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1話
記憶喪失と決断<3>
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「涼くんはガンなの?」
希美から驚きの言葉が出た。
どうして? なぜわかった?
驚きでいっぱいでいると、希美の目が涙の膜で覆われる。
「やっぱり、そうなんだ……」
さっきまでの迫力が消えた弱々しい声で希美が口にする。
「どうして言ってくれなかったの? 私、涼介の妻なんだよ!」
涙目で睨まれ、胸が締め付けられる。
「……ごめん、言えなかった」
「そんなに悪いの? まさか余命半年なんてことないよね?」
違うと言えず、目が泳ぐ。そんな僕の表情を見た希美はいきなり立ち上がった。
「嘘……。涼くんまでいなくなるの……」
「何言ってるんだよ。希美」
「嫌、そんなの絶対に嫌!」
希美がリビングを出て行く。そして玄関ドアが閉まる音がした。
「希美!」
希美を追いかけ、僕も慌てて外に出た。
*
一時間後、僕は大学病院にいた。
希美は駅の階段から転落し、意識不明のまま救急車で病院に運ばれた。
「涼介くん!」
待合室にいると、希美の8歳年上の姉、律子さんが駆けてくる。
「律子さん、すみません、深夜に」
律子さんはショートカットで、色白の丸顔が希美と似ている。住まいは僕たちのマンションに近い千葉県の市川市で、よく家にも遊びに来てくれる。とりあえず律子さんには知らせた方がいいと思い、病院に着いてから連絡をした。
「希美は?」
険しい表情を浮かべたまま律子さんが聞く。
「今、処置中です。頭を打っているので、いろいろと検査すると聞きました」
「頭……」
そう呟き、律子さんがショックを受けたように口元に手をあてる。
とりあえず僕は希美が駅の階段から転落したことだけを伝え、律子さんと待合室で処置が終わるのを待った。
「倉田さん」
そう看護師に呼ばれ、希美が入院するICUに連れて行かれる。そして医師から命に別状はないが、意識が戻らないので、目覚めるまでは念の為ICUに入ってもらうという説明を受けた。
命に別状がないと聞いてほっとしたが、意識が戻らないのが心配だ。
希美のベッド脇には様々な医療機器が置かれ、急に医療ドラマの世界に入ったようだった。
「希美」
眠る希美の頬を撫でるが、希美は目を閉じたままだ。
このまま希美が目覚めなかったらどうなるんだろうと、不吉な考えが過るが、打ち消すように頭を振った。
絶対にそんなことはない。希美はきっと意識を取り戻す。
「希美、明日も来るよ」
希美にそう声をかけてから、ICUを出た。
*
帰宅したのは明け方で、興奮しているせいか全く眠れなかった。
一時間程寝てまた病院に行った。命に別状はないと言われたが、希美が目覚めるまで落ち着かなかった。
希美が目を覚ましたのは、入院して2日目の夕方だった。
丁度僕がICUにいる時で、希美が目を覚ましたことに最初に気づけた。
「希美、大丈夫か?」
声をかけると、希美の目がゆっくりと僕を見る。そして、驚いたような顔をした。
「誰ですか?」
希美にそう聞かれ、どこですか?の聞き違いだと思った。
「病院だよ。希美は駅の階段から転落して、意識を失っていたんだ」
不思議そうな顔で僕を見つめる希美に説明すると、「誰ですか?」ともう一度、希美は僕に聞いた。
眉間に皺が寄る。
誰ですかってどういうことだ?
希美から驚きの言葉が出た。
どうして? なぜわかった?
驚きでいっぱいでいると、希美の目が涙の膜で覆われる。
「やっぱり、そうなんだ……」
さっきまでの迫力が消えた弱々しい声で希美が口にする。
「どうして言ってくれなかったの? 私、涼介の妻なんだよ!」
涙目で睨まれ、胸が締め付けられる。
「……ごめん、言えなかった」
「そんなに悪いの? まさか余命半年なんてことないよね?」
違うと言えず、目が泳ぐ。そんな僕の表情を見た希美はいきなり立ち上がった。
「嘘……。涼くんまでいなくなるの……」
「何言ってるんだよ。希美」
「嫌、そんなの絶対に嫌!」
希美がリビングを出て行く。そして玄関ドアが閉まる音がした。
「希美!」
希美を追いかけ、僕も慌てて外に出た。
*
一時間後、僕は大学病院にいた。
希美は駅の階段から転落し、意識不明のまま救急車で病院に運ばれた。
「涼介くん!」
待合室にいると、希美の8歳年上の姉、律子さんが駆けてくる。
「律子さん、すみません、深夜に」
律子さんはショートカットで、色白の丸顔が希美と似ている。住まいは僕たちのマンションに近い千葉県の市川市で、よく家にも遊びに来てくれる。とりあえず律子さんには知らせた方がいいと思い、病院に着いてから連絡をした。
「希美は?」
険しい表情を浮かべたまま律子さんが聞く。
「今、処置中です。頭を打っているので、いろいろと検査すると聞きました」
「頭……」
そう呟き、律子さんがショックを受けたように口元に手をあてる。
とりあえず僕は希美が駅の階段から転落したことだけを伝え、律子さんと待合室で処置が終わるのを待った。
「倉田さん」
そう看護師に呼ばれ、希美が入院するICUに連れて行かれる。そして医師から命に別状はないが、意識が戻らないので、目覚めるまでは念の為ICUに入ってもらうという説明を受けた。
命に別状がないと聞いてほっとしたが、意識が戻らないのが心配だ。
希美のベッド脇には様々な医療機器が置かれ、急に医療ドラマの世界に入ったようだった。
「希美」
眠る希美の頬を撫でるが、希美は目を閉じたままだ。
このまま希美が目覚めなかったらどうなるんだろうと、不吉な考えが過るが、打ち消すように頭を振った。
絶対にそんなことはない。希美はきっと意識を取り戻す。
「希美、明日も来るよ」
希美にそう声をかけてから、ICUを出た。
*
帰宅したのは明け方で、興奮しているせいか全く眠れなかった。
一時間程寝てまた病院に行った。命に別状はないと言われたが、希美が目覚めるまで落ち着かなかった。
希美が目を覚ましたのは、入院して2日目の夕方だった。
丁度僕がICUにいる時で、希美が目を覚ましたことに最初に気づけた。
「希美、大丈夫か?」
声をかけると、希美の目がゆっくりと僕を見る。そして、驚いたような顔をした。
「誰ですか?」
希美にそう聞かれ、どこですか?の聞き違いだと思った。
「病院だよ。希美は駅の階段から転落して、意識を失っていたんだ」
不思議そうな顔で僕を見つめる希美に説明すると、「誰ですか?」ともう一度、希美は僕に聞いた。
眉間に皺が寄る。
誰ですかってどういうことだ?
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