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第286話 国王陛下の護衛騎士官長
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王家の呪いやベルモンテ家の処分などの一通りのことが落ち着き、日常を取り戻していた。
現在、私は王宮にまだ残る影を殿下と一緒に祓いつつ、日々を過ごしている。
そんなある日のこと。
「ユリア。明後日のお休みの日は、殿下が外出なさるのでユリアの鍛錬もお休みになるそうよ」
「はい。ジェラルド様から既に伺っております」
「そう。では、久々に二人でゆっくりしましょうか」
殿下との夕食を終え、ユリアと話をしていたところ、部屋の扉を叩く音に彼女が向かった。相手を確認すると扉を少しだけ解放する。
「ロザンヌ・ダングルベール子爵令嬢をお呼びいただきたい」
二人のやり取りが見えた私は呼ばれる前に行くと、そこにいたのは背が高く、体格ががっちりとした目つきが鋭い顔立ちの騎士様だった。
この方は見かけたことがある。陛下の護衛騎士官長様だ。
「ごきげんよう。陛下の護衛騎士官長様ですね。わたくしにご用とは何でしょうか」
「突然の来訪、失礼いたします。陛下があなた様とお話を望まれておりまして、お迎えに上がりました」
「かしこまりました。では参ります。ユリア、後はよろしくね」
ユリアに声をかけて私は部屋を出る。
私の前を行く陛下の騎士官長様は、ジェラルドさんも背の高いお方だけれど、まだ頭ひとつ分くらい高そうだ。
隙がまるでなさそうな広くがっしりとした背中は貫禄があり、人を寄せ付けない雰囲気を漂わせている。ただ眼光は鋭かったが、顔立ちは整っている方だった。
ジェラルドさんもとても容姿端麗だし、騎士官長になる方はやはり容姿も重要視されるのだろうか。
後ろから無作法にじろじろと観察していても、彼は振り返らない。
私に殺気がないからだろうか。あるいは小娘ごときを相手にする必要もないとお考えだからなのか。
まあ、ジェラルド様と違って愛想は全くないけれど、頼りがいのありそうな背中だ。さすが陛下の護衛官様と言ったところか。
「え?」
「――はっ」
どうやら最後の辺りは口に出していたらしい。小娘の失言を見逃せなかった騎士官長様はとうとう振り返った。
「あ、申し訳――」
「ジェラルド・コンスタントはあなたに愛想を振りまいているのですか。だとしたら優秀な男ではありますが、護衛官として一流とは言えないでしょう」
あら? 何だか皮肉っぽい言い方ね。それともこの方は愛想を振りまかないことが一流の証だとお思いなのかしら。
ジェラルドさんを尊敬している私としては、むくむくと反抗心が生まれる。
「さすが陛下の護衛官長を務めるお方。まったくもっておっしゃる通りですわ」
私は顔の前で両手を重ねるとにっこりと笑顔を見せたが、彼は表情を変えない。私の出方を待っているかのようだ。
「ジェラルド様は一流の護衛官ごときではありません。超一流の護衛官様です。なぜなら普段は笑顔でいらしても、締める所では瞬時に気持ちを切り替え、対処することができるお方だからです」
目を見張るご様子に、ほぼ初対面のお相手、まして陛下の護衛官長様に対する態度ではなかったとさすがに反省した。だから謝罪と共に言葉を補足することにする。
「騎士道の何たるかを知らぬ小娘ごときが、言葉が過ぎました。誠に申し訳ありません。これはあくまでもわたくしの持論でございます。このわたくしの持論は人によって賛否が分かれることでしょう。けれど、わたくしはわたくしの持論を正しいと信じております」
ただ黙って突き刺すような視線を送ってくる彼を静かに見つめ返す。……でもちょっと見上げ続けて首が痛い。
「ですからあなた様もまたご自分が信じた持論を貫くことが正解かと思わ――あ」
現実は私が見上げているのに、言葉だけはすごく上から目線になっている!
「え、ええっとつまりですね。あなた様のお考えを否定しているわけではございません。あなた様はご自分の持論は間違いないと信じてどうぞ邁進してくださいませ、ということでし……で、でもなく、ええっと!」
言えば言うほど偉そうな感じが悪化している!?
「――くっ」
やばい。怒った!?
