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第275話 最後まで私は私でいる
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宣言した私を前に、クラウディア嬢は馬鹿にしたように喉でくっと笑う。
「最後の最後まで威勢が良いわね」
「最後? そうですね」
最後だと思っていた。だけど宣言したら、なぜか力が湧いてきた。だから最後の最後まで戦うことにする。
だって私には自由に動かせる手があるのだから。足があるのだから。
私は彼女に両手を伸ばすと頭をつかんで一気に引き寄せ。
ゴンッ!
勢いよく頭突きを食らわせる。
しかしこれは……諸刃の剣でもある。
ぐわんぐわん、頭に痛みが響いて目が回る。
「ったあぁぁぁっ! こんっ――の石頭っ!」
頭を両手で押さえて痛みと涙を堪えつつ、罵ることだけは忘れない。
よろけて少し離れたクラウディア嬢を機に、私は背にした壁から脱する。
「こ、こっちの台詞よ! もう許せない! あなただけは楽に死なせはしないわ!」
額を押さえていた手を荒々しく離すとクラウディア嬢は叫んだ。
恐ろしい魔女とはこういうことを言うのだろう。彼女の目はつり上がって激しい険のある表情を見せる。
「こちらこそあなた方が行ってきたことを許しません!」
私は負けじとそう言い返し、さらに打撃を与えるべくクラウディ嬢に向かって勢いよく足蹴りしようとしたが、右足の動きを阻まれて足が止まる。
――しまった! 足枷が!
一瞬振り返って確認する隙だらけだった私の左足を彼女はつかんで持ち上げたらしい。
「きゃっ――あ!?」
気付けば天井が回り、地に転がされていた。
不意打ちされた体は地にとっさに手をつくこともできず、お尻や背中を衝撃が襲って息が詰まる。
「ぐっ」
何とか痛みを堪えて起き上がろうとするも、クラウディア嬢は素早く身を屈めて私の上に馬乗りした。
「わたくしたちが行ってきたことが何ですって? もう一度言ってごらんなさいよ」
「――っ」
必死に身じろぎするが、どっしりと腰を下ろされて逃げ出すことができない。
クラウディア嬢は唇に残忍な笑みをのせ、猫がネズミをいたぶるように片方の手で私の髪の毛を強く引っ張り、もう一方ではナイフで頬を撫でる。
冷たく硬質な感覚にぞくりと震えが走るが、私は目をそらすことなく彼女を睨みつけた。
「許さないと申しました」
怯えたところなど見せてたまるものか。
「本当に口が減らないわね。減らないなら減らないなりに、その口でわたくしに許しを請いなさいよ」
「お断りいたします。わたくしはあなたに許されないことをした覚えはありません」
彼女は目を細めると、ふんと鼻を鳴らす。
「あなたは人のためにプライドは捨てるくせに、自分のために意地を張って死ぬ運命なのね。尊敬すらしてしまうほどに愚かだわ」
「お褒めいただき光栄にございます」
それこそが私という人間。たとえ負けたとしても、心だけは最後まで屈しない。屈しないことにした。
「呆れた。最期に残したい言葉はと、聞いてあげようと思ったけれど、止めておくわ。最期の瞬間までわたくしを不愉快にしそうだもの。――じゃあね」
ナイフが私の頬から離れ、クラウディア嬢が両手で掴みなおしたナイフの切っ先が彼女の頭頂部まで上がる。
「――っ」
ここまでか。
殿下よ! ここで助けなかったら、もう助ける所ないですよ!
半分やけっぱちになりながら、心の中で殿下に助けを請――やや嘲ると、呼ぶよりそしれとはよく言ったものだ。
「ロザンヌ嬢!」
私を呼ぶ声と共に、扉が大きく開く音が聞こえた。
直後。
「きゃあっ!?」
なぜかクラウディア嬢の高らかな叫び声が上がり、ナイフが音を立てて落ちる。
「え……」
まだ誰も私たちに近づいてすらいないのに、何が起こったのかとクラウディア嬢を見つめると、彼女の手の甲には短剣が突き刺さっていた。
この短剣は――ユリアの物だ!
こんな時なのに、短剣は飛び道具にもなる使い道が広いものだと、ユリアが得意げに話していたことが思い出される。
「ロザンヌ嬢!」
殿下の言葉にはっと我に返り、突き刺さった短剣への恐怖からか、痛みからか、手首をつかんで小刻みに震える彼女を押し放して這い出る。
すると私のすぐ側に殿下が駆け寄ってクラウディア嬢から庇ってくださった。
「遅くなってすまない。怪我はないか」
「は、はい! 殿下。はい。大丈夫です。助けにきてくださって、ありがとうございます。……本当に遅いですけれど」
殿下の姿を見てほっとして、つい怨み言が出たのも束の間。
いまだ短剣を抜けずに震えているクラウディア嬢の背に向かって、短剣を振りかぶるユリアの姿を目が捉えた。
ユリアの短剣は彼女の左腿と右腿に装着されている。そう、二本持っていた。
「ユリ――」
「クラウディア!」
走り込んできた侯爵様が叫びながら、クラウディア嬢を庇うように覆い被さる。
「ユリア、駄目! 止めて!」
手を伸ばして叫ぶが間に合わない!
