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【番外編:ユリア編】
第314話 伝えている言葉。届かない思い(六)
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本日は王妃殿下がご主催のお茶会だ。
まだエルベルト殿下のご婚約者となるロザンヌ様のことは公表できないので、王妃殿下のお部屋で身内だけのお茶会となる。その席にロザンヌ様の他、私とジェラルド様もお呼ばれをした。
そういえば以前、お誘いを受けたことがあるが、まさかそれが実現するとは思いもしなかった。きっとあの場にいた皆、思ったことだろう。
ロザンヌ様もいつもの威勢はなく、少なからず緊張している様子だ。
王妃殿下のお茶会は日当たりがよく、広いお部屋で行われている。
内装や調度品をとっても一級品ではあるのだろうが、目がチカチカするような成金的な派手な装飾品はなく、王族としての品格がある。
エルベルト殿下のお部屋や執務室にも足を踏み入れたことがあるが、同じく高級品の数々をひけらかすような物は一切なかった。陛下はどうだか分からないが、派手さや贅を好む方々ではないらしい。
しかし、お茶はさすがに美味しい。これまで感じたことがないくらいの芳香と味だ。これが、王族がたしなむお茶なのかと思い知らされる。
それにしても本日は王妃殿下と席を共にするお茶会だからとは言え、侍女服を脱いで慣れぬ服を着るのはどうにも居心地の悪さがある。ジェラルド様はとてもお似合いですねと笑顔でおっしゃってくださったが、あの方はお優しい方だから。でも嬉しくは……思う。
「ねえ、ユリアさん」
「はい。王妃殿下」
王妃殿下は侍女の私にまでお声がけしてくださった。
「あなたは紅茶を淹れるのが得意だとロザンヌ様から聞いたわ。次の機会にわたくしにも振る舞ってくださらないかしら」
「ありがたきお言葉、誠に光栄に思います」
実際、王妃殿下の口に入るものに携われるのだから、光栄以外の何ものでもない。もちろんその前に毒見はされるのだろうが。
私が目礼すると、王妃殿下はくすりと笑われた。そして次に視線を向けられたのがジェラルド様だ。
「そう言えば、ジェラルドさん」
「はい、王妃殿下」
「あのね。先日、あなたのお父様、コンスタント伯爵とお会いしたの」
「そうですか」
ジェラルド様は笑顔を保っているが、何となくぎこちなさを感じる。
「ええ。それでね。あなたに誰かいい人がいないかって相談されたのよ」
「私事で王妃殿下にまでご迷惑をおかけしました。誠に申し訳ありません」
どうもその内容はジェラルド様にとって想定内だったようだ。
「ジェラルドさんもそろそろ結婚していい年齢だものね。あなたなら引く手あまたなのに、浮いた話一つないので心配なのでしょう。お気持ちは分かるわ。だからね。わたくし、とても良いご令嬢を知っているからセッティングすると約束したの。早いほうがいいと思って明日にしたわ。もちろん顔合わせしてもらえるわよね」
顔合わせ……縁談ということか。
ロザンヌ様がおろおろと王妃殿下と私とを交互に見て、心配そうにしている。
「そ、れは」
「母上!」
口ごもるジェラルド様を見たロザンヌ様がエルベルト殿下に目配せをすると、殿下は咎めるような声を上げた。
「いくらなんでも横暴すぎます。ジェラルドの気も――」
「あなたはお黙りなさい。わたくしはジェラルドさんとお話ししているのよ」
王妃殿下は視線を流してぴしゃりと冷たくエルベルト殿下を一喝する。そして言葉に詰まる殿下からまたジェラルド様へと笑みを向ける。
「ねえ、ジェラルドさん。あなたにとってもいいお話だと思うの。ぜひお会いして。もちろん気に入らなければお断りしてもいいわ」
「王妃殿下。私は」
「ジェラルドさん。まさかわたくしの顔に泥を塗るつもりはありませんわね」
その口調は有無を言わさず、無理を通すことに慣れた者の物言いだった。
臣下であるジェラルド様に拒否権はないのだろう。
「……承知いたしました」
ジェラルド様は半ば目を伏せて了承された。
翌日。
「ね、ねえ、ユリア。そろそろジェラルド様の縁談が始まるわ」
ロザンヌ様はそわそわした様子で私に話しかけてきた。
「なぜお時間をご存知なのですか」
「気になるから聞いたに決まっているでしょう」
人のことなのに好奇心旺盛だ。いや、人のことだから好奇心旺盛になるのか。
「ねえ、ユリア。どうするのよ」
「どうするとは」
「だからジェラルド様の縁談の話よ。このままでいいの?」
「と言われましても」
ジェラルド様はお困りのようだったが、私にできることは何もない。それに。
「王妃殿下は、気にいらなければお断りすればいいとおっしゃいました。ジェラルド様がご自身の意志でお決めになることです」
「その言葉を本当に信じているの?」
思わず眉をひそめると、ロザンヌ様はため息を落とした。
「お相手の方もきっと貴族のご令嬢よ。断れば女性としてだけではなく、家名にも傷をつけることになるわ。まして王妃殿下が仲介人のお話よ。お断りするのはとても難しいでしょうね」
ジェラルド様は縁談の顔合わせすら断ることができなかった。
「もしご婚約することになったら、誠実なジェラルド様は女性を遠ざけることになるでしょう。それで……本当にいいの?」
女性を遠ざける?
そうしたらもうジェラルド様と一緒に鍛錬できなくなる。お側にいることもできなくなる。お話しできなくなる。好きだと言ってもらえなくなる。好きだと――。
「嫌、です……」
「聞こえないわ。何」
「っ。私は嫌です。ジェラルド様がご結婚されるのは――嫌です。私はジェラルド様が好きですから」
私が思いの丈を打ち明けるとロザンヌ様は意思強そうに眉を上げて、にっと笑った。
「よく言ったわ。じゃあ、行きましょう」
「どこにですか?」
「もちろん縁談に乗り込んで阻止するのよ!」
勇ましく拳を突き上げるロザンヌ様に不安要素しかない。
「そんなことをしたらロザンヌ様のお立場が」
「いいの、いいの。そんなこと気にしないで。エルベルト殿下に責任を取らせるから。それよりほら。早く!」
ロザンヌ様は私の手を取ると力強く引いた。
まだエルベルト殿下のご婚約者となるロザンヌ様のことは公表できないので、王妃殿下のお部屋で身内だけのお茶会となる。その席にロザンヌ様の他、私とジェラルド様もお呼ばれをした。
そういえば以前、お誘いを受けたことがあるが、まさかそれが実現するとは思いもしなかった。きっとあの場にいた皆、思ったことだろう。
ロザンヌ様もいつもの威勢はなく、少なからず緊張している様子だ。
王妃殿下のお茶会は日当たりがよく、広いお部屋で行われている。
内装や調度品をとっても一級品ではあるのだろうが、目がチカチカするような成金的な派手な装飾品はなく、王族としての品格がある。
エルベルト殿下のお部屋や執務室にも足を踏み入れたことがあるが、同じく高級品の数々をひけらかすような物は一切なかった。陛下はどうだか分からないが、派手さや贅を好む方々ではないらしい。
しかし、お茶はさすがに美味しい。これまで感じたことがないくらいの芳香と味だ。これが、王族がたしなむお茶なのかと思い知らされる。
それにしても本日は王妃殿下と席を共にするお茶会だからとは言え、侍女服を脱いで慣れぬ服を着るのはどうにも居心地の悪さがある。ジェラルド様はとてもお似合いですねと笑顔でおっしゃってくださったが、あの方はお優しい方だから。でも嬉しくは……思う。
「ねえ、ユリアさん」
「はい。王妃殿下」
王妃殿下は侍女の私にまでお声がけしてくださった。
「あなたは紅茶を淹れるのが得意だとロザンヌ様から聞いたわ。次の機会にわたくしにも振る舞ってくださらないかしら」
「ありがたきお言葉、誠に光栄に思います」
実際、王妃殿下の口に入るものに携われるのだから、光栄以外の何ものでもない。もちろんその前に毒見はされるのだろうが。
私が目礼すると、王妃殿下はくすりと笑われた。そして次に視線を向けられたのがジェラルド様だ。
「そう言えば、ジェラルドさん」
「はい、王妃殿下」
「あのね。先日、あなたのお父様、コンスタント伯爵とお会いしたの」
「そうですか」
ジェラルド様は笑顔を保っているが、何となくぎこちなさを感じる。
「ええ。それでね。あなたに誰かいい人がいないかって相談されたのよ」
「私事で王妃殿下にまでご迷惑をおかけしました。誠に申し訳ありません」
どうもその内容はジェラルド様にとって想定内だったようだ。
「ジェラルドさんもそろそろ結婚していい年齢だものね。あなたなら引く手あまたなのに、浮いた話一つないので心配なのでしょう。お気持ちは分かるわ。だからね。わたくし、とても良いご令嬢を知っているからセッティングすると約束したの。早いほうがいいと思って明日にしたわ。もちろん顔合わせしてもらえるわよね」
顔合わせ……縁談ということか。
ロザンヌ様がおろおろと王妃殿下と私とを交互に見て、心配そうにしている。
「そ、れは」
「母上!」
口ごもるジェラルド様を見たロザンヌ様がエルベルト殿下に目配せをすると、殿下は咎めるような声を上げた。
「いくらなんでも横暴すぎます。ジェラルドの気も――」
「あなたはお黙りなさい。わたくしはジェラルドさんとお話ししているのよ」
王妃殿下は視線を流してぴしゃりと冷たくエルベルト殿下を一喝する。そして言葉に詰まる殿下からまたジェラルド様へと笑みを向ける。
「ねえ、ジェラルドさん。あなたにとってもいいお話だと思うの。ぜひお会いして。もちろん気に入らなければお断りしてもいいわ」
「王妃殿下。私は」
「ジェラルドさん。まさかわたくしの顔に泥を塗るつもりはありませんわね」
その口調は有無を言わさず、無理を通すことに慣れた者の物言いだった。
臣下であるジェラルド様に拒否権はないのだろう。
「……承知いたしました」
ジェラルド様は半ば目を伏せて了承された。
翌日。
「ね、ねえ、ユリア。そろそろジェラルド様の縁談が始まるわ」
ロザンヌ様はそわそわした様子で私に話しかけてきた。
「なぜお時間をご存知なのですか」
「気になるから聞いたに決まっているでしょう」
人のことなのに好奇心旺盛だ。いや、人のことだから好奇心旺盛になるのか。
「ねえ、ユリア。どうするのよ」
「どうするとは」
「だからジェラルド様の縁談の話よ。このままでいいの?」
「と言われましても」
ジェラルド様はお困りのようだったが、私にできることは何もない。それに。
「王妃殿下は、気にいらなければお断りすればいいとおっしゃいました。ジェラルド様がご自身の意志でお決めになることです」
「その言葉を本当に信じているの?」
思わず眉をひそめると、ロザンヌ様はため息を落とした。
「お相手の方もきっと貴族のご令嬢よ。断れば女性としてだけではなく、家名にも傷をつけることになるわ。まして王妃殿下が仲介人のお話よ。お断りするのはとても難しいでしょうね」
ジェラルド様は縁談の顔合わせすら断ることができなかった。
「もしご婚約することになったら、誠実なジェラルド様は女性を遠ざけることになるでしょう。それで……本当にいいの?」
女性を遠ざける?
そうしたらもうジェラルド様と一緒に鍛錬できなくなる。お側にいることもできなくなる。お話しできなくなる。好きだと言ってもらえなくなる。好きだと――。
「嫌、です……」
「聞こえないわ。何」
「っ。私は嫌です。ジェラルド様がご結婚されるのは――嫌です。私はジェラルド様が好きですから」
私が思いの丈を打ち明けるとロザンヌ様は意思強そうに眉を上げて、にっと笑った。
「よく言ったわ。じゃあ、行きましょう」
「どこにですか?」
「もちろん縁談に乗り込んで阻止するのよ!」
勇ましく拳を突き上げるロザンヌ様に不安要素しかない。
「そんなことをしたらロザンヌ様のお立場が」
「いいの、いいの。そんなこと気にしないで。エルベルト殿下に責任を取らせるから。それよりほら。早く!」
ロザンヌ様は私の手を取ると力強く引いた。
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