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第298話 心中お察しいたします
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話を終えたので報告しましょうということで、ユリアが扉を開けたところ、小さな叫び声を上げて人がドサドサとなだれ込んできた。
その光景に目を見張る。
「兄様方!? お、お父様まで」
「や、やあ。お話は終わったかね」
終わったかねと息子二人を下敷きにしているその体勢で言われましても。
「何事ですか?」
小さな騒ぎに駆けつけてきた母が、まあと目を見開いた。
「何と不格好なお姿です。殿下の御前ですよ。盗み聞きだなんてはしたない!」
「す、すまない」
「も、申し訳ありません」
「ロザンヌが心配で」
腰に両手をやる母に睨みつけられて各々謝罪したり、言い訳した後、気まずそうに立ち上がる。
すると殿下は肩を揺らして喉奥で笑いだし、皆、ぽかんとしていると、まだ笑いの堪えきれない殿下は失礼と言った。
「先ほど王宮の、父の執務室で同じような光景を見たばかりでしたので」
つまり王妃殿下に叱られる国王陛下の図というわけね。
「まあ」
母は目を丸くしていたけれど、すぐに悟ったようにふっと笑う。
「殿方が間違ったことをしているのをたしなめるのは女であり、伴侶であり、母の役目ですからね」
「そうですね」
素直に頷く殿下に母は微笑み、そして私に視線を流した。
「ロザンヌ、お話は終わったのね?」
「はい。ご迷惑をおかけしました」
「そう。でしたら夕食会を再開しましょう」
まだ始まったばかりの頃に殿下がご訪問となって中断していた。夕食と聞いて、また急にお腹が空いてきた。
「エルベルト殿下とジェラルド様のお席もご用意いたしました。ご一緒にご参加いただけると嬉しいのですが」
母は殿下とジェラルドさんに視線を向けると、殿下は即座に笑顔で頷く。
「ありがとうございます。ぜひ」
「あの。殿下、とてもありがたいお申し出なのですが、ロザンヌ様のご無事もご確認できましたことですし、本日は失礼した方がよろしいのではないでしょうか。もう日暮れておりますし、地面もぬかるんで帰りの足元が悪いかと」
ジェラルド様に進言されて、殿下は神妙な顔になる。
「ああ、確かに」
雨は上がったとは言え、馬車ではなく馬二頭でやって来られたようだし、暗くなった帰りはなお足元が悪い。特に王都とは違って道がさほど整備されていないから。とは言え、そのまま帰すのは貴族礼義としてどうなのか。
と悩んだところで母が口を開いた。
「もちろん本日はお泊まりいただこうかと、お部屋もご用意しております」
え!?
お、お母様。そ、それはまた貴族礼義としてどうなのかしら……。仮にもお一人は王太子殿下なのですが。何よりも未婚の婦女子がいる家に宿泊を勧めますか?
「お心遣いありがとうございます。ですが」
言葉を切る殿下。
王族が貴族とは言え、末席に近い身分のお家で一晩過ごすことは警備の面もあるし、さすがにお控えなさるわよねと心の中でうんうん頷いていると。
「ご迷惑ではないでしょうか」
殿下は続けた。
……ん? 言葉の意味合いが。
「いいえ。とんでもないお話でございます。むしろ光栄にございます。殿下にご満足いただけるには程遠いとは存じておりますが、今からお帰りでも既に暗うございます。万が一のこともございますし、ぜひ一晩、お休みになっていってくださいませ」
「で、ですが、お母様!」
私はとうとう我慢できずに口出しした。
「け、警備の面ではご準備が足りないのでは! 王太子殿下をお迎えするのですからっ。そ、それに殿下がお帰りにならないと王宮では大騒ぎになります」
「あら。そうね。そうだったわ」
母は頬に手をやって表情を曇らせた。
よし、怯んだ! ……って、私は一体何と戦っているのか。
「ロザンヌ嬢」
人当たりの良さそうな柔らかい声に私は嫌な予感がしつつ視線を向けると、笑顔の殿下がいた。
「お気遣いありがとうございます。警備の面ならジェラルドがいるので大丈夫です。また、陛下にも伝えてこちらに来ていますので問題ありません」
泊まる気満々ではないですか! と言いますか、ジェラルドさんに全ての責務が。
反射的にジェラルドさんを見ると、彼も色々葛藤なさっているようだ。珍しく難しい表情をなさっていて、私と視線が合わない。
「彼はとても優秀な護衛騎士官ですので。そうだね、ジェラルド」
「…………私の身命を賭けて全力で殿下をお守りいたします」
ああ、ジェラルド様。
殿下の容赦なき追撃のお言葉で、とうとう諦めの境地に達した瞳になられてしまった。心中お察しいたします。
「というわけですので、せっかくのご厚意ですから、甘えさせていただこうかと思います」
「まあ! ありがとうございます。精一杯、心尽くしをさせていただきたく存じます」
「こちらこそ、図々しく申し訳ありません」
本気で決定ですか!?
慌てる私をよそに二人で話を進めていく。
かくなる上は家長である父に発言してもらわねばと顔を見ると、父はのほほんと微笑んだ。
「殿下はジェラルド様に全幅の信頼を寄せていらっしゃるんだねぇ」
――緩っ!
まあ、うちみたいな田舎町に襲撃してくる人もいないとは思うけれど。
「それではすぐにお食事のお席にご案内いたしますわ。まずはお着替えをどうぞ」
母が身を翻したけれど、殿下に呼び止められた。
「申し訳ありません。お食事の前に、ご両親のお二人に少しだけお時間を頂きたいのですが。ジェラルドはできれば席を外してほしい」
「承知いたしました」
殿下に言葉を向けられた父と母は顔を見合わせると、母がユリアに声をかける。
「ではユリア。ジェラルド様を談話室にご案内して丁重におもてなししてくれるかしら。あと、この二人も連れて行ってちょうだい」
にっこりと笑う先にいたのは兄様方。もちろん、おのおの抗議の声を上げた。
「は、母上。お待ちください」
「俺たちだって興味し――心配」
アシル兄様は心配げな表情をしてくださっていましたが、シモン兄様は面白がっていましたね。
目を細めてシモン兄様を見つめてしまう。
「承知いたしました。ではジェラルド様、ご案内いたします。アシル様、シモン様も参りましょう」
ユリアが相変わらず感情のこもらない声で誘導するもので、兄様二人は後ろ髪を思いっきり引かれながらも、渋々彼女に従って去っていった。
その光景に目を見張る。
「兄様方!? お、お父様まで」
「や、やあ。お話は終わったかね」
終わったかねと息子二人を下敷きにしているその体勢で言われましても。
「何事ですか?」
小さな騒ぎに駆けつけてきた母が、まあと目を見開いた。
「何と不格好なお姿です。殿下の御前ですよ。盗み聞きだなんてはしたない!」
「す、すまない」
「も、申し訳ありません」
「ロザンヌが心配で」
腰に両手をやる母に睨みつけられて各々謝罪したり、言い訳した後、気まずそうに立ち上がる。
すると殿下は肩を揺らして喉奥で笑いだし、皆、ぽかんとしていると、まだ笑いの堪えきれない殿下は失礼と言った。
「先ほど王宮の、父の執務室で同じような光景を見たばかりでしたので」
つまり王妃殿下に叱られる国王陛下の図というわけね。
「まあ」
母は目を丸くしていたけれど、すぐに悟ったようにふっと笑う。
「殿方が間違ったことをしているのをたしなめるのは女であり、伴侶であり、母の役目ですからね」
「そうですね」
素直に頷く殿下に母は微笑み、そして私に視線を流した。
「ロザンヌ、お話は終わったのね?」
「はい。ご迷惑をおかけしました」
「そう。でしたら夕食会を再開しましょう」
まだ始まったばかりの頃に殿下がご訪問となって中断していた。夕食と聞いて、また急にお腹が空いてきた。
「エルベルト殿下とジェラルド様のお席もご用意いたしました。ご一緒にご参加いただけると嬉しいのですが」
母は殿下とジェラルドさんに視線を向けると、殿下は即座に笑顔で頷く。
「ありがとうございます。ぜひ」
「あの。殿下、とてもありがたいお申し出なのですが、ロザンヌ様のご無事もご確認できましたことですし、本日は失礼した方がよろしいのではないでしょうか。もう日暮れておりますし、地面もぬかるんで帰りの足元が悪いかと」
ジェラルド様に進言されて、殿下は神妙な顔になる。
「ああ、確かに」
雨は上がったとは言え、馬車ではなく馬二頭でやって来られたようだし、暗くなった帰りはなお足元が悪い。特に王都とは違って道がさほど整備されていないから。とは言え、そのまま帰すのは貴族礼義としてどうなのか。
と悩んだところで母が口を開いた。
「もちろん本日はお泊まりいただこうかと、お部屋もご用意しております」
え!?
お、お母様。そ、それはまた貴族礼義としてどうなのかしら……。仮にもお一人は王太子殿下なのですが。何よりも未婚の婦女子がいる家に宿泊を勧めますか?
「お心遣いありがとうございます。ですが」
言葉を切る殿下。
王族が貴族とは言え、末席に近い身分のお家で一晩過ごすことは警備の面もあるし、さすがにお控えなさるわよねと心の中でうんうん頷いていると。
「ご迷惑ではないでしょうか」
殿下は続けた。
……ん? 言葉の意味合いが。
「いいえ。とんでもないお話でございます。むしろ光栄にございます。殿下にご満足いただけるには程遠いとは存じておりますが、今からお帰りでも既に暗うございます。万が一のこともございますし、ぜひ一晩、お休みになっていってくださいませ」
「で、ですが、お母様!」
私はとうとう我慢できずに口出しした。
「け、警備の面ではご準備が足りないのでは! 王太子殿下をお迎えするのですからっ。そ、それに殿下がお帰りにならないと王宮では大騒ぎになります」
「あら。そうね。そうだったわ」
母は頬に手をやって表情を曇らせた。
よし、怯んだ! ……って、私は一体何と戦っているのか。
「ロザンヌ嬢」
人当たりの良さそうな柔らかい声に私は嫌な予感がしつつ視線を向けると、笑顔の殿下がいた。
「お気遣いありがとうございます。警備の面ならジェラルドがいるので大丈夫です。また、陛下にも伝えてこちらに来ていますので問題ありません」
泊まる気満々ではないですか! と言いますか、ジェラルドさんに全ての責務が。
反射的にジェラルドさんを見ると、彼も色々葛藤なさっているようだ。珍しく難しい表情をなさっていて、私と視線が合わない。
「彼はとても優秀な護衛騎士官ですので。そうだね、ジェラルド」
「…………私の身命を賭けて全力で殿下をお守りいたします」
ああ、ジェラルド様。
殿下の容赦なき追撃のお言葉で、とうとう諦めの境地に達した瞳になられてしまった。心中お察しいたします。
「というわけですので、せっかくのご厚意ですから、甘えさせていただこうかと思います」
「まあ! ありがとうございます。精一杯、心尽くしをさせていただきたく存じます」
「こちらこそ、図々しく申し訳ありません」
本気で決定ですか!?
慌てる私をよそに二人で話を進めていく。
かくなる上は家長である父に発言してもらわねばと顔を見ると、父はのほほんと微笑んだ。
「殿下はジェラルド様に全幅の信頼を寄せていらっしゃるんだねぇ」
――緩っ!
まあ、うちみたいな田舎町に襲撃してくる人もいないとは思うけれど。
「それではすぐにお食事のお席にご案内いたしますわ。まずはお着替えをどうぞ」
母が身を翻したけれど、殿下に呼び止められた。
「申し訳ありません。お食事の前に、ご両親のお二人に少しだけお時間を頂きたいのですが。ジェラルドはできれば席を外してほしい」
「承知いたしました」
殿下に言葉を向けられた父と母は顔を見合わせると、母がユリアに声をかける。
「ではユリア。ジェラルド様を談話室にご案内して丁重におもてなししてくれるかしら。あと、この二人も連れて行ってちょうだい」
にっこりと笑う先にいたのは兄様方。もちろん、おのおの抗議の声を上げた。
「は、母上。お待ちください」
「俺たちだって興味し――心配」
アシル兄様は心配げな表情をしてくださっていましたが、シモン兄様は面白がっていましたね。
目を細めてシモン兄様を見つめてしまう。
「承知いたしました。ではジェラルド様、ご案内いたします。アシル様、シモン様も参りましょう」
ユリアが相変わらず感情のこもらない声で誘導するもので、兄様二人は後ろ髪を思いっきり引かれながらも、渋々彼女に従って去っていった。
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