神様がくれた時間―余命半年のボクと記憶喪失のキミの話―

コハラ

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4話

友人という立場<8>

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「いらっしゃいませ」

 凪に行くと、無表情なままの青山に言われた。
 再び僕が凪に行くようになってから、青山はずっとそんな感じだ。
 希美の話では、青山はオーナーシェフの息子で、二十二歳だそうだ。不愛想だが、長身で目鼻立ちの整った顔立ちをしているので、女性客にわりと人気があると聞くが、こんなに不愛想で女性にモテるとは到底思えない。

「どうぞこちらへ」

 青山に二階のカウンター席に案内される。青山に当たるといつも二階だ。まるで僕を希美から隠しているように思えるのは気のせいだろうか?

「一階は空いてないんですか?」

 案内された席に座る前に聞くと、青山が「ええ、予約のお客様がいるので」と答えた。

「そうですか」

 仕方なくカウンター席に腰かける。

「シーフードカレーとアイスコーヒーで」

 もう店のメニューは頭に入っているので、席に着くとすぐに注文した。

「かしこまりました」

 不愛想な低い声で返事をし、青山が立ち去る。
 それから十分後くらいにシーフードカレーを持った希美が現れた。
 襟付の白いシャツと黒のパンツにこげ茶色の腰巻エプロン姿の希美を見て、今日も綺麗だと思った。

「佐藤さん、いらっしゃいませ」

 希美に声を掛けられ、胸が弾む。

「今日も来ました」
「佐藤さんに会えて嬉しいです」

 希美にそんなことを言ってもらえるようになるとは夢を見ているようだ。

「ゆっくりしていって下さいね」

 僕の前に出来立てのシーフードカレーを置くと、希美は他の客の注文を取りに行った。昨日は立ち話をする余裕があったようだが、今日は忙しそうだ。

 希美の邪魔にならないように声をかけるのを控え、シーフードカレーを口に運んだ。今日も安定の美味しさだ。
 食後のコーヒーは希美ではなく、井上さんが持って来てくれた。
 井上さんもよく顔を合わせる店員だ。希美より年下でいつも丁寧な接客をしてくれる人だ。

「ごゆっくりどうぞ」

 そう言って、井上さんが立ち去る。
 窓の外の海を眺めながら、希美との日曜日の約束を思い出す。
 日曜日は木更津まで映画を観に行く。希美と映画の話をしたのが切っ掛けで、一緒に観に行く事になった。友人としてだが、二人きりで出掛けられるのは嬉しい。

「倉田さんは結婚してますよ」

 隣に誰か座る気配があった。
 顔を見ると青山だ。

「休憩中なんです」

 目が合うと青山はそう言って、自分で持って来たコーヒーを口にする。
 辺りを見れば、二階に客はほとんどいない。

「それとも、既婚者だとわかっていて、手を出しているんですか?」

 青山が敵意剥き出しの目で僕を睨む。

「君には関係ないことだろう」
「関係ありますよ。倉田さんを好きですから」

 突然の告白にアイスコーヒーに咽そうになる。
 青山が希美に対して過剰に反応するのはやはりそういう事だったのか。

「そっちこそ、横恋慕じゃないか」
「倉田さんは違うんですか?」
「僕は」

 希美の夫だ――そう言いそうになり、言葉を呑み込んだ。

「友人として倉田さんと付き合っているんだ。君のような感情は持っていない」
「そのようには見えませんけどね」

 挑発するように青山が言うが、無視してアイスコーヒーを飲み、席を立った。
 青山に腹が立って仕方がない。僕以外の人間が希美に恋愛感情を向けるのが許せない。離婚するつもりではいるが、まだ希美は僕の妻だ。人の妻に横恋慕しやがって。余命半年じゃなかったら殴っているところだ。
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