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第270話 露天商でのお買い物(後)
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私はハンカチを取り出して、何の罪もないのに哀れな姿になった大根から吹き出したしぶき拭う。
「あ。申し訳ありません。かかりましたね」
「大丈夫よ。それよりジェラルド様がこちらにいらっしゃるわよ」
私たちの姿を見つけたからなのか、お話が終わったからなのか、ジェラルドさんが女性陣から離れてこちらへと向かって来られた。
「ロザンヌ様、ユリアさん。こんにちは」
先ほどの社交辞令とは違う輝く笑顔で挨拶をしてくださったように思う。たとえ違ったとしても、思うことだけはタダである。
「ごきげんよう、ジェラルド様」
「こんにちは」
私たちもそれぞれ挨拶を返した。
「お二人もお買い物をされていたのですか。本日は王宮の外で御用商人が来て、露天商が賑わっておりますからね」
ユリアが腕にかけているカゴの中身をご覧になってそう考えられたのだろう。
「はい。ユリアに誘われて」
「そうですか。しかし」
ジェラルドさんはユリアに視線を流す。
「その大根は露天商で買われたのでしょうか。割れているようですが。それに手が濡れて……」
私は慌ててユリアが持つカゴから大根を奪い取った。
ユリアが大根を握りつぶしたなど伝えられるはずもない。
「こ、これはですね! 訳あり商品でありまして! 最初から割れているからお安く分けていただいたのです。ユリアったら、割れた部分を触ってしまったのね。うっかりさん! ――ね、ユリア!」
「……です」
焦って説明する私にユリアは、仕方がないなという表情で頷いた。
あのねー。私はあなたのフォローをしてあげているのだからね!
「そうでしたか。とりあえず」
ジェラルドさんは納得してくださったのか、そうでないのかは定かではなかったが、ハンカチを取り出してユリアに渡す。
「どうぞお使いください」
「……どうもありがとうございます。洗ってお返しいたします」
一瞬固まったけれど、素直に受け取ったユリアにほっとしつつ、私は一度視線を落とした後、ジェラルドさんに問いかけた。
「あら、ジェラルド様も何かお買いになったのですか?」
女性から頂いたものだということは知っているけれど。
「あ、いえ。その……これは人から頂いたものです。お菓子だそうです」
ジェラルドさんが持っていたもう片方の手を上げると、大きな手の平に綺麗に包装された贈り物をのせた。
「まあ、お可愛らしいですね」
これをお茶請けとして、ユリアをお茶に誘っていただけないかしら。なんて。
私は笑顔を作りつつ、ジェラルドさんに目で訴えようとしていたところ。
「失礼いたします」
「え」
ユリアは手を伸ばして包みをするりと解くや、その中からクッキーを一つ手に取った。
一連の流れるような動作に呆気に取られて身動きできず、ユリアの口に入ってからようやく声が出る。
「ちょっ、ユリア!? 何をして」
「……美味しいですね」
美味しいと言う割に、眉をわずかに上げて不快そうなのはなぜ。いやいやいや。それより何てことをしたのよ、ユリア!
「ユリ――」
「ジェラルド様」
私がユリアをたしなめようとする前に彼女がジェラルドさんの名を呼ぶ。
「あなたは殿下をすぐ側でお守りする身。容易く人から物を頂いてはいけません。まして口に入れるものなど」
「も、申し訳ありません」
説教まで始めちゃった!
愕然としたが、反射的に謝罪してしまったジェラルドさんに私は慌てて取り繕う。
「いえ、ジェラルド様! どうぞお謝りにならないでくださいませ。たくさんの女性がいらっしゃる中、お断りできなかったのは分かりますもの。それよりユリアこそ、いきなりこんな失礼な真似をして、ジェラルド様に謝罪すべきでしょう」
「私は毒見をさせていただいたまでです。大丈夫。毒は入っていませんでした」
澄ました表情をしているけれど、本当ですかねぇ……。
「あのねぇ、ユリア。あ、いえ。ジェラルド様、わたくしからお詫び申し上げます。誠に申し訳ありません」
「いえ。私の行動こそ軽率でした」
「いいえ。ジェラルド様は何も間違っておりませんわ。とにかくユリア、あなたはご無礼のお詫びとしてお茶」
そこまで言ったところで。
「あ、あの。よろしければお茶をご一緒しませんか。頂いた物を無下にするのも失礼に当たりますし、たくさんありますので手伝っていただけると嬉しいのですが」
ジェラルドさんがユリアにそうご提案してくださった。
ジェラルド様!
あなたこそ騎士の中の騎士です! 真の勇者です! 英雄です!
