278 / 315
第278話 覚醒
しおりを挟む
「……ん」
ふわりと意識が浮上した。
あれ? もう朝かな。何だか長い間眠った気がする。ただ、ユリアに起こされる前だから、いつもよりも早いのは間違いないだろう。
もうひと眠りできるぐらいなの……ん? って、あれ? 前にも起こされる前に頭が冴えてきたことがなかったっけ?
目を閉じたまま、ゆっくりと考えを巡らせる。
――あ。そうそう。あの時は熱を出して倒れ、翌朝、目覚めた時には殿下がすぐ側で付いていてくださったことがあった。またいらっしゃったりして。
と思いつつ、目を開けて寝返りを打ったところで。
「――ひわあっ!?」
またしても身を引いて、妙な声を上げてしまった。
そこには前回と同じく金髪のうつぶせた誰かの、いや、殿下の頭があったからだ。
「ロザンヌ嬢!?」
しかしさすがに今回はがばりと顔を上げられても、動揺することはなかった。
「お、おはようございます、殿下」
私が挨拶をすると、殿下ははぁと大きなため息と共に頭を落とした。
それにしても殿下はなぜここにいらっしゃるのだろう。……あれ? そもそも私はどうしたんだっけ。ええっと、学校で拉致されて、ベルモンテ家に連れて行かれて、危機一髪の時に殿下がようやくやって来て。それから夢を見て。……どうなったんだっけ?
「あの。殿下?」
良かったと呟く殿下にそっと声をかけると、殿下はもう一度息を吐いて顔を上げた。
そのお顔にはどこか疲れを感じさせる。
「君は二日間も眠りこんだままだったんだ」
「ふ、二日間ですか!?」
何だかよく寝たなーと思ったけれど、二日間もだったとは。
「医師に異常はないとは言われていたが、ずっと眠り続けてどうすることもできなかったからな。とにかく元気そうで良かった」
「あ、ありがとうございます。ご心配をおかけしました」
私はベッドの中から謝罪する。
お尋ねしたいこともお話したいことも色々あるのだけれど、どこから始めれば良いのか分からない。
「ええっと、あの」
と言ったところで扉が小さくノックされ、開かれた。
開かれた先にいたのは、トレイに何かを乗せたユリアの姿だ。彼女は起き上がっている私を見て目を見開くと、ガシャンと音を立ててそれを落とす。
ユリアが何かを落とすのを見たことがない私は驚いたが、さらに驚いたことには弾かれたように駆け寄ってきて、私に飛びつくと強く抱きしめたことだ。
「ロザンヌ様! お目覚めに」
「ユリア……ごめんね。また心配かけてしまったわ」
「いいえ。お目覚めになって良かった」
「うん。うん。ありがとう。もうわたくしは大丈夫だから」
抱きしめ返すと、さらに強く抱きしめてくる。
ユリアの溜め込んだ感情全てを放たれているようだ。それはもう呼吸さえも苦しくなるような。……う、うん、チョット苦しい。
「ユリア、大丈夫だから。わたくしは大丈夫だから。だから……そろそろ力を、緩めて……くれるかしら。じゃないと、も、もう一度眠っ……ちゃいそう、で」
「あ」
強すぎる拘束で意識を飛ばしそうになった私に気付いた彼女は、ようやく解放してくれた。
ひとまず朝の準備のために一度殿下に退室していただいた。
ユリアに着替えの手伝いをお願いすると、頭と短剣で切りつけた手の平は布を巻かれていて、その他数カ所も治療されていることに気付く。頭は特に外傷はないようだけれど、念の為とのことだ。我ながら石頭だ。
着替えて水分と流動食で軽く食事を済ませた後、殿下を呼んでもらった。
殿下は側に置いた椅子で、私はベッドの上でお話しさせていただく。
「あらためまして殿下、ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。また側に付いていてくださったのですよね。ありがとうございます」
「いや。君の笑顔を見ることができて良かった」
うっ。朝から何なのでしょう、この方は。
輝くような笑顔で言われて顔が熱くなる。
私はごほんと咳払いして気持ちを切り替えることにした。
「それで殿下。あの後どうなったのでしょう。殿下の、王家の呪いは解けたのでしょうか」
夢の中のエスメラルダ様には呪いは解けたと言われたけれど、私の都合の良い夢に過ぎなかったとか、ないよね?
「ああ。証拠を見せる」
殿下は左手をこちらに伸ばしたので、手首の星紋があった所を見せてくれるものだと思い、身を寄せて無防備に覗き込もうとしたところ。
「――っ!?」
突如、頭を引き寄せられて唇に灯った熱に私は目を丸くした。
咄嗟に離れようとしたが、殿下の香りと熱に包まれて、再び殿下の腕の中に戻って来ることができたという安堵感と幸せがわき起こり、身を委ねる。
殿下もそう思ってくださっているのだろうか。いつもより力強く抱きしめる腕が、少し震えている気さえする。
軽く触れるだけですぐに離されたこれまでの口づけとは違う。私という存在を確認するように、長く触れられなかった時間を取り戻すかのように、何度も何度も唇を重ね合わせる。
胸が苦しくなるくらい切なげで、与えられる熱と甘さに酔わされて。
――だが。
呼吸さえ奪われるような口づけに変わって、ぼんやりしかけていた頭が生命維持本能により覚醒する。
ヤバイ!
ヤバイぞ、これ! 絶対ヤバイやつ!
せっかく晴れて生還したのに、キスによる呼吸困難で死ぬやつ!
質問。
あなたは愛のために死ねま――否! 否否否ぁぁぁっ!
再び命の危険を感じた私は、クラウディア嬢と対峙した時よりもバタバタと暴れて大きく大きく抵抗をした。
ふわりと意識が浮上した。
あれ? もう朝かな。何だか長い間眠った気がする。ただ、ユリアに起こされる前だから、いつもよりも早いのは間違いないだろう。
もうひと眠りできるぐらいなの……ん? って、あれ? 前にも起こされる前に頭が冴えてきたことがなかったっけ?
目を閉じたまま、ゆっくりと考えを巡らせる。
――あ。そうそう。あの時は熱を出して倒れ、翌朝、目覚めた時には殿下がすぐ側で付いていてくださったことがあった。またいらっしゃったりして。
と思いつつ、目を開けて寝返りを打ったところで。
「――ひわあっ!?」
またしても身を引いて、妙な声を上げてしまった。
そこには前回と同じく金髪のうつぶせた誰かの、いや、殿下の頭があったからだ。
「ロザンヌ嬢!?」
しかしさすがに今回はがばりと顔を上げられても、動揺することはなかった。
「お、おはようございます、殿下」
私が挨拶をすると、殿下ははぁと大きなため息と共に頭を落とした。
それにしても殿下はなぜここにいらっしゃるのだろう。……あれ? そもそも私はどうしたんだっけ。ええっと、学校で拉致されて、ベルモンテ家に連れて行かれて、危機一髪の時に殿下がようやくやって来て。それから夢を見て。……どうなったんだっけ?
「あの。殿下?」
良かったと呟く殿下にそっと声をかけると、殿下はもう一度息を吐いて顔を上げた。
そのお顔にはどこか疲れを感じさせる。
「君は二日間も眠りこんだままだったんだ」
「ふ、二日間ですか!?」
何だかよく寝たなーと思ったけれど、二日間もだったとは。
「医師に異常はないとは言われていたが、ずっと眠り続けてどうすることもできなかったからな。とにかく元気そうで良かった」
「あ、ありがとうございます。ご心配をおかけしました」
私はベッドの中から謝罪する。
お尋ねしたいこともお話したいことも色々あるのだけれど、どこから始めれば良いのか分からない。
「ええっと、あの」
と言ったところで扉が小さくノックされ、開かれた。
開かれた先にいたのは、トレイに何かを乗せたユリアの姿だ。彼女は起き上がっている私を見て目を見開くと、ガシャンと音を立ててそれを落とす。
ユリアが何かを落とすのを見たことがない私は驚いたが、さらに驚いたことには弾かれたように駆け寄ってきて、私に飛びつくと強く抱きしめたことだ。
「ロザンヌ様! お目覚めに」
「ユリア……ごめんね。また心配かけてしまったわ」
「いいえ。お目覚めになって良かった」
「うん。うん。ありがとう。もうわたくしは大丈夫だから」
抱きしめ返すと、さらに強く抱きしめてくる。
ユリアの溜め込んだ感情全てを放たれているようだ。それはもう呼吸さえも苦しくなるような。……う、うん、チョット苦しい。
「ユリア、大丈夫だから。わたくしは大丈夫だから。だから……そろそろ力を、緩めて……くれるかしら。じゃないと、も、もう一度眠っ……ちゃいそう、で」
「あ」
強すぎる拘束で意識を飛ばしそうになった私に気付いた彼女は、ようやく解放してくれた。
ひとまず朝の準備のために一度殿下に退室していただいた。
ユリアに着替えの手伝いをお願いすると、頭と短剣で切りつけた手の平は布を巻かれていて、その他数カ所も治療されていることに気付く。頭は特に外傷はないようだけれど、念の為とのことだ。我ながら石頭だ。
着替えて水分と流動食で軽く食事を済ませた後、殿下を呼んでもらった。
殿下は側に置いた椅子で、私はベッドの上でお話しさせていただく。
「あらためまして殿下、ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。また側に付いていてくださったのですよね。ありがとうございます」
「いや。君の笑顔を見ることができて良かった」
うっ。朝から何なのでしょう、この方は。
輝くような笑顔で言われて顔が熱くなる。
私はごほんと咳払いして気持ちを切り替えることにした。
「それで殿下。あの後どうなったのでしょう。殿下の、王家の呪いは解けたのでしょうか」
夢の中のエスメラルダ様には呪いは解けたと言われたけれど、私の都合の良い夢に過ぎなかったとか、ないよね?
「ああ。証拠を見せる」
殿下は左手をこちらに伸ばしたので、手首の星紋があった所を見せてくれるものだと思い、身を寄せて無防備に覗き込もうとしたところ。
「――っ!?」
突如、頭を引き寄せられて唇に灯った熱に私は目を丸くした。
咄嗟に離れようとしたが、殿下の香りと熱に包まれて、再び殿下の腕の中に戻って来ることができたという安堵感と幸せがわき起こり、身を委ねる。
殿下もそう思ってくださっているのだろうか。いつもより力強く抱きしめる腕が、少し震えている気さえする。
軽く触れるだけですぐに離されたこれまでの口づけとは違う。私という存在を確認するように、長く触れられなかった時間を取り戻すかのように、何度も何度も唇を重ね合わせる。
胸が苦しくなるくらい切なげで、与えられる熱と甘さに酔わされて。
――だが。
呼吸さえ奪われるような口づけに変わって、ぼんやりしかけていた頭が生命維持本能により覚醒する。
ヤバイ!
ヤバイぞ、これ! 絶対ヤバイやつ!
せっかく晴れて生還したのに、キスによる呼吸困難で死ぬやつ!
質問。
あなたは愛のために死ねま――否! 否否否ぁぁぁっ!
再び命の危険を感じた私は、クラウディア嬢と対峙した時よりもバタバタと暴れて大きく大きく抵抗をした。
32
あなたにおすすめの小説
王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。
身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~
椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」
私を脅して、別れを決断させた彼の両親。
彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。
私とは住む世界が違った……
別れを命じられ、私の恋が終わった。
叶わない身分差の恋だったはずが――
※R-15くらいなので※マークはありません。
※視点切り替えあり。
※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。
いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
アンジェリーヌは一人じゃない
れもんぴーる
恋愛
義母からひどい扱いされても我慢をしているアンジェリーヌ。
メイドにも冷遇され、昔は仲が良かった婚約者にも冷たい態度をとられ居場所も逃げ場所もなくしていた。
そんな時、アルコール入りのチョコレートを口にしたアンジェリーヌの性格が激変した。
まるで別人になったように、言いたいことを言い、これまで自分に冷たかった家族や婚約者をこぎみよく切り捨てていく。
実は、アンジェリーヌの中にずっといた魂と入れ替わったのだ。
それはアンジェリーヌと一緒に生まれたが、この世に誕生できなかったアンジェリーヌの双子の魂だった。
新生アンジェリーヌはアンジェリーヌのため自由を求め、家を出る。
アンジェリーヌは満ち足りた生活を送り、愛する人にも出会うが、この身体は自分の物ではない。出来る事なら消えてしまった可哀そうな自分の半身に幸せになってもらいたい。でもそれは自分が消え、愛する人との別れの時。
果たしてアンジェリーヌの魂は戻ってくるのか。そしてその時もう一人の魂は・・・。
*タグに「平成の歌もあります」を追加しました。思っていたより歌に注目していただいたので(*´▽`*)
(なろうさま、カクヨムさまにも投稿予定です)
自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~
浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。
本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。
※2024.8.5 番外編を2話追加しました!
私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?
きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。
しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……
【完結】地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
悪女と呼ばれた王妃
アズやっこ
恋愛
私はこの国の王妃だった。悪女と呼ばれ処刑される。
処刑台へ向かうと先に処刑された私の幼馴染み、私の護衛騎士、私の従者達、胴体と頭が離れた状態で捨て置かれている。
まるで屑物のように足で蹴られぞんざいな扱いをされている。
私一人処刑すれば済む話なのに。
それでも仕方がないわね。私は心がない悪女、今までの行いの結果よね。
目の前には私の夫、この国の国王陛下が座っている。
私はただ、
貴方を愛して、貴方を護りたかっただけだったの。
貴方のこの国を、貴方の地位を、貴方の政務を…、
ただ護りたかっただけ…。
だから私は泣かない。悪女らしく最後は笑ってこの世を去るわ。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ ゆるい設定です。
❈ 処刑エンドなのでバットエンドです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる