つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました

樹里

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第269話 露天商でのお買い物(前)

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「ロザンヌ様。本日、王宮前に御用商人が来ているそうです。見に行きますか。日用品や異国からの珍しい品などがあるようです」

 同僚に話を聞いてきたらしい。
 ユリアはそんな提案をしてくれた。

「え! 行く行く!」

 城下町にまで行く時間がなかなかできないから嬉しい。私は基本的にお休みを自由に取れるはずなのに、君だけ休んで遊ぶのはずるいとか何とか言って、殿下は私たちだけでは行かせてくれないから。

 私は一も二もなく頷くと、ユリアと共に向かった。

 王宮の門を出ると、何人もの商人さんが所狭しと商品を並べていた。
 考えていた以上の規模に驚く。
 周りを見渡すと男性や騎士様がちらほらいるが、女性客の方が圧倒的に多い印象だ。装飾品を扱うお店が多いからかもしれない。
 既に賑わいを見せていて、城下町に行った時のようにわくわく感がわき起こってきた。

「それにしてもこんなに大規模だったとはね。一人の商人さんが来るだけなのかと思っていたわ」
「王宮に勤める人は多いですし、小規模では商品の持ち込みの品数も限られますし、人も捌ききれないからかもしれませんね。商人も商品も厳しい監査の上、認可されたもののみなのだそうです」

 確かに王宮に不審物を持ち込まれたら大変だものね。騎士様が巡回しているのは、混雑する人の整備だけではなく、商人さんがきちんと遵守した商売をしているかを監視する意味もあるのかしら。

「ユリア、詳しいのね」
「一度来たことがあるのです。その時、同僚にお聞きしました」
「えー! どうしてその時も声をかけてくれなかったのよ」
「申し訳ありません。急なことだったので」

 唇を尖らせるとユリアは半ば目を伏せて目礼する。

「そう。じゃあ、仕方がないわね。それでその時は何を買ったの?」
「ロザンヌ様のお部屋に飾っている花瓶です。ずっと同僚にお借りしていた物だったので」
「あ!」

 そう言えば、花瓶が変わったなとは思っていた。王宮でお借りしているものではなかったんだ。

「わたくしのために買ってくれたのね。言ってくれればいいのに。ありがとうね。じゃあ、今日はわたくしがユリアのために何か買ってあげる!」
「いえ、それは」
「いいからいいから」

 私は断ろうとするユリアの腕に自分の腕を絡ませて引っ張った。


「結構色々買っちゃったね」

 私たちは戦利品を手に王宮内へと戻ってきた。
 生活必需品を用意してくれてはいるけれど、品質が良すぎて日常使いするには恐れ多いものがあって使えなかった。だから、低価格で日常使いできる物を手に入れることができたのは実に助かる。おまけに。

「まさかサンルーモのお野菜まで売っているとは。感激! 美味しいのよねーっ」

 ユリアが持つカゴの中に入ったお野菜に目線を下ろした。
 サンルーモ産の瑞々しいお野菜は、王宮御用達のお野菜に引けを取らないどころか、上を行っているからもっと評価されてもいいと私は個人的に思っている。

「楽しみ! 料理長様、このお野菜を使ってどんな美味しいお料理を作ってくださるのかしら」
「無理です」
「え」

 あまりにもきっぱり言い切られて私は目が点になった。

「ロザンヌ様は最近、殿下とお食事をご一緒されて同じ料理が提供されています。王族の口に入る物は全て管理されており、他からの食材を持ち込むことはできないはずです」
「え……。じゃあ、買った意味がないじゃない」
「はい。私が全て頂きます」

 ふふんとドヤ顔された気がして呆気に取られそうになったけれど、私はすぐにユリアの腕を揺らした。

「ユリアだけずるいずるい!」

 抗議してみるものの、ユリアは知らん顔だ。……と言うより、どこか一点を見つめている?
 私は手を下ろしてユリアの視線を追うと、そこにいたのはたくさんの綺麗な女性に囲まれたジェラルドさんだった。お人の良さそうな微笑みで対応されている。しかも。

「あら。ジェラルド様、女性から何か頂いているみたい。もしかしてお菓子とか」

 そこまで言った時。

 ――バシュッ!

 断末魔のような破裂音と共に血しぶき(?)が私の頬にかかった。

 い、一体何が起こったのか。
 恐る恐る発生源と思われる横を見ると、ユリアが無表情に大根を片手で握りつぶしていた。

「わぁ……」

 思わずもらした声にユリアは我に返ったらしい。
 大根を片手で握りつぶすなど、どういう握力をしているのだ。理解に苦しむ。

「ロザンヌ様。申し訳ありません。故郷のお野菜でしたのに。後で私が全て頂きますので」
「ま、まあ。だったらいいんじゃない。食材を無駄にするわけではないのだし」

 私は辛うじて笑みを浮かべた。
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