感動でうるうるしてしまいます。
それに対してユリアはと言うと。
「…………はい。ではご一緒させていただきます」
長い沈黙の後、ユリアは頷き、私は肩の荷を下ろした。
「あ。もちろんロザンヌさ――あ、あれ?」
おそらくジェラルド様が気遣って私にまでお誘いのお言葉をかけてくださったと予想されるが、その時にはもう私の姿は消えていただろう。
その後、ご機嫌な様子で執務室に入った私は。
「君には大根がよく似合うことだな」
褒め言葉なのか、貶されているのか、あるいは慰められているのかよく分からない言葉を殿下からかけられた。
あ。大根を抱いたままだった。
だから部屋の前の護衛官様が変な顔をなさっていたのね……。
「あ。申し訳ありません。かかりましたね」
「大丈夫よ。それよりジェラルド様がこちらにいらっしゃるわよ」
私たちの姿を見つけたからなのか、お話が終わったからなのか、ジェラルドさんが女性陣から離れてこちらへと向かって来られた。
「ロザンヌ様、ユリアさん。こんにちは」
先ほどの社交辞令とは違う輝く笑顔で挨拶をしてくださったように思う。たとえ違ったとしても、思うことだけはタダである。
「ごきげんよう、ジェラルド様」
「こんにちは」
私たちもそれぞれ挨拶を返した。
「お二人もお買い物をされていたのですか。本日は王宮の外で御用商人が来て、露天商が賑わっておりますからね」
ユリアが腕にかけているカゴの中身をご覧になってそう考えられたのだろう。
「はい。ユリアに誘われて」
「そうですか。しかし」
ジェラルドさんはユリアに視線を流す。
「その大根は露天商で買われたのでしょうか。割れているようですが。それに手が濡れて……」
私は慌ててユリアが持つカゴから大根を奪い取った。
ユリアが大根を握りつぶしたなど伝えられるはずもない。
「こ、これはですね! 訳あり商品でありまして! 最初から割れているからお安く分けていただいたのです。ユリアったら、割れた部分を触ってしまったのね。うっかりさん! ――ね、ユリア!」
「……です」
焦って説明する私にユリアは、仕方がないなという表情で頷いた。
あのねー。私はあなたのフォローをしてあげているのだからね!
「そうでしたか。とりあえず」
ジェラルドさんは納得してくださったのか、そうでないのかは定かではなかったが、ハンカチを取り出してユリアに渡す。
「どうぞお使いください」
「……どうもありがとうございます。洗ってお返しいたします」
一瞬固まったけれど、素直に受け取ったユリアにほっとしつつ、私は一度視線を落とした後、ジェラルドさんに問いかけた。
「あら、ジェラルド様も何かお買いになったのですか?」
女性から頂いたものだということは知っているけれど。
「あ、いえ。その……これは人から頂いたものです。お菓子だそうです」
ジェラルドさんが持っていたもう片方の手を上げると、大きな手の平に綺麗に包装された贈り物をのせた。
「まあ、お可愛らしいですね」
これをお茶請けとして、ユリアをお茶に誘っていただけないかしら。なんて。
私は笑顔を作りつつ、ジェラルドさんに目で訴えようとしていたところ。
「失礼いたします」
「え」
ユリアは手を伸ばして包みをするりと解くや、その中からクッキーを一つ手に取った。
一連の流れるような動作に呆気に取られて身動きできず、ユリアの口に入ってからようやく声が出る。
「ちょっ、ユリア!? 何をして」
「……美味しいですね」
美味しいと言う割に、眉をわずかに上げて不快そうなのはなぜ。いやいやいや。それより何てことをしたのよ、ユリア!
「ユリ――」
「ジェラルド様」
私がユリアをたしなめようとする前に彼女がジェラルドさんの名を呼ぶ。
「あなたは殿下をすぐ側でお守りする身。容易く人から物を頂いてはいけません。まして口に入れるものなど」
「も、申し訳ありません」
説教まで始めちゃった!
愕然としたが、反射的に謝罪してしまったジェラルドさんに私は慌てて取り繕う。
「いえ、ジェラルド様! どうぞお謝りにならないでくださいませ。たくさんの女性がいらっしゃる中、お断りできなかったのは分かりますもの。それよりユリアこそ、いきなりこんな失礼な真似をして、ジェラルド様に謝罪すべきでしょう」
「私は毒見をさせていただいたまでです。大丈夫。毒は入っていませんでした」
澄ました表情をしているけれど、本当ですかねぇ……。
「あのねぇ、ユリア。あ、いえ。ジェラルド様、わたくしからお詫び申し上げます。誠に申し訳ありません」
「いえ。私の行動こそ軽率でした」
「いいえ。ジェラルド様は何も間違っておりませんわ。とにかくユリア、あなたはご無礼のお詫びとしてお茶」
そこまで言ったところで。
「あ、あの。よろしければお茶をご一緒しませんか。頂いた物を無下にするのも失礼に当たりますし、たくさんありますので手伝っていただけると嬉しいのですが」
ジェラルドさんがユリアにそうご提案してくださった。
ジェラルド様!
あなたこそ騎士の中の騎士です! 真の勇者です! 英雄です!
感動でうるうるしてしまいます。
それに対してユリアはと言うと。
「…………はい。ではご一緒させていただきます」
長い沈黙の後、ユリアは頷き、私は肩の荷を下ろした。
「あ。もちろんロザンヌさ――あ、あれ?」
おそらくジェラルド様が気遣って私にまでお誘いのお言葉をかけてくださったと予想されるが、その時にはもう私の姿は消えていただろう。
その後、ご機嫌な様子で執務室に入った私は。
「君には大根がよく似合うことだな」
褒め言葉なのか、貶されているのか、あるいは慰められているのかよく分からない言葉を殿下からかけられた。
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だから部屋の前の護衛官様が変な顔をなさっていたのね……。
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