あわあわと言葉を探して視線を動かしていたが、彼から漏れた声にぎょっとして視線を向ける。
すると彼は声を抑えていたが、目を細めて笑っていた。
笑ってみると思いの外、人懐こそうな表情になる。……年上を捕まえて人懐こそうもどうかと思うけれど。
「私のような強面の者にも物怖じせず、自分の気持ちに素直なお方だ」
そう言えば、ジェラルドさんにも初めてお会いした時に、同じような事を言われたこともあった気がする。表現は違った気がするけれど。
私は苦笑いした。
「ええ。それが唯一の長所ですが、この正直すぎるお口が災いを呼んでいるのは自覚しております。ただし自分の身を守るのも、そして僭越ながら人を守るためにも、この口一つと自負しております」
ジェラルドさんに以前答えたことに少し言葉を付け加えて答えた。
「なるほど。妻に聞いていた通り、とても興味深いお方のようだ」
何だろう。もしかして試されていたのだろうか。
いや、それよりも。
「妻、ですか?」
「ご挨拶が遅れました。私はフェリクス・モンドールと申します」
「フェリクス・モンド……え? モンドール? モ、モンドールですか!? ええっと。つ、つまりクロエさんっ様、殿の旦那様ですか!?」
ひえぇぇぇっ。
思わず青ざめた私に、妻の方が威厳があるようですねとフェリクス様は可笑しそうにまた一つ笑った。
現在、私は王宮にまだ残る影を殿下と一緒に祓いつつ、日々を過ごしている。
そんなある日のこと。
「ユリア。明後日のお休みの日は、殿下が外出なさるのでユリアの鍛錬もお休みになるそうよ」
「はい。ジェラルド様から既に伺っております」
「そう。では、久々に二人でゆっくりしましょうか」
殿下との夕食を終え、ユリアと話をしていたところ、部屋の扉を叩く音に彼女が向かった。相手を確認すると扉を少しだけ解放する。
「ロザンヌ・ダングルベール子爵令嬢をお呼びいただきたい」
二人のやり取りが見えた私は呼ばれる前に行くと、そこにいたのは背が高く、体格ががっちりとした目つきが鋭い顔立ちの騎士様だった。
この方は見かけたことがある。陛下の護衛騎士官長様だ。
「ごきげんよう。陛下の護衛騎士官長様ですね。わたくしにご用とは何でしょうか」
「突然の来訪、失礼いたします。陛下があなた様とお話を望まれておりまして、お迎えに上がりました」
「かしこまりました。では参ります。ユリア、後はよろしくね」
ユリアに声をかけて私は部屋を出る。
私の前を行く陛下の騎士官長様は、ジェラルドさんも背の高いお方だけれど、まだ頭ひとつ分くらい高そうだ。
隙がまるでなさそうな広くがっしりとした背中は貫禄があり、人を寄せ付けない雰囲気を漂わせている。ただ眼光は鋭かったが、顔立ちは整っている方だった。
ジェラルドさんもとても容姿端麗だし、騎士官長になる方はやはり容姿も重要視されるのだろうか。
後ろから無作法にじろじろと観察していても、彼は振り返らない。
私に殺気がないからだろうか。あるいは小娘ごときを相手にする必要もないとお考えだからなのか。
まあ、ジェラルド様と違って愛想は全くないけれど、頼りがいのありそうな背中だ。さすが陛下の護衛官様と言ったところか。
「え?」
「――はっ」
どうやら最後の辺りは口に出していたらしい。小娘の失言を見逃せなかった騎士官長様はとうとう振り返った。
「あ、申し訳――」
「ジェラルド・コンスタントはあなたに愛想を振りまいているのですか。だとしたら優秀な男ではありますが、護衛官として一流とは言えないでしょう」
あら? 何だか皮肉っぽい言い方ね。それともこの方は愛想を振りまかないことが一流の証だとお思いなのかしら。
ジェラルドさんを尊敬している私としては、むくむくと反抗心が生まれる。
「さすが陛下の護衛官長を務めるお方。まったくもっておっしゃる通りですわ」
私は顔の前で両手を重ねるとにっこりと笑顔を見せたが、彼は表情を変えない。私の出方を待っているかのようだ。
「ジェラルド様は一流の護衛官ごときではありません。超一流の護衛官様です。なぜなら普段は笑顔でいらしても、締める所では瞬時に気持ちを切り替え、対処することができるお方だからです」
目を見張るご様子に、ほぼ初対面のお相手、まして陛下の護衛官長様に対する態度ではなかったとさすがに反省した。だから謝罪と共に言葉を補足することにする。
「騎士道の何たるかを知らぬ小娘ごときが、言葉が過ぎました。誠に申し訳ありません。これはあくまでもわたくしの持論でございます。このわたくしの持論は人によって賛否が分かれることでしょう。けれど、わたくしはわたくしの持論を正しいと信じております」
ただ黙って突き刺すような視線を送ってくる彼を静かに見つめ返す。……でもちょっと見上げ続けて首が痛い。
「ですからあなた様もまたご自分が信じた持論を貫くことが正解かと思わ――あ」
現実は私が見上げているのに、言葉だけはすごく上から目線になっている!
「え、ええっとつまりですね。あなた様のお考えを否定しているわけではございません。あなた様はご自分の持論は間違いないと信じてどうぞ邁進してくださいませ、ということでし……で、でもなく、ええっと!」
言えば言うほど偉そうな感じが悪化している!?
「――くっ」
やばい。怒った!?
あわあわと言葉を探して視線を動かしていたが、彼から漏れた声にぎょっとして視線を向ける。
すると彼は声を抑えていたが、目を細めて笑っていた。
笑ってみると思いの外、人懐こそうな表情になる。……年上を捕まえて人懐こそうもどうかと思うけれど。
「私のような強面の者にも物怖じせず、自分の気持ちに素直なお方だ」
そう言えば、ジェラルドさんにも初めてお会いした時に、同じような事を言われたこともあった気がする。表現は違った気がするけれど。
私は苦笑いした。
「ええ。それが唯一の長所ですが、この正直すぎるお口が災いを呼んでいるのは自覚しております。ただし自分の身を守るのも、そして僭越ながら人を守るためにも、この口一つと自負しております」
ジェラルドさんに以前答えたことに少し言葉を付け加えて答えた。
「なるほど。妻に聞いていた通り、とても興味深いお方のようだ」
何だろう。もしかして試されていたのだろうか。
いや、それよりも。
「妻、ですか?」
「ご挨拶が遅れました。私はフェリクス・モンドールと申します」
「フェリクス・モンド……え? モンドール? モ、モンドールですか!? ええっと。つ、つまりクロエさんっ様、殿の旦那様ですか!?」
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