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【番外編:第302~303話の間】
第307話 ユリアのご両親にご挨拶(前)
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「今日はここまでにしよう」
「はい。承知いたしました」
私たちは今、エスメラルダ様が眠る森にやって来ていて、そこで影の浄化を行っている。
影は点在しており、遺骨も長き時を経ておそらく土へと還っていることもあり、一つ一つ掘り起こして合葬することはできないため、共同墓地を建てて慰霊する形になるそうだ。また、全ての者の名を特定することは難しく、分かった人物の名だけでも刻むべきなのかどうかは現在、検討中ということである。
「場所を特定できているエスメラルダ嬢とネロを王宮側の墓地に移したいところだが」
「いいえ、殿下。その必要はないかと思われます。肉体はここで眠ったとしても、心はもはやここにはありません。ネロはブラックウェル様の元に、エスメラルダ様はルイス陛下と手を取り合ってご一緒に行かれましたから」
私の夢の中でだけれど。でもきっと皆、今も一緒におられるはず。そう信じている。それに私たちの自己満足で連れ回されたりと、もう人の手で翻弄されてほしくはない。
「……そうだな」
「はい。ところで殿下。以前、ネロの影祓いは高速猫パンチだとおっしゃいましたが、ネロがいない今、殿下の目にはどんな影祓いとなってお見えになるのですか?」
「ああ。高速猫パンチはもう見られないが、猫の形のような光が影に手を伸ばして包み込んでいるように見える」
「猫の形ですか」
私には見えなくてもネロがいた痕跡は今も確かに残っているのだと思うと、何だか嬉しくなった。
「さあ。では帰るか」
「はい」
殿下と私、ジェラルドさんとユリアは来た道を戻り、馬車へと乗り込んだ。
以前来た時は馬二頭だったけれど、ベルモンテ家の件が収拾した今、馬車での通いとなっている。
「墓地と言えば、ユリア」
私の向かい側に座るユリアに話しかける。
「そろそろユリアのご両親にお会いしに行くのは……どうかしら」
横に座る殿下に視線を流すと同意し、頷いてくださった。
あの事件以降、ご両親を手にかけたのはベルモンテ家の人間で、もう既に亡くなっているとユリアに伝えると、彼女はそうですかといつもの口調で言っただけだった。
もはや裁くこともできず、ユリアのやり場のない気持ちを考えると胸が痛む。
「デレクが埋葬の手続きを取ったと言っていたな」
デレク管理官。
王族専用書庫室の書庫番であり、陛下の元護衛騎士官長。ユリアのご両親に文字解読の依頼をした人物だ。ユリアが歴史書翻訳に復帰した今、デレク管理官とは毎日顔を合わせていると思うが、そんな話はしていないのだろうか。それとも私が言い出すのを待っていたのだろうか。だとしたら。
「ユリア、言うのが遅くなってごめんなさい」
「なぜロザンヌ様が謝るのですか?」
「自分から言い出せなかったのではと思って」
するとユリアは黒髪をさらりと揺らして首を振った。
「いいえ。私の中で踏ん切りがつかなかっただけです」
ご両親のお命を奪ったのは王家からの依頼が原因。そして今、ユリアはその王家の依頼によって翻訳の仕事に携わっている。色々複雑な気持ちがあるのだろう。けれど表情と同様、彼女の心の内まで見えない。
ジェラルドさんは隣でそんな彼女の横顔をただ見つめている。
「ですが、行こうと思います。両親に会いに」
というわけで。
学校のお休みの日に、私たちはユリアのご両親に会いに行くことになったわけだが。
「随分と大人数ですね……」
デレク管理官は少し困惑したように笑う。
まずは私が口を開いた。
「わたくしはユリアと共に暮らして十年ですから、ご両親にご挨拶させていただくのは当然のことです」
「私はロザンヌ嬢についてきた」
「私は殿下の護衛です」
「……ああうん。分かった」
それぞれの言い分を聞いてもなお(特に殿下の言葉だろう)デレク管理官は苦笑いせざるを得なかったようだ。
馬車には殿下と私とユリアが横並びで座っている。
デレク管理官は元騎士とあって体つきがいいので、ジェラルドさんと二人掛けとあっても何だか狭そうに見える。
私は横に座るユリアをそっと窺う。
お供えのお花を抱えた彼女は、いつもより表情がなお硬いような気がする。やはり緊張しているのだろうか。
お花と言えば、これは殿下の許可でユアンさんから頂いてきたものだが、その時にユアンさんとジェラルドさんとの間で静かに火花が散っていたことを思い出して、笑みがこぼれてしまいそうになる。しかし今、そんな状況下ではないので、私は唇をぐっと噛みしめてうつむく。
すると殿下が尋ねてきた。
「どうした? 昼食べたばかりなのに、もうお腹が減ったのか?」
「違います!」
ばっと顔を上げると、拳を作って全力で否定した。
私のことを一体何だと思っているのか。
「ここにお菓子がありますが食べますか?」
ユリアまでそんなことを言い出して私は。
「頂くわ!」
と全力で答えた。
「はい。承知いたしました」
私たちは今、エスメラルダ様が眠る森にやって来ていて、そこで影の浄化を行っている。
影は点在しており、遺骨も長き時を経ておそらく土へと還っていることもあり、一つ一つ掘り起こして合葬することはできないため、共同墓地を建てて慰霊する形になるそうだ。また、全ての者の名を特定することは難しく、分かった人物の名だけでも刻むべきなのかどうかは現在、検討中ということである。
「場所を特定できているエスメラルダ嬢とネロを王宮側の墓地に移したいところだが」
「いいえ、殿下。その必要はないかと思われます。肉体はここで眠ったとしても、心はもはやここにはありません。ネロはブラックウェル様の元に、エスメラルダ様はルイス陛下と手を取り合ってご一緒に行かれましたから」
私の夢の中でだけれど。でもきっと皆、今も一緒におられるはず。そう信じている。それに私たちの自己満足で連れ回されたりと、もう人の手で翻弄されてほしくはない。
「……そうだな」
「はい。ところで殿下。以前、ネロの影祓いは高速猫パンチだとおっしゃいましたが、ネロがいない今、殿下の目にはどんな影祓いとなってお見えになるのですか?」
「ああ。高速猫パンチはもう見られないが、猫の形のような光が影に手を伸ばして包み込んでいるように見える」
「猫の形ですか」
私には見えなくてもネロがいた痕跡は今も確かに残っているのだと思うと、何だか嬉しくなった。
「さあ。では帰るか」
「はい」
殿下と私、ジェラルドさんとユリアは来た道を戻り、馬車へと乗り込んだ。
以前来た時は馬二頭だったけれど、ベルモンテ家の件が収拾した今、馬車での通いとなっている。
「墓地と言えば、ユリア」
私の向かい側に座るユリアに話しかける。
「そろそろユリアのご両親にお会いしに行くのは……どうかしら」
横に座る殿下に視線を流すと同意し、頷いてくださった。
あの事件以降、ご両親を手にかけたのはベルモンテ家の人間で、もう既に亡くなっているとユリアに伝えると、彼女はそうですかといつもの口調で言っただけだった。
もはや裁くこともできず、ユリアのやり場のない気持ちを考えると胸が痛む。
「デレクが埋葬の手続きを取ったと言っていたな」
デレク管理官。
王族専用書庫室の書庫番であり、陛下の元護衛騎士官長。ユリアのご両親に文字解読の依頼をした人物だ。ユリアが歴史書翻訳に復帰した今、デレク管理官とは毎日顔を合わせていると思うが、そんな話はしていないのだろうか。それとも私が言い出すのを待っていたのだろうか。だとしたら。
「ユリア、言うのが遅くなってごめんなさい」
「なぜロザンヌ様が謝るのですか?」
「自分から言い出せなかったのではと思って」
するとユリアは黒髪をさらりと揺らして首を振った。
「いいえ。私の中で踏ん切りがつかなかっただけです」
ご両親のお命を奪ったのは王家からの依頼が原因。そして今、ユリアはその王家の依頼によって翻訳の仕事に携わっている。色々複雑な気持ちがあるのだろう。けれど表情と同様、彼女の心の内まで見えない。
ジェラルドさんは隣でそんな彼女の横顔をただ見つめている。
「ですが、行こうと思います。両親に会いに」
というわけで。
学校のお休みの日に、私たちはユリアのご両親に会いに行くことになったわけだが。
「随分と大人数ですね……」
デレク管理官は少し困惑したように笑う。
まずは私が口を開いた。
「わたくしはユリアと共に暮らして十年ですから、ご両親にご挨拶させていただくのは当然のことです」
「私はロザンヌ嬢についてきた」
「私は殿下の護衛です」
「……ああうん。分かった」
それぞれの言い分を聞いてもなお(特に殿下の言葉だろう)デレク管理官は苦笑いせざるを得なかったようだ。
馬車には殿下と私とユリアが横並びで座っている。
デレク管理官は元騎士とあって体つきがいいので、ジェラルドさんと二人掛けとあっても何だか狭そうに見える。
私は横に座るユリアをそっと窺う。
お供えのお花を抱えた彼女は、いつもより表情がなお硬いような気がする。やはり緊張しているのだろうか。
お花と言えば、これは殿下の許可でユアンさんから頂いてきたものだが、その時にユアンさんとジェラルドさんとの間で静かに火花が散っていたことを思い出して、笑みがこぼれてしまいそうになる。しかし今、そんな状況下ではないので、私は唇をぐっと噛みしめてうつむく。
すると殿下が尋ねてきた。
「どうした? 昼食べたばかりなのに、もうお腹が減ったのか?」
「違います!」
ばっと顔を上げると、拳を作って全力で否定した。
私のことを一体何だと思っているのか。
「ここにお菓子がありますが食べますか?」
ユリアまでそんなことを言い出して私は。
「頂くわ!」
と全力で答えた。
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