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第279話 魔女の本当の姿
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何とか殿下の拘束から脱して、危機を回避することができた。
まさか人生で三回続けて命の危険を感じるとは思いもしなかった。まったく病み上がり(?)の体に何を強要するのだというお話である。
殿下はやや不服そうだけれど、窒息しかけた私に向ける視線ではないと思う。
目を細め返しつつ、とりあえず呼吸が落ち着き、場も落ち着いたところであらためて話を進めることにする。
まずは私が見た夢のことを覚えている内にお話しさせていただく。
ルイス殿下の思いや子孫への謝罪、エスメラルダ様が語ったこと、ネロの瞳は黒色だったこと、最後はブラックウェル様と共に皆、笑顔で歩いていったこと。
どこまでが真実なのか、もしかしたら私の願いが作り出した妄想なのかもしれない。ただ、殿下の影を見る能力は、エスメラルダ様の星紋が消えた今もなお顕在だということは確からしい。そしてネロの姿はもう見えないとも……。
ということは、私にもネロの影祓いの能力が残っている可能性は高いということになる。
「そうか。ありがとう」
殿下は私の話を聞いて微笑んだ。
歴史書には残すことのできない荒唐無稽な話かもしれない。それでも殿下にとっては心を満たすものであってくれたようだ。
私は肩の荷が下りた気がした。
「では次にこの二日間の出来事を話そう」
「はい。お願いいたします。まずはマリエル様はご無事だったのでしょうか」
「君の友人だな。気を失っていて事情はよく分かっていなかったが、体も問題ないようだったし、無事に送り届けた」
「そうですか。良かった。ありがとうございます」
ただ、マリエル様は私に逃げてとおっしゃった。真の目的は分からなくても、私を誘き出すためにギヨーム・グリント伯爵子息に利用されたことには気付いただろう。心に深い傷を負っていらっしゃらないだろうか。
「彼女は君に謝罪したいと言っていた」
「そんな」
私の方が彼女を巻き込んでしまったのに……。
「君が悪いわけではない。もちろん君の友人が悪いわけでもない。悪いのは企てたクラウディア嬢と、君の友人を利用して君を誘き出したギヨーム・グリントだ」
「……はい」
頭では分かっていても、心から受け入れることはできなかったが、これは私とマリエル嬢の問題で、殿下をこれ以上煩わせてもいけないので頷いた。
「ギヨーム・グリントだが、君と一緒にいるところを見た人物がいて……その人物とはセリアンのことだが、不審に思ったらしく迎えのジェラルドに伝えてくれたんだ」
「え? セリアン様がですか? セリアン・ラマディエル様?」
意外な人物に尋ね返すと、殿下は嫌そうに目を細めた。
「ああ、そうだ。そのセリアンが、君がギヨーム・グリントと部屋に入っていく姿を見かけたらしくてな。授業も終わったのに変だと思ったらしい」
特にセリアン様とはギヨーム・グリントのことで話していたことがあるから、彼と一緒にいたことを不審に思ってくれたのかもしれない。
「しかし連れ去られた後だったようで、ギヨーム・グリントの姿は既になく、ジェラルドらは一度王宮に戻ってくるしかなかった」
その後、グリント伯爵を伝手にギヨームを問い詰め、首謀者がベルモンテ家と判明したため、再び王宮にいるベルモンテ侯爵に話をして屋敷へ向かうことになったと言う。
なるほど。時間がかかったわけだ。
もちろんクラウディア嬢にとっては、時間稼ぎのためにグリント伯爵子息を介した拉致だったのだろうけれど。そして王族が出てくることを見越して、最初から彼を切り捨てるつもりだったのだろう。
「グリント伯爵殿は真っ青になって今にも倒れんばかりだったから、一切関わり合いはないと判断した。ギヨーム・グリントはただちに廃嫡し、勘当するそうだ。もともと素行不良で、母親違いの次男に継がせるべきか頭を悩ませていたらしい」
自分よりも階級が下とは言え、貴族の娘二人拉致することの罪の重さは彼も考えていたはずだ。クラウディア嬢から何らかの成功報酬を提示されていたはず。親から見放されかけていた現状を知り、巻き返しのつもりで、この計画に乗った部分もあったのだろうか。
……だからと言って、同情する余地などどこにも、全くと言っていい程ない。何せ、彼には後頭部を殴られたのだから!
「その後は君も知っての通り、駆けつけた私たちを前に短剣で自分の手を傷つけ血の契りを行った」
「あ、はい」
引き続き殿下がお話しされたので、私は心の中で振り上げた拳を下ろすことにした。
「そこまでは覚えております。それ以降が記憶にありません」
「ああ。一度君は意識を失ったが、その後、別の人物――エスメラルダ嬢として目を覚まし、ベルモンテ家の呪術は使えないようにしたと宣言した」
「使えないように?」
「正確には誰かに呪術を掛けると、術者に跳ね返る術式を組み込んだという話だ」
殿下は眩しそうに目を細める。
「彼女は魔女ではなかった。私たち王族を責める言葉はなく、ただ、国と民の幸せを願った。美しく気高く慈愛に満ちた女神だった」
長く、とても永く語り継がれた恐ろしくも哀しい魔女の本当の姿は――。
私は笑って首を振った。
「いいえ、殿下。エスメラルダ様は普通の人間です。ルイス殿下を一途に愛し、救いたいと心の底から強く願ったごく普通の人間だったのです」
まさか人生で三回続けて命の危険を感じるとは思いもしなかった。まったく病み上がり(?)の体に何を強要するのだというお話である。
殿下はやや不服そうだけれど、窒息しかけた私に向ける視線ではないと思う。
目を細め返しつつ、とりあえず呼吸が落ち着き、場も落ち着いたところであらためて話を進めることにする。
まずは私が見た夢のことを覚えている内にお話しさせていただく。
ルイス殿下の思いや子孫への謝罪、エスメラルダ様が語ったこと、ネロの瞳は黒色だったこと、最後はブラックウェル様と共に皆、笑顔で歩いていったこと。
どこまでが真実なのか、もしかしたら私の願いが作り出した妄想なのかもしれない。ただ、殿下の影を見る能力は、エスメラルダ様の星紋が消えた今もなお顕在だということは確からしい。そしてネロの姿はもう見えないとも……。
ということは、私にもネロの影祓いの能力が残っている可能性は高いということになる。
「そうか。ありがとう」
殿下は私の話を聞いて微笑んだ。
歴史書には残すことのできない荒唐無稽な話かもしれない。それでも殿下にとっては心を満たすものであってくれたようだ。
私は肩の荷が下りた気がした。
「では次にこの二日間の出来事を話そう」
「はい。お願いいたします。まずはマリエル様はご無事だったのでしょうか」
「君の友人だな。気を失っていて事情はよく分かっていなかったが、体も問題ないようだったし、無事に送り届けた」
「そうですか。良かった。ありがとうございます」
ただ、マリエル様は私に逃げてとおっしゃった。真の目的は分からなくても、私を誘き出すためにギヨーム・グリント伯爵子息に利用されたことには気付いただろう。心に深い傷を負っていらっしゃらないだろうか。
「彼女は君に謝罪したいと言っていた」
「そんな」
私の方が彼女を巻き込んでしまったのに……。
「君が悪いわけではない。もちろん君の友人が悪いわけでもない。悪いのは企てたクラウディア嬢と、君の友人を利用して君を誘き出したギヨーム・グリントだ」
「……はい」
頭では分かっていても、心から受け入れることはできなかったが、これは私とマリエル嬢の問題で、殿下をこれ以上煩わせてもいけないので頷いた。
「ギヨーム・グリントだが、君と一緒にいるところを見た人物がいて……その人物とはセリアンのことだが、不審に思ったらしく迎えのジェラルドに伝えてくれたんだ」
「え? セリアン様がですか? セリアン・ラマディエル様?」
意外な人物に尋ね返すと、殿下は嫌そうに目を細めた。
「ああ、そうだ。そのセリアンが、君がギヨーム・グリントと部屋に入っていく姿を見かけたらしくてな。授業も終わったのに変だと思ったらしい」
特にセリアン様とはギヨーム・グリントのことで話していたことがあるから、彼と一緒にいたことを不審に思ってくれたのかもしれない。
「しかし連れ去られた後だったようで、ギヨーム・グリントの姿は既になく、ジェラルドらは一度王宮に戻ってくるしかなかった」
その後、グリント伯爵を伝手にギヨームを問い詰め、首謀者がベルモンテ家と判明したため、再び王宮にいるベルモンテ侯爵に話をして屋敷へ向かうことになったと言う。
なるほど。時間がかかったわけだ。
もちろんクラウディア嬢にとっては、時間稼ぎのためにグリント伯爵子息を介した拉致だったのだろうけれど。そして王族が出てくることを見越して、最初から彼を切り捨てるつもりだったのだろう。
「グリント伯爵殿は真っ青になって今にも倒れんばかりだったから、一切関わり合いはないと判断した。ギヨーム・グリントはただちに廃嫡し、勘当するそうだ。もともと素行不良で、母親違いの次男に継がせるべきか頭を悩ませていたらしい」
自分よりも階級が下とは言え、貴族の娘二人拉致することの罪の重さは彼も考えていたはずだ。クラウディア嬢から何らかの成功報酬を提示されていたはず。親から見放されかけていた現状を知り、巻き返しのつもりで、この計画に乗った部分もあったのだろうか。
……だからと言って、同情する余地などどこにも、全くと言っていい程ない。何せ、彼には後頭部を殴られたのだから!
「その後は君も知っての通り、駆けつけた私たちを前に短剣で自分の手を傷つけ血の契りを行った」
「あ、はい」
引き続き殿下がお話しされたので、私は心の中で振り上げた拳を下ろすことにした。
「そこまでは覚えております。それ以降が記憶にありません」
「ああ。一度君は意識を失ったが、その後、別の人物――エスメラルダ嬢として目を覚まし、ベルモンテ家の呪術は使えないようにしたと宣言した」
「使えないように?」
「正確には誰かに呪術を掛けると、術者に跳ね返る術式を組み込んだという話だ」
殿下は眩しそうに目を細める。
「彼女は魔女ではなかった。私たち王族を責める言葉はなく、ただ、国と民の幸せを願った。美しく気高く慈愛に満ちた女神だった」
長く、とても永く語り継がれた恐ろしくも哀しい魔女の本当の姿は――。
私は笑って首を振った。
「いいえ、殿下。エスメラルダ様は普通の人間です。ルイス殿下を一途に愛し、救いたいと心の底から強く願ったごく普通の人間だったのです」
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