そのまま侯爵様に短剣が勢いよく振り下ろされた。
「最後の最後まで威勢が良いわね」
「最後? そうですね」
最後だと思っていた。だけど宣言したら、なぜか力が湧いてきた。だから最後の最後まで戦うことにする。
だって私には自由に動かせる手があるのだから。足があるのだから。
私は彼女に両手を伸ばすと頭をつかんで一気に引き寄せ。
ゴンッ!
勢いよく頭突きを食らわせる。
しかしこれは……諸刃の剣でもある。
ぐわんぐわん、頭に痛みが響いて目が回る。
「ったあぁぁぁっ! こんっ――の石頭っ!」
頭を両手で押さえて痛みと涙を堪えつつ、罵ることだけは忘れない。
よろけて少し離れたクラウディア嬢を機に、私は背にした壁から脱する。
「こ、こっちの台詞よ! もう許せない! あなただけは楽に死なせはしないわ!」
額を押さえていた手を荒々しく離すとクラウディア嬢は叫んだ。
恐ろしい魔女とはこういうことを言うのだろう。彼女の目はつり上がって激しい険のある表情を見せる。
「こちらこそあなた方が行ってきたことを許しません!」
私は負けじとそう言い返し、さらに打撃を与えるべくクラウディ嬢に向かって勢いよく足蹴りしようとしたが、右足の動きを阻まれて足が止まる。
――しまった! 足枷が!
一瞬振り返って確認する隙だらけだった私の左足を彼女はつかんで持ち上げたらしい。
「きゃっ――あ!?」
気付けば天井が回り、地に転がされていた。
不意打ちされた体は地にとっさに手をつくこともできず、お尻や背中を衝撃が襲って息が詰まる。
「ぐっ」
何とか痛みを堪えて起き上がろうとするも、クラウディア嬢は素早く身を屈めて私の上に馬乗りした。
「わたくしたちが行ってきたことが何ですって? もう一度言ってごらんなさいよ」
「――っ」
必死に身じろぎするが、どっしりと腰を下ろされて逃げ出すことができない。
クラウディア嬢は唇に残忍な笑みをのせ、猫がネズミをいたぶるように片方の手で私の髪の毛を強く引っ張り、もう一方ではナイフで頬を撫でる。
冷たく硬質な感覚にぞくりと震えが走るが、私は目をそらすことなく彼女を睨みつけた。
「許さないと申しました」
怯えたところなど見せてたまるものか。
「本当に口が減らないわね。減らないなら減らないなりに、その口でわたくしに許しを請いなさいよ」
「お断りいたします。わたくしはあなたに許されないことをした覚えはありません」
彼女は目を細めると、ふんと鼻を鳴らす。
「あなたは人のためにプライドは捨てるくせに、自分のために意地を張って死ぬ運命なのね。尊敬すらしてしまうほどに愚かだわ」
「お褒めいただき光栄にございます」
それこそが私という人間。たとえ負けたとしても、心だけは最後まで屈しない。屈しないことにした。
「呆れた。最期に残したい言葉はと、聞いてあげようと思ったけれど、止めておくわ。最期の瞬間までわたくしを不愉快にしそうだもの。――じゃあね」
ナイフが私の頬から離れ、クラウディア嬢が両手で掴みなおしたナイフの切っ先が彼女の頭頂部まで上がる。
「――っ」
ここまでか。
殿下よ! ここで助けなかったら、もう助ける所ないですよ!
半分やけっぱちになりながら、心の中で殿下に助けを請――やや嘲ると、呼ぶよりそしれとはよく言ったものだ。
「ロザンヌ嬢!」
私を呼ぶ声と共に、扉が大きく開く音が聞こえた。
直後。
「きゃあっ!?」
なぜかクラウディア嬢の高らかな叫び声が上がり、ナイフが音を立てて落ちる。
「え……」
まだ誰も私たちに近づいてすらいないのに、何が起こったのかとクラウディア嬢を見つめると、彼女の手の甲には短剣が突き刺さっていた。
この短剣は――ユリアの物だ!
こんな時なのに、短剣は飛び道具にもなる使い道が広いものだと、ユリアが得意げに話していたことが思い出される。
「ロザンヌ嬢!」
殿下の言葉にはっと我に返り、突き刺さった短剣への恐怖からか、痛みからか、手首をつかんで小刻みに震える彼女を押し放して這い出る。
すると私のすぐ側に殿下が駆け寄ってクラウディア嬢から庇ってくださった。
「遅くなってすまない。怪我はないか」
「は、はい! 殿下。はい。大丈夫です。助けにきてくださって、ありがとうございます。……本当に遅いですけれど」
殿下の姿を見てほっとして、つい怨み言が出たのも束の間。
いまだ短剣を抜けずに震えているクラウディア嬢の背に向かって、短剣を振りかぶるユリアの姿を目が捉えた。
ユリアの短剣は彼女の左腿と右腿に装着されている。そう、二本持っていた。
「ユリ――」
「クラウディア!」
走り込んできた侯爵様が叫びながら、クラウディア嬢を庇うように覆い被さる。
「ユリア、駄目! 止めて!」
手を伸ばして叫ぶが間に合わない!
そのまま侯爵様に短剣が勢いよく振り下ろされた。
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