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6話
夫の本心が知りたい<7>――Side希美――
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神社を出た後は、彼と房総半島最南端の石碑まで歩いた。転びそうになった私を彼が支えてくれて、手を繋いで歩いた。
やっぱり彼に嫌われていないと思った。彼は紳士的で、優しかった。そんな彼を見ていると、なぜ私と離婚しようとするの? と聞きたくなったけど我慢した。
「あのベンチに座りません?」
石碑の向かい側は岩場があり、その上に二人掛けの白いベンチがあった。
彼と少しでも長くいたくて誘った。
「いや、あれはちょっと」
「恥ずかしいんですか?」
「あんな目立つ場所にあると」
「いいじゃないですか。あそこから見る海、綺麗ですよ」
渋る彼の手を取って、岩場を上り、ベンチまで行くと、私は腰を下ろした。
ベンチの側には【絶景 朝日と夕陽が見える岬】という記念碑が立っていた。
確かにそこからの眺めは絶景だった。
夕陽に照らされたオレンジの色の海が辺り一面に広がり、空は真っ赤な夕陽色に染まっていた。そして沈んでいく太陽が地平線の向こうにある。
あまりの美しさに息を呑んだ。
「綺麗ですね」
隣に座る彼が口にした。
「本当、綺麗な夕陽ですね。私、こっちに来てから、海と空をよく見るようになったんです。それまでは、空を見上げる余裕もなくて、毎日に追われているって感じだったんです」
東京にいた頃の余裕のない生活を思い出した。
彼との生活は思い出せないけど、やるべきタスクが沢山あって、それを日々、何とかこなしていた気がする。
南房総市に来て、空も海もこんなに綺麗だったんだと感じた。
「そんな余裕のない生活をしていたから、夫に捨てられちゃったのかなと思ったりもして。夫の顔を思い出せないけど、夫と最後に交わした会話は覚えているんです」
最近になって思い出した彼との唯一の会話だった。
「どんな話をしたんですか?」
「『妊活を再開しよっか』って、夫に言ったんです。顔は思い出せないけど、その時の夫の様子とか、感情のようなものは覚えていて。夫はすごく戸惑った様子で、明らかに嫌そうだったんです。きっと、他に好きな人がいたから妊活なんて言われて困ったんでしょうね」
大きなため息をついて、彼を見ると、彼は意外そうに右眉を上げた。
好きな人の話をしたのは、本当に彼が浮気をしていたか知りたかったからだ。
「好きな人?」
彼に聞かれて、咄嗟に正面の海を見た。
彼に好きな人が本当にいた場合、彼の顔を見ていたら冷静でいられない気がした。
「みんなには言ってなかったけど、夫は好きな女性が出来たみたいで。姉に教えてもらったんです。夫とは離婚協議中だったようですが、私、それも全部忘れちゃって。夫のことを覚えていないのに、夫に好きな人がいたことがショックで……。なんか、もう全部が嫌になって、夫と暮らしたマンションを出て、逃げるようにここに来たんです」
話していたら、一方的な彼の態度が許せなくてムカムカして来た。しかし、ここで彼に文句を言う訳にはいかず、ベンチから立ち上がり、海に向かって叫んだ。
「バカヤロー! 勝手にいなくなるな! 勝手に終わらせるな―!」
辺り一面に私の声が響く。
少しスッキリした。
「……ごめん」
小さな声で彼が言った。
一瞬、聞き違いかと思ったけど、彼の申し訳なさそうな表情を見てそうではないと思った。
「なんで佐藤さんが謝るんですか」
「なんだか申し訳ない気がして」
心からの反省の言葉に聞える。上手く誘導すれば本音を引き出せるかも。
やっぱり彼に嫌われていないと思った。彼は紳士的で、優しかった。そんな彼を見ていると、なぜ私と離婚しようとするの? と聞きたくなったけど我慢した。
「あのベンチに座りません?」
石碑の向かい側は岩場があり、その上に二人掛けの白いベンチがあった。
彼と少しでも長くいたくて誘った。
「いや、あれはちょっと」
「恥ずかしいんですか?」
「あんな目立つ場所にあると」
「いいじゃないですか。あそこから見る海、綺麗ですよ」
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確かにそこからの眺めは絶景だった。
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「綺麗ですね」
隣に座る彼が口にした。
「本当、綺麗な夕陽ですね。私、こっちに来てから、海と空をよく見るようになったんです。それまでは、空を見上げる余裕もなくて、毎日に追われているって感じだったんです」
東京にいた頃の余裕のない生活を思い出した。
彼との生活は思い出せないけど、やるべきタスクが沢山あって、それを日々、何とかこなしていた気がする。
南房総市に来て、空も海もこんなに綺麗だったんだと感じた。
「そんな余裕のない生活をしていたから、夫に捨てられちゃったのかなと思ったりもして。夫の顔を思い出せないけど、夫と最後に交わした会話は覚えているんです」
最近になって思い出した彼との唯一の会話だった。
「どんな話をしたんですか?」
「『妊活を再開しよっか』って、夫に言ったんです。顔は思い出せないけど、その時の夫の様子とか、感情のようなものは覚えていて。夫はすごく戸惑った様子で、明らかに嫌そうだったんです。きっと、他に好きな人がいたから妊活なんて言われて困ったんでしょうね」
大きなため息をついて、彼を見ると、彼は意外そうに右眉を上げた。
好きな人の話をしたのは、本当に彼が浮気をしていたか知りたかったからだ。
「好きな人?」
彼に聞かれて、咄嗟に正面の海を見た。
彼に好きな人が本当にいた場合、彼の顔を見ていたら冷静でいられない気がした。
「みんなには言ってなかったけど、夫は好きな女性が出来たみたいで。姉に教えてもらったんです。夫とは離婚協議中だったようですが、私、それも全部忘れちゃって。夫のことを覚えていないのに、夫に好きな人がいたことがショックで……。なんか、もう全部が嫌になって、夫と暮らしたマンションを出て、逃げるようにここに来たんです」
話していたら、一方的な彼の態度が許せなくてムカムカして来た。しかし、ここで彼に文句を言う訳にはいかず、ベンチから立ち上がり、海に向かって叫んだ。
「バカヤロー! 勝手にいなくなるな! 勝手に終わらせるな―!」
辺り一面に私の声が響く。
少しスッキリした。
「……ごめん」
小さな声で彼が言った。
一瞬、聞き違いかと思ったけど、彼の申し訳なさそうな表情を見てそうではないと思った。
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