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第285話 ベルモンテ家の行く末
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「え!? クラウディア様が――幼児退行!?」
学校から帰り、執務室へと行った私が聞かされた話は驚きの内容だった。
殿下は私の向かいのソファーに座り、少し気鬱そうに切り出した。
「ああ。昨日は夢うつつ状態だったそうだが、クラウディア嬢が今日、はっきりと目を覚ました時には三、四歳くらいの精神年齢になっていたらしい。汚れを何も知らない子供のように、見たこともない柔らかな表情でベルモンテ侯爵に笑いかけたそうだ。彼女は酷い数の影に取り憑かれていたからな。精神を破壊されたのかもしれない」
「精神を破壊……」
はたしてそうなのだろうか。
笑顔だったのならば。柔らかな笑顔だったと言うのならば。
「殿下。クラウディア様のお心は破壊されたわけではないと思います」
「え?」
「クラウディア様のお心はきっと戻られたのです。そしてこれから新たに作られていくのでしょう」
殿下はそうかと少し笑った。
「ですが、クラウディア様はこれからどうなるのですか。そんな精神状態では、監獄生活は耐えられないのでは」
「ああ。ただ、君に対する罪や王家に対する反逆罪には変わりないし、万が一ということもある」
つまりクラウディア嬢が、そういったフリをしているかもしれないとおっしゃりたいのだろう。
「だから監獄からは釈放されるが、監視下のある場所で一生涯、軟禁生活となるだろう」
王族同士の争いがあった時代で、政敵とは言え、高貴な王族の血を引く者ゆえに処罰できず、そういう人たちを軟禁していた場所があるのだそうだ。これからはそこで生活することになると言う。
「ベルモンテ侯爵は、クラウディア嬢と一緒にそこで生活したいと願い出た。彼女と共に人生をやり直したいそうだ。涙目で、けれど嬉しそうに笑っていたよ」
「侯爵様が」
侯爵様はクラウディア嬢を娘として、心を救ってやれなかった後悔もおありだったに違いない。クラウディア嬢のお心が癒やされれば、きっと侯爵様も同時に癒やされる。
これからお二人で、ベルモンテ侯爵家という家系のせいで失なわれた時間をゆっくりと埋めていくことだろう。
「侯爵位については剥奪されることになる」
「理由はどうするおつもりですか。呪いのことをお話しになるのですか? 他の事情を知らない貴族にとっては信じがたいお話になると思うのですが」
「正直、公表すべきことではあるが、君の言う通り、今のこの時代に呪いだの何だの言ったところで納得する者はいないだろう」
王家にとって都合がいいと言うのか、皮肉にもと言うのか。
「だが、ベルモンテ家は叩けば埃がいくらでも出る所だ」
「え?」
「怖がるかと思って君には言っていなかったが、諜報活動したり、暗殺を請け負ったりしている噂は前々からあって、秘密裏に調査していた」
そういえば、前にセリアン様も言っていたっけ。
「弱味を握られているため、なかなか踏み込めなかったが、公爵家らにも協力を頼んだ。嬉々として乗ってくれたよ」
何と言うか。何と言えばいいのか……。結局は足の引っ張り合いではないか。
盛大にため息をついてしまった私に殿下は反論できず、眉を落とすしかない。
まあ。殿下が悪いわけではないので仕方なく思い、とりあえず話の続きを促すことにした。
「それで爵位剥奪と共に財産も大半が没収されるが、それを彼らの生活に当てる。何不自由なくというわけにはいかないが、二人が心穏やかに過ごせるだけの生活は保障するつもりだ。他の一族へも、働きを鑑みて王家に忠誠を誓う者なら今後、重要する機会も平等に与えると陛下より伝えられた」
陛下のご温情とそして……黒歴史を持つ王族としての後ろめたさだろうか。
「それとユリア・ジャンメールの父、アルベリク・ジャンメールの件について」
「あ、はい!」
「調査の結果、彼の元に訪れたのはベルモンテ侯爵夫人の前夫だったようだ」
やっぱり!
「彼もまた侯爵家に入った身で独断で行動などできなかったはず。当時実権を握っていたのは夫人で、指示されたのだと思う。もはや死人に口なしで彼から真実を聞き出すことは不可能だが、夫人にはこれから取り調べをすることになっている。十数年以上前の話だから明確な証拠を出すことは困難を極めるだろうな。しかし別件で投獄することは可能だ」
別件で投獄というのが何とも悔しいところではある。それではユリアのご両親が報われない。
唇を噛みしめていると。
「ベルモンテ家の爵位は剥奪され、クラウディア嬢の状態を知った一族も戦々恐々として、もはや呪術は使えないだろうし、生き残りたければ協力的になるかもしれない」
「……そうですか。――あ、その呪いについて少し気になった部分があるのですが」
「何だ?」
私は過去の話を思い出しながら、言葉を捻出する。
「ええっと。確か呪いを掛けられた王族の中には王位継承順位が低い人がいたり、王位継承権を辞退された方もいたとありましたよね。どうしてベルモンテ家はそんな方々に呪いを掛けたのでしょう」
当然、王位継承順位が高い者に掛ける方がベルモンテ家にとって利用価値はあったはずだ。
「ああ、そのことか。エスメラルダ嬢の残した言葉を利用しようと思ったみたいだな」
あなたの気魂を追い続け、というお言葉かな。
いつもいつも王位継承順位が高い者とは限らないと考えたのか。
「しかし現代になってその意味を重要視しなくなり、呪いを掛けた者が亡くなれば、すぐに次の者に掛けるということになったようだ。疑問に思われたところで、解明する手立てなどないと踏んでいたのだろう」
「実際、ジェラルド様がお持ちになっていた騎士規程が出てこなければ、分かりませんでしたものね」
「ああ。それと君の侍女、ユリア・ジャンメールの存在もな。もちろん君との出会いがなければ今もまだ、いや、これから先もきっと続いていただろう」
私がユリアを捕まえようと追いかけなければ、彼女とは出会えなかった。私がお友達と一緒に墓苑で遊んでいなかったら、ネロとも繋がらなかった。
少しは私のお転婆ぶりも役に立ったようだ。きっと色々な偶然が積み重なって絡み合って、いつしか必然へと変わったのだろう。
「殿下はわたくしに出会えて良かったですか?」
私は偉ぶって尋ねてみると、殿下はくすりと笑った。
「ああ。君と出会えて良かった。君に心と体が救われた。ありがとう、ロザンヌ」
あまりに真っ直ぐに熱っぽく見つめてくるものだから、私は頬に帯びた熱を隠すためにそっぽを向いた。
学校から帰り、執務室へと行った私が聞かされた話は驚きの内容だった。
殿下は私の向かいのソファーに座り、少し気鬱そうに切り出した。
「ああ。昨日は夢うつつ状態だったそうだが、クラウディア嬢が今日、はっきりと目を覚ました時には三、四歳くらいの精神年齢になっていたらしい。汚れを何も知らない子供のように、見たこともない柔らかな表情でベルモンテ侯爵に笑いかけたそうだ。彼女は酷い数の影に取り憑かれていたからな。精神を破壊されたのかもしれない」
「精神を破壊……」
はたしてそうなのだろうか。
笑顔だったのならば。柔らかな笑顔だったと言うのならば。
「殿下。クラウディア様のお心は破壊されたわけではないと思います」
「え?」
「クラウディア様のお心はきっと戻られたのです。そしてこれから新たに作られていくのでしょう」
殿下はそうかと少し笑った。
「ですが、クラウディア様はこれからどうなるのですか。そんな精神状態では、監獄生活は耐えられないのでは」
「ああ。ただ、君に対する罪や王家に対する反逆罪には変わりないし、万が一ということもある」
つまりクラウディア嬢が、そういったフリをしているかもしれないとおっしゃりたいのだろう。
「だから監獄からは釈放されるが、監視下のある場所で一生涯、軟禁生活となるだろう」
王族同士の争いがあった時代で、政敵とは言え、高貴な王族の血を引く者ゆえに処罰できず、そういう人たちを軟禁していた場所があるのだそうだ。これからはそこで生活することになると言う。
「ベルモンテ侯爵は、クラウディア嬢と一緒にそこで生活したいと願い出た。彼女と共に人生をやり直したいそうだ。涙目で、けれど嬉しそうに笑っていたよ」
「侯爵様が」
侯爵様はクラウディア嬢を娘として、心を救ってやれなかった後悔もおありだったに違いない。クラウディア嬢のお心が癒やされれば、きっと侯爵様も同時に癒やされる。
これからお二人で、ベルモンテ侯爵家という家系のせいで失なわれた時間をゆっくりと埋めていくことだろう。
「侯爵位については剥奪されることになる」
「理由はどうするおつもりですか。呪いのことをお話しになるのですか? 他の事情を知らない貴族にとっては信じがたいお話になると思うのですが」
「正直、公表すべきことではあるが、君の言う通り、今のこの時代に呪いだの何だの言ったところで納得する者はいないだろう」
王家にとって都合がいいと言うのか、皮肉にもと言うのか。
「だが、ベルモンテ家は叩けば埃がいくらでも出る所だ」
「え?」
「怖がるかと思って君には言っていなかったが、諜報活動したり、暗殺を請け負ったりしている噂は前々からあって、秘密裏に調査していた」
そういえば、前にセリアン様も言っていたっけ。
「弱味を握られているため、なかなか踏み込めなかったが、公爵家らにも協力を頼んだ。嬉々として乗ってくれたよ」
何と言うか。何と言えばいいのか……。結局は足の引っ張り合いではないか。
盛大にため息をついてしまった私に殿下は反論できず、眉を落とすしかない。
まあ。殿下が悪いわけではないので仕方なく思い、とりあえず話の続きを促すことにした。
「それで爵位剥奪と共に財産も大半が没収されるが、それを彼らの生活に当てる。何不自由なくというわけにはいかないが、二人が心穏やかに過ごせるだけの生活は保障するつもりだ。他の一族へも、働きを鑑みて王家に忠誠を誓う者なら今後、重要する機会も平等に与えると陛下より伝えられた」
陛下のご温情とそして……黒歴史を持つ王族としての後ろめたさだろうか。
「それとユリア・ジャンメールの父、アルベリク・ジャンメールの件について」
「あ、はい!」
「調査の結果、彼の元に訪れたのはベルモンテ侯爵夫人の前夫だったようだ」
やっぱり!
「彼もまた侯爵家に入った身で独断で行動などできなかったはず。当時実権を握っていたのは夫人で、指示されたのだと思う。もはや死人に口なしで彼から真実を聞き出すことは不可能だが、夫人にはこれから取り調べをすることになっている。十数年以上前の話だから明確な証拠を出すことは困難を極めるだろうな。しかし別件で投獄することは可能だ」
別件で投獄というのが何とも悔しいところではある。それではユリアのご両親が報われない。
唇を噛みしめていると。
「ベルモンテ家の爵位は剥奪され、クラウディア嬢の状態を知った一族も戦々恐々として、もはや呪術は使えないだろうし、生き残りたければ協力的になるかもしれない」
「……そうですか。――あ、その呪いについて少し気になった部分があるのですが」
「何だ?」
私は過去の話を思い出しながら、言葉を捻出する。
「ええっと。確か呪いを掛けられた王族の中には王位継承順位が低い人がいたり、王位継承権を辞退された方もいたとありましたよね。どうしてベルモンテ家はそんな方々に呪いを掛けたのでしょう」
当然、王位継承順位が高い者に掛ける方がベルモンテ家にとって利用価値はあったはずだ。
「ああ、そのことか。エスメラルダ嬢の残した言葉を利用しようと思ったみたいだな」
あなたの気魂を追い続け、というお言葉かな。
いつもいつも王位継承順位が高い者とは限らないと考えたのか。
「しかし現代になってその意味を重要視しなくなり、呪いを掛けた者が亡くなれば、すぐに次の者に掛けるということになったようだ。疑問に思われたところで、解明する手立てなどないと踏んでいたのだろう」
「実際、ジェラルド様がお持ちになっていた騎士規程が出てこなければ、分かりませんでしたものね」
「ああ。それと君の侍女、ユリア・ジャンメールの存在もな。もちろん君との出会いがなければ今もまだ、いや、これから先もきっと続いていただろう」
私がユリアを捕まえようと追いかけなければ、彼女とは出会えなかった。私がお友達と一緒に墓苑で遊んでいなかったら、ネロとも繋がらなかった。
少しは私のお転婆ぶりも役に立ったようだ。きっと色々な偶然が積み重なって絡み合って、いつしか必然へと変わったのだろう。
「殿下はわたくしに出会えて良かったですか?」
私は偉ぶって尋ねてみると、殿下はくすりと笑った。
「ああ。君と出会えて良かった。君に心と体が救われた。ありがとう、ロザンヌ」
あまりに真っ直ぐに熱っぽく見つめてくるものだから、私は頬に帯びた熱を隠すためにそっぽを向いた。
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