに拳を作る。
ブラックウェル様。今、ネロはわたくしがお預かりしていますので。
「後はわたくしにお任せください」
「ん? 何か言ったかい?」
「……あ、いえ」
また大きな独り言を言ってしまったらしい。
「ところでお父様。ダングルベール家は代々、ルーベンス様のお墓も管理しているとおっしゃっていましたね。ダングルベール家の者で、その……何か変わった人とかいらっしゃいませんでしたか?」
「変わった人?」
「え、ええっと。例えば、お疲れの人を元気にしちゃうような方とか」
例えが悪すぎた!
ちょっと自分でも何を言っているのか分からない。
「あ、えーと。特別な能力を持った方とか」
「うん? いや、聞いたことがないね」
「そ、そうですよね」
と言いつつ、私は父をじっと見つめる。
物語ならばここで、あ、そういえばと新たな情報が出てくるからだ。しかし待てど暮らせど、父の口が開くことは一向にない。
「な、何かな。何か顔に付いているかい?」
焦った表情で頬に手をやる父に私はいいえぇと苦笑いをした。
私たちは屋敷へと戻ることにした。
先頭は相変わらず父と殿下で、そのすぐ後ろにジェラルドさんだ。昼食の話をしている。
「自宅では現在、郷土料理をご用意しておりますので、ぜひお召しあがりいただければと」
「それは楽しみです。ありがとうございます」
殿下は安請け合いされているけれど、毒見役とかいなくても大丈夫なのかな。それともジェラルドさんが毒見役を引き受けられたりするのかしら。あるいはお止めになるかもしれない。
などと、一人心配していると。
「ロザンヌ様」
「ん。あ、なあに?」
「先ほどのノエル・ルーベンス様のお墓なのですが」
ユリアはそう切り出し、小さい声をさらに絞る。
「ロザンヌ様が昔、お友達を庇ってお怪我をされた場所です」
「――えっ!?」
想像以上に大きな声を出してしまったようだ。皆、振り返る。
「あ。は、はしたなく大声を出してしまって申し訳ありません。何でもありません」
私は笑顔を作って謝罪すると、殿下とジェラルドさんだけは少し反応したけれど、すぐに前を向いて父と会話を再開した。
「そ、それで?」
「子供の頃、こちらに遊びに来られていたかと思います」
「そうね。何度か遊びで足を運んだ記憶はあるわ。後になってお墓だったと認識したけれど。それでどんな風だった?」
自分ではあまり覚えていない。
「ロザンヌ様のお怪我は片膝だけでしたが、少なくない出血もあり、帰りは私が肩をお貸しして、足を引きずるように歩いておりました」
「……そう。もしかしたらそれかもしれないわね」
代々ダングルベール家の者がお墓を管理していても、誰も私のような者は出なかった。もし違いがあるとすれば、そこなのだろう。つまり。
「血、かしら」
血の契り。
エスメラルダ様の眠る地では冗談で言っていたけれど、あながち間違いではないのかもしれない。私の血がお墓に滴り落ちたことで、ネロとの血の契りがブラックウェル様から私へ切り替わったのではないだろうか。
もしかしたら血だけで切り替わるような簡単な術式ではないかもしれない。けれど肉体が亡び、魂となった時、ネロと再会したブラックウェル様の強い願いがそれを果たしたのかもしれない。
「思い返せば、その一件以来ですね。動物がロザンヌ様に怯えるような仕草を見せるようになったのは」
「――っ!」
間違いない。それだ。
私とユリアは頷き合った。
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