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第280話 私の答えは
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エスメラルダ様は、ルイス殿下を呪った魔女呼ばわりされて傷ついただろう。苦しかっただろう。けれどまた、神聖化されたいとも願わないはず。心正しく清く、哀しいほどに控えめで優しいお方だったから。
「そうか。そうだったな」
「はい」
何だかしんみりしてきてしまったので、私は話を変えることにした。
「それでその後はどうなったのですか? クラウディア様は」
「……君の拉致監禁、傷害、さらには王家への反逆罪で捕らえた」
「侯爵様もでしょうか?」
あの方は捕まえてほしくない。ベルモンテ家の罪を認めつつ、クラウディア嬢を止めようと必死だったのだから。
「いや。彼は捕らえていない。君の救助に手を貸してくれたし、私もこれまでの彼の働きや思いには、私も父上、陛下も承知している。もちろん今の地位のままではいられないと思うが」
「そうですか」
ひとまず侯爵様が収監されないことにほっとしつつも、渋い表情を浮かべている殿下が気になる。
「どうかなさったのですか」
「……クラウディア嬢についてだが。彼女は独房に収容していたが、今は監獄の医務室にいる」
「え? 医務室?」
殿下は半ば目を伏せてため息をついた。
「どうやら呪術を使ったらしい。先ほど言った通り、エスメラルダ嬢は今後呪術を使えばそれは呪者に跳ね返ってくる術として血の契りに組み込んだということだった。彼女も承知のはずだったのにな」
「つまり」
つまりクラウディア嬢は術が自分に跳ね返ってきて、今、影に取り憑かれている?
「かなり強い術を使ったらしく、症状が芳しくないとのことで、今も苦しみながらベッドに伏せているそうだ。彼女が狙った相手は、長くうねった金色の髪の女性だと思われる。彼女の手に絡まっていたらしい」
「長くうねった金色の髪?」
クラウディア嬢と対峙した時、髪の毛を引っ張られたことを思い出した。
私は震える手で自分の髪に触れる。
「そう。おそらく――君だ」
クラウディア嬢は捕らえられ、収監されてなお私の命を狙った。呪術の当主として私を消そうとしたのだろうか。それとも……私を恨んでのことだろうか。
知り得た事実だけを淡々と述べる殿下は今、私に何を求めておられるのだろうか。
いや。きっと何も求めてはいないのだろう。ただ、私が出す答えをお待ちになっているだけに過ぎない。そしてどんな答えを出しても、私を責めることはないに違いない。
私は。私には分からない。どうすれば良いのか。どう行動するべきなのか。どうあるべきなのか。……まだ分からない。
目を伏せて一呼吸すると顔を上げ、殿下を見つめた。
「クラウディア様にお会いできますか?」
初めて訪れた監獄は、そこだけ世界から切り離されたような、人を拒絶するような高い塀がめぐらされていた。くすんだ色の石造りの監獄は人から心さえも奪っていきそうなくらい冷たい外観をしている。
いつまでも直視できずにいて、視線を落とすと殿下がそっと背中を押した。
「行こう」
先を行くジェラルドさんに続き、私たちは中に入った。
クラウディア嬢は医務室にいるということで、奥にある牢屋にまで足を運ぶことはなかったが、廊下も王宮の華美な様子とはまるで違い、無駄なものが一切なく、ただただ色のない無機質な世界だった。
「こちらですが。あの」
一つの扉の前で足を止めたジェラルドさんは振り返ると口ごもり、気遣うように視線が私に向けられた。
どうやらこの中はあまりいい光景とは言えないらしい。
「大丈夫です」
気丈に答えると、殿下が私の手をそっと取ってくださった。
殿下を一度仰ぎ見て微笑み、私はジェラルドさんに視線を戻す。
「お願いいたします」
「はい。承知いたしました」
ジェラルドさんが扉を開放したその先の光景を見て、ある程度の覚悟をしていたとは言え、さすがに恐ろしくて鳥肌が立った。
小狭い部屋に医師と看守が使うと思われる机といくつかの椅子に薬品棚。
その辺りは王宮の医務室と配置が似ていると言えば言えるが、せいぜいそこまでだ。横に視線を流すとベッドを取り囲むように天井まで鉄格子が張り巡らされていたのだ。
異質すぎる空間に息を呑んだが、すぐに鉄格子の外側で椅子に座って見守っている人物に目が行く。侯爵様だ。
侯爵様は振り返り、私たちを見るなり目を見開いて慌てて椅子から立ち、こちらへとやって来る。
「殿下。ジェラルド様、それに……ロザンヌ嬢」
侯爵様はお二人にご挨拶をした後、私に視線を向けられた。
お疲れのご様子で侯爵様までお顔の色が悪い。
「ロザンヌ嬢。この度はクラウディが、娘が許されないことを、申し訳ないことをした。本当にすまなかった」
いいえとも、はいとも言えず、私はただ目礼するのみに留める。
「侯爵様、クラウディア様のご容態はいかがでしょうか」
侯爵様は肩越しにクラウディア嬢へと振り返ると首を振った。
「何も変わりない。ずっと苦しんでいるよ」
「そうですか。……侯爵様はなぜそんなにクラウディア様をご心配されるのですか。クラウディア様は、あなた様を」
あなた様を消そうとしたのに。
最後の言葉は口に出すことはできなかった。
「――ううあっ!」
奥から唸るような声が聞こえて、びくりと肩が跳ねる。
クラウディア嬢がもがき苦しんでいる声だ。
「少し場所を変えて話そうか……」
素直に頷くと別の部屋を案内され、椅子が用意されたが、とても座り心地の良いものとは言えない。
環境が違うと生活用品の何もかもが変わってくる。そんな当たり前のことを、なぜか今こんな時にあらためて思い知らされた気分だった。
「そうか。そうだったな」
「はい」
何だかしんみりしてきてしまったので、私は話を変えることにした。
「それでその後はどうなったのですか? クラウディア様は」
「……君の拉致監禁、傷害、さらには王家への反逆罪で捕らえた」
「侯爵様もでしょうか?」
あの方は捕まえてほしくない。ベルモンテ家の罪を認めつつ、クラウディア嬢を止めようと必死だったのだから。
「いや。彼は捕らえていない。君の救助に手を貸してくれたし、私もこれまでの彼の働きや思いには、私も父上、陛下も承知している。もちろん今の地位のままではいられないと思うが」
「そうですか」
ひとまず侯爵様が収監されないことにほっとしつつも、渋い表情を浮かべている殿下が気になる。
「どうかなさったのですか」
「……クラウディア嬢についてだが。彼女は独房に収容していたが、今は監獄の医務室にいる」
「え? 医務室?」
殿下は半ば目を伏せてため息をついた。
「どうやら呪術を使ったらしい。先ほど言った通り、エスメラルダ嬢は今後呪術を使えばそれは呪者に跳ね返ってくる術として血の契りに組み込んだということだった。彼女も承知のはずだったのにな」
「つまり」
つまりクラウディア嬢は術が自分に跳ね返ってきて、今、影に取り憑かれている?
「かなり強い術を使ったらしく、症状が芳しくないとのことで、今も苦しみながらベッドに伏せているそうだ。彼女が狙った相手は、長くうねった金色の髪の女性だと思われる。彼女の手に絡まっていたらしい」
「長くうねった金色の髪?」
クラウディア嬢と対峙した時、髪の毛を引っ張られたことを思い出した。
私は震える手で自分の髪に触れる。
「そう。おそらく――君だ」
クラウディア嬢は捕らえられ、収監されてなお私の命を狙った。呪術の当主として私を消そうとしたのだろうか。それとも……私を恨んでのことだろうか。
知り得た事実だけを淡々と述べる殿下は今、私に何を求めておられるのだろうか。
いや。きっと何も求めてはいないのだろう。ただ、私が出す答えをお待ちになっているだけに過ぎない。そしてどんな答えを出しても、私を責めることはないに違いない。
私は。私には分からない。どうすれば良いのか。どう行動するべきなのか。どうあるべきなのか。……まだ分からない。
目を伏せて一呼吸すると顔を上げ、殿下を見つめた。
「クラウディア様にお会いできますか?」
初めて訪れた監獄は、そこだけ世界から切り離されたような、人を拒絶するような高い塀がめぐらされていた。くすんだ色の石造りの監獄は人から心さえも奪っていきそうなくらい冷たい外観をしている。
いつまでも直視できずにいて、視線を落とすと殿下がそっと背中を押した。
「行こう」
先を行くジェラルドさんに続き、私たちは中に入った。
クラウディア嬢は医務室にいるということで、奥にある牢屋にまで足を運ぶことはなかったが、廊下も王宮の華美な様子とはまるで違い、無駄なものが一切なく、ただただ色のない無機質な世界だった。
「こちらですが。あの」
一つの扉の前で足を止めたジェラルドさんは振り返ると口ごもり、気遣うように視線が私に向けられた。
どうやらこの中はあまりいい光景とは言えないらしい。
「大丈夫です」
気丈に答えると、殿下が私の手をそっと取ってくださった。
殿下を一度仰ぎ見て微笑み、私はジェラルドさんに視線を戻す。
「お願いいたします」
「はい。承知いたしました」
ジェラルドさんが扉を開放したその先の光景を見て、ある程度の覚悟をしていたとは言え、さすがに恐ろしくて鳥肌が立った。
小狭い部屋に医師と看守が使うと思われる机といくつかの椅子に薬品棚。
その辺りは王宮の医務室と配置が似ていると言えば言えるが、せいぜいそこまでだ。横に視線を流すとベッドを取り囲むように天井まで鉄格子が張り巡らされていたのだ。
異質すぎる空間に息を呑んだが、すぐに鉄格子の外側で椅子に座って見守っている人物に目が行く。侯爵様だ。
侯爵様は振り返り、私たちを見るなり目を見開いて慌てて椅子から立ち、こちらへとやって来る。
「殿下。ジェラルド様、それに……ロザンヌ嬢」
侯爵様はお二人にご挨拶をした後、私に視線を向けられた。
お疲れのご様子で侯爵様までお顔の色が悪い。
「ロザンヌ嬢。この度はクラウディが、娘が許されないことを、申し訳ないことをした。本当にすまなかった」
いいえとも、はいとも言えず、私はただ目礼するのみに留める。
「侯爵様、クラウディア様のご容態はいかがでしょうか」
侯爵様は肩越しにクラウディア嬢へと振り返ると首を振った。
「何も変わりない。ずっと苦しんでいるよ」
「そうですか。……侯爵様はなぜそんなにクラウディア様をご心配されるのですか。クラウディア様は、あなた様を」
あなた様を消そうとしたのに。
最後の言葉は口に出すことはできなかった。
「――ううあっ!」
奥から唸るような声が聞こえて、びくりと肩が跳ねる。
クラウディア嬢がもがき苦しんでいる声だ。
「少し場所を変えて話そうか……」
素直に頷くと別の部屋を案内され、椅子が用意されたが、とても座り心地の良いものとは言えない